薄汚い廃工場にて、誰もが刮目した。ヒーローのごとくその男女は堂々と真っ正面から現れたのだ。
一人の少女はグロック17を片手に黒スーツの連中に向けて構え、もう一方の手で鎖を掴んでいた。
一応、鎖は武器ではない。
理由はもう一人の少年でわかる。
少年の片手にはカギのような黒い剣と――――――――首には鎖で繋がった首輪。
ザ・ワンちゃんな状態であった。
「なんで神威に首輪がついてるのよ!?」
バニングスのツッコミはもっともだ。なんでオレにこんなものがあるんだ?
「私の願望という名の趣味よ!」
「堂々と言えることそれ!?」
「そう私の名前は朱美ほむら……………………趣味とネタには全力全開が私のモットーよ!!」
「力に注ぐ方向がなんか歪よあんた!」
「さすがお姉さま! 同感だから後でそれ貸して!」
「朱美妹!? あんた鼻息荒くして何するつもり!?」
シクシク…………彼女達にとってオレはオモチャなんだね…………。
頼むからバニングスと月村。同情するなら助けてよ。
誰か癒しをください。
「逝きなさいソラ。かみつく攻撃!」
「ウガァァァァァ! もう焼けクソじゃコノヤロォォォォォォォォォォ!」
オレの怒りのキャパティシーは越えた。
どこぞのポケットに入るモンスターのごとくヤツらに向かって駆け出した。黒スーツ連中は撃ってきたが
「ぎゃァァァァァ!?」
「部下二号ォォォォォ!」
「撃て! 撃て!」
「だめです! 撃てば部下二号まで巻き添えです!」
混乱した中でほむらもまたグレックで彼らの銃を撃ち落とした。
そして、茫然としていた一人に華麗に自身の美脚で踵落としを決めた。
「蹴り心地悪いわ。やっぱりソラじゃなくちゃ」
「気合い入れてあいつを満足させろやコノヤロォォォォォ!」
「なにそのりふじ――――ぎゃあァァァァァなんか吸われるゥゥゥゥゥ!?」
とある吸血鬼さんから伝授してもらったエナジードレインという魔法である。
魔力、活力、生命力などあらゆる力を吸いとれる。
まあ絶対量までしか吸えないけど。
「こいつも夜の一族!?」
「誰が淫乱だとォォォォォ!?」
「そっちの夜じゃねェェェェェ!」
関係ねぇ! 全員一人残らずぶっ潰す!
オレは次の獲物に噛みついた。
「ね? 王子様が来てくれたでしょ?」
「いやアレ王子様!? 怒り狂った番犬にしか見えないのだけど!?」
「王子様はほむらちゃんだよ。ソラくんは……………………うん、その、犬でいいかも」
「そっち!? ていうか神威は犬なの!?」
あーあー聞こえない!
もう知るか! 全員倒れるまで噛みつき、吸いとる!
「待て! 月村は吸血鬼だぞ!? なぜ化け物を助けようとするのですかァ!?」
「知るかボケェェェェェ!」
頭っぽい人の顔面に懇親の右ストレートが入る。
水平に吹き飛んだソイツはほむらに向かっていき、そしてトドメとばかりの踵落としが彼の頭に入った。
「シスコンは妹に関わると最凶よ。よく覚えておきなさい」
「なにその色々台無しな決めセリフ!?」
「ギャオォォォォォォォォォォスッッッ!」
「神威お願いだから正気に戻って!」
勝利の雄叫びをあげるオレに
バニングスはツッコむのだった。
☆☆☆
黒スーツ達を縛りあげ、バニングス達を縄なら解放した。
「どうするつもりですかァ…………」
「財布あるなら出せ。オレの軍資金にする代わりに見逃してやる」
「どこの不良男児よあんた!」
だって遊ぶ金ねーもん。さっき、まどかのデートでめちゃくちゃ軽いもん財布。
「つーか、さっき聞いたんだけど月村って吸血鬼? いやほんとマジ? 『WRYYYYYYYY!』とか言って時間停止できるの?」
「できないし、私デュオ様じゃないからね神威くん」
「じゃあ、『うー☆』とか言ってスペルカード使えるのかしら?」
「うちは紅い館じゃないよほむらさん。生まれ故郷は幻想卿じゃないから」
「じゃあ、血を吸えば目からビームとか、ボディービル顔負けの肉体変化が起きるとかは?」
「そんなイロモロ吸血鬼いないよまどかちゃん! ていうか、もはや元ネタはどこなのそれ!?」
うん、さすがいないそれ。ボディービル顔負けの肉体変化が起きる吸血鬼とか見たことないし、見たくないよ…………。
結論。月村家化け物説は――――――――
「「「化け物説ガセじゃん…………」」」
「なんであからさまにガッカリされるの!?」
全員から吐かれた嘆息に抗議してきた月村。いや…………だってねぇ…………。
「いやーなんか知り合いの仲間がこんなところにいたのかと期待してたから、ちょっとガッカリ」
「初めての吸血鬼がこんなのだなんてガッカリだよ。私のワクワク返してほしいよ」
「ガハラ先生の恋人の
「アリサちゃん、私もう泣いていい?」
もう泣いてるじゃん月村。バニングスのまっ平らな胸で。
あとほむら、まさかと思うけどお前がそんなツンドラになったのガハラ先生のせいじゃないよね?
恋人さんの下僕ってキスでショットな名前だった吸血鬼じゃないよね?
「なんなんですかァ…………なんなんですかァお前らァ!?」
頭っぽい人があげた疑問にオレ達は腕を組んで考えた。
なんだって言われても。
「神器使い」
「元女神」
「元悪魔」
「ふざけてるのかテメーら!?」
どうやら怒らせたみたいなのでヒソヒソ話の会議を開始。
「オイどうしてくれんだよまどか、ほむら。お前らのせいであの人ら激おこプンプン丸じゃねぇか」
「仕方ないでしょ。何者かって問われたら、最初に出てくるのは悪魔だし」
「同じく」
「統一しないと逆に混乱するじゃん。それに二人が言ったそれこの世界じゃかなりイタイぞ」
ヒソヒソ会議を始めていると頭っぽい人がキレ出した。
「ヒソヒソ話でディスらずさっさと答えろォ! 何者なんだよテメーらはァ!?」
「うっせーな。それを今ディスってるんだから黙ってろ」
「ピーピーうるさいわね。グレックの実弾受けたいのかしら?」
「眼を抉るよ♪」
「なんで自分がここまで言われるの!? つーか最後のヤツめちゃくちゃコワッ!」
ツッコミうるさいなぁ。ガムテープで黙らせるか?
「いやいっそ『閉じる』か」
「何言って――――…………? …………!?」
声帯を閉じればそうなるわな。
「あ、今さらだけど一言で言い表せる言葉あるわ」
「奇遇ね。私もよ」
「それじゃあ一緒に言ってみようよ♪」
まどかの提案を飲んで、一息をついて言った。そのとき頭っぽい人は恐怖のあまり顔を青くしていた。
「「「化け物(さ)(よ)(だよ)」」」
それを聞いた頭っぽい人は恐怖のあまり、ブクブク泡を吹いて倒れた。情けないねぇー。
「すずか無事!?」
「助けにきたぞ!」
ありま、今さら救出かよ。さてと邪魔者はとっと退散――――――――
「あんた、うちのすずかになにしたのよ…………?」
えっ? なんで睨まれてるの? なんで銃口向けられてるの?
ちょっと整理してみようか。
泣いてる月村。
慰めるバニングス。
知らない少年とその武器。
…………明らかに悪役じゃね? オレ…………。
「そうよ。月村さんに乱暴して『ズッキュゥゥゥン』なキスを無理矢理したのよ。それで月村さんは泣いちゃって…………」
「なにあらぬこと言ってんほむら!? ってあれ? さっきいた連中は!?」
「時間停止で外に放り投げたわ。ソラを悪役にするため」
「なんでこんなことするんだよ!?」
ほむらは、妖艶で、満面で、周りが魅了されそうな笑みで答えた。
「好きな子をいじめたいってヤツよこれは♪」
「シャレになんねェェェェェ!?」
「オルァァァァァうちの妹泣かした男はテメーかァァァァァ!!」
「キャラ全然違ってないお姉さん!?」
「ディア、マイ、シスタァァァァァァァァァァ!」
ウガアァァァァァマシンガンの嵐がきたァァァァァ!?
オレはそれから逃走を開始するのだった。
「ほむらちゃん、さすがにやり過ぎじゃないかな…………」
「そうね。でもまどかとデートした彼が少し許せなくてつい、ね。嫉妬しちゃったわ。まどかとソラに…………。それに…………」
「それに?」
「今泣いてるソラはめちゃくちゃかわいい!」
「同感だよ!」
ほむらサムアップ。まどかサムアップ。
「これはまどかの魔法少女で涙目に匹敵するわ! 激シャよ激シャ!」
「なんか不穏な発言あったけど、私も激シャ! そして泣いてるソラくんを慰めればベッドインになるという策略完成! まどかちゃんマジ策士!」
「私も混ぜてねまどか」
「いいよ♪」
本人そっち退けてなにやってんだお前らァァァァァ!?
前半ちょっと反省したのに、後半で台無しだよ!
「離して恭也! ここで妹を犯したこいつを亡き者しなくちゃいけない使命があるのよ!」
「だからってここでRPGはシャレにならんから! というかソラくん逃げてェェェェェ!」
壁際まで追い込まれたオレはめちゃくちゃ目がウルウルして泣いてたそうだと二人は語っていた。
ちなみにカオスな現場が収まったのは、数時間後の月村とバニングスの説得だったりする。
せめて早く止めてよ。え? なんかキュンときたからあえてしなかった?
彼女たちの将来が不安になった。
というわけで忍さんシスコン化。ノリで彼女につけた属性は恐ろしいものへと変貌しました。
この回はテーマはシスコンは最凶であるということです。
アニメや漫画のシスコンって何気なく最強属性ありますよね。
次回、対話。
――――そして彼らは敵対しない。されど容赦はしない。