でも最後まで見てくださるとうれしいです。ではどうぞ、前世のソラの最期の戦いを。
「――――人は神には勝てない。だから英雄は負けた」
☆☆☆
その後、マミさん達と別れて花の丘に来ていた。そこにはほむらとまどかが百合百合しい展開をしていた後に、ほむらは何かを確かめるためにまどかと離れた。
遠目から見た情報だから正確じゃないかもしれないが。
さてと、仕事仕事…………。
「みィィィつけたァァァァァ!!」
スッッッパァァァァァン!
「きゅぷいィィィィィ!?」
修羅の如く、まどかと一緒にいたキュゥべぇを満面の笑顔でハリセンでぶっ飛ばして駆除した。
ふぅ、いい仕事した♪
「ちょっ、あなた人のペット何してるの!?」
「えっ? これこのキモい生物がペットなの? だとしたらないわー…………。これをペットにするなんてないわー…………」
「なんで私、知らない人にここまで言われなくちゃならないの!?」
「プッ、ハハハハハ」
真剣に怒った彼女にオレはその常識的なツッコミにおかしくなっちゃった笑う。彼女は急に笑いだしたオレをプンスカと説教し始める。
そう、これが鹿目まどかだ。
他人にいつも優しくて、自己を蔑ろにしてしまい、オレが救えなかった少女。
だけどここでは概念の存在ではなく、一人の少女に戻っている。
だからこそ、オレは彼女にある質問をした。
「鹿目まどか、お前は人生は尊いと思う? 友人や家族は大切だと思う?」
「えっ? それは大切だし、人生に関してはまだわかんないけど…………ってなに話を――――」
「オレは人生は尊いものだと思う。人って簡単に死ぬし、大切なものも簡単に失う。現にオレは家族を失ったし、大切な人も失った」
オレがそう答えるとまどかの口は塞がった。
思い出すのは戦争を初めに駆け抜けた頃。
未熟で天狗になっていた青二才は、完全無欠のヒーローと勘違いして大切な人を失った。
「だからこそ、尊いからこそ、今このときを生きて、そして最期には笑える終わり方を目指すんだ。それがこの質問に対してのオレの答えだ」
オレはそう言って彼女にカギの形をした首飾りを渡して背中を向けた。
「答えはのんびり探せばいいさ。この質問は個々によって違うからさ」
「あなたはいったい…………」
オレか? そうだな。いつも通りに答えてやるか。
オレは最初の頃のように、イタズラが成功したかのような笑顔で答えた。
「オレは神器使いのソラ。ソラって呼んでくれ」
「ソラくん……………………ってえぇ!? あのソラくんなの!?」
ブルータスお前もか。オレがソラだと思ってなかったみたいだ。
ていうか、そんなに変わってるの?
閑話休題
時間は進んでほむらの結界が決壊していた。
隕石ってマジで落ちるんだな。見滝原に直撃した無数の燃えた岩を見てそう思った。
「というかあれがほむらの魔女化?」
「厳密には魔女になりかけだけどね」
「なあ、コイツ誰だ? マミとさやかにやけに親しそうだけど」
「ティヒヒヒ、ソラくんだよ」
「はいィィィ!? どんだけ成長してイケメンになってるの!?」
そんなに変わってるのオレ?
「なんというかかわいい外見がワイルドでカッコいい姿だし」
「目元が大人の男の人らしくていいよね」
「…………性格が結構変わってたのはショックだけど」
「それでも外見の総合的にみればバッチリイケメンよ。お姉ちゃんとしては光源氏の気持ちが今ならわかるわー♪」
以上が上からまどか、杏子、さやか、マミさんの感想である。
マミさんだけでなくまどかにも獲物を見る目で見られた気がする。
女子って何気に貪欲だよねー。まあ…………なんにせよ。
「とっと終わらせて帰りましょうか、ね!!」
オレ達は魔女の使い魔達に向かっていった。
――――さやかが自分の魔女を出し、魔女と使い魔を相手し、杏子となぎさがそれをサポートする。
――――まどかとマミさんがオレをインキュベーターの封印まで連れて行く。
それぞれの役割分担をして戦いに挑んだ。
こうやって一緒に戦うのはワルプルギス以来のことだなぁ。
「そしてオレはその封印を解くという役目なんだが」
現在進行形で状況を言おう。…………かなり多くの使い魔に追われている。
『いやなんでオレに集中してるの!? 私怨か? 今までの怨みか!?』
『そういえば出会った頃からソラくんってほむらちゃんを振り回していたなぁ』
テレパシーでまどかがそう言った。
こうやって味方や敵の攻撃に巻き込まれないように遠くから指示してもらっている。
ちなみにまどか。たぶん魔女になったもほむらはオレの神器の恐ろしさを本能的に感じてると思う…………そうだと思いたい。
『あ、ソラくん今からそこにマミさんがティロるから離れてね♪』
「それを先に言えェェェェェ!!」
発射されたときに指示されて危なくも回避できた。
あと少しで使い魔と同じ末路だった…………。
『オイこら! それを早く言え! あと少しでマミるところだったぞ!!』
『ごめんごめん。でも涙目なソラくんのギャップに私のハートにキュンときた!! だからワンモアプリーズ!!』
『もう一回死にかけろってかお前!? てか、お前そんなキャラだったか!?』
まどかの将来にツッコまずにはいられない。てか、マミさんお願いだからもう一度撃とうとしないで。
え? なんか失礼なことを言われた気がしたから?
スゲー、直感スキルが半端ねー。
「ソラ、そっちに使い魔行ったよ!!」
さやかがそう言ったのでオレは
それから杏子となぎさが援軍にきたところをなぎさの襟首を掴み、
「くらえ、なぎちゃんボール!!」
「なんでですかぁ!?」
使い魔達に向けてぶん投げた。直撃して怯んだところをなぎさを回収して、使い魔達を切り裂いて前へ進む。
「味方を投げるなんてどういう神経しているのですか!」
「使える手っ取り早い武器があったらお約束だろ」
「なぎさは武器じゃありませんよ!?」
「んじゃ、使えるペットで。マミさんに飼われていたらこれぐらい当然だろ?」
「マミはそんなことしませんよ!!」
「あ。まず、というわけでマミさんによろしく!!」
「またですかぁーーーー!?」
そんな会話をしていたら今度は集団でこちらに向かってくるメガネ兵士の使い魔。
なので、文字通りお荷物ななぎさを、次はマミさんに向けて投げた。
キャッチしてくれてひと安心なところで使い魔が襲い掛かる。
そこを杏子が槍で振り払い、さやかも援軍に来てくれた。
「んじゃ、いくよソラ!」
「合わせろよさやか、ソラ!!」
そっちもな、と答えて次々と来る使い魔を切り裂いた。
しばらくしていると、今度は無数の弓矢が襲い掛かってきた…………って!!
「ごめーん。ソラくんを助けようとして加減間違えちゃった♪」
「「「やりすぎだバカヤロー!!」」」
シャウトしながらその魔力の弓矢を弾くオレ達であった。
こんな風にして、時には危機を救い、時には危機から救われ、時には危機に陥れられる。
最後のは確実にまどかやマミさんのせいである。まどかはなんかワザとっぽいし。
遠距離の人はたまに怖い。
そして遂に封印が見えてきた。しかし魔女がこちらを邪魔しようと手をオレに向けた。
――――やめて、私はこの世界で死ななきゃならないの
そんな言葉が聞こえた気がした。
「死なせるか…………」
それに自然と言葉が出た。
「死なせてたまるかよ。まださよならも言わずに、ここで終わるとか言うなよ!!」
お前がここで魔女になっておしまいという結末は絶対認めない。
オレとお前でまどかを迎えに行くってオレは宣言した。だから――――――――
「まずはその
オレは封印に向けて
それから開いた封印に向けてまどかは外にいるインキュベーターを駆除するために弓矢を放った。
――――そこには一緒にほむらがまどかと一緒に弦を引いていた気がした。
☆☆☆
まあ結果、暁美ほむらは救われてこの世界のルール通りに円環の理に導かれる。
そんな結末を迎える――――
――――そうなるはずだった。
――――そうなると思っていた。
オレ達は暁美ほむらと言う少女を理解していなかった。
ずっと一人で戦い続けて、誰にも頼ることがなかった彼女。
そんな彼女を支えていたのはたった一人の大切な少女、鹿目まどかだった。
しかしその少女は概念となって世界から消えた。
ほむらはそれに果たして納得していただろうか。まさしくその答えが今、目の前にあった。
魔女化した力よりおぞましい呪いと邪気が彼女から放たれており、円環の理を鹿目まどかという少女の記憶から切り離した。
――――そして世界はまた改変された。抑止の力は発動することがなかった。
――――それすらも無効にし、理(ことわり)を覆す力…………反逆の力
キュゥべぇはそう名付けていた。
結果、杏子となぎさ、そしてマミさんは魔法少女であることを忘れ、唯一覚えていたさやかも、その力で忘れさせられた。
そして肝心の鹿目まどかもまた一人の少女に堕された。
暁美ほむらという悪魔によって。
神は悪魔によって、堕されたのだ。
これがこの物語の結末。
ハッピーエンドかバットエンドかどっちなのかわからない結末。
オレとしてはほむらの想いを受け入れたい――――…………。
「だけど納得できない」
彼女のエゴと歪んだ想いが納得できない。
それに悪魔の力を持ち続ければ…………とオレはそう思って彼女がいる空間に訪れた。
そこは真っ暗な夜空の世界。深淵の闇という言葉がふさわしいくらいの闇の空だ。
「あら、何しにきたの?」
「お前を戻しにきた。ほむら、悪魔の力なんか捨てて普通の女の子になってくれ」
そう言うと彼女は笑い始めた。
嘲笑。どうやら馬鹿にされているようだ。
「無理よ。この力はまどかのためにある。まどかと繋ぐ愛の力よ。それを捨てるなんて馬鹿にもほどがあるわ」
その言葉を聞いて理解した。
――――ああ、そうか…………もうお前は狂っているんだな…………。
もう知ってるお前じゃないんだな。なら、やることは簡単だ。
「…………なら喧嘩だ。決闘だ。お前が負ければその力を自分の意思で捨てろ」
「ソラ、何度も言わせないでほしいわ。これは――――」
「捨てろ。じゃないと切り離すぞ――――魂を」
歯軋りしたほむらは手で顔を覆い隠して、言った。
「ならあなたを殺す。殺してやるわ…………! 私とまどかの阻むあなたなんて………………大嫌いよっ!!」
ちょっと傷ついたけど、やる気なったようだ。
ほむらは手を上げると、黒い沼から彼女の魔女とその使い魔が現れた。
「これは…………」
「円環の理の一部の力よ。私と私の魔女がお相手してもらうわ」
ほむらの姿もまた変化した。いつもの魔法少女服ではなく、背中に黒い翼を生やし、黒いドレスを着た姿だった。
まどかの逆バージョンみたいだな。
「やれやれ…………この軍勢で神器でなんとかなるかねー」
オレは神器を召喚して、そうぼやいた。
だけど今回は神器の力を使うつもりはない。
使えばいつでもほむらを普通の女の子に戻すことは造作ではない。
だけどそれでは意味がない。
それはほむらがしたように誰かの意思を奪ったことと同じじゃないか…………。
「…………なあ、今まで一緒に戦ってきてくれてありがとな。お前がいたからオレはいろいろひどい目にあったけど、友達や師匠に会えることができた。この戦いはたぶん最後…………いやオレの最期の戦いになるかもしれない。だからお礼を言いたかったんだ。お疲れさま、そしてオレの力を与えてくれてありがとな…………」
神器に向かってそう言った。
もしこれに意思があれば答えていたかもしれないが答えは返ってこない。
所詮神器は魂の武器で道具だ。
だけど、オレに、とってこれはもう一人の大切な相棒だ。別れのあいさつをしたかったんだ。
「精一杯生きただろ? 満足して生きただろ? なら、安心して――――とっと死ね」
ほむらに対してではなく、自分に対しての言葉。
さよならの言葉。
そして最後の戦いが始まった。
兵力も、火力も圧倒的。羽虫が人間に挑むようなものだ。
…………勝つつもりはない。けれど、負けるつもりはない。
ただ彼女にオレの想いを伝えるだけ!
「ぐぶっ!」
腹部に衝撃が走る。ラクガキのような使い魔の突進にやられた。
飛ばされたオレの背後にメガネ兵隊達が銃口を構えていた。
「だ、りゃあァァァァァ!!」
遠心力を使って発砲する前に斬撃を飛ばした。無惨な姿を確認できた。
ざまあみろ!
だが、安心するのも束の間、今度は魔女が拳を降ろしてきた。オレは降り下ろした拳に飛び乗り、魔女の顔面に向けてフルスイング。
…………大してダメージ受けてなかった。いやどっかの銀色の侍じゃないから無理だよなそりゃ。
ゴッと迫ってきた魔女の手に叩き落とされた。今ので肋骨が…………やられた。
「いってェェェ…………だけど、まだ動ける!」
身体が動く限りオレは戦い続けてやる。
立ち上がったとき、使い魔達は一斉にオレに飛びかかった。
それをオレは、薙ぎ払い、蹴り飛ばし、殴り飛ばしたりして払いのける。
迫り来る使い魔達を凪ぎ払い、どんどん魔女に再び近づく。
「はあァァァァァ!!」
師匠直伝『斬鉄剣』。
本来は居合い斬りの構えから行うものだが、中途半端のままで覚えたからそのままの状態から行うことにした奥義。
そしてこの奥義の真髄は――――斬れないものは…………ない。
魔女を斬った。バターのように三角の形に分けてバラバラにしてやった。
使い魔も大半を倒している。
よし、後は…………つかい――――
パンッ
そう、オレはこのとき失念していた。敵は魔女だけではない。
魔女が本体ではなかったはずなのに、オレは彼女が何もしないと油断していた。
「カフッ…………」
口から少量の血が噴き出す。
ほむらに腹部を撃たれた。その間に使い魔達が一斉に飛び込んできた。
ほむらはまるで興味なさそうに背中を向けた。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!
腹部を刺された。
肩を刺された。
脚を刺された。
手を刺された。
片目は潰されたが、頭だけ刺さなかったのは、オレをただでは殺さず苦しみながら死なすことの意思表示なのかもしれない。
痛い、苦しい。
だけどまだ動ける。激痛にさいなまれながらもオレは倒れた身体を動かした。
「あ、がァァァァァ!」
獣の雄叫びのように上げて、オレは周りにいた使い魔達を切り裂いた。
――――まだ…………まだ伝えてないんだ!
血をたくさん流し、息を荒らしながらオレはそう思って前を向いた。そこにいたのは――――
「驚いたわ。これでもまだ生きているなんて。けど、これで…………」
――――おしまい。
そう呟いたほむらは引き金をひいてオレの胸に向けて発砲した。
避けることができず、オレはその銃弾を受けた――――――――
ダンッ
――――だけど倒れてやらない。倒れてたまるか。
後方に倒れそうになったが足を前へ踏み込み、耐えた。
オレはほむらを見る。驚愕と恐怖に歪んだ顔をしていた。
オレが化け物に見えるのだろうな。だけど、もう満身創痍なオレに戦う力もしゃべる力は…………もうないと思う。
「ほむ……ら…………。悪魔なんて……なるな…………」
それでもオレは伝えるために口を開く。
――――これはオレの願い
「ああくそ…………お前……を……一人に…………したくなかったのになぁ…………悔しいなぁ………………………………」
――――これはオレの後悔
「でも…………その役目は…………おひめさま…………のあいつに…………任せるか……………………」
――――そしてこれはオレの彼女へのバトンタッチ。
お姫様――――鹿目まどかが暁美ほむらをなにもかも戻してくれると信じてオレは保険をかけた。
オレが死んだとき、まどかの首飾りに『全てを開く者』が宿るようにした。
これは神器使い達の継承である。自身の死を悟ったときにこうして神器は受け継がれるのだ。
だけどオレはまだまだ未熟者。もしかすると不完全で失敗してるかもしれない。
それでもまどかがこれを使ってくれることを祈って託そうと思った。
伝えるべきことを伝えてオレは最後の力を振り絞り、空に向けて解錠の波動を撃った。
暗い夜空が青空になった。綺麗な青空へと戻ったのだ。
ほむらも見惚れるくらいの綺麗な青空――――――――最期にオレは…………これが見たかったんだ。
…………だって暗いままなんてなんか寂しいじゃないか。
それを最後に、身体は力が抜けて後ろに倒れ込こもうする。
…………マミさん、すみません。いつか約束していたお茶会には行けそうにありません
…………さやか、ごめん。オレはお前と一緒に恭介の演奏会いけないや
…………杏子、悪い。約束していたケーキバイキングは一人で行かせることになりそうだ
…………そして、ごめんなまどか。交わした約束はほむらだけ行かせることになりそうだ
オレはもう…………みんなと一緒にはいられない。交わした約束は果たせない。
あーくそ、悔しいなぁ。涙を流したい。
けど、満足だった。ほむらにオレの想いを伝えることができたのだから。
――――だからこそ、オレは最後の最期で笑った。
優しく、満面の笑みでほむらの前で笑い――――そして死んだ。
――――そこから先は何も覚えていない。
オレという『神器使いのソラ』が亡くなったのだからどうなったことなんかことはオレ本人にはわからない。
けれど、これがあの子どもの頃に見ていた夢で、起きたらいつものように…………また彼女達と会って遊びたいなぁ…………。
ま、そんな都合のいい夢のはずではなく。オレの物語はプロローグへ……………………
なぜソラは神器を使わなかったのか? ソラが伝えたかったことは何か?
それは「力による孤独です」
ソラはほむらがこのままではまどかやみんなと敵対すると予感があったため、あえて神器を使わずに挑みました。
ソラの神器は当たれば一撃必殺ですから、いくら反逆の力とはいえ、切り離されたらそれまでです。
そんな力でわからせることをソラはしたくなかったのです。それが彼が伝えたかったことです。
とはいえ英雄が神を殺せることはめったにないでしょう。
なぜなら英雄は神殺しであるとは限らないし、神殺しは英雄であるというわけではありませんから。
次回、対決。
――――新たな属性に目覚めるとき少年は最強に変わる!!
あ、ソラのことじゃないよ?
ちなみに明日は諸事情があるので更新できません。一日開けさせていただきます。
そして、この作品を読んでいただいた読者の皆様、ごめんなさい。
彼の変態化は既に決まっていたことでした…………。