とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「――――それは彼女の罪歌。だから、取り戻す」


番外編その二

ほむらの追憶

 

 

それは小さな背中の少年。まだ青くささが残る年下の少年だった。

 

初めて彼と出会ったのはループする前の世界だ。まどかを止めようと必死だったのが今でも目に残っている。

 

結果、失敗して遡ることになったけど。

 

目が覚めればいつもの病院でいつものベッドだった。私は魔力で視力を普通にしてまどかを助ける計画を考えていると、何かを踏んだ。

踏み心地がよかったから何度も踏んでいたが、正気に戻ったとき、それが例の少年が失神していたのだとやっと気づいた。

 

思わず叫んで乱射したことは今でも黒歴史である。

 

それから巴マミ――――いえ、今は友江マミだったわね。

彼女に警告したが、どうやら敵対関係だったためか拘束された。

私はまたか、と悔しげにリボンを解こうと躍起になった。

 

そのときにそこに現れたのも彼だ。彼の剣で、私は開放され、彼と共にマミさんを救出した。

 

異世界から来た彼というイレギュラーが私に希望を与えてくれた。さやか、杏子、マミさんを助け。

 

そして、念願のワルプルギスの夜を倒すことができた。

 

これでキュウべぇの野望は潰えた。そう思っていた。

 

――――だけど、世界はまどかを普通の少女であることを許さなかった。

 

まどかの魔女が現れたのだ。キュウべぇの推測によると世界のルールが彼女を生かさないつもりらしかった。

 

まどかは死ぬか魔女になるかの運命しかなかったのだ。

 

もちろん戦った。最凶の魔女と。しかし仲間がやられ、ソラと私とまどかしか残されてしまった。そのときの悔しげに歯を食い縛る満身創痍なソラは覚えている。

 

結局、まどかは契約し、円環の理となってソラと約束した。

 

私と一緒で円環の世界からまどかを連れ出すって、私は男じゃないのに王子様って言うのは笑えた。まどかも笑っていた。

 

それからソラは戦争に旅を出た。

私も私でまどかが守ろうとした世界で、戦い続けて――――――――――――――――キュウべぇに囚われた。

 

囚われた世界は私が望んだ世界だった。とても優しく甘い世界で幸せだった。

 

それを壊したのもソラだけど。

 

ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットと名乗ったときに私達の後ろへ落ちてきたらしい。

 

再会した彼は私達より背が高くなり、幼い少年から大人の青年らしさをもつ顔立ちになっていた。

 

そのときの私達を見て呟いた一言がある。

 

「……………………ないわー」

 

何がないのよ!! わ、私だってまだ夢の中とは気づかなくてノリノリだったけどその一言はひどいわよ!

 

まあ杏子のワンパンで追い払われたけどね。

 

マミさんと戦ったときなんか時を激しい銃撃戦で止めた弾を動かそうとしたら、彼がそこにいて、それでその……………………時を動かしちゃって大変目にあわせちゃった。

そのときマミさんと目を合わせて、思わず名前で呼んじゃったことがある。

 

本人は剣一本でなんとかしたみたいだけど、一本でなんとかしたソラはもはや人外と言われても過言じゃないと思う。

 

それからキュウべぇの策略を破綻させるために魔女化し、まどか達に助けられて――――――――私は彼女の人間だった記憶と一部の力をもぎ取った。

 

魔女化によってか、はたまたソラと出会う前から私の負の感情は濃い呪いとなっていたのだ。

 

 

そう…………既に狂っていたのだ、私は。

全てはまどかを元に戻したいが(ゆえ)に、愛故の行いだった。

 

全てうまくいき、まどかは人間に戻り、私は悪魔となった。

 

これでいいと思っていた。しかしソラは否定してきた。

 

私がいる世界にまで来て、私に勝負を挑んできた。

 

私は邪魔するソラが許せなかった。

 

 

憎かった。

 

嫌いになった。

 

だから、殺すつもりでその勝負を受けた。

 

怒りで冷静な考えが出来ていなかったのだ。

 

 

だから気づかなかった。

 

ソラの考えを、そして――――――――最初から勝つつもりの勝負じゃなかったことを。

 

勝負はあっさりついた。私の魔女の姿や使い魔、そして時間操作で徐々に追い込まれ、弾丸が急所を貫いた。

 

彼はスゴかった。神器(全てを開く者)の力を使わず、何度も傷つきながらも、私に何かを伝えようとしていた。そのときそれがわかっていなくて、とどめの一撃を撃った。

 

これで倒せた。そう思っていた。

 

「ほむ……ら…………。悪魔なんて……なるな…………」

 

立っていた。血塗れの満身創痍の姿で。

 

そのとき恐怖が生まれた。

 

得たいのしれない化け物を相手しているみたいだった。

私は徐々に近づく彼にへたれ込んで後ろへ逃げた。彼は私を見下ろす形で言った。

 

 

「ああくそ…………お前……を……一人に…………したくなかったのになぁ…………悔しいなぁ………………………………」

 

 

それでも最後は笑った。

 

 

「でも…………その役目は…………おひめさま…………のあいつに…………任せるか……………………」

 

 

そう言って、神器を天へ向けて暗い夜空を青空にした。まるで私の闇を消すかのように。

そして神器は消えて、彼は後ろへ倒れた。

 

 

私はようやく思い知る。

 

――――今まで誰が私やまどか達を助けようと躍起になっていた?

 

――――今まで誰が無器用な私につきあってくれた?

 

誰よりもほかならぬソラではないか。

 

だけど死んだ。誰が殺した?

 

 

――――ワタシガコロシタじゃないか…………

 

 

自覚したとき私は声にならない叫びをあげた。

 

殺してしまった。

相棒だった彼をこの手で。

 

王子様が白馬を殺してしまったのだ。最悪のバッドエンドだ。

 

私は悪魔の力で何度も彼の名前を叫びながら、生き返らそうとした。

 

けれど、不可能だった。

 

理を覆す存在なのに。

理を反逆する力があるのに。

 

その理由を知るものが現れたのは、不可能だと思い知ったときだった。

 

天ヶ瀬千香――――いえ千香だった。

 

彼女曰く、神器(全てを開く者)が誰かに継承され、魂がないため生き返らないだそうだ。

 

それから私は彼の魂を取り戻すために躍起となっていた。

 

愛しているのはまどかだけど、恋した初めての人は――――ソラだった。ほんと今さらよね。

そして神器(全てを開く者)の継承者だったのはまどかで、彼女と戦うことになった。

 

そこからのお話はまた別の機会にするわ。

あまり良い思い出じゃないしね。

 

 

 

 

私は今でもその死に際の彼の笑顔は忘れられない。

そして、私は転生できると知ったとき、彼を取り戻す決意をした。

 

今度は見失わないわソラ。もう二度と離したりしない。




いかがでしたか? 二人の少女の過去話。これが彼がほむらに殺されたという言葉の真意です。
劇場版で見たほむらは誰から見ても狂っていたと思います。

だから、見えていなかったのでしょう。支えてくれた大切な青年の存在を。


彼の最後の戦いも書く予定なので、ぜひ読んでほしいです。


というか過去挿入って何気に難しいですよね。上手くいったのかどうか正直、不安ですがこのままにして置きます。

次回、水龍戦の始まり。そして少年は力を示す。

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