前世の思い出
(??サイド)
本日は快晴である。そんな日を出かけられずしてはいられない。
鹿目まどかもまたその一人であった。
親友のさやかと共にショッピングに出かけて、少女らしく遊ぶことが彼女の今日の楽しみであった。
「ん? あれって…………」
「あ、ソラくんだ! おーい!」
そう言って手をブンブン振る。
だが彼は気づいておらず、そのままどこかへ走って去った。
「むーなんだよー。こんな美少女二人を無視するなんて許せないわね。次会ったらとっちめてやる」
「あはははは…………でもどうしたのかな? なんか慌てていたみたいだけど」
「ははーん…………」
さやかの眼が怪しく光った。よからぬことを考えている証拠である。
「これはアレだね…………デートだね!」
「ででででデート!?」
「違いないよまどか。あんなに慌てて、しかもまどかやあたし達のようなかわいい少女に目をくれず、真っ先に目的地に向かうなんてデート以外ないに違いないわ!」
「そ、そうかなぁ…………?」
さやかの直感は少し当てにならないと思っているまどか。
まさにその通りだ。
だが、それでも暴走少女さやかは止まらない。
「もしかすと転校生とかな?」
「ほむらちゃんと!?」
「だって普段から一緒にいるし、よく見かけるじゃん」
「あわわわ、そうなのかなぁ…………!?」
「そんなわけないでしょ、美樹さやか」
凛とした声が彼女達の耳に入る。
そこには件の転校生、暁美ほむらが髪を流しながら立っていた。
「あれ? 違うの?」
「私があんな子どもと付き合うはずないじゃない」
「じゃあ、ほむらちゃんは今何してるの?」
「私は彼が気になって追いかけているの。見滝原公園を見たとき彼が『気になることができたから、今日別行動でいい?』って聞いてきたものだから」
「ますます気になるなぁ。…………よし、あたし達も追いかけてやるわよまどか!」
「うぇ!? それはだめじゃない、かな?」
「気が合うわね。散々振りまわされた怨みを晴らすネタを得るチャンスだわ」
「ほむらちゃんも!? というか私怨だよねそれ!?」
こうして三人娘の追跡が始まった。
☆☆☆
「知らないおばあちゃんと話しているわね…………」
「穏やかそうな人だけど、知り合いなのかな?」
「あ。頭下げた」
「どうやら道を聞いてたみたいね」
『ありがとおばあちゃん!』
『いいっていいって。孫みたいだねぇ、ぼくは』
『お孫さんいるの?』
『いるともさ。最近、紅いの出したままで全く動かないのよねぇ。テレビを直すように鈍器で殴ったのに』
『病院に連れて行けば元気になるよきっと!』
『そうねぇ。試してみるよ』
「まどか、すぐに百当番。ソラの目の前に殺人犯いる」
「うん」
「さらりと現行犯と会話したソラに戦慄が止まらないわ」
数分後、そこの人は捕まったことは言うまでもない。
☆☆☆
「あ、今度は杏子と話してわね」
「なにを話してるのかな? あ。また頭下げたよ」
「いったい何を話していたか聞いてみましょう」
三人娘はソラに手を振る杏子に話しかけた。
「あ。お前らなにしてんだよ?」
「ソラの追跡よ。何か慌ててみたいだし」
「うん、急いでたし。もしかすると、こここ恋人がいたりして…………」
「そんなのお姉ちゃんは認めないわ!」
「いつの間にかマミさんがいる!?」
さらりと参戦してきたマミにさやかはツッコミを入れていると、杏子は検討違いの答えを出した。
「なに言ってんだよ。あいつは自分の家の場所を聞いてただけだよ」
「「「「家の場所?」」」」
「ほら、あいつって異世界に飛ばされて神器使いになったとか言ってたじゃん。なら、あいつの故郷があるなら帰りたいって思うのが普通じゃん」
「つまりここにソラくんの故郷が?」
「彼もここの出身だったのね」
まどかとほむらは納得した表情となった。しかしってマミとさやかは違う。
「でもそれってあたしのような幼なじみがいることあるってことでしょ?」
「義理の妹がいる可能性も否定できないわね…………」
「お前らの想像力にビックリだわ」
呆れる杏子にマミとさやかは彼女の手を引いてソラを追いかける。
「いくわよ佐倉さん! そんな事実があったらソラくんのお姉ちゃんとして黙ってはいられないわ!」
「ってオイ! なんでアタシまで…………」
「なんか面白いことが起きそうだから行くわよ杏子!」
「野暮なことするなって!」
口で止めようとするが行動派の二人は聞かず、そのまま杏子を連れて行った。
「…………どうしようほむらちゃん」
「追いかけるわよまどか。彼女達の暴走を止めなきゃいけないし、それに…………」
「それに?」
「そんな事実があれば脅せるネタが得られることじゃない」
「ほむらちゃん!?」
やはりこの怨みを晴らせねばという想いと共に、ほむらもまた追いかけた。
まどかはそれを止めるために追いかけるのだった。
☆☆☆
普通の一軒家にてソラは立ち止まっていた。ベルを押そうかどうしようかとソワソワしていた。
「ここがソラくんの…………」
「さあさあ、蛇が出るか竜が出るか!?」
「たくっ、ほんとに知らねぇぞ…………」
「…………ワクワク」
「はぁはぁ…………止められなかった…………」
曲がり角から覗く五人娘はソラがベルを押す光景を見守った。
ドアから出てきたのは穏やかそうな女性とその女性と手を繋ぐ小さな少女だった。
『か、母さん?』
『もしかしてソラ…………なの?』
感動の再会に誰もが目を奪われた。しかし、邪魔する野暮な輩がいた。
「これって魔女結界!?」
「こんなところで!」
しかもソラの後ろから魔女が現れた。彼は神器を召喚し、母親を守ろうと戦った。
あっさり決着はついた。猛者であるソラにとってこの程度の敵は朝飯前だった。すぐに魔女結界は解除された。
『そ、ソラ…………なにそれ…………?』
『か、母さん…………これはその…………』
『やっぱりそうよね…………ああ、そうよ…………! あなたはソラじゃない!』
その言葉を聞いた五人娘は目を開いた。
『六年も行方不明だったのよ! そんな子が今更出てくるなんておかしいわ!!』
『き、聞いて――――』
『消えなさい! 消えなさいよ過去の幻想!! この化け物!』
彼女はそう言って、玄関にあったと思われる花瓶を投げつけた。
それはソラの頭に当たり、血が流れる。
なぜ彼女がそう言うのかという理由はある。彼女は愛すべき息子であるソラを失ってから夫だった人物と喧嘩別れし、狂ってしまった。
それを救ったのは今の夫で、一児の娘をもうけて幸せだったが、目の前に現れた彼女のトラウマである過去の幻想だった。
彼女はフラッシュバックしたのだと誤解したのだ。
そして、それはソラの心を傷つけるのには充分だった。
ソラは目を向けず、走り出した。
前を見ず、下だけを見ながら全速力で。
五人の少女達も追いかけた。
――――そして、彼が転んだときに追い付いた。
「わかってた…………六年も行方不明だったもんな…………変わってしまうよな…………」
「ソラくん…………」
「化け物…………うん、化け物だよな…………神器使いは化け物だって師匠も言ってたじゃねぇか…………」
顔が見えない彼の表情は解らなかったが、まどかは背中から抱きついた。
「もういいよ…………泣いていいんだよ?」
「…………泣きたくない。泣けばオレは…………強くなくなるよ…………」
「強くなくたっていい。悲しいときは泣けばいいんだよ。だから思いきり泣いて。――――今なら私が隠してあげるから」
ソラの顔はまどかの胸で見えなかった。
それを理解したソラは――――泣いた。子どものように。
いや、年相応に泣いたという方が正しいのだろう。
ほむらはやっと彼のことがわかった。
――――彼はまだ子どもと変わらない年齢じゃないか。
誰かと遊び、誰かに甘えることが当たり前の子どもと変わらない年齢だ。
――――なのに彼は楽しもうとすることがあれど、誰かに甘えたことがなかったではないか。
――――それどころか怖くて、辛くて、苦しい環境なかで、泣いて当たり前な世界にいるのに関わらず彼は泣かずに必死に彼女達を助けようとしていたではないか。
それに気づいていなかった自分の不甲斐なさと彼の悲しみに、同情しながら目を瞑る。
夕焼け空に響く少年の泣き声――――
それは前世で涙を流したとある少年の悲しい思い出――――
シリアスの回。みなさんは気にしていなかったと思いますが転生後、ソラには両親は存在してません。
下級神が決めた設定も含まれていますが、彼にとって好都合なことでした。いろいろできますし、何より過去のトラウマのため、育て親というものはほしくなかったのです。
母親の行動は無理もないことです。大切な息子を失った悲しみに壊れてしまい、他の幸せを求めた。
帰ってきたきたソラは何もかも遅かったのです。
哀れで理不尽なのがこの回のテーマです。
次回、エピローグとデートの回。
――――王子様はだーれだ?