とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

21 / 158
今回は長いです。

「――――運命は変わらない。最悪の結末じゃないけど」


第十六話

戦いを終えて、高町にちょっとした復讐を終えたオレは時の庭園に帰ってきたとき、まどか、ほむら、マミさん、杏子が出迎えてくれた。

 

「ただいま」

「お帰りー。めちゃくちゃ楽しめた余興だったよ。だがしかしこのまどかちゃんの前では所詮は余興。さあ、本番を始めよう……………………ベッドで!」

「いい加減にしろ」

 

まどかをチョップで止める。ほぼ停車なしの特急並みの暴走している今日この頃な彼女に思わず嘆息を吐く。

 

ちなみにほむらが文句言いそうだったので、偶然もってたチーカマを口に突っ込んでふさいだ。

もぐもぐと小動物のごとく食っているのがちょっと癒された。

 

「強引! ソラくんったら男らしくなっちゃって。お姉ちゃん、寂しさと嬉しさで複雑だわ」

「これは強引と言うべきかなぁ…………」

「なんにせよお疲れ様」

 

杏子に癒される日が来るとは。なんかちょっと複雑である。

 

「それでフェイトな金髪少女?」

「いやフェイトでいいだろ。なんか母親にお仕置きされてる。……………………胸くそ悪くなることだがな」

 

ま。家族のために奇跡を願ったこいつからしたらプレシアさんのしていることは許されないことではない。

かと言ってオレ達が言ったところで何も変わらないがな。

 

プレシアさん狂ってるし。

 

「それでアルフは? あいつは黙ってるはずないだろ」

「ソラの言う通り代わりに鞭を受けてたんだけど、途中から悦び始めて、終いにはプレシアにもっと強くと懇願してきた」

 

……………………。

 

「いい加減にウザくなったからどっかに転移させたけど、帰ってきてまた転移の繰り返し。そして、キレたプレシアの最大電撃で高らかな艶声と共に転移していった。……………………まだ知り合ったばっかりだけど、あそこまでドン引きしたあの顔は初めてみた」

「うん、言わせてもらうよ。どんだけ千香に染まってるんだよあいつ!?」

 

つーか末期どころか進化してないか!?

 

さすが変態。レベルが桁違いだ…………。

 

「それでこれからどうすんだ?」

「管理局と敵対しちゃったんだけどほんとどうしよか…………」

「よくもやってくれたわねと言いたいわ全く」

 

ほむらが呆れた半目で睨む。うっ、そんな目で見つめられると――――

 

「興奮しちゃう!」

「よし黙れ千香」

「おぶ!?」

 

腹部に裏拳が直撃が悶絶する千香。苦しそうなうめき声と興奮した荒い息が聞こえたりする。

 

相変わらずなオレ達だな。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

時間は進んで、オレ達はビルが並ぶ都市にいた。結界が展開されており、金色と桜色の魔力がぶつかっていた。

 

金髪少女と高町が戦っているのだ。

 

「それで君達は人質をとられて協力させられていたのだな」

「…………はい、嫌がる私にソラくんが無理矢理」

「あらぬこと言うな、まどかさん」

「という願望があったり…………ティヒ♪」

「昔のまどかが恋しい今日この頃」

 

円環の理になってからいろいろハッチャけたキャラになってしまったらしい。

なんでも並行世界の自分が統合した存在らしいから、たぶんその中にぶっ飛んだ鹿目まどかがいたのではないかとほむら先生の推測である。

 

チョビっと怨むよ。ぶっ飛んだまどかよ。

 

ちなみに罪を全てプレシアさんに擦り付けた。うむうむ、安泰である。

 

「ちょっとひどくない?」

「罪悪感あるわね…………」

 

さやかとマミさんはどこか納得できてなさそうな表情だったが、これしか時空管理局から逃れる手はない。

 

まあ無理矢理引き込もうものなら、皆殺しだが。

 

「おお…………なんか無数の魔力弾を茶髪の少女に当てたぞ」

 

杏子の言う通り金髪少女が高町に最強クラスの魔法をぶち当てた。鬼だな。ていうか無事だった高町も高町だが。

 

「うわっスッゲー。マミのティロ・フィナーレより大きな砲撃を撃つぞあいつ」

「あんなの防ぎきれないわねぇ…………」

 

淡々と語るマミさんと杏子よ、それよりえげつない魔法があるピンクの悪魔をお忘れではないか?

 

「これが私の全力全開――――――――の八つ当たり!! 体重を友達の前で暴露された乙女の怒り!」

 

八つ当たりって言ったぞあいつ。思いきり私怨だなオイ。

 

だんだんと集まるピンクの元気玉が金髪少女に向けられる。

 

「スターライト・ブレイカァァァァァァァァァァ!!」

 

高町の全力全開という名の滅びの一撃が金髪少女を飲み込んだ。

あれは防御するより回避する方が得策だが、バインドという拘束魔法で動けなかったようだ。

 

金髪少女にトラウマが残らないことを祈ろう。アーメン…………。

 

「ハァハァ…………いいなぁフェイト…………」

「なのは、次は僕にカモンッ!」

 

変態二匹は高町に向かってそう言った。顔を引きつってるぞ、あいつ。

 

そしてアルフ…………せめて心配しろよ金髪少女を。海にプカプカ浮かんでいるから助けてやれよ…………。

 

まあなんにせよ。これで戦いは終わり――――――――ジュエルシードが奪われた。

抜け目ないねプレシアさん。オレ達はもう協力しないけど。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

呑気に観戦してたら、アースラに隔離されてしまった。そりゃそうか。こんだけ引っかけ回したら、信用されないよなぁ。

 

「というわけでリニスさん。プレシアさんなにしてるの?」

『局員を蹴散らしてフェイトに真実を打ち明けてしまいました。なんで…………なんでこんなことを…………』

「あークローンだったぜってこと? 大丈夫じゃね? オリ主くんが慰めているし」

『慰めているって…………まさか!?』

「そう…………弱味につけこんであんなことやこんなことを!!」

『おのれ…………許せません! 今すぐ鉄槌をォォォォォ!!』

 

電話が切れて、オレはマミさんに用意された紅茶を一口飲む。

 

「よし、これであいつに修羅場フラグ立った!」

「なんてことしてんだよアンタ!?」

 

杏子にドロップキックされた。いと痛し。

 

「すばらしい、エクセレント。愉悦を楽しませるとはさすが私の嫁ソラくんだね♪」

「誰が嫁だ。婿にしろ」

「いやツッコむとこ、そこなの!? あと、最近のまどかの黒さに親友であるさやかちゃんドン引きなんだけど!」

 

さやかにまでツッコまれる。

最近まどかが黒いのはスタンダードだ。黒くした原因はほむらの影響だったりするけど。

 

オレ「さてさて、どうする皆さん? 帰るか観戦するか?」

ほむら「最後まで見届けるわ」

マミさん「私も」

さやか「あたしも」

杏子「当然」

まどか「修羅場見たいし」

千香「マイッチング予感がするから行く」

 

うむ、全員満場一致だな。最後のヤツはおかしな理由だけど。

 

オレは神器(全てを開く者)を召喚した。

 

何もないところから鍵穴が現れ、それに向けて、神器から一筋の光が差し込む。カチャリと何かが開く音と共に開いた扉が現れた。

 

 

『ドコでもドア』

 

 

某タヌキが使っている秘密道具と同じ能力を持つ神器の力で作られたドアである。

 

「下手な転移より便利だよね。そのドコでもドアって」

「異世界にもいけるしね」

 

まあなんにせよ――――オレ達はドアへ潜り抜けた。

そこを抜けると崩壊し始めてる時の庭園であった。

 

「お人形さんがいっぱいだね」

「壊れてたヤツがほとんどだけどな」

 

杏子とまどかの感想を耳に入れながらオレ達は奥へ進んだ。

 

奥の間にはプレシアさんと金髪少女が何かを言っていた。オリ主くんは……………………やっぱりボロボロになって倒れていた。リニスが彼を踏んでガッツポーズをとっていた。

YOUWINってヤツがテロップに出てると思う。

 

シリアスとコメディが合わさったシュールな光景だなオイ。

 

「修羅場終わってたかー…………残念」

「ま、いい気味だって思える光景見るだけで良いじゃないかしら、まどか」

 

ドS姉妹通常運転である。すると、プレシアさんがジュエルシード六個を展開して、次元の狭間を展開する。

是が是非でもアルハザードに行くつもりか。

 

「そうは…………させない!」

 

リニスに踏まれてオリ主くんがリニスを払いのけ、ジュエルシードに魔法当てた。プ

レシアさんは達成感で油断していたのか、防御を張ることができなかった。

 

「そんな…………私の、私のジュエルシードが…………」

 

射殺さんばかりとオリ主くんを睨むプレシアさん。それに対してオリ主くんは真剣な表情で言い出す。

 

「死んだ人間は生き返らないんだ。だからこそ、人は今を生きようとするんだ!! これ以上、フェイトを悲しませないでくれ!」

 

うん、正論だ。お前は正しい。認めるよ…………それは。

 

だけどお前は勘違いしてる。その正論が通用するのは正気の人間だけ。狂った人間には無意味さ。

 

何が言いたいって? そりゃ簡単さ。

 

「私はアリシアを…………そして失った時間を…………。あんな人形なんかより…………」

 

オリ主くんの言葉は狂人(プレシアさん)には通用しないってことさ。

もし、彼女にフェイトを娘のように愛する心が、過去を乗り越えれる強い意思があれば、通用していたはずだとオレは思う。

 

だけど、彼女には届かない……………………そこにいるのは壊れた人間だから。

 

「やれやれ…………気に入らないから協力するつもりはなかったが…………」

 

オレは神器を召喚する。そしてリニスに近づく。

 

「リニス、プレシアさんの望みを叶えるべきと思うか?」

「思えません。…………けれど、もう心も身体も限界なのですよ、あの人は」

「確か不治の病だっけ? 悪い。オレ達の中にそれが使えるヤツはいない」

「わかってました。だからこそ、お願いしていいですか?」

「…………わかった。終わらせてくるよ」

「フェイトには私から言っておきますから心置きなく…………」

 

リニスの言葉を聞き、オレはプレシアさんの前方に神器(全てを開く者)を向けた。

鍵穴が開き、ドコでもドアが出現した。

 

「これは…………」

「オレの神器の力で創ったアルハザード行きの扉さ。一応やってみて成功したけどもしかすると失敗してるかもしれない」

「ほんと!? じゃあ…………じゃあアリシアは!」

「ただし、帰りのはない。片道切符の扉だ。ここに未練がなく、そして命を捨てる覚悟があるならその扉を開けろ」

「…………っ。……………………」

「行くなプレシア! フェイトを残していいのか!?」

 

プレシアさんはしばらく考え込む。オリ主くんは止めようと躍起になるが、千香がそれを止める。

まどかやほむらは高町を抑え込んでいる。

 

残ったメンバーはクロノ少年に対峙し、動かせない状況にした。

金髪少女はプレシアさんについて行こうとしたが、リニスに止められている。

 

これで邪魔する者はいない。彼女が選択する阻む障害はない。そして――――――――扉のノブに触れた。

 

「…………いくわ」

「いいのか?」

「元から後に引けない身だし、病で少ない命よ」

「…………そうか」

 

やっぱり…………そうだよな。

 

かつてオレは大切と思うが故に狂ってしまった一人の少女を知っていた。

彼女は相棒だったオレですら殺すくらい狂っていた。

 

――――大切だからこそ、目の前のものばかりしか見てなかったから見失ってしまった。

まあ今じゃあドSで容赦ない女の子になっていたが。

 

プレシアさんがあの少女の姿と被って見えた。だからだろうか。なぜか最後には協力したくなった。

 

「…………ありがとう」

 

彼女はそう言って、アリシアが入ったポットと共に扉の中へ消えていった。そのとき見た顔はなぜか印象に残った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「なんであんなことをしたんだ!」

 

オリ主くんが責める声をあげた。

 

「プレシアを逃がすようなことをして許されると思っているのか!?」

「逃がしたつもりはないし、どのみち助からないらしいじゃねぇか。なら、彼女が最期にしたいことをさせたまでだ」

「だからってこんなことしたのか! フェイトを一人にさせたのか! ふざけるなよ!」

 

………………………………。

 

「彼女はフェイトと生きるべきだった! なのにお前は彼女の下らない我が儘に協力した! わかってるのか!?」

 

……………………今なっつた?

 

「下らない…………だと。じゃあお前はアリシアを蘇らせることができたのか? プレシアさんの狂気をどうにかできたのか?」

 

 

ふざける…………ふざけるなよ。そんな甘いことでどうにかできた人じゃない。

 

「お前にあの人がどういう想いで過ごしてきたのかわかるのか? ぽっかり空いた心の隙間をどうにかできたのか!?」

「そ、それは…………!」

「オレにはわかる。あの人はほむらと同じだ。あのとき、止めていたら大切な人を失わずに済んだ。見失わずに済んだ後悔する彼女の気持ちが!! お前みたいな口ばかりの偽善者ごときが何をわかって下らない我が儘って言えた!?」

 

思わずこの偽善者を殴った。彼が床へ叩きつけられたとき、オレはさらに言葉を投げる。

 

「フェイトを人形って言われてたな。その通りだよ。プレシアさんにとってクローンはクローンだったんだよ。娘の代わりにならなかったんだよ」

「お前……自分が言ってることわかってるのか!? フェイトの存在を否定しているんだぞ!」

「だってそうだろ? 事実なのだから」

「っ…………」

「理不尽? 違うだろ。これが現実だ。残酷で、冷酷で、救いようのないものばかりが溢れかえっているのが当たり前の世界だ。そして弱いヤツが簡単に死ぬ」

 

心が弱いから壊れた。

 

立場が低いから虐げられる。

 

力がないから殺される。

 

「プレシアさんは心が弱かった。心が壊れていたんだ。耐えられなかっんだよもう。だから優しい過去に戻りたかった。取り戻したかったんだろうよ、大切な人を。何もかも見失ってまでな」

 

オレはそう言って、ドコでもドアを出した。すでに神器使い達は集まっている。あとは帰るだけだ。

 

「なんでもかんでも綺麗事でいくと思うなよ…………青二才が」

 

捨てセリフを吐いてオレ達は時の庭園から出ていった。

 

 

最後の最後でとても胸くそ悪い結末となった。

 

 

 




シリアスの回。それがあるのが、この小説である。

プレシアさんはアルハザードに行くことになりました。死んではいません。
後にこれはある登場人物のフラグです。

元々、彼女は病に侵された身体でしたから長くはなかったので、自分の目的に最期まで執着してました。だから、見えてなかったのでしょう。大事な何かを。


けれどそれが間違っていると否定できることでしょうか?

家族よりも、友人よりも優先したい何かがあって、それを求めることが間違いでしょうか?

自分はそう思いません。それが夢であれ、目標であれ、求めるものがあって優先することは間違いではないと思います。

賛否評論に分かれることですが、考えてほしい議題がこの回です。

次回、番外編です。

――――転生した彼はなぜ家族を求めなかったのでしょうか?






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。