とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「さあ、殺し合いの時間だアオ!」

by五河四季


第百三十話

オレはアオを見据えながらこの結界を解析していた。魔法――――のようだが、どうも嫌な感じがした。

前にも感じたことのあるゾッとするような魔力だ。

 

アオの魔力は穏やかな青い魔力だったはずだが、この魔力は違う。深海のように底なしの暗さ――恐怖を与える深淵の闇を持っている。

 

「お前に何があったんだ?」

「さてね。ま、以前の自分じゃないってことだな」

 

その含み笑いはなんとも悪意を感じる。邪悪と言えるべきか。

今すぐにでも神器でこの結界を叩き切りたいが、なぜオレをここに閉じ込める必要があったのかわからないし、おまけに解錠直後に襲撃される可能性も否めない。

このアオは以前のアオではないことは見たときからわかっていたよ。危険な存在だ。

 

「ようやく来たか――――四季」

 

視線の先には――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁日スタイル――――つまりお面を頭につけて、右手にヨーヨー、左手に綿飴、腕にはたこ焼きが入った袋を引っ掛けている四季がいた。

 

「ってなんでお祭り気分!?」

「なんか知らない神社に落ちたら縁日やってたから楽しんでた。ふふん」

 

なに満足してんだよ! てか、ツインテも止めろよ。敵陣地だぞここ!

 

そう言うとツインテはため息をついた。

 

「そんなこと言っても止まらないのが四季クオリティよ。止められるはずがないじゃない」

「そうだぞソラ。この俺は何人たりとも止まらぬ」

「自重はしろ」

 

まあ自重しないのがこの男らしいと言えばらしいが。

アオは神器を召喚し、剣先を四季に向ける。

 

「殺ろうぜ四季。自分の使命はお前を殺せとのことだ」

「……かつての仲間に対して向ける感情ではないな。まあいい。俺としてもお前をバラバラにして研究したいところだッ」

 

先制は四季だ。錬成された石の蛇がアオに襲いかかる。アオは右へステップし、すぐに四季に斬り込むために、地面を蹴る。

接近させまいと四季は突起を錬成した。するとアオは急停止し、苦々しく四季を睨む。

 

『全てを開く者』は解放や封印に関しては万能だ。しかし錬成は違う。

錬成という命令で構築された物質は魔法のようにすぐにはキャンセルできないのだ。

 

例えるなら魔法は煙。軽々と振れば散るが、錬成は水の中の石。干渉しなければキャンセルできない。つまり、『全てを開く者』で錬成をキャンセルするには五秒以上の時間が必要になる。

それは四季との戦いにおいて稼げるには難しい時間だ。

 

「ティアナ!」

「はァァァァァ!」

 

錬成でルートを決められ、そこへツインテの魔弾が狙われる。苦悶の表情になるがアオはそれを振り切り、再び距離を開ける。

 

「接近を許さないか」

「今のお前に接近を許せば細切れになるだろ」

「クク…………さすが転生した賢者――――いや、『切り裂き魔』さんか」

 

『切り裂き魔』――――かつてオレが『無血の死神』と呼ばれる前…………つまり師匠が生きていた時代の『最凶』の錬金術師。師匠と共に恐れられた変人だったっけ?

 

まあ、要するに相手すればただでは済まないということだ。オレも相手したくない。

 

「だからどうした?」

「こうする」

 

アオが地面に向けて手を向けるとオレを閉じ込めた結界が広がった。それはティアナだけを弾き飛ばし、四季とアオのみを残して閉じ込めた。

 

「アイツがいなくても俺を倒せるとでも?」

「まさか。ティアナはただの数減らしさ!」

 

そして今度は黒い人型が出てきた。なんとその人型はまどか達を象った影だ。しかもご丁寧に神器まで複写している。

 

「ほう、どうならお前に影を操作するアビリティを得たようだな。興味深い」

「やれ、シャドー!」

 

真っ黒な弓矢が四季の頬をかすめ、マスケットの銃弾が地面を破壊する。足元をやられた四季は空中に逃れざる得ない。

さやかの影が四季を切り裂こうとカットラスをはしらせるが、その暗黒の閃光は虚空を斬っただけだ。四季が寸前で錬成したナイフで流したのだ。

 

しかし今度は杏子の影が四季の脇腹を抉った。苦痛に歪む表情だが、そこを狙ってきたのかアオが剣を走らせてきた。四季はアオに向けてナイフを投げてから着地したが、抉られた脇腹を押さえながら吐血した。

ナイフで行く手を阻まれたアオだが、顔をニヤリと歪めていた。

 

なんと彼の影が針のように四季に向かって延びていた。今の四季には回避不可。それは当然、彼を貫いた。

 

「ぐ、ふ…………」

 

さらにその影を四季を高らかにあげた。そしてまどかの影が四季に向けて弓を引いていた。

 

「どどめだ」

 

放たれた一本の矢は空中で分解され、バラけて彼に襲いかかる。矢は四季の身体を食い破るように穴を作り出し、そして四季は動かなくなった。動かない者にようはないとばかりにアオは四季だったモノをビルが砕ける威力で叩きつけた。

 

「四季! 四季ィィィィィ!」

 

ツインテで叫ぶが瓦礫の下敷きから血が流れていた。おそらくもう助からない。アオの次の標的はツインテだという視線を向けていた。

 

オレは『全てを開く者』で解錠しようとしたが、この結界は薄い膜を何重で張られていた。『全てを開く者』でキャンセルできる対象は一つ。強かろうが弱かろうが対象が一つなら一撃でキャンセルできるがこれでは時間がかかる。

 

その間にツインテがやられる。

 

オレは叫びながらキャンセルをし続けるが遂にアオはツインテの前まで来ていた。そして凶刃がツインテを貫こうとしていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「甘い――――未熟者」

 

 

アオの手が氷付けされ、そして何者かに殴り飛ばされた。

 

「ふむ、油断してしまった。これは失敗失敗…………これまでのアオの評価を変えねばな」

 

穴だらで絶命したはずの四季がそこにいた。穴は元に戻ったかのようになくなっており、服だけが穴だらけという奇妙な格好だ。

 

「再生したのか?」

「Exactly。俺の中に眠る精霊の力さ。もっとも細切れにされたら復活はできなさそうだが」

 

首を鳴らし、彼は十香の大剣を召喚した。

 

「さてリベンジだ。闇を征する者」

「やってみろ『切り裂き魔』!」

 

大剣と神器がぶつかり火花が散る。アオもまた再生能力があるのか殴打の痕は消えていた。

影達は援護しようと四季に襲いかかるが、ティアナのスフィアが妨害する。銀と白の閃光が火花を散らす中、四季が距離をとり、錬成して影を一人串刺しにする。

しかしまどかの影は何事もなかったかのようにドロリと解けて元の形に戻った。

 

「なるほど、実質再生があると言っても過言ではないな」

 

満足した彼は目を閉じ、何かに集中する。その間にさやかと杏子の二つの影が四季を貫こうと動いた。

 

 

「『惨殺の刑に処す』」

 

 

――――刹那、四季は彼女達二人の影の後ろへ通り抜け、彼女達をバラバラにした。

 

居合い切りと等しい斬撃速度で切り裂いたのだ。しかも影は再生することなくドロリと溶けてしまった。

 

「なぜだ? なぜ再生しない!」

「当然だ。概念殺しを使ったからな」

 

概念殺し――――不死や概念おも殺せる凶悪な技術だ。生涯できた者はほぼいない技で、使い手には必ず身体の一部の機能が停止するという恐ろしいデメリットがある。

 

「俺の右目が白い瞳になっただろ? これが概念殺しができるような視界にした代償だ。もっとも精霊の力でゆっくりだが元に戻るようだが」

 

これで影を倒せる手だてができた。アオは警戒した目で四季に集中する。

すると四季がナイフを五本投げてきた。そのナイフを回避したが、刺さった五本のナイフから星型の錬成陣が現れたとき、影がまた串刺しにされた。

遠距離錬成か!

 

「錬丹術だ。地脈がくっきり見えるぜ?」

「調子に乗るなァァァァァ!」

 

アオは激昂し、四季に斬りかかる。また白の閃光を描くが、四季は余裕をもって対応した。アオは恐れている。

 

――――お前なんかいつでも殺せる

――――お前なんか簡単に死ねる

 

生存本能が刺激されて四季に対して冷静でいられなくなったのだろう。

 

「そろそろ終わりにしようぜ!」

 

四季の合掌と同時にアオが斬撃を入れた。その斬撃は確かに入っていた。しかしアオが解錠したのは四季の身体ではなく、よくできた氷の人形だった。

 

「『串刺しの刑に処す』」

 

錬成された突起はアオの腹部を貫き、その後手足や肩を貫いた。痛みに咆哮をするアオだが、空中にいた四季は大剣ではなくナイフを構えて落下しきた。

 

「『両断の刑に処す』!」

 

そしてナイフでアオの背中を両断するかのように切り裂いた。アオの身体は再生しようとうねるが、概念殺しで切り裂かれたモノは再生しない。

不死を切り離せば『不/死』になり、その者に死を与える。つまりアオはもう…………。

 

「やっぱり、つよいなぁ…………」

「アオ…………」

「ティアナ……ごめん。自分はみんなに、迷惑を…………」

「そんなことどうでもいいわよ! ねぇ、アオはもう大丈夫でしょ? 一緒に帰れるでしょ!?」

 

ツインテの願いは叶わない。アオはもう既に死んでいるし、四季によって『死』を与えられた。その証拠にアオの身体が徐々に灰になっていた。

 

「泣くなよ。これが自分の運命なんだ」

「そんな運命、私は信じない! アンタが消えるなんて、そんなこと…………!」

「ハハ…………やっぱりティアナは優しいなぁ」

 

彼は笑っていた。死を目前としてまで笑っていた。そして彼は言葉を紡ぐ。

 

「ティアナ、なのはさんや…………みんなに伝えて、くれないか?」

 

彼が出したのは感謝の言葉。

彼が出したのは別れの言葉。

 

それは短くも長いことお世話になった人へのありがとうの言葉。

 

 

 

 

「――――アオは、幸せな、仲間でした…………――――」

 

 

 

 

最高の笑顔で彼は逝った。見届けたツインテは子どものように泣いた。仲間としてか、好きだった人としてか、もうわからない。

 

結界が解除されてオレは風によって飛ばされた夜空に舞う光輝く灰を見て呟く。

 

「じゃあな、『オレ』。お前のことは結局好きにはなれそうにもないな」

 

人を悲しませたスゴくカッコよかった男に悪態をつくことしかオレにはできなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、死んだの?」

 

オレはその声を聞いた刹那、神器を構えた。そんな……なんで!

 

「あら、ひさびさの再会に随分ね。ソ・ラ♪」

 

オレ達の前に黒幕が現れた――――名は悪魔『暁美ほむら』




アオは逝きました。彼にはもう後悔はなく、満足な最期を迎えさせました。ifの世界では、ティアナと恋仲になってたかもしれませんね。
しっかり者で鬼畜な彼女とエロを求めるだらしない彼。長く続く続かない関わらず面白いカップルになってたかもしれませんね。

さて次回、ソラVS闇に堕ちた存在

――――お前はほむらじゃない。お前はオレの…………!

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