とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「ありがとう」

by堕ちた英雄――――ソラより


第百三十二話

先制はまどかの弓矢からだった。一発で放たれた散弾(バレット)はナイトメアに迫るが、すぐに横へ飛びビルを使った壁走りを行う。

 

「人外かテメーは!」

 

杏子の多数に多節棍がムチのように伸びていく。それを回避するため壁走りをやめて地へ着地したところを狙ってマミさんとさやかが遠距離攻撃を繰り出す。

 

「そーれッ!」

「ふふふ♪」

 

数本のサーベル投擲とマスケットの銃弾がナイトメアの地面を破壊する。苦痛に顔を歪ませたところをほむらがライフル銃を発砲した。

肩に直撃し、ほむらに向けて黒い雷を発射したが我らの千香ちゃんがほむらを守る。

 

「あら、いいコンビネーションね」

「当たり前よん。こちとらベテラン共の集まりなんだぜ?」

 

ケラケラと千香は笑いながらナイフをシイに投擲。それを彼女の神器が弾いた。

ダークグリーンの細剣。回復を司る神器のようだがそれだけじゃないな。

 

「痛め、古傷(オールド・ペイン)

 

ダークグリーンの光が千香に放たれ、千香はシールドを展開するが、オレは彼女の前に立ち、彼女を押し退けた。

 

やはりシールドは無意味で通過し、オレはそれを直に受けた。

 

「ぐ、ぎぃ…………」

 

古傷――――つまりかつて受けた傷が再生した。前世で受けた傷も含めてだ。とてつもない激痛が起こり、身体中に血が噴き出す。幸い前世で受けた目の傷は再生していない。

 

「ソラ! ッ!?」

 

ほむらがオレの元に向かおうとしていたが、それを遮るかのように『アミコミ結界』が展開される。杏子ではない。赤いアミコミではなく黒いアミコミだった。

 

「ナイトメアか!」

「ソラ、さっさとこれを解錠するぞ」

「わかってる杏子!」

 

オレと杏子はナイトメアに閉じ込められている状況だ。早く外と繋がらないとシイの『古傷(オールド・ペイン)』で全滅するかもしれない。オレは今まで額に傷を追ったことはないがどうも知らない傷が増えている。

あの力は過去や前世だけでなく、平行世界も含まれてる可能性もある。

 

この効果で一番危険なのはマミさんとほむらだ。第一マミさんは平行世界では悲惨な死に方だったし、ほむらら今世では死にかけている。

傷の再生はホントにシャレにならない。

 

「『シンクロ』!」

「『ロッソ・ファンタズマ』」

 

オレは杏子の魔力で幻想の力を得て、杏子はオレの神器の力を得た。それから杏子は多数の分身を造りだし、一斉にナイトメアへかかる。

ナイトメアもまた多数の分身を造りだし、対抗した。

 

チャンスだ。オレは槍状になった『全てを開く者』をアミコミに向けて投擲した。アミコミはキャンセルされ、外と繋がった。

 

「マミさん!」

「受け取って!」

 

リボンがオレの手に絡まり、魔力供給を受けた。そしてマミさんとの『シンクロ』し、銃型になった神器をナイトメアに向ける。

 

杏子の分身は既に少数でピンチになっていた。

「縛れ!」とオレは叫ぶとリボンがナイトメア達を縛りあげる。

 

「さあ、お菓子の時間よ?」

「受けとれ飴玉をな」

 

一斉に展開されたマスケット達をナイトメア達に発砲した。

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 

無限とも言えるくらいの魔力弾をナイトメア達に発射すると、一人のナイトメアがリボンを千切り回避したではないか。あいつが本体か!

 

分身達は消えて残された本体をオレは睨み付ける。

 

「あぶねーじゃねぇか!」

 

あ、ヤベ。杏子共々葬り去ろうしていたわ。プンスカ怒った杏子をなだめていると、まどかの魔力矢がこちらにとんできた。

 

「ごめーん! シイちゃんに当てようとしていたけど早すぎて!」

「「周りを見ろや!」」

「ソラくんが言えることかしら?」

 

マミさん、気にしないの。さて、『シンクロ』を解除して元の銀髪に戻った。

さやかはシイを剣術で追い込め、ほむらはさやかの援護射撃していた。

 

「アハハハハ! そらそらァァァァァ!」

「なんで笑っているのあなた!?」

「最近、こうやって人を斬るのが楽しみなんだ! スカッとするから!」

「切り裂き魔!? ッと!」

「チッ、外したか。さっさとその無駄な脂肪の持ち主なさやか共々死になさい」

 

ほむらさん、さやか共々葬り去ろうしていたね。

 

「ほむら、あんたわざとでしょ!」

「当たり前よ。どうしてあなたはまだまだ成長して私は打ち止めなのよ? Cで打ち止めとは神が許しても私が許さない」

「知らないわよ。あ、ヤバ。今のでブラのホックが……」

「死ねェェェェェ!!」

「ハッハッハッ、羨ましいかコノヤロー!」

「あなたのせいで私が巻き添えなんですけど!」

 

さやかは笑いながら回避し、シイは泣きながら回避していた。なんだこの三つ巴。

味方無しのバトルロワイヤルか?

 

「ソラくん、あれ!」

 

マミさんの声でオレはナイトメアに振り向くとヤツはまどかと『シンクロ』したような姿となって弓矢を引いていた。

ヤベ、あれはまどかのデストロイアーチャーだ。

 

「というわけでまどか!」

「合体だね!」

「いや、わざわざ『だいしゅきホールド』しなくていいから!!」

 

背中からホールドされて甘いにおいでムラムラ――――してる場合じゃないですね。だからマミさん、笑顔でマスケットと向けないで。

杏子も脛を蹴らないで。痛いからホント。

 

「『シンクロ』――――魔力矢装填」

 

オレはナイトメアと同じように引いて、共に放たれた!

無数の矢がぶつかり合い。爆発し、突風が起こる。

魔力矢の光で見えなくなり、それが晴れるとナイトメアは――――泣いていた。

 

「なぜだ……なぜお前だけがッ。お前だけが彼女達と幸せになれる!」

 

ナイトメアは元の姿に戻り、オレに斬りかかる。その衝撃でまどか達は吹き飛ばされる。

 

「オレはみんなといたかった! あんな結末は望んでいなかった! なのに、なのにィィィィィ!!」

 

かつてオレだった男の嘆きが斬撃から伝わってくる。一つ一つが重い。

 

「オレは、オレはァァァァァ!」

「もういい」

 

オレは大振りになったナイトメアの身体に蹴りを叩き込む。距離を開いたところで今度はオレから斬り込む。

 

「確かに悲劇だよ、バッドエンドだ。お前はホントにかわいそうな男だよ。自分自身で言うのもなんだが」

 

でも、と言葉を続ける。

 

「オレにとってはどうでもいい」

「どうでもいい、だと!」

「当たり前だろ。平行世界の住人は限りなく近く、限りなく遠い別人だ。オレが知らないヤツだから他人だ。逆に知らないヤツにとってオレは他人だ。だからどうでもいいんだよ」

 

冷たい話だがオレには関係ことだ。だってもう一人の自分だからなんとかしてよ、って言われたら果たして自分は助けようとするのだろうか?

 

答えは否。なぜならもう一人の自分は自分自身じゃないから別人だ。だからその人の問題はその人自身が解決すべきモノだ。

 

それにもうあのクズはいないからあんな結末はもうない。

だから関係のない話だ。

 

オレの言葉にナイトメアは揺れたのか、防御が甘くなっていた。チャンスとばかりにオレは斬撃を叩き込んだ。

 

「オレは誰でも助けるお人好しじゃない」

 

手の動きを封印。

 

「オレは知らない人間の問題を解決しようとするほど甘くない」

 

足の動きを封印。

 

「だから救いのヒーローにはならない。なろうとも思わない。けど……!」

 

身体に神器を刺し込んでそのまま地面に向かう。

 

「お前の悲しみを理解し、そしてその想いをオレが背負ってやる。だから!」

 

地面に一緒に叩き込み、そしてナイトメアが動かなくなったところで言ってやった。

 

「安心してとっと逝け。お前だけここにいてもあいつらは喜ばねぇだろ……」

 

そうか、とナイトメアは呟いたかのように思った。そして彼は満足した顔で光の粒子となった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――と思われた。

 

「ざんねーん。お兄ちゃん、ナイトメアは死なないよ?」

 

シイの言葉に反応したとき、吹き飛ばされた。オレはシイのところ見ると隣には解放したはずのナイトメアがいた。

 

「彼は悲劇の主人公。私が死ぬまでその悲劇によって生まれ続ける哀れな主人公さ」

「どういうことだ!」

「クスクス、つまりね――――ナイトメアは平行世界で死んだお兄ちゃんの負の感情で生み出される使い魔なんだよ!」

 

だから死なないし、死ねないのか!

 

オレは神器を構えるがシイ達にはもう戦意はなく、ただオレ達を見ていた。

 

「あーあ、お兄ちゃんを手にいれるはずだったのに……まあいいや。お兄ちゃんが天寿を終えるまで殺せばいいんだし♪」

「どういうことよ?」

 

ほむらの疑問にシイは答えた。

 

「お兄ちゃんはね、本来なら『抑止の存在』になるべきだったんだよ」

「「「「「「え…………」」」」」」

「話してないようだね。クスクス……『閃光』と同じように女神との契約し、戦争を早く終わらせるために力を手にいれたみたいだけど、下級神のおかげでお兄ちゃんはなるべきだった存在から生ある『抑止の存在』となったんだ。だからお兄ちゃんが寿命で死ねば『抑止の存在』になっちゃうんだよ」

 

余計なことをペラペラと。確かに、言ってなかったな…………あーヤベ。みんなの顔が険しいや。

 

「でも今回は諦めるよ。目的のモノは手に入ったし、お兄ちゃんはあわよくばって感じだしね」

「目的のモノ?」

「そうだよお兄ちゃん。彼が目的のモノさ」

 

ナイトメアが目的のモノって…………まさか。

 

「『全てを開く者』か?」

「ピンポーン。大正解。おかげで色んな世界に行けるね――――災厄をもたらすために……」

 

楽しそうに笑う。悲しいモノを見れることをこいつは楽しそうに笑う。

もう、こいつは正真正銘の悪魔だ。

 

「じゃーね。また会いましょう、魔法少女、人造神器使い、そして『抑止の存在』さん♪」

 

シイとナイトメアは次元の穴に呑み込まれ、消え去った。

こうしてオレ達は勝利とも敗北とも言えない幕を迎えた。




半分抑止の存在になったソラですがまあ人間の機能はあります。なので普通の人間とは少し違う身体です。

さて次回――――最終話

――――これでソラの物語はおしまい

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