とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「ねえ、僕は逃げてたのかな?」

by心優しき少年――――今は邪神様


第百二十六話

(キリトサイド)

 

 

 

どうもキリトです。今、自分は逃げたいです。はい。

なんせ敵は一刀さんや雷斗などの化け物クラスが挑む化け物です。

てか、勝てる気がしないしアスナはなんか俺を見て興奮してるし、どうしようもない。

 

ヤベー、超逃げてー…………。

 

「よもやお前のような弱者がここに来るとはな」

「いや来たくて来たわけじゃないし。グリードのおたんこなすに落とされてここにいるんだけど」

「まあいい。やることは一つ。さあ始めようか」

「話聞いてた? てか、やる気満々だよこの人!」

 

ハァ…………どうしよ。やる気出ない。いや、やる気出ても勝てる気しない。

まあ仕方ない。理不尽なのが現実だ。

 

一応、神器を召喚することにしたけどアスナさんがどっからかカメラ取り出して富竹フラッシュしている。

この子なにしに来たの?

 

「キリトくんの真面目な顔に興奮した。ねぇ、食べていい?」

「思考が段々と千香に似てきてない?」

「似てきたら縄でお仕置きして! ハァハァ…………」

「もうやだこの人」

 

いつからだ。いつから俺と彼女はこうなった……。あの日、俺が彼女を引き止めておけばこんな未来には……。

 

「どうでもいいが、なぜに『昼ドラ的なすれ違いの演出』をしている?」

「この方が読者的に盛り上がるだろ」

「お前はソラの思考に感化されてね?」

 

ラースめ、なんて失礼な。ソラに感化されてるなんて信じられぬ。せめて、ダンディなおじさまに感化されたい。

 

「まあいいや。どのみち逃げられないし、逃げたところでみんなに迷惑かけるだけだし」

「お前がこの俺様と戦う? クハ、笑わせてくれるッ」

「まあお笑い話だろーな。でも一つ言っておくよ」

「なんだ?」

「俺って運がいい(・・・・)んだよ」

 

こうしてアスナと共に敵の最高戦力とぶつかる。やり直し無しの無茶苦茶で理不尽。

そんな戦いが始まる。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「ステージを用意してやる」と言ってラースは指を鳴らした。するとビルが並び立つミッドの都市となった。おそらく六課の訓練室と同じシステムだ。石ころを手に取ると実際のモノがその証拠だ。

 

「アスナ、気を付けろ。これは実物と変わらない映像みたいだぞ」

「そうね。それよりもキリトくん」

「なんだ?」

「いつものように、ってことでいいの?」

 

アスナは不安そうな顔で俺を見ていた。

いつもの――――ということは俺一人が前衛で、後衛にアスナがサポートするという戦術だ。アスナは前衛でも戦える。それは悪くないが、今回はやめておいた方がよさそうだ。

相手は僅かな隙も、甘えも、見せない最強に近い存在だと俺は思ってる。

 

「アスナ、俺が信じられないのか?」

「ううん! でもッ」

「大丈夫。俺は負けない」

 

そう断言した。アスナは「わかったわ」と言って後ろへ下がる。俺は『エリッシュデータ』のみを鞘に納め、『ダークパルサー』のみ構える。

 

「貴様……二刀流を構えないのはナメてるのか?」

「お前には二刀流はまだ早い」

「…………殺すッ」

 

挑発するつもりはなかったのだ挑発と受け取ったラースは両手から赤い光のセイバーを伸ばし、俺に斬りかかる。俺は一太刀目をかわし、二太刀目を回避するため『ダークパルサー』で受け流した。ラース攻撃を防いだとき、俺は反撃にラースに向けて横一閃。

ラースは上へ跳んで回避されたが、ヤツの服に傷をつけることができた。

 

「ナメるなよ、小僧ォォォォォ!!」

 

激昂したラースがセイバーを消して、上へ手を掲げる。するとビルがもち上がっ……た…………?

 

「ってなんだその規格外!?」

「くたばれェェェェェ!」

 

ビル達が俺を潰そうと一斉に迫ってきた。これは回避できない!

俺は『ダークパルサー』を鞘に納め『エリッシュデータ』を抜き、一つ目のビルを斬り、内部から突き抜けるような形でビルに潰されるようなことを回避。

 

ラースも俺がビルから飛び出たことに目を丸くするが、その隙を狙ってアスナが拘束した。

 

「つーかまえた」

「ッ!」

 

アスナの言葉でやっと正気に戻ったみたいだが、もう遅い。『エリッシュデータ』でラースの身体を肩から斬ろうとした。

しかし、俺の斬撃がピタッと止まる。すごい力で止められた。

 

「ナメ、るなァァァァァ!」

 

ラースの身体から吹き出すかのように、その力は俺を吹き飛ばす。万有引力が働いたかのような力だ。

 

「らァァァァァ!」

「ちょっ、それはまずいって……!」

 

なんとラースは何百本のセイバーを造りだし、それを一斉放射した。王の財宝ですかコノヤロー。

しかしそれは運よく一緒に吹き飛んだビルの大きな破片があったため、それを足場にしてなんとか下へ回避した。

ちなみにセイバー達は大きなビルに直撃して蜂の巣にしやがった。当たってたら俺もああなってたのかな?

 

「あー、クソ…………どうしようか。勝てるビジョンが中々浮かばねー……」

 

そもそも敵の最強クラスに挑むこと事態が馬鹿馬鹿しい。勝てるはずのない戦いに挑むのは愚かとしか言いようがない。けどな…………。

 

「負けてやらねぇけどな」

 

俺は『エリッシュデータ』を鞘に納め、『ダークパルサー』を抜いた。

 

「だからどうしたァァァァァ!」

「こうした」

 

刹那、突っ込んできたラースの背後をとった。俺は袈裟斬りでラースの身体に傷を与えたが、浅い。致命傷にはならなかった。

 

「ば、馬鹿な! なぜ俺様より!?」

「『ダークパルサー』って時間が経てば経つほど、俺のスピードが早くなるんだよ」

 

つまり俺はスロースターターなのだ。俺は長時間になればなるほど戦いが強くなる。

 

俺とソラの神器はホントに真逆なデメリットだなとつくづく思うよ。だって俺は短時間では負けてしまうが、ソラは長時間で負けてしまう。例えるなら長距離が得意で短距離苦手な陸上選手だ。

 

「そして――――『エリッシュデータ』もな!」

 

『エリッシュデータ』は力を倍加させる。それを抜き取り、二刀流の構えをとる。落下した俺はビルを蹴り、再びラースに接近した。

 

「させるかァァァァァ!」

 

再び吹き飛ばすなんらかの力がきた。当然、空中では何も踏ん張れる力がないので飛ばされてしまう。

ああ、くそ。もう少しだったのに。

 

「俺様は負けぬ。負けてはならない! そうしなければアイツが……アイツが報われない!」

 

そういえばラースって幼馴染みを平行世界のリリなのの住人に殺されたんだっけ?

なんでも織莉子さん曰く、闇の書事件で幼馴染みを人質にされた挙げ句、罪をなすりつけられて殺された。それが原因で――――いや何者かによって今のような邪神化したというわけだ。

 

「世界は残酷すぎる! だから俺様は世界に復讐する! あらゆる存在に復讐する! アイツのために絶対にィィィィィ!!」

 

大切な者を世界に、その住人に奪われた悲しき少年の末路がラースだ。だからこそ、俺はこう言う。

 

「馬鹿馬鹿しいな」

 

俺の言葉が理解できないのかラースの表情が止まる。

 

「だってそうだろ? 要はお前の自己満足だろ。しかも思いきり現実逃避。カッコ悪いよお前は」

「なんだと!」

「事実だろ。お前は認めなくないから今から逃げてる。それに現実が残酷で最低最悪なのは当たり前さ」

 

だけど――――

 

だからこそ生きていく。

だからこそ、胸を張って前を見る、未来を見る。

 

理由は何かがわからないが例え辛くても、苦しくても、悲しいことばかりでも俺達は前へ向いて歩いていかなければならない。それが人生だ。

 

「お前に、お前に何がわかる! 俺様の絶望にお前に何がわかるゥゥゥゥゥ!」

 

ラースは叫びながら突っ込んできた。お前のことなんか知らねーよ。知り合いじゃねーから。正直、どうでもいい。

 

だけど、お前のことは知らなくても現実は知ってる。

 

例えばアスナ。彼女の変わらないところはあるが、変態化である意味ダメージ受けたという悲しい現実がある。

例えばシリカ。彼女って意外に昼ドラ展開が好きな恐ろしい子だった。まどかさんの影響を怨んだのはホントである。

 

うん――――徐々に俺の知り合いはソラの変態達に感化されてるね!! もう駄目だこりゃ!

 

でも、そんなある意味辛い現実を目の当たりにしても俺は受け入れて生きていくつもりだ。それに悪くないと思ってるからな。

 

だから、お前は俺達の『敵』だ。

それを壊そうとするなら、

 

 

「まず、その馬鹿な考えをぶちのめす」

「やれるモノならやってみろ!」

 

そこから始まったのは剣劇。袈裟、切り返し、受け流し、そして殴打。野獣同士の食らい合いのような激闘だ。

 

右頬を殴られた――――殴り返す。

腹を軽く斬られた――――なら、ヤツの肩を貫く。

 

身体を回転しながら二刀流と二刀流はぶつかる。鳳仙花の火花は散り、ラースの左から出された斬撃を受け流して上へ逸らす。今度は二刀目が右から出されたが、それを跳躍して回避。

それから上空へのセイバーの投擲を回転しながら弾いて再び距離が開いた。

 

速度と力は五分五分。勝負の分かれ目は手数の多さによって決まる。

 

「えい」

「んな!?」

 

俺は『エリッシュデータ』を投擲。そして今度は『ダークパルサー』を投げてやった。ナイフを投げるようにはいかないが回転した二刀はラースのセイバーで弾かれた。

 

まあやっぱり防がれたが――――俺はそれを待っていた。

 

一瞬開いた隙を狙って縮地を使い、掌打を打ち込む。少し怯ませることができて腕をクロスさせた抜刀術を構える。

 

「なにカッコ――――ッ!」

 

やっと気づいたか。そう神器はいつでも自分の手元に召喚できる。かつてソラもそうやって油断を誘い込んでいた。何度も引っ掛かったさ。

なんせ一度丸腰になるし、そして予想外の投擲での防御体勢なるとすぐに攻撃には移れない。

 

「くらえ『スターバースト』――――いや!」

 

十五から二十七の連撃斬りへ!

俺は自身の最高の技を開始した。

 

「『ジ・イグリプストォォォォォ』!!」

 

斬撃は止めるな。

隙を見せるな。

油断はしない。

 

ただひたすら斬り続ける!

その想いをもって俺はひたすらラースを斬り続けた。

 

セイバーで防ごうとした――――しかしパワーで砕いた。

手で受け流そうとした――――しかしスピードで手を切断した。

逃げようとした――――しかしそれは手数で逃避することも与えなかった。

 

「うォォォォォあァァァァァ!!」

 

とどめに神器を消して、拳を握る。そして――――顔面に強烈なストレートを与えてぶっ飛ばした。

 

「ハァハァ…………あー、しんど……」

 

二十七連撃は疲れる。あと長時間戦い続けるのは辛い。集中力的な意味で。

 

「ち、くしょ…………この、おれ、さまがぁ……」

 

虫の息のラースに近づいて俺はヤツを見下ろす。

 

「…………おれ、さまは……にげてたのかな…………」

「ああ。…………たぶん俺もアスナを失ってたらお前みたいになってたかもな」

「なら…………」

「かと言ってそれはもしの話だ。失ったからと言って俺は世界を壊すなんて八つ当たりはしない。せいぜいその原因を作ったヤツをぶっ飛ばすだけさ」

「…………八つ当たり、か。……はは、そうだ――――」

 

 

――――()は単に気に入らなかったんだ……彼女がいないこの世界が…………

 

 

それを最後にラースは息を引き取った。最強だった男はここで倒れたのだ。

 

「ホンット……運がいいな(・・・・・)

 

皮肉なことに俺はヤツのように失っていない。まあこれからも失うつもりはないけど。

 

そんなことを考えながらアスナの抱擁を受けるのだった。

 

 

 

 

(??サイド)

 

 

 

 

キリトとアスナがいなくなった後、ソイツはいた。そして安らかに死んだラースを――――踏みつける。

 

「ガハハハ! 邪魔なヤツがいなくらなったぜ!」

 

グリードは死者を冒涜するかのようにラースの神器を奪った。そして彼の背後にはなのは、スバル、ギンガ、千香、エールがいた。

 

「さあ――――次は『無血の死神』だ!」

 

彼は邪悪だ――――だが『最凶』には勝てない。それは覚えてくださいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のはフラグです。ちなみに感想欄の要望に答えて、ifルートにグリード勝利――――という名前のソラのバッドエンドを用意しちゃいました。
なおただのifではございません。本編に繋がるストーリーです。

絶望した存在――――それがソラの最後の敵になるかと思われます。

次回、最悪

――――またオレ…………失うのか?

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