とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「私がほしかったモノ――――それは…………」

byシロ


第百二十五話

(??サイド)

 

 

ギンガとレインコートを着た男は同伴していた。どうやら行動を共にしているようだ。何度もギンガは声をかけているが、どうやら彼は寡黙だ。一向に答えない。

 

「ねぇ、そのコート脱がないの?」

「……………………」

(はぁ…………なんか不気味ね。いったい何者なのかしら)

 

とは言うものの四季やアオのようなイロモノなのだろう。

なんせ、シイが喚んだ相手は大抵おかしい。キリト以外がぶっ飛んでいる。初対面のときからどこにいった常識という感想があった。

 

きっとこの人もそうだろうと思っていると、ギンガが目の前にいる少女を見て拳を握る。

 

「なんだ。こんなザコが相手か」

「ザコですって……!」

 

こいつのせいで二人は死んだ。許せない。頭に血が上ったギンガは渾身の右ストレートを放つ。彼女は避けるどころか動かない。羽虫に対して興味がないような目をしていた。

 

「甘い」

「きゃッ」

 

ベシンと尻尾らしきモノが叩きつけられてギンガは吹き飛んだ。尻餅をついたギンガの目に移ったのは芋虫の形をした化け物だった。

そいつには目も鼻はなく、口だけしかない不気味な生き物だ。それに口の歯はまるでギロチンのように鋭い。

 

「あ……あぁ……」

 

ギンガにとってそれは未知のモノだ。故に恐怖する。あれは二人の人間を殺した生き物だと。

 

「じゃあ、あなたも死にな」

「ッ!」

 

その言葉に反応してギンガは立とうしたが、なぜか身体が重くて立ち上がれない。

 

「いい忘れてたけど、私って食したモノの力を取り入れる――――それが私の神器『暴食』。あなたも肥料になりなさい」

 

もはや逃げられない死が迫っていた。するとレインコートを着た男はギンガの前に立つ。

駄目だ。彼も食べられてしまう。ギンガは彼に逃げるように言おうとした――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

――――が、芋虫を止めた。恐るべき筋力と言うべきか身体が動くことなく受け止めた。

シロはそれを見て驚いているようだが、彼は芋虫を放り捨てた。

 

ズドンッと地面に叩きつけられるとシロは苦悶の表情を浮かべる。どうやら芋虫とリンクしているようだ。

 

「ふぅ……」

「あなたはいったい…………」

 

ギンガの問いに答えるかのように男はレインコートを脱いだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にょ!」

 

その男――――いや漢女は魔法少女服を着た変態だった。

 

「ってホント誰ェェェェェ!?」

「ミルたんだにょ」

「いや知らないですから! てか、一誠さんじゃなかったのですか!? どうやってその巨体をコンパクトにできたのですか!」

「そんなことより悪を倒すにょ」

「正論なのが腹立つ!」

 

まさしくその通りだがどうやら敵は待ってくれそうになかった。ギロリと睨み付けるがミルたんはやれやれと首を振る。

 

「……なによ」

「今の君にイッセーくんには勝てないにょ」

「いっせー? はん、あの噛ませ犬じゃない。どうしてがあのクソトカゲより弱いのよ」

「噛ませ犬? 君は彼を甘く見ない方がいいにょ」

 

ゾクリッとミルたんから威圧感を感じた。いや顔もそうだし、服装が服装なのでシュールな光景なのだが気にしないでほしい。

 

「彼は本気になると強いにょ。ギア2(ドーピング)だけが彼の戦法じゃないにょ」

 

それを証明してあげるにょ、とミルたんは拳で次元の穴を開けた。普通は拳で、次元の穴は開かないモノだがもはや存在そのものが規格外なので誰もツッコまない。

そして穴から現れたのは正真正銘のイッセーだった。その隣には茶髪のポニーテールの少女が彼の腕に抱きついていた。

 

「アニキぃ~、スリスリ♪」

「いい加減に離れろ――――ってヤベ。来ちゃったじゃねかーか! どうしようミルたん。汐里まで巻き込んでしまった!」

「気にしないにょ。きっと大丈夫だにょ」

「なるほど!」

『何が、なるほどなんだ…………』

 

汐里の左籠手の宝玉が点滅しながら言葉を出していた。ギンガとしてはいろいろツッコミみたいがもう疲れたのか、黄昏ていた。

 

「女を侍らせて何が強いのよ!」

「んあ? 誰だあの白いの」

「さあ? それよりあの青髪ちゃんのオッパイいいね! 後で揉んでいいか?」

「百合百合しいからやめろ。てか、オメーより小さいのを揉みたいってどういうこと?」

「アタイがおっぱい星人だからだ!」

「いや確かに文字通りそうだが」

 

ドンと胸を張る茉理だがその拍子にプルンと揺れる大きな山があった。一誠はどちらかと言えば食欲に目にいく男なのであまり気にしていないが、一般男性にとってはかなりの毒である。女性にとっては抹殺対象だが。

 

「コンチクショー!! それは私に対しての挑戦かァァァァァ!」

 

平原な彼女にとってまさに嫉妬の対象である。八つ当たりに芋虫を突撃させるシロ。すると汐里は赤い鎧になり、その芋虫を蹴り込む。

 

《Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost !!》

「おるらァァァァァ!!」

 

あっさりだった。あっさりと芋虫は蹴り飛ばされた。倍加の能力を持つ神器(セイクリッド・ギア)でパワー勝負では汐里に軍配が上がった。

 

「くそッ」

「へへーん♪ どんなもんだい!」

「イイ気になるなよ!」

 

汐里とシロがぶつかりそうになったがそこで止めるのは一誠だった。

 

「ちょっと待て。汐里、こいつは俺が相手する」

「だけどアニキ。コイツはアタイに」

「売られた喧嘩を買う。それは戦う者として良いことだが――――俺は俺の同胞を侮辱したこいつを許せねーわ」

 

シロは思わず身を引いた。ヤバい。あれは、あれは『無血の死神』と同じだ。命を賭けなければならない強さだ。

 

一誠は骨を鳴らして深呼吸。すると彼の身体から何やら霧みたいなモノが出てきた。

 

ギア(セカンド)

違う。あれは湯気だがこれは魔力に似た力だ。

 

その力に呼応するかのように一誠の身体に変化が生まれた。

 

――――頭に龍の角が生え

――――龍の翼が生え

――――手足に鋭利な爪が生えてきた

 

まさしく人のような龍となった。そして力も増大していた。

 

「戦法ならぬ仙法。とくとご覧あれ」

 

シロの視界から一誠の姿が消えた。直後、芋虫の身体に浸透する拳が直撃した。

 

「ぐ、が…………!?」

 

ダンプカーに突っ込まれたような強烈な一撃に口から数滴の血を吹き出すが、堪えたシロは重力操作で一誠の動きを止めようとした。しかし今の彼は人類を超越した存在である。

 

「ッ、早い!」

 

目にも止まらぬ早さに翻弄される。しかも、捉えるにはかなり難しい。トップスピードでは消えるような早さだが、移動しているときは目には止まらない早さだ。

だが、目に見えない早さではないため不安ではない。

 

一誠がシロの前に現れたとき、シロはニヤリと笑う。

 

「くらえ!」

「ッお!?」

 

シロの身体から芋虫がガバァと口を開けて現れた。一誠に攻撃していたヤツは既にいなかった。

どうやら一度引っ込め、再び出したようだ。一誠は芋虫に丸飲みされてしまう。

 

「一誠さァァァァァん!!」

「あ。アニキが食われた。大丈夫かな。口臭のニオイついてなきゃいいけど」

「いやなにのんきにどうでもいいこと気にしてるのですか!? 一誠さん食べられちゃったのですよ!」

「んー、いやアニキがかじられて食われたのなら心配するけど――――」

 

 

グチャンッ!! ズドォンッ!

 

 

「――――飲まれたならぶち抜けばいい話じゃん」

 

汐里の言う通り一誠は芋虫のお腹からぶち抜いて復活。シロは吐血した瞬間、一誠は彼女の襟首を掴み空中へ投げ捨てる。

 

「一撃必殺――――奥義…………」

 

一誠の右手に氣が集中し始める。そしてシロの身体を撃ち抜かんばかりの拳が放たれた。

 

「『龍の怒り(ギガ・インパクト)』!!」

「ごばァァァァァ!!」

 

重力と筋力が合わさったその拳でシロを地面に叩きつける。床にクレータを作り出すほどのパワーなので、もはや虫の息となった。そんな彼女に一誠は一瞥もくれずに汐里のところまで歩いていた。

 

「ま、て…………なぜとどめをささない」

 

まだ生きているようだがもはや戦えない身体。ならば戦士として死にたい。それがシロとしての本望だと彼女は言ったが、一誠は否定した。

 

「俺はオメーのことは知らねーからわかんねーけど、別に死ぬ必要はねーだろ」

「なぜだ……戦士として私は」

「オメーはなんで戦士になったんだ? 誇りか? 家族のためか?」

 

シロは思い出した。かつて彼女は家族の飢えを無くすために神器使いの戦争に傭兵として参加した。そして家族はその戦争で死んだ。

殺した神器使いへの復讐は果たした。けれど満たされない。

 

なぜ?

どうして?

 

わからない。わからないけど――――何かを忘れているし、満たされない。

そして、いつしか彼女はその満たされないモノを満たすために食べることを求めた。そう、彼女は――――

 

「私は…………家族、がほしかったんだ」

 

やっと思い出せた。そうだ。彼女は一人だった。寂しかった。

どれだけおいしいモノを食べようとも、世界を蹂躙しようとも彼女は満たされない。

 

それは『愛される』ということが自分に向けられてなかったからだ。家族の愛――――一誠が今まさに持っていたモノ。そしてギンガの二人の同僚が持っていた信頼に似たモノがほしかったんだ。

 

「それを思い出せただけで上出来だ」

「それじゃあ帰りますか♪」

「おう!」

 

一誠達は満足してミルたんと共に次元の穴へ帰った。

残されたギンガは瀕死のシロの前に立った。

 

「…………憎い?」

「うん。私の親友を殺したあなたが憎い」

「じゃあ殺すのね……うん、それもいい。私は理解したから…………」

「勘違いしないで。私はあなたを殺さない」

「え…………?」

 

ギンガは手を敵だった彼女へさし伸ばす。

 

「あなたの罪は生きて返すべきよ。生きて生きて最期にはよかったって思える人生を歩むのよ。それがあなたが二人に対する懺悔よ」

 

シロは反省しているからこそ辛い罰だ。罪悪感のある人間にとってこれほど辛い罪はない。しかし、それはギンガの優しさであった。

 

憎いけど――――許す。だから生きてほしい。

 

ギンガの顔が微笑んでいるのがその証拠だ。

 

「生きていいの?」

「ええ」

「まだまだ生きていいの?」

「そうよ」

「じゃあ……じゃあ……私を――――許してくれるの?」

「もちろん」

 

そしてシロはギンガの手を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまんねー茶番」

 

――――触れることなく力なく手を落とした。

え…………とギンガは呟いた。そして彼女の身体を踏みつけた男を見た。

 

グリードだ。彼が彼女の神器を奪ったのだ。強奪された神器の所有者は死ぬ。

それはすなわち――――

 

 

 

――――彼女は彼に殺されたのだ。

 

「あなたはァァァァァ!!」

 

激昂したギンガが邪悪に笑うグリードに挑む。

 

それを無謀と言う者はいるだろうか?

客観的に言えばギンガは勝てない。無謀だ。

 

しかし主観的に言えばもはや耐えられるモノではなかった。

せっかく家族として迎えられる少女を、与えられる幸せを理解した少女を、この男に殺されたのだ。

彼女は許せなかった。だから戦いに挑む。そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――彼女は負けてグリードの配下となった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

キリトとアスナは目の前の敵に対して緊張感を持っていた。相手の名前はラース。つまりリーダーだ。

 

最強の敵。ソラや雷斗、四季、一刀が挑むべき敵。要するに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヤベー、超逃げてー…………)

(キリトくんのマジな顔…………ハスハスゥ)

 

――――チワワがライオンに挑むようなくらい場違いな勝負である。なお、アスナさんは平常運転なので気にしないでほしい。

 




シリアス――――そしてギャグなオチ!
それがこの小説です。

次回、無茶苦茶な戦い

――――でも彼は勝つよ? だって『黒の剣士』様だから

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