とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「――――それはまだ彼女が人形から少女に変わるときの話」


番外編その三

千香の追憶

 

 

…………ボクは造られた人間だ。

 

守備神器人造人間――――コードNo.14

 

 

ドレスデンという研究所でボクは造られ、訓練し、戦場に投げ込まれた。

 

たくさんの人をサポートとしたり、時には殺した。

当時のボクはみんなが知るほど感情豊かな変態ではなく、冷酷で無表情な少女だった。

 

この神器はボクの心の壁を表していたと思う。何者にも侵入を許さない心の領域。

 

だから誰もボクの領域には入って来れない。そう思っていた――――

 

 

 

――――彼が現れるまで。

 

 

その少年は目が虚ろだった。目がギラギラしていた。当然のことだ。

こんな戦争に参加すればそうなるのも無理がない。

 

自分で言うのもなんだが、こんな少年でも戦うのかと少しは思っていたりしたが、戦闘になると同時にボクはいつもの『道具』となった。

 

仲間? そんなものはいなかった。

ボクは彼らにとってただの人形で肉欲を晴らす道具でしかなかった。

 

それがボクにとっての日常であり、いつものことだった。

 

「死ねクソガキィィィ!」

 

汚い言葉で神器を振りかぶる。少年は刃がないカギのような剣で彼を斬った。血が飛び出ていないから死んでないが致命傷と思っていた。

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

しかし彼の方が倒れた。驚いた。あんな武器で倒せるなんて思っても見なかったのだから。

残りの中の一人が我こそがと思ってか斬りかかる。その少年は彼も斬った。

 

 

そしてそこでボクと彼らは気づいた――――――――既に二人は殺されていたのだ。

 

 

少年の剣は魂を肉体から切り離すものだと思った。故にボクを盾にして彼らはやり過ごそうとした。

 

「だから?」

 

ボクの神器(守護神の壁)は突如解除…………いや、その少年の言葉で言えば解錠され、キャンセルされた。

 

そう、その少年の神器の能力はカギの性質だった。味方の彼らはボクを残して一同は逃げ出した。

 

けれどその少年は誰一人逃がすことなく、命乞いもした者も、関係なく全て平等に殺した。

返り血はなく、無血の殺人技にボクは初めての感情が芽生えた。

 

 

――――恐怖

 

 

自分には生存本能があってのことだろうが、ボクはその感情に戸惑いを感じて蹲った。

 

怖い。恐い。逃げたい。

 

命乞いをしてもさっきのことを考えれば無意味である。

彼も必死だからだ。

 

だから殺される――――自分は敵だから。

 

「ちょっと待とうぜソラっち」

「その名で呼ぶな変態」

「ノエルって言ってるでしょ。まあ否定しないけど」

 

綺麗な緑の髪を靡かせた女性がとなりの少年に話しかけていた。

 

「んー、気に入っちゃった。ねぇねぇ、ソラっち。この子うちの弟子にしていいー?」

「こいつは敵だ。殺さなくてもいいのか?」

「殺しちゃイヤン♪ だってこの子ってあなたと歳が変わらないじゃない♪」

 

少年は頭を抱えて呆れだした。

なんとなくだけど、この少年はあの女性によく振り回される立場のようだ。

 

「あなた名前は?」

「…………No.14」

「うーん、こんな美少女に適当な番号名とはなかなかの外道なことをしてるわねー。それじゃあ、お姉さんがつけてあげる♪」

「ろくな名前つけるなよ」

「最近のソラっちのセメント率にお姉さん挫けそう」

 

名前? このボクに…………?

 

言い様のないナニカが沸き上がる。このドキドキとワクワクするような感じは……………………ああそうだ。

 

これは後になってこの女性――――ボクの師匠となる人に教えてもらったことだけど――――

 

 

「『千の花の香り』を持つような女性になってほしいからあなたの名前は今日から『千香』よ♪」

 

 

――――期待と喜びだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ボクは千香となり、師匠に引き取られ、ソラと一緒に過ごすようになる。

 

師匠はいろんなことをボクに教えてくれた。

 

神器の応用、ボクの長所と短所を伸ばすトレーニング方法。

そして――――『変態の素晴らしさ』

 

え? 最後のおかしい?

 

師匠は戦場では『混沌の神器使い』と呼ばれるほどの変態だったからこれが当然じゃないかな?

 

メイド服で基地をぶっ飛ばす人だし、よくソラも絡まれたり、巻き込まれたりしたなぁ。

 

そんな新しい日常が始まってボクに感情が生まれた。

 

けれどある日、ボクは敵にさらわれた。

 

食糧を確保するところを油断して捕まってしまったのだ。

 

彼らはボクをあの女性に師事されていることをいいことに改めて利用と考えていたのだ。

ボクはそれを拒んだ。当然だ。感情が生まれたボクは師匠を裏切ることはできない。

 

しかし研究所のリーダー兼軍曹であるオークの神器使いは記憶消すとか言い出し、さらにはボクを犯そうした。

 

感情のないボクはかつて肉欲を晴らす道具だったが、今のボクは感情がある一人の『女の子』だった。

 

怖くて、泣き叫んだ。悲鳴もあげた。

 

嫌だ嫌だと叫んだ。

けれど助けはなく、服を引き剥がされ、そして―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、やっと見つけた」

 

――――ごめん。訂正。

 

 

 

助けはきた。イカ焼きをくわえながらソラが壁を突き破って現れた。

 

なぜ彼がそれを加えてたかと言うと実は神器で消費したエネルギーを補うためだ。

どうやら、『ドコでもドア』でボクを探していたのだと後になって師匠が教えてくれたが、今このときのシリアスという空気が彼のイカ焼きで台無しになった。

 

さらに彼はあろうことか、

 

 

「今日はお前が食事当番だろ。早く帰って飯にしてくれ。お前の師匠も待っているから」

 

とほざいた。

杏子ならグーパン。ほむらなら蜂の巣にされても無理のない発言である。

 

皮肉なことにボクはこのとき初めての怒りを吐き出した。

 

罵倒した――――そして喜んだ

泣いた――――嬉しくて

 

まるでヒーローが助けにきた彼へ求めるような感じがした。これがどういう気持ちかわからなかった。

もちろん、敵は大激怒。オークの神器使いとその手下がソラに襲いかかる。

 

――――手下との勝負は一瞬でついた。

 

疾風のごとく居合い斬りで駆け抜け皆殺しにした達。

 

オークの神器使いは狼狽したが、自身もソラに挑んだ。

 

体格の差を考えて勝てると思っていただろう。しかし、ソラは体格の差は関係ない。

 

彼が得意とするのはジャングルファイト。ちょこまかと動き、足を封じ、手を封じ、そして神器を封印した。

 

もう神器は使えないただのオークとなったそいつはソラに命乞いをしていた。

自分が奪った財宝や奴隷にした姫騎士などの人達をやるとか言っていた。

 

ソラはそれを笑顔で頷いて、

 

 

 

 

「じゃあ、お前を殺してそいつらを奪うよ。お前だってそうやって満足に生きただろ?」

 

 

 

 

――――だから安心してとっと死ね。クソザコ

 

 

 

その言葉を聞いてオークは断末魔をあげて、ただの肉傀となった。

 

魂を切り離しただけでなく、彼は魔法で身体をバラバラにしたのだ。

彼にとって、最も許せない敵だったのだろう。その後、奴隷した人達を勝手に生きるように言ってソラとボクは帰った。

 

「なんであんなことしたの?」

 

奴隷のある一人のことについてソラに聞いた。

その人はある国のお姫様で完全に身も心もあのオークに犯された哀れな人だった。

お腹にはその子どももいたらしい。

 

けれど彼はその子どもだけを殺した。当然、お姫様は発狂したかのようにソラを責めた。

 

対してソラは馬の耳の念仏。

お姫様の言うことに耳をくれず、そして――――

 

『その愛ってホントの愛なの? そう思っているなら亡くなったあんたの父親に同情されるな。オレなら、滑稽でバカだなって笑ってやるけど』

 

その言葉でお姫様は泣き崩れて何も言わなくなった。

ボクはソラがなぜあんなことをしたのか聞いた。彼は答えた。

 

「怨まれてもいいから生きてほしかったって思ったから。それがあのオークに奪われた王様の願いだったしな」

 

彼はドコでもドアで訪れたとある家に、来たときにその王様と出会ったらしい。そして願いを聞き入れてその王様は亡くなったらしい。

どうでもいいと言っておきながらも彼はその願いを一応聞き入れたのだ。

 

「死ぬってことは肉体だけでなく、精神的もあるんだ。だからオレは千香が生きていることがうれしいんだ」

 

彼はそう言ってそこから口を開かなかった。結構恥ずかしがっていたと思う。

 

ああ、ボクが生きているということがソラはうれしいんだ。

そのときボクは恋をした。初恋だった。

 

 

 

 

 

その後、ソラと離ればなれになり、そしてソラがいる世界にきたときは既に彼は死んでいた。

 

黒髪の一人の少女が殺したとすぐにわかった。けれど怨む気が起きなかった。

彼女は泣いていたし、そしてソラは満足な顔で逝ったから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、ソラをもしまた会えるとしたら覚悟しておいてね。

師匠には恋愛は肉食系がなんぼらしいから積極的にアタックするし、ボク好みの男にしてあげる。

 

それがボクをまた一人にした罰だからね。




こうして、彼は恋する変態にロックオンされた。

おのれ、ノエル。純粋無垢な少女ここまで改悪するとは。

次回は水龍戦。お楽しみ。

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