「エールは今日も笑う。混沌に満足したのか、狂人を見て満足したのか…………」
by五■雷斗――だった――者…………ザザ
師匠が殺された。また目の前で…………そしてオレは致命傷。
ホント、何をしていたんだ……オレは。
おそらくもうどうしようもない。こんな絶望的な状況なら誰だって折れる。
「う、がァァァァァ!」
だからどうした?
まだ立てる。
まだ動ける。
まだ戦える。
オレが負けるとしたらそれは絶望したとき、思考を止めたとき――――全てを諦めたときだ。折れてたまるか。絶望なんかしてやらない。
なんのため、オレはここにいる?
――――グリード達をぶちのめすためだろ!
歯を食いしばりながらも立つとグリードが馬鹿にした口調になった。
「オイオイ、まだやるちゅもりでちゅかー? ソラくぅん」
「黙れ……お前の雑音には聞き飽きた!」
迫る砲撃をオレは神器でキャンセル。しかし今度は青髪の姉の拳がきた。
「ッ!?」
「ハイハイー、こっから先は消えてろ凡人」
四季の錬成――――鉄の縄で姉は身動き取れなくなった。そして四季はオレを治療するために錬成で作った部屋で高町やまどか達を閉じ込めた。
「数秒しかもたないんじゃ……」
「安心しろ。雷斗の保険が発動してる」
師匠が投げて刺さっていたクナイから召喚陣が出現した。師匠が時間差にセットした召喚術だ。そこから何者かが現れた。
問題児そうな灰色の青年、同じ顔だが黒髪の青年。
これまた問題児そうな黒髪女性と同じ顔だが白髪で後ろ髪をまとめた女性、大人しそうな白い髪で金色の瞳な少女――――いや男だなこれは。紛らわしい。そして白い髪の男の娘と同じ顔だが黒髪で尻尾と耳がある少女。
なんか知らないけどすごくチート臭とイケメン美少女達が現れた。
「あれ? なんで私達がここにいるの? 瑠璃お姉ちゃん」
「さあ? 何かに呼ばれたような……」
なんか猫耳が生えた問題児の耀っぽい女の子と安心院さんっぽい女性が会話してる。てか、誰だよこいつら。師匠の知り合いか?
「どうでもいい。そんなことよりアイツらの名前は上から彰、修斗、梨華、瑠璃、雪男、雪菜という名前の妖怪共だ。――――解剖したいな」
「オイ、なに患者を見捨てて研究者の瞳をしてる!?」
「黙れ。俺のこの情熱は止められない。もうどうにも止められない!」
「いや止まってお願い! オレがヤバいから! ここで負けたらなんかバッドエンドな予感がするから!」
メタい? 知るか。オレは何も失いたくないんだよ、もう。あんな悲しい幻覚が現実で起きてたまるかよ!
「まどかちゃんビーム!!」
「なのなの光線!」
変な名前が付いた砲撃と魔力矢で部屋をぶち壊しやがった!
てか、ノリノリだなオイ。こいつら実は操られてないんじゃ…………。
「ソラくん、死んで!」
はい、そんな都合よくありませんでしたー!
大量の魔力矢がこっちにきた。すると四季は錬成した鉄の蛇でナニカを捕獲して盾にした。
「修斗くんバリアー!!」
「いぎゃァァァァァ!?」
なんか知らないけど肉の壁がオレを守ってくれた。ありがとうポンコツ。お前のことは三秒くらい忘れない。
「オイこら! なに人を使い捨て装甲盤な扱いしてるんだよ!」
「「チッ、生きてたか」」
「お前らの味方だぞ俺!?」
知らんがな。てか、お前の兄弟姉妹が戦ってますがな。
梨華という女性にほむらに似た何かを感じたのは気のせいだと思いたい。高笑いしながらティアナをいじめているのは気のせいだと思いたい。
そして瑠璃という少女。ツインテの中の人のように「お持ちかえりィィィィィ!」とまどかを追いかけているではあーりませんか。
まどかもさすがに得たいの知れない人に追われるので涙目だ。未知に対する恐怖は誰だってありますからねー。
「さあ、とっと働け犬。さもなければ女は恥ずかしい言葉を言わせる刑。男はホルマリン漬けだ」
「なにその男女差別!? 労働に意義を申し立てる! てか誰が犬だよ!」
「なんだ不満か? なら女は解剖。男は死ね」
「もっとひどくなった! ちくしょう、覚えてろ!」
四季さんマジ鬼畜。
てか、ホントにアイツらチートだよ。
なんか放った魔力矢を操作するわ、言霊で動きを止めるわ、光という名目で砲撃魔法を操作するわ、影を操作するわ――――なんだこのワンサイドゲーム。ワンターンから神のカードで追い詰められる某デュエルキングを連想した。社長も涙目だぞこれは。
つまらんくらいグリードだけを残してあっさりに終わった…………。
「さて、後はおま――――あれ?」
突如、彰達の地面が光る。あー、やっぱり抑止の存在か黙ってなかった。
彰達の力は反則だ。タブーだ。本来なら殺されてるはずだが、この世界の住人ではないため弾き出される程度で済むようだ。
「あ、まどかちゃんと写真を!」
なんか瑠璃がカメラを構えたが、結局消えた。
グリードを残しての退場したため、なんというか主人公無き物語という虚しさがあった。
「あ。修斗と雪男、彰にお前らのサンプル寄越せって脅しておけばよかった」
「いやなに造る気?」
「修斗の顔をした人面キメラ」
「キモいぞそれ」
グダグダになってしまった空気に、その時、変化は起きたことをオレはまだ知らなかった。
(??サイド)
グリードは苛立っていた。勝利を目前としていたが、なのは達は目をグルグルにして失神しており、使い物にはならなかった。そしてソラも完全復活した。
「覚悟しろクソヤロー」
「散々痛い目にあったんだ。テメーの身体で払ってもらうぜ?」
ソラと四季は手を鳴らし、臨戦体勢に入っていた。上等。お前らの力を奪ってやる。
グリードは足に力を入れた。
ズブッ、ズブズブ…………。
「な、なんだこれは!?」
グリードの足場は底無し沼のようにズブズブと沈み始めた。ソラと四季も予想外な現象に目を見張る。そして彼の身体も完全に飲み込まれたとき、女性的笑い声がした。
『クスクス……さあ、おはようの時間だよ?』
その声はソラ達がよく知る声だった。
☆☆☆
グリードは沼が部屋となったかのような空間にいた。そこには何もいない。泥々とした壁と地面しかない世界。
どうやってここから出ようと考えていると人影に気づいた。
「五木雷斗……!」
確かに殺したはず。しかし生きているとは思わなかったが、どうでもいい。今はこれを作り出したコイツにここがどこか聞くべきだとグリードは彼の肩を掴む。
「ここはどこだ! なぜテメーがッ」
「…………ましい」
「あん?」
「妬ましいィィィィィ……」
グリードは身を引いた。恐怖のあまり、不気味なあまりに身を引いた。
目の前にいる雷斗は果たして本物なのだろうか。
いやそもそもここはヤツが造り出した空間なのだろうか。
そんな考えを露知らずに雷斗は言葉を続ける。
「――――どうしてお前はみんなに愛される…………。
――――どうして俺はみんなから愛されない…………。
――――どうしてお前は俺より強くなったんだ…………。
――――どうして俺はお前より弱いんだ…………。
わからない……わからない……――――彼女にあって、俺にはないモノが――――ワカラナイ…………ワカラナイケド――――ネタマシイィ……」
言い終えると雷斗はアイスのように溶けて地面の一部となった。もはやあの雷斗は人間ではないとグリードは確信した。壊れたナニカだ。
『クスクス……ようこそグリード。雷斗の心象風景へ』
アナウンスが流れるようにエールの声がし、地面からエールが微笑みながら現れた。
「テメーの仕業か! なぜだ。なぜオレのモノになったはずのお前が」
「あら、私はあなたのモノじゃないよん。私の心と身体と魂は雷斗のモノ――――あなたごときの邪悪な存在に屈するはずがないじゃん♪」
「ッ!」
普段のグリードなら激昂してエールを殺していたところだが、彼女は『生命』の概念をねじ曲げた化け物で死なない。いやそれだけでなく、今のエールは怒りや憎しみという燃えるような感情がない。
彼女はただ
まるでこれから子どもが生まれるような母性溢れる慈しみある微笑みだった。
「感謝するよ。君のおかげで雷斗は昔のライトを越えた。雷斗を殺してくれて万々歳さ」
「ヤツは死んだはずじゃ!」
「残念無念の助~。彼は既に人間じゃないもん。私が彼の『生命の概念』をねじ曲げたからね」
つまり雷斗は不死身だ。もう永遠に死なない生物――――いや死者なのだ。死なない者――――『
「だから肉塊になろうが、ズダズタになろうが雷斗は死なないから元に戻る――――君がどんなにがんばっても殺せないよん♪」
まあ概念殺しならばエールと雷斗は殺せるというルールがある。そのルールがあるため『抑止の存在』は手を出せない。
「なら何度でも殺してやる。どこだ! どこに『閃光』が!」
「ブッブー。残念ながらもう君には雷斗は殺せないよ。――――いや、もう傷も負わない」
グリードの前に雷斗は現れた。『閃光の衣』はない雷斗だったがその変わりに右手には拳銃があった。グロックの改造銃が存在していた。
「なんだ……ありゃ」
「『断罪者の裁き』――――私の力で進化させた神器だよん♪」
馬鹿なとグリードは呟いた。
神器は進化しない。
神器は変化しない。
一度、姿を現したならそのままなのだ。なのに、彼女は雷斗の神器を神器させた。いやそれを可能にした。
彼女の神器『道化師の心』が雷斗の神器の理を台無しにしたのだ。
例えるなら、とあるサッカー選手のみ『ハンド』というルールがなくなり、手を使えるという反則ができる。
そんなチートが彼の神器に起きたのだ。
「なら、その神器を奪ってやる!」
グリードは足にブーストをかけて雷斗の神器を握る。これでこの神器は自分のモノだ。
神器を取り上げようとしたが――――全く雷斗の手から離れない。
「無駄だよ、無意味だよ。その神器を使えるのは雷斗しか認めない。認めないから奪えない。奪えないなら君は勝てない」
「なら、無理矢理認めさせてやる!」
グリードは神器の出力をあげた。そして――――グリードの両手は――――弾けとんだ。
「ぎァァァァァ!?」
「あちゃー、無理矢理だったから『断罪者の裁き』が怒ったみたい。ま、元から怒ってたけど」
エールは雷斗の神器に感情があるような言い方をしていた。グリードは馬鹿なとばかりに雷斗の神器を見る。
カタカタと雷斗の神器は震え、シルバーの拳銃は美しい銀色が肉体を熱したかのような赤になっていた。
「感情がある、だと? 馬鹿な神器には感情はない! ただの魂の武器だろ!?」
「一般的にはそうだねー。でもそうでもない事例はあるよ。ソラの『全てを開く者』――――あれは本来、継承はできない神器なんだよ。だけど、鹿目まどかには
「馬鹿な…………いや、なんでテメーがそんなことを知っている!」
「うーん、だって私。鹿目まどかと暁美ほむらの戦いを見ていたもん」
思い出すのはまどかがほむらと戦っていた姿。彼女達はお互い泣いていた。
片や大切な友達を失ったことに、片や大切な相棒を失ったことに対して。
エールはその姿を見て笑っていた。あまりに子どものようなお粗末な喧嘩のようただったため、ギャップの違いに笑えたからだ。ホントに自分が狂っていることを認識せざる得ない。
「まあ私は元から狂っているし、ね……」
彼女は自嘲するかのようにクスリと笑う。そして、踵を返してグリードに背中を向けた。
「どこに、い……く?」
グリードはドチャリと倒れた。理由は簡単。雷斗が拳銃で彼の足を消し飛ばしたのだ。
「あ、がァァァァァ!?」
「うるさい」
「ガフッ!」
雷斗はグリードの腹部を踏みつけた。その拍子に彼の内蔵は破壊された。
「あ。そういえば思い出した」
雷斗はグリードに向けてシルバーの拳銃を構える。まるでその姿は断罪人。
裁きを与える化け物の説明をするかのようにエールは続けて言った。
「雷斗って拷問が得意なんだよ?」
言い終えたときが開始の合図だった。グリードに無数の銃弾が撃ち込まれた。
しかもただの銃弾ではなく概念殺しを持つ凶悪な鉛弾だ。
グリードの断末魔というBGMが流れ、肉が弾け飛ぶ。そして彼は簡単には死なない拷問が待っていた。
――――グリードの身体の機能は殺された
――――グリードの心は殺された
――――グリードの精神は殺された
――――グ■ー■の名前が殺された
――――■■■■の人格が殺された
――――■■■■の魂も…………殺された
もはや雷斗に映るモノは肉塊ではなく、泥だった。
もはや人の形をしていない人間の尊厳すらない死がそこにはあった。
雷斗は踵を返してその場を離れる。
「にゅふふふ、いやーよかったよ! 彼のスクリーム。最高のBGMだった♪」
彼女は微笑みながら雷斗に近づいた。すると彼は彼女を押し倒す。
「ありま? 次のターゲットは私?」
「…………エー、ル」
「んー?」
彼女の顔に水が落ちてきた。それは雷斗が流していた涙だ。
「俺はお前の隣にいていいのかな?」
「……………………」
「俺は生きていていいのかな?」
「……………………」
「俺は…………ムグッ」
雷斗の口を封じるかのようにエールは彼の頭を固定して情熱的な口づけをした。息が苦しくなって彼女から離れると彼女は妖艶な笑みを浮かべていた。
「大丈夫。私はあなたのモノ――――そしてあなたは私の大事な大事な
雷斗は悲しかった。
雷斗は悔しかった。
雷斗は妬ましかった。
全てにおいてエールは自分より優れていた。誰からにも愛されていた普通の女の子だった。しかし、それを台無しにしたのは自分だ。自分を狙う悪漢達に汚されて狂ってしまった。
エールはそう言ってまた熱い口づけを開始した。そこから先はご想像にお任せしよう。しばらくの間、彼と彼女はお互い求め合っていたことを追記しておく。
「というわけでもっといじめて! ハァハァ…………」
「わけがわからないよ」
「あっれー? ここどこー?」
「そしてなぜ修斗だけここにいんの!?」
それが弄られ役クオリティ。本日のオチはこれである。以上!
ルミナスさん、ありがとうございました。
というか五人のキャラを扱うのは難しくてあまり上手く描写できなかったかと思います。
梨華のドSやら、感情のない発言上等な雪菜やら、男の娘な雪男くん、天然な彰くん――――って弄られキャラじゃないじゃんこの四人!
なので修斗くんを主に出してしまいました。…………弄られキャラですからねー(棒読み)
さて雷斗くんは普通の人間じゃないとエールが言ってましたが、人としての機能はしっかりあります。ただ、死ねない身体と魂になっただけで別に怪物になったわけではありません。
彼を殺せるとしたら概念殺しで不死を殺すしかありません。
次回――――
ソラ、再び見滝原?
一刀決着つける
クラウ、ラブシーンを台無しされる
――――の三本です。ちなみにこの三本で一話ですから、まあ普段通りです。
――――彼は弱者。だから諦めない