とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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――――そして混沌で終わらせる。それが彼の人生。


第二十三話

少し太陽が隠れた天気の中で、昼食を終わらせてから後半戦。

 

白熱したリレー戦が終わり、借り物障害物競争という種目が始まろうとしている。

借り物競争と障害物リレーを混ぜた競技である。

 

「ちなみに封筒に入っているお題の変更は無理です。何か質問は?」

「先生ーなんであそこにいかにも危ないですと言えそうな刺が生えているのですか?」

「レプリカです。リアルではありませんが死ぬほど痛い罠なので綱をしっかり渡ってください」

「そんな罠しかけるなよ!」

 

思わずツッコんだオレは悪くないと思う。

 

なんだこの配管工事のオッサンが挑むステージは!?

しかも最後の坂道なんかヌルヌルテカテカしたもので濡れているんだけど!? なにこれ、どこの芸能界!?

 

「まどか、あなたこの競技参加するのかしら?」

「ううん。ローションが出ると聞いてやめた。ヌルテカちょっと苦手だから」

「ショボーン…………」

「でもソラくん出るよ!」

「さあソラ! その濡れた姿を私達に見せてちょうだい!」

「見せるつもりないし、カメラ構えるな!」

 

ほむらは一体何を撮るつもりだったんだ? つーか千香も準備するな。

 

そう思いながらオレはスタートラインに立った。ピストルの合図で一斉に走り出す。

 

そこそこな速さで走って封筒を手にした。

 

「さてとお題は?」

 

 

以下がお題。

 

『やあやあ、この封筒を開けたというラッキーボーイは君だね? 君は運がよい。思えば私の伝説が始まったのは十二世紀…………いや十六世紀だったかな? とにかく私は』

 

うん、これは…………はっきり言おう。

 

「うっっぜェェェェェ! お題読むのにどんだけ時間かけるんだよ!?」

 

他のヤツもそうだし! ええい、二枚あるからさっさと二枚目を読む!

 

 

『ギャルのパンティー』

 

 

「誰だァァァァァこれ書いたバカはァァァァァ!?」

「ちなみに今回封筒のお題を考えてくれたのは天ヶ瀬千香くんだ」

「千香テメェェェェェ!!」

 

テヘッと茶目っ気ありありな顔で目を逸らす千香。

あとであいつ絶対シバく!

 

くっ、とにかくギャルのパンティーを誰かにお願いしないと。

 

「だ、誰か…………その…………女性の中に…………えっと」

 

言えるかァァァァァ!! 公衆面前で言えるもんじゃねェェェェェ!

ガク…………もう駄目だ。こんなのオレにはできないよ………………。

 

オレは膝について愕然としていると誰かが肩を叩いて励ましてくれた。その人は――――

 

「お困りみたいね」

「ま、マミさん…………」

「お姉ちゃんが力を貸してあげるから元気出して♪」

 

微笑を浮かべて、彼女が励ましてくれる。

 

「でも…………これは!」

「ソラくんが何に苦しんでいるかわからない。けれどお姉ちゃんはソラくんの味方だから。どんなソラくんでも受け入れるから、ほら。言って見てちょうだい♪」

「ま、マミさん…………」

 

 

勇気が出た。希望が沸いた。あとは根性を見せるだけ!

 

「マミさん、お願いします」

「はい、なんでしょう?」

「その…………あの――――」

 

 

――――い、一緒に来てくれませんか?

 

 

オレが出せたお願いはこれが最高である。

いや普通に下着貸してって言ったら、変態じゃん。

 

 

☆☆☆

 

 

「ぎゃァァァァァ!」

「ママァァァァァ!」

 

綱渡りの障害を乗り越えたが、オレの後ろには未だに阿鼻叫喚な世界がある。

よく乗り越えたと言いたいオレである。

 

スネちゃまいた気がする? ああさっき落ちたヤツね。

どうでもいいだろ。

 

「んで最後の関門のローション坂道か」

「なんで最初は普通なのに、最後の二つの関門だけハードなのかしら?」

 

いや、マミさんのツッコミ通りだけどさ、中間もかなりしんどかったよね?

 

なんで配管工から巨大な食虫植物が出てくんだよ。

まあ、それはさておき。これを乗り越えなければ勝利はない。

 

「だけど、越えられないことはないけど」

「へ?」

 

オレはマミさんをお姫さま抱っこして坂道を飛び越えた。あまり長くなくて助かった。

 

「そ、ソラくん、降ろして! は、恥ずかしいわ!」

「無理。拒否。とっと行かないと杏子が来やがる」

 

振り返るとそこにはカツラを手にした杏子がいた。

 

「追い付いたぞソラ!」

「くっ、ヤバいな! …………ていうかそのカツラ誰のだ?」

「教頭先生から拝借したぜ!」

「だから泣いてるのね教頭先生…………」

 

マミさんの言う通り、三角座りでさめざめ泣いてる教頭先生いと哀れ。

 

とりあえず忘れてやるのが優しさだ。

 

「この勝負もらった!」

「オレを足で勝とうなど笑止千万。小学校の頃の疾風の異名を見せちゃる!」

「お前いまも小学生だろ!?」

 

杏子にツッコまれた。

 

だよねー。そうこうしているうちにラストスパートである。

最後の全力疾走である。

 

「うォォォォォ!」

「どりゃァァァァァ!」

 

そしてゴール。勝ったのは―――――――

 

 

 

 

 

 

 

―――――――オレだ。

 

「はぇーなソラ…………はぁはぁ」

「伊達に駆け抜けてないからな」

「いい加減降ろしてくれないかしら。…………ものすごく恥ずかしい」

 

マミさん真っ赤になった顔を覆い隠している。そんな萌え萌えなマミさんに千香のカメラが光を出す。

 

歓声はやはりすごい。特に女子の。やはりマミさんのお姫さま抱っこが原因かもな。

 

「次は勝つ」

「望むところだ」

 

オレと杏子。親友であり、悪友であり、ライバル関係のようなオレ達。

 

そんなオレ達はニシシと笑い合うのだった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソラくーん? 帰ったらちょっとお話しよーねー?」

「……………………」

 

まどかは死刑宣告を、ほむらが重火器を並べて帰りを待っていた。

 

「解せぬ…………」

 

思わず空を見上げる。改めて、オレは今の光景を見て、思う。

 

千香に写真を撮られて、ついに恥ずかしくなって逃げ出すマミさん。

 

腹減ったとぼやく杏子。サクサクとチョコ棒を食うさやか。

 

良い笑顔で待ち迎えるまどかとほむら。

 

 

うん、いつも通りに――――――――

 

 

 

 

「カオスだなオイ…………」

 

 

その感想は騒がしい雰囲気の中に消えていった。




運動会の回で出てきた巨大食虫植物はその後、飼い主の用務員の若いお姉さまに回収されたそうです。

いやどんな運動会だよというのがこの回です。

次回は番外編です。

――――なぜ彼女はお姉ちゃんに拘るのだろうか?

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