byナニカの存在
(一刀サイド)
さてさて、厄介なことになった。どうもみんなとはぐれてしまい、しかも迷った。初めて来る場所はだいたい道に迷いやすい。
ヤベー、ワシ。この歳で迷子とか笑われるんですけどー…………。
「まあワシとしてはさっさと合流したいわけじゃが」
「そうは問屋はいかん。俺と戦え色男」
バイザーで顔を隠した男がいる。冒険者の勇者が着そうなマントと黒いスーツのような服を着た男だ。
「我が名は北郷一刀。お前?」
「クラウ――――改めクラウス。覇王と呼ばれた男だ」
「…………覇王?」
ピクッとワシの眉は反応した。どうもその呼び名はワシにとって最も価値があり、最も知らない人間が呼んでほしくない名前だ。
――――その称号を名乗るべきはただ一人
――――誇り高くて、誰よりも前を見ていた
――――寂しがり屋な女の子
つまりだ――――愛しい彼女の称号を勝手に名乗られるのはあんまりいい気分ではないのだ。まあ、こっちの世界では仕方のない話だから妥協するが。
するとクラウはホワンホワンと回想し始める。
オイ、なに勝手に回想してんだ。
「古代ベルカ。オリヴィエが亡くなって俺はずっと鍛えてきた……」
回想の中のクラウは筋トレオンリー。ちょっと待て。お前、筋トレオンリーしかしてないのか?
「そして時には強者と戦ってきた」
回想の中のクラウは割烹着を着たサザ○さんヘアーのマッスルなオッサンと戦っていた。貂蝉、卑弥呼と同じ変態か? 漢女か?
え、てか女だったはこの人。紛らわしいほど漢女らしすぎる豪傑だぞ。
「俺はもうオリヴィエを失いたくない。だから鍛えて鍛えて鍛えて、そして――――たどり着いた」
彼は服を脱ぎ捨て己の肉体を見せた。
その肉体はもはや芸術。
無駄なモノが一切ない鋼のような筋肉。
誰も真似できそうもない細く、ギッシリ詰まった筋肉。
そして何より目を見張ったのは氣だ。
コヤツは魔力ではなく氣を鍛え、武の究極へ近づいたようだ。
「なるほど……確かにお前は強いな。四季が一撃で殺られるのもわか……る……?」
何か違和感がした。そう筋肉ではなく、顔でもなく、そう主に頭に対して…………。
「あ。忘れてた」
彼はそう言って髪を掴み
……え、ちょ、オイ。
「なんでヅラァァァァァ!?」
「な、なんだよ? 何か問題でもあるのか?」
「大有り! なんで若いお前がヅラなの。つーか、いつの間に禿げた!?」
「…………禿げてない」
「いやなに現実認めようとしない!?」
「うっせーな。俺だって禿げたくて禿げたんじゃない。鍛えているうちになんか髪の生命が筋肉に吸いとられたんだ。うん、きっとそうに違いない」
あり得ないからなそれ!
てか、なんでヅラつけてたの!?
ボケ? ボケのつもりか!?
「俺だって見栄張りたいときがあるんだよ。髪の毛フサフサが今生の目標」
「ごめん、どうでもいいわ!」
まあ確かにワシもいつかは禿げるから否定はしないが、それでも認めろよ!
ありのままの自分を信じろよ!
というかワシが久しぶりにツッコミにまわるのはこれ如何に。
しかも落ちたヅラのところにひび割れが! どんだけ重いヅラなんだよ!?
「さあ始めようか!」
「めちゃくちゃ萎えてるんだが……」
シリアスを返せと思う今日この頃である。
(四季サイド)
チッ、オリビアめ。逃げやがったな。実験材料になるモルモットを取り逃がしたことに俺は苛立ちを覚えていた。
なによりあんなにいじめがいのあるおもちゃ――――ゲフンゲフン。モルモットはそうはいない。最終的にはなんか涙目だったし、ヴィヴィオのように小さくなってた。
どうやらクラウスのように成人状態からの誕生ではなく、子どもからスタートしたバーロさんだったとか。
見た目は子ども頭脳は大人。その名はオリビアさんである。まあ、大人モードで誤魔化していたが、根はガキだったからあっさり戦意損失してくれた。逃げられたことは頂けないが。
にしてもゆりかごか…………。敵を撃破したら研究してもいいだろうか。ラタトクス機関に貢献できそうだし。
「おっ?」
「むっ」
「奇遇だなソラ、衛」
再会したソラ、まどか、衛に状況を確認することにした。
プライドは撃破。
嫉妬と妬嫉はソラの知り合いによって討伐。
まどかの知り合い達は拘束されて無効化して、開発中。
…………なんだ開発中とは?
「嫉妬達を撃破したのは誰か知らないか?」
「さあな。でもなんか感想欄で出会ったことがあるヤツらだと思うのだ!」
「私も」
「メタイなお前ら」
まあそれはさておき、さっさと前へ進んで――――
「ッ、みんなその場を飛んで!!」
まどかの声で俺達は一斉に四方八方飛び散った。すると泡が現れ、爆発を起こした。
あぶねー。中央にいたら無傷じゃ済まないぞ。
「やあ、ごきげんよう諸君」
出たなナルシスト。いきなり不意打ちとはやってくれるじゃねぇか。
「ラスト……だっけ」
「ほほう。かの有名な死神殿に覚えてもらえるとはやはり僕の美しさは最高だね!」
「いや単にウザいヤツだから早めに消そうと思ってた」
「俺もだ」
「真の美しさとは筋肉なり!」
別にラスト個人はどうでもいい。あと衛、お前の美意識はおかしいと思うのは俺だけか?
「この僕が筋肉ごときに劣るとでも?」
「然り。貴様の美など底辺。美しさとは誰かに認められてこそ発揮するモノだ」
いやその場合だとお前もナルシストと同類だぞ衛。
「いや真の美しさは自らが誇示するモノだ!」
「たわけ! 自らを誇示するなど当たり前。第三者に認められてこそ真の美しさなり!」
なんだこのドングリの背比べ。
すると、衛とラストは俺達に振り向き言った。
「「どっちが美しい!?」」
「四季、殺れ」
ソラの許可をもらったので錬成開始。
拳の形をした石が二人をぶっ飛ばす。ぶっ飛んだ――――はずなのに、すぐに立ち上がって来た。
「石ごときで僕の美しさは無意にできない!」
「筋肉に不可能はない!」
このイロモノ共…………素で耐えやがった。
俺とソラは嘆息を吐きながらこの馬鹿共を黙らせるのか話し合うのだった。
(??サイド)
グリードは笑う。順調だ。全て上手くいっている。
あの女を自分のモノにするためにはソラの力、四季の錬金術、一刀を手駒にする必要がある。
一番来ないとすればソラだったが、彼の大切なモノに手を出せば釣れてくれる。しかもおかげで四季、一刀もついて来てくれて考える手間も省けた。
だがまだ不安要素がある。その人物はエールのお気に入りだった男だ。邪魔者を排除しなければ自分の計画が遂行できない。
「だからテメーはリタイアだ。雷斗くんよぉ」
モニターに映る十香と一緒にいる雷斗を見ながら邪悪な笑みを浮かべながら、彼はエールと千香を引き連れてモニター室から出ていった。
――――それは背後の『
最後のはフラグです。さて前書きは誰が笑っていたのでしょうかねー? 暁美ほむらなのだろうかそれとも…………。
次回、復活したあの男!
――――実は彼、強いですよ