by北郷一刀
全員が目を覚ましたとき正気に戻っていた。かわいそうなことに記憶にはオレ達を傷つけようとしたことをしっかり覚えていた。そのせいでまどかはオレに抱きついてワンワンと泣いた。
いや、大丈夫だ――――と言いたかったが、オレは前世の最期を思い出した。
あのときはさよならは言えなかった。
別れを言わずに死んだ。
知らないうちにいなくなった。
だからまどかは泣いたのかもしれない。結局のところはやさしく背中を撫でて落ち着かせたけど、「ハァハァ、ソラくんのにおい~♪」と変態チックになった瞬間にチョップを決めた。
オレは悪くない。悪いのは変態だ。
それにしても、どうやら■■■■は殺されたから全員正気に戻れたようだ――――ってあれ?
「なんで敵の名前を忘れて……」
「どうでもよかったんじゃね?」
「把握」
四季の言う通りだな。まあいいや。あとはラースを倒すだけだな。
「あ。キリトから通信。ラースは倒したからだってよ」
「え、マジで?」
つまり完全勝利ってヤツ?
やったね! これでお家に帰れるー!
「帰れぬからな我が友よ。貴様とその仲間は留置所行きだから」
「解せぬ。まあいいや。別に問題――――ッ!」
オレは感じた――――何かがいることに。
突如、何かがオレに飛び込んで、刺そうとしてきた。オレはそいつから避けたが、そいつの元々の狙いはオレの足場だった。
「アオ!?」
そいつの正体がアオだと知った刹那、浮遊感に支配され、落ちる。
「どわァァァァァ!?」
「チッ、ティアナ!」
「ええ!」
オレと一緒にツインテと四季も落ちていく。アオは先に落ちているため、彼がどこにいるのかはわからない。
それからオレ達は意識を徐々に失っていた。
☆☆☆
ふと、目を覚ませばそこはビルが並ぶ大きな町だった。暗い夜空が広がる町。オレはその町を知っていた。
「なんで見滝原に……」
まどか達とオレの故郷。悲しい思い出しかないところにオレはポツンと一人でいた。
「…………とりあえず歩いてみるか」
オレは町を散策するべき足を運ぶ。すると子どもの声が聞こえて、公園に向かう。
そこには――――
「お、オレ……?」
そう幼いオレがいた。父親と母親に見守られながら、ブランコで遊ぶ子どもがいた。
「なんで…………ここは過去の世界なのか?」
とりあえず近づいてみると過去のオレは幻のように消えた。すると、今度は病院に爆音が起きる。
オレはそこへ走っていくと魔女結界の入口らしき穴を発見した。
「入ってみるか……」
その中にはマミさんがお菓子の魔女と戦っていた。そして死にそうなところでオレが飛び蹴りでお菓子の魔女を飛ばし、代わりに戦っていた。次第にその光景も薄れていき、消えていった。
「これも幻……?」
どうやら過去の思い出を見ているようだ。次に見たのはワルプルギスと戦うオレとほむら達だ。ビルとビルを跳躍してワルプルギスと戦う。
あんな風に戦っていたんだよな…………なつかしい。
まあでも、あんまり良い思い出じゃないけど。ほら見ろ、ワルプルギスを倒した後に救済の魔女が出てきたじゃん。
『抑止の存在』に勝てる人はいないか~?
「ここにいるぞー!!」
「いたのかー…………え?」
気のせいだろうか……オレより背が小さな女の子が手を挙げていたような…………。いつか一刀が話していたお漏らしなんとか超さんの従妹だったような…………。
「まあなんにせよ。とっと四季を探すか」
一緒に落ちたはずの四季がどこにいるのか。どこにいるかはわからないが捜せば見つかる――――と思って一歩を踏み出した。
「捜す必要はない」
背後にアオがいたことに気づいたとき、オレは四角の結界に閉じ込められた。くそッ、油断した。
アオは鼻で笑っている。余裕そうな顔だ。何を根拠にオレを見下す。
「簡単だ。お前より強くなったからだ」
「オレよりも? ありえない。てか、お前。死んだんだろ?」
「うれしいだろ? 完全復活イエーイ」
「ブーブー、死人は土に還れ」
「お父様のあまりの冷たさにアオくんは泣いた」
ヨヨヨと泣いたふりをするこの馬鹿にオレは苛立ちを覚える。何が目的なのかは不可解だし、何より不気味だ。
オレはアオから何らかの力を感じているのかもしれない。その力はオレが知ってるモノだと思う。
そう、あれは前世で感じた――――
「どうしたの?」
「…………いんや」
「なら、四季が来るまでお話しようか♪」
その笑みは昔していたオレに似ていた。
(??サイド)
一刀はベルカの覇王の拳を交えていた。クラウの拳は見える――――とはいかないが常人からすると音速の拳だ。目には見えないくらいだが、一刀にとっては目には止まらぬ早さだ。しかも、その受ける打撃力はバッドで殴られるモノより強い。
ときどき、木刀を持つ手が痺れていた。
「ぱんぱかぱーん、大剣しょーかん」
「んなッ!?」
召喚陣が現れ、そこから装飾のない素朴な大剣が出てきた。両刃のある大剣は二メートルを越える代物で、それが降り下ろされたとき大剣の先にあった壁がスパッと切れ込みができた。
「チートかよ!」
「聖剣『斬鉄剣』。なんでもかんでも斬れる――――といいなぁと思って名付けた名前だ」
「願望かよ!?」
「うっせーな。お値段、税込み二万三千円くらいかかったんだぞ。これを買うくらいならスーパーの割引弁当買った方がマシだったわ」
「めちゃくちゃどうでもいいし、安いな!」
大体十万くらい懸かる代物かと思っていたが、安い業物だった。しかし安いとは言え、凶悪な武器には変わりない。一刀は氣を纏わせた木刀でその大剣と打ち合った。
「おー、スゲー。それっていくら懸かった?」
「二千円だ!」
そして大剣を叩き割ることに成功した。今のクラウは丸腰だが、彼の本来のスタイルは格闘だ。だからこそ、侮れない。
油断しなかった。
甘くは見てなかった。
しかし、関係なかった。
「ぐばッ」
さっきよりも早い拳が一刀の身体に突き刺さる。身体が破裂はしなかったが大ダメージを受けて、後方を少し飛んだ。
「いくぜ――――
「ッ!」
今までは本気ではなかったのか? あの拳は偽りだったのか?
驚愕を込めた目で彼を見ると、答えた。
「俺ってどうも本気を出すと身体がガタガタになるんだ。まあクローンだからそこらへんに不具合があったんだろ。本気を出せば俺の身体は壊れる」
クラウの身体がブレた。直後、一刀に何発もの打撃が襲いかかる。百、二百を軽々と越えていき、そして五百までいったところで一刀は後方にある壁へ叩きつけられた。
「が、ぶぅ…………」
レベルが違いすぎる。今ので一刀は死にかけてしまった。彼は血を吐き出しながらゴッドベイドーを使おうとしたがもう手が動きそうもない。
「やはり、本気を出せば終わってしまうか」
つまらなそうに呟いて一刀が目を瞑るところを確認して彼は彼は次の獲物を捜しに足を進めた。
「調子に…………乗るなッ!!」
クラウの後ろから突風が吹いた。なんと血で汚れた一刀が立っていた。その姿はまさに瀕死の男。されど油断できない鬼気迫る表情をしてるではないか。
「スゲーな…………まさかここ――――」
クラウが呟きかけたとき彼は蹴り飛ばされた。蹴り飛ばされたことに気づけなかった。
「お前は強い――――認めよう。ならば、この全身全霊をもってお前を殺す」
制服とシャツを破り捨て、その肉体を現した。一刀の肉体は傷だらけだった。
あらゆるところに斬り傷があり、何ヵ所に突かれた傷などの古傷あった。しかも彼の肉体はクラウに負けずに劣らずガッチリしていた。
そんな一刀にも変化があった。
紅い瞳に
「黒桜――――『無我』へ覚醒したことで白桜が黒く染まった憎悪の刀だ」
「むが?」
「刺激をトリガーにし、脳にあるリミッターを解放し、身体能力、氣、集中力、生命力を極限にした所謂覚醒状態だ。当然、ワシにかかる負担は大きいがな」
それまで橙色だった氣が黒くなっていた。一刀が送った刺激――――それは怒り、憎しみ。
――――なぜ自分は殺される?
――――なぜ仲間が殺される?
――――なぜだ、なぜだ?
そんな理不尽で生まれた怒りが彼を憎悪の化身へと染め上げる。かつて彼が呉の外史で孫策を失ったことで誕生した負の遺産だ。忌むべき力を使うことに彼は躊躇していたことは言うまでもない。
「覚悟しろ。ワシの超本気モードは貴様がくたばるまで止められぬ」
「ソイツはこえー…………ごふ」
吐血しながらクラウは苦笑していた。両者は動くことなく、その場を立つ石像になる。修羅と覇王――――二つの影はぶつかった。
クラウはまた大剣を召喚し、氣を纏わせた。一刀は黒桜に黒い氣の炎を纏わせて、大剣にぶつけた。
ズドンッと衝撃で壁に罅が入る。クラウは歯を食いしばりながら一刀に受けた斬撃による衝撃に耐えた。
(あ、ありえねー……なんつーパワー!!)
一度、距離をとろうして離れたが一刀は止まらず迫ってきた。クラウは一刀の攻撃を回避することに専念した。
今の一刀の斬撃速度は尋常ではなかった。余裕は与えない。気を抜けば黒い炎が自分を焼き斬る。
「■■ァァァァァ!!」
野獣のような雄叫びを上げながら一刀の超攻撃的姿勢は崩さなかった。自分の防御を一切を捨てた捨て身に近い斬撃だ。しかしクラウが防ぐにも力が強すぎて受け流すしかなかった。
クラウは思考する。
この化け物にどうすれば……どうすれば勝てる!
覇王と呼ばれた自分だが、この者は覇王を凌駕するナニカだ。負ければ死――――限りなく生き残れない。
「うォォォォォ!!」
「グルアァァァァァ!」
クラウと一刀は咆哮する。力と力のぶつかり合いはなく、攻撃に耐える者と攻めきる者に分かれた。そして、勝敗は身体で分かれた。
「かふッ…………」
どうやらクラウの身体は限界にきていたようだ。一刀は勝機とみて、大剣を焼き斬った。がら空きになったところで黒桜を叩き込もうとしたが、クラウの最後の悪あがきか、会心の一撃である拳が一刀の身体に突き刺さる。
「が、ふ……――――」
「はぁはぁ…………」
「――――けて、たまるかよォォォォォ!!」
『無我』はさっきの一撃で解除された。もはや脆い身体だ。だが、一刀は最後の最後まで足掻く。
なぜなら彼はかつて弱者だった。
彼は外史に舞い降りたときには最初から強かったわけではない。
力はなかった。
知識もなかった。
覚悟もなかったかもしれない。
だけど諦めることはしなかった。彼は強者であるという自惚れはない。
――――この
かつて共に歩んだ少女達に誓った想いが彼の原動力だった。
「うォォォォォ!」
命を燃やし、一刀は木刀に戻った黒桜を休むことなく、斬撃に使う。クラウが倒れるまで打撃を与え続ける。
血ヘドを吐こうが、疲労で目眩があろうが関係ない。ただ目の前の敵を倒すことしか考えられない。
そして――――
「これで、」
一刀はクラウに――――
「シメーだァァァァァ!!」
木刀を突いた! クラウがぶっ飛んでいったことを確認してから一刀は倒れた。
「ハ、ハァ……はぁ……」
疲れた。もう動けない。一刀は大の字になって天井を見つめる。ふと、幻覚かわからないが一刀の愛しい人が見えてきた。
「どうだ……華琳。覇王に勝ったぞ……?」
『やるじゃない』
そう彼女が呟いたような気がした。
☆☆☆
クラウはぼんやりと自身の敗北を思っていた。
一刀は強かった。とても強かった。魂は誰よりも輝いていた。
だからこそ、この敗北に悔やむことはなかった。身体はボロボロのズタズタだ。疲労で立てない身体に小さな身体が近づいてきた。
オッドアイでヴィヴィオに似たポニーテールの少女だ。
「負けたんだ」
「情けないことにな……」
「その割りには嬉しいそうじゃない」
当たり前だ。自分の心は晴れやかだ。これまで自分はこの小さな少女の前世のために戦い、負けることなく無敗を築き上げた。全ては彼女のために、彼女が誰よりも強かったと伝わるために――――しかしそれは彼にとって呪いだったのかもしれない。
無敗こそが彼にとって重圧であり、枷だった。この世に敗北無き人間はいない。
いたとしてもいつかは負ける。それは真理だ。
「やっと解放されたんだ……って」
「そう……じゃあ、あなたはただの
「そうだな…………」
二人はもう聖王でも覇王でもただの少女と青年だと思えた。するとクラウはもう大丈夫なのか、よっこらせと立ち上がり彼女に聞く。
「これからどうする?」
「旅、なんてどうかしら?」
いいねと答えて彼は彼女の手を握って歩き始める。かつての因縁は終わり、そしてこれからは新たな人生が始まるのだった。
「おまわりさーん! ここにロリコンがー!!」
「「……………………オイ」」
「すまん……エールを止めきれなかったロリコンと幼女」
「「馬鹿にしてるのか!?」」
ハートフルで終わると思った? 残念。エールが台無しにするのだった。
やはりシリアスでは終わらない。なぜならそこにエールがいるから!
次回、アオと四季
――――切り裂き魔は笑う。そこにおもちゃがあればなおさらね