海――――それは母なる地球が七割を占める青き世界の源である。
青い空、白い雲、そして――――――――水着のお姉さま。
すばらしい。絶好の海日和である。
今こそ、オレの双眼鏡が火を吹くときなり!
「オイこら。ここに美少女達がいるのに他に目移りするな」
「ああ! オレの双眼鏡が!」
おのれ、さやか。セパレートな青の水着で我輩の娯楽を消すか。
「だが許す。かわいいし」
「よろしい。さあもっと見てちょうだいな。そしてメロメロになりなさい!」
「あ、ごめん。あと六年くらい経ってからメロメロになるわ。子ども体型に欲情できないから」
「解せぬ」
いや悔しがってもらってもねぇー…………。
オレってロリコンじゃねぇし、欲情したらしたらで大問題だし。
あと子どものオレってまだまだ欲情という言葉は程遠い。思春期になってからの話だそれは。
「おいおい、なんでさやかが落ち込んでるんだ?」
「自分の不甲斐なさに愕然としているのさ、杏子さんや。にしても…………」
「な、なんだよ?」
「お前もお前でいいな」
「なっ!?」
杏子の水着もすばらしい。赤を基調とした競泳用の水着である。
恥ずかしがるその姿がその魅力を更に引き出す。
「あ、あぅ…………」
「なにこのかわいい生き物。千香、写真」
「富竹フラッシュ!」
「どっから出てきやがった!? ていうか撮るな!」
スクール水着を着た千香が杏子の萌え写真を撮る。それを取り替えそうと必死になる杏子だが、また撮られて吠える。
威嚇発動。
しかし、哀れなことにその姿もまた千香にとって格好の撮影対象である。
「千香の水着、あれってワザとか? ご丁寧に『あまがせ ちか』とひらがなで書かれているし」
「くっ、さすが千香ちゃん! 私のポジションやすやすとるなんて!」
「せっかくの水着だが、まどかよ。今の発言で台無し」
かわいいピンクのフリフリ水着だが、残念発言で台無しである。
一緒に来たほむらは黒のセパレートでスリムさを表現している水着だ。
そしてマミさんはやはり黄色のビキニ水着。同年代と比べると少し大きな胸にオレもタジタジである。
「なに鼻の下を伸ばしているのかしら」
「いひゃいでふ、ほむらしゃん」
「なら、私に向かってその美しさを。まどかにはかわいさを称えた発言しなさい」
「鼻血が…………出そうです先生」
「よろしい」
「よろしくないと思うんだけど! ってなんでほんとに鼻血が出てるの!?」
「さっき食ったチョコレートで」
最近、まどかがツッコミ役に戻ってくれてうれしい今日この頃。
これでオレの苦労と負担が減ってくれるとうれしいなと思うのだった。
☆☆☆
ビーチバレーとは一種の遊びである。ビニールでできたボールをバレーと同じく地面に着けば負け。
顔面を狙うラフプレーも許されている。
「どぉりゃァァァァァ!!」
「ヒデブッ!?」
その今まさに中学生らしき男子が杏子にラフプレーされている。
杏子さん、ビニールで出来てるよねそれ? ズゴォンって音が顔面からしたよね今。
「トシオくゥゥゥゥゥん!?」
「あのアマもう許さねぇ! 美少女だからって顔面ばかり狙ってくるなんて――――興奮するじゃないか! さあ今度はオイラにカムヒア!」
「山崎!? お前そんな性癖だったの!?」
オレが昼飯を買い出しに行ってる間になんか六人娘が中学生の不良共にナンパされていたようで、デートをかけた勝負をしているらしい。ちなみに五対零で圧勝中。
「マミ! 確か、バレーって相手を全滅する競技だったよな?」
「全然違うわよ!?」
「友江杏子、そうよ。ビーチバレーとは相手を殲滅するのが真骨頂。さあ、薙ぎ払いなさい全てを!」
「ほむらさんも乗せないで! バレーってそんな物騒なスポーツじゃないから!」
時既に遅し。杏子のサーブが不良中学生Aをぶっ飛ばした。いやー人って綺麗に飛ぶなぁー。
「見てまどか! 人がゴミのようだよ!」
「遊んでないで止めてよ千香ちゃん!」
「バルス!」
「ぐあァァァァァ目が目がァァァァァ!?」
「さやかちゃん、ノリで千香ちゃんの目に海水をぶつけないで!」
まどかとさやかと千香がミニコントをしていることを尻目にオレは青空を見ることにした。
現実逃避? 違うね。俗世から逃れたいのさ。
閑話休題
そんなカオスな展開後の昼食を食べたあと、オレと杏子は海にポッカリ浮かぶ岩まで競争していた。
他のみんなは水かけやら、写真を撮るやら忙しい。なので対戦相手は杏子オンリー。
勝負の結果は敗北。
あと少しで勝てたことにちょっと悔しい。
「はぁはぁ……速い…………」
「伊達に魔法少女やってねぇからな♪」
「関係ないと思うが…………」
這いつくばったオレを見下ろす彼女は優越感に浸る笑顔をしていた。うぐ…………悔しいなぁホント。
「…………なぁソラ」
「なんだよ…………今ホントに疲れてるんだから」
「いや別にそのままでいいからさ。聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」と聞き返すと杏子は少し不安そうな表情をしていた。
「たまに、さ。こんな幸せいつまでも続くのかなって思っちまうんだ。アタシ達って何気なく悲劇的なことばかりあったからさぁ」
「…………そうだったな」
前世の杏子の両親もその悲劇の一部である。信じていた自分の願いを否定されるような形で彼女の両親は自殺した。
「あのときの杏子って素行悪かったな。今は丸々してるけど」
「う、うっせぇな! 別にいいだろそんなこと。とにかく、たまに不安になるんだ。また誰かがいなくなるのかなって…………」
顔を下に向いた杏子の表情は見えない。けれど、迷子になった子どものような顔をしていると思えた。
そんな彼女の手を握った。
「大丈夫。オレはいなくならない」
「ソラ…………?」
「オレは死なないし、どこかにいかない。いなくならない。約束する。だからさ――――」
――――いつものように笑ってくれ
一息ついてオレの願いが口に出た。杏子だけでなくみんなに対してでもある願い。
オレはもう見失いたくないゆえの願望だ。
杏子はオレの目を見ずに握った手だけを見ている。その顔は紅く染まっていた。
「照れてるのか?」
「ばっ、そんなわけないじゃない!」
「わーお、怒った杏子たんかわいいー♪」
「て、テメー!」
手を上げながらオレを追いかけてきたのでオレは海へダイブして逃走開始。
「はっはっはっ! さあ、ここまでおいでよハニー! 私を捕まえてごらーん?」
「絶対許さねぇ! ボコボコにしてやるから待ちやがれェェェェェ!」
顔を真っ赤にした杏子はオレを追いかける。
辛気くさい雰囲気はもはやそこにはなく、あるのは友達とじゃれ合う二人の男女のみだった。
「おのれ、私を差し置いて杏子ちゃんとラブコメしちゃったって…………!」
「まどか、協力するわ。さあ、駄犬にお仕置きの時間よ」
「お姉ちゃんを無視して杏子さんと遊ぶなんて…………ふふ、悪い弟ね…………」
鬼ごっこが終わったら、そこにいたのは本物の鬼だった。
その後にリアル鬼ごっこが始まったのは言うまでもない。
次回、時間は飛んで秋です。展開が早いかもしれませんが未熟なゆえのことなのでご了承ください。