とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「――――もう一人の踏み台。彼の存在価値は今日無くなった」


第二十話

やや曇り空な天気にて、オレはさやかと共に公園に向かい修行していた。

 

昨日覚えた『神速』という技をマスターするためだ。厳密には恭也さんからコピった技だけど。

 

「あ、慣れた」

「規格外過ぎじゃね? お前、前世でオレと剣の鍛練したときあっという間に追い付いたじゃん」

「天才完璧美少女さやかちゃんには不可能はない!」

「敢えて地雷へ突っ込む欠点さえなければね」

 

この前なんか体重のことでほむらと喧嘩したもんな。第二次ほむさや大戦は回避されたが、もうあれは勘弁してほしい。

 

「時間余ったね。どうしようかね~?」

「チラチラたい焼き屋とオレを見んな…………」

 

わかってるって。オレはたい焼きが売られている屋台に足を運び、カスタードとアンコを二つずつ買った。

 

帰ってきたときにはさやかが知らない金髪オッドアイ少年に絡まれていた。

 

「貴様、(おれ)の嫁になに話しかけている?」

「さやか、いつの間に結婚しちゃったの? お兄さんちょっとショック」

「んなわけないでしょ! こいつがいきなり絡んできたのよ!」

 

そうなの? てっきりそんな関係かと。

 

「あたしをなんだと思ってるのよ!」

「アホ」

「やっぱりかチクショウー! てか、アホじゃないって言ってるでしょ!?」

「アホだからキュウべぇに騙されたのにか?」

「うん…………そのせいで恭介取られちゃって…………ああなんで契約しちゃったのかな私…………」

 

出た、鬱モードさやか。天真爛漫な彼女にとってこの話はトラウマである。タブーである。

 

ヤベー地雷踏んだ。

 

「貴様! 我の嫁をなに落ち込ませてやがる!?」

「いやーまさか自分も地雷踏むとは思わなかったなぁ…………失敗失敗」

「そのわりにはなんで笑顔!?」

「最近キチガイ姉妹にいじられる毎日でこんな愛玩生物いたら癒されるだろ普通」

「動物!? 美樹さやかを愛玩動物扱い!?」

 

シュンッとなったさやかはかわいいなぁもう…………。

 

さてと、堪能したし。ちょっと真面目になるか……………。

 

「なんでお前がさやかの前世の名前知ってる?」

「貴様も転生者ならわかるはずだろ?」

 

こいつ……まさか…………。

 

オレが驚愕した顔になると偉そうな顔でオレと向き合う。

 

「そう我もまた転生者。名前は天道衛! そしてこの世界では――――」

「さやかのストーカーだと!? 馬鹿な! こいつにストーカーついたことないのに!」

「オイィィィィィなに変な誤解してんだお前ェェェ!?」

 

違ったの?

 

「いやオレの中ではもうオリ主くん決まっているし、残るはストーカーと海蘊(もずく)しかいない」

「ちょっと待て! モブという役職は!? そしてなぜ海蘊(もずく)という役職が存在する!?」

「さやかの親友兼泥棒猫さんにあった役職を踏まえて」

「ワカメか!? ワカメことを言ってるよな!?」

 

仁美のことも知ってるとはさすがさやかのストーカー。マジ物知り。

 

「違うと言ってるだろう! ストーカーから離れろ! 美樹さやかのことはアニメ原作で知ってる!」

「ははは、なにを言ってるのだねボーイ。さやかがアニメの住人なわけあるかい」

「くそっ、もう許さん!」

 

なんかストーカーくんの背後から槍やら剣やら武器がたくさん出てきた。

 

「王の財宝の前にひれ伏せ!」

 

そして一斉に射出。一見逃げ場なしかと思われるが、バラバラなタイミングで発射されているため、僅かな隙間があるのでまだ回避できる。

 

というかこれと似たビームバージョンの神器使いと戦ったことある。

あのときは神器をマジでバットのように打ち返すしかなかったなぁ。

 

そんなことを考えていたオレはヒラリヒラリと回避し、さやかの元に近づく。

 

「バイオリン壊すバイオリン壊すバイオリン壊すバイオリン壊すバイオリン壊す…………ブツブツ」

 

トラウマでさやかに眠るバイオリン破壊症候群が再発したようだ。そんな彼女の耳元にオレは呟いた。

 

「あいつ、バイオリンたしなんでいるらしいよ」

「ブロークン・オブ・バイオリィィィィィィィィィィンッッッ!」

 

覚醒。

 

説明しよう。

さやかちゃんは過去のトラウマにより発症したバイオリン破壊症候群でバーサーカーと化し、バイオリンをたしなむ者及び持つ者を殲滅する能力があるのだ!

 

つまるところ……………………計画通り。ニヤリッ。

 

「グルァァァァァ!」

「なにィィィィィ全ての王の財宝を掴んで投げ返しているだと!?」

「ユルサンゾォォォォォ!」

「み、見えなくなっ――――くぺ!?」

 

さやかがストーカーくんの背後を取り、背中に飛び膝蹴りを決めた。

 

こうかばつぐんだ!

 

「おのれ…………このオリ主である我が…………我が…………」

「うーん、このまま帰すのもなんか厄介そうだし。よし、いきなり襲ったお前さんには罰を与えよう」

 

オレはニコニコしながら神器でストーカーくんの身体に差し込む。

グッと苦痛に苦しむがそのまま神器を回して、ガチャリと閉じた。

 

「お前の…………王の財宝だっけ? あれと残りものも使えなくしたから」

「な、なんだと!? くそっ、ホントかよ!」

 

ストーカーくんはオレの胸ぐらを掴んで抗議してきた。

 

「さっさと解除しろ! でないと――――」

「でないと…………どうする?」

 

オレは手でゆっくりとストーカーくんの掴む指を一本一本服から離していく。

 

「今のお前はなにもないただの人間だろ? そしてもう特別でもない」

「っ…………!?」

「しかもモブとたいして変わらない、一般人とたいして変わらないただの普通の子ども。そんな子どもが能力を封印した化け物を脅すなんて……………………随分無謀で勇敢だねぇ」

 

ニタリと笑ってやるとストーカーくんは尻餅ついて後ずさる。ブルブル怯えた彼にオレはさらに追い撃ちをかけるつもりで、神器の剣先を彼に向けた。

 

「これって封印だけでなく、肉体から魂を切り離せることもできるんだぜ? つまりリアルな幽体離脱ができるんだぜ?」

「あ、あああ……………………」

「んじゃ、一回――――――――シンデミル?」

「うあァァァァァあァァァァァ!!」

 

恐怖に歪んだストーカーくんはオレから逃げ去った。別に殺すつもりは最初からないので追わない。

 

転生者とはいえ、あれはトラウマは確実だな。本物の化け物と出会って改心することを祈ってやろう。

 

「グルルル、おのれ…………バイオリンめ…………あたしから初恋奪ったバイオリンめ…………」

 

とりあえずこのバーサーカーを止めるか。ちなみにアンコとカスタードのたい焼きを食わせたら元に戻ったけど。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

本日は晴れなり。夏休み前の初夏にダルそうに学校に来たオレはボーと空を眺める。クーラーがガンガン効いていたことに密かに喜んだりする。

ちなみに昨日出会ったストーカーくんもとい天道衛くんは今日は休みらしい。女子には人気らしかったのでがっかりしていたと杏子は語る。

 

あいつ、どっかで見たような…………ま、いっか。

 

今はこのユートピアを楽しもう。あークーラー気持ちええー。

 

「ソラ、海にいくわよ」

「唐突すぎますな、ほむらさんや」

「そう、私の名前は朱美ほむら」

「また始まった…………」

「唐突と理不尽という名の元にソラを生き埋めにするお茶目な女の子」

「お茶目という次元じゃねぇだろそれ!?」

「好きな人ほどいじめたい乙女心よ」

「お前の乙女心は重すぎる!」

 

いつも通りなオレ達である。ということで明日は夏休みである。

 

海に行くことなった。

 

さてさて、どうなることやら。

 

 

「まどかがアダルティなビキニに挑戦させようかしら」

「よろしい説教だ」

 

 

ほんっといつも通りだなオレ達って。




踏み台キャラ抹殺完了。彼は次のお話で変わります。

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