とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「悪夢が始まる」

by神威ソラ


第百十九話

マミさんの行いが信じられなかった。

なぜこの人はアオを撃った?

敵だからか?

 

いやそんなことより早くアオを治療しないと!

 

致命傷だが息はしてるので、まだ死んでないはずだ。オレは応急措置を行うべく魔法の準備に入った。

 

「な、なんだよこれ!」

 

影がアオ自身を飲み込もうとしていた。直感的にこれはマズイと感じた。今すぐこいつをこの影から出さないととんでもないことになる。

オレが手の力を込めて引っ張りだそうとしたとき、再びマミさんが魔力弾を撃ってきた。

 

やむ得ず手を放してしまい、アオは影に飲み込まれてしまった。

 

「…………どういうつもりだマミさん」

「残念だけどソラくん。あなたがアオくんを連れ出しちゃ困るのよ」

「どういうことだッ」

 

怒りを吐き出す。精製した魔力が吹き出し、風が起きる。場合によっては本気になる必要がある。

マミさんはベテランの魔法少女だった女性だ。油断すれば搦め手などでこちらが不利になる。

 

「全ては『グリード様』の命令よ」

「『グリード』?」

 

聞いたことない名前にオレは顔をしかめる。するとマミさんが今度はオレじゃなくて、戦いを終わらせた高町とヴィヴィオに向けて『ティロ・フィナーレ』を放つ。

高町は受け流す形で防御魔法を使ったが、ヴィヴィオは『聖王の鎧』が受け流せるダメージのキャパシティを越えたのか、そのまま地に倒れて元の幼女の姿になった。

 

「どういうつもりなの? マミさん」

「私の命令は『アオくんの回収とゆりかごのゴミ掃除』。だから排除しなければならないの。そうよ、排除…………排除…………ハイジョッ」

 

ここでオレはやっとマミさんの様子がおかしいことに気づいた。言動だけでなく瞳に何やらわからないマークがあった。

 

…………操られている? いや間違いない。

 

普段のマミさんならオレに襲いかかるのは夜かお風呂のときだ。

 

「そうなの?」

「まあな。もうすぐ成人なのに困ったものだ」

「なら、次回から私も雷斗くんでしてみるの」

「師匠になんらかのフラグを立ててしまった」

 

軽口を言いながらマミさんの魔力弾を回避する。ヴィヴィオを肩に担いで高町はオレと同じく回避している。

 

「そういえばヴィヴィオがやられたらこれって落ちるよね? なんで落ちないのかな」

「…………まさか」

 

ヴィヴィオはこのゆりかごの核だ。つまり核がないこの戦艦が落ちるのが道理だ。だが、この戦艦は落ちない。

 

軽く考えてみた。核ということはこの戦艦の所有者はヴィヴィオだ。つまり、ヴィヴィオの所有者が何者かに奪われた(・・・・・・・・)としたら――――…………そうか。そういうことかよッ。

 

怒りだけでなく、悔しさが込み上げてきた。

 

 

「へぇーさすがは『無血の死神』ってことだな」

 

 

マミさんの後ろから男が現れた。ワイルドな格好で野性味溢れる顔が整った男だ。

 

「お前は誰だ?」

「『グリード様』さ。無血くん」

「マミさんに何をした」

「なぁに、この別嬪さんの『所有権』をオレのモノにしただけよ」

 

やはり『所有権』を奪う力――――最低最悪の神器ッ!

 

「まだあったのかよッ。強奪の神器!」

 

前世の戦争のときに何度もいた神器使いだ。その能力は相手の持つモノを奪う最低最悪の力だった。味方の神器使い達の力を奪われ、その強奪した力を悪用されていた。しかも、強奪で所有できる数には限りがない。

そのときのオレは友人を殺され、ぶちギレたので、その強奪の力がある神器使いを一人残らず殺した。

まさかまだ残っていたとはな。

 

「ガハハハ、『強欲の魔の手』。他人の『所有権』を奪うのがオレの神器だ。おかげで女をたくさん手込めにできるぜ?」

 

ムカつくことにマミさんの髪に触ってきやがった。今すぐ殺したいところだが、マミさんを人質にとられている状態だ。

しかも高町は荷物を抱えている状況だ。ここは撤退するしかない。

オレは歯を食いしばりながらスカさんに撤退するように言った。

 

「うむ。どうやら計画外なことが起きているみたいだね、千香くん」

「……………………」

「千香くん?」

「計画外? 違うよ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――計画通り(・・・・)じゃないか!」

 

オレはすぐにスカさんを突き放して千香が放ってきた凶行から守った。ナイフを神器で受け止め、すぐに千香を蹴り飛ばしたが、ヤツは受け身をとって立ってきた。

 

「くそッ!!」

 

すぐにでもドコでもドアを展開したいのに今の状況じゃ、展開できる暇もない!

高町に時間稼ぎを任せたいが今の彼女にそんな力はないし、最悪敵になる可能性がある。

 

どうする、どうする…………!

 

「神威くん、前!!」

 

高町の声でオレはグリードがやろうとしていたことに気づいた。巨大なビームライフルらしき神器がオレ達に向けられている。

ヤロー…………このままオレ達を滅ぼすつもりか!

 

「全員一ヶ所へ来い!」と叫んでオレは千香の『シンクロ』を完了させた。

 

「『デストロイギガレーザー』!!」

「『守護せよ、アイギス』!!」

 

ビームライフルと大きな透明のシールドがぶつかった。千香と『シンクロ』できる時間が限られている。それまでにこれを耐えきれないとオレ達はお陀仏だ。

 

しばらくレーザーとシールドの攻防は続いた――――が、オレの中にある千香の魔力が底を尽きそうになる。シールドも徐々に維持できなくなる。

 

「ガハハハ! 滅べ、滅んでしまえ!」

「おんのれェェェェェ!!」

 

くそ、くそ、くそッ!!

 

このままじゃ――――死ぬ。

 

刹那、グリードの神器がオレ達の方向から逸れた。それを好機とみたオレと高町はスカさんとヴィヴィオを抱えてその場を離れた。

何者かがグリードのビームライフルを逸らしてくれたのだ。それを行った人物の名前をオレは口に出した。

 

「サイトか」

「久しい、というべきか」

「なんのつもりだ?」

「なに、マスターの命によりワタシはここの足止めだ」

「私も、ね」

 

サイトの隣には一ノ瀬シイもいた。ニッコリ笑う彼女に対してオレはそっぽを向く。どうもまだ気に入らないのだ、オレは。

 

「……お兄ちゃん、ここは私に任せて逃げて」

「…………理由は?」

「家族だからじゃ、駄目?」

「納得できないな。ただでさえオレはあのふんぞりかえってるに盗人(ぬすっと)に腹を立ててるんだ」

「それはあの人達をとられたから?」

「当たり前だ。今のオレの大切な人達だから」

 

オレが断言すると一ノ瀬は「そうだよね…………うん」と呟いて何かを振り切ったという顔になった。

 

「お兄ちゃんは『希望』。だから生き残らなきゃ駄目だよ。サイトもそうだったけど、もう彼の役割はもう一人の異世界の住人に託した」

「もう一人の……住人?」

「うん、だから彼の役目はここで足止めすること。あなたをここから離脱させ、主人公達と合流させることが優先よ」

「一応、この鬼畜女も主人公だけど?」

「足りないよ。原作主人公だけじゃ、あの闇には勝てない」

 

一ノ瀬はそう言って神器を召喚した。ここにきて初めてみる神器だ。杖だった。

先っぽが天使の翼が展開されており、その中央にはルビーが輝いてる不思議な杖だった。

 

「行って! 長くもたないかもしれないから早くッ」

 

一ノ瀬の言葉を聞いてオレはドコでもドアを展開した。行き先はアースラだ。そこなら味方が集まると判断したからだ。

 

「お礼は言わない」

「いいよ。私が好きでやったことだから」

「オレはお前を家族とは見ない」

「いいよ。それが私の母の罪だから」

「……………………ありがとう。そして――――」

 

 

「「さようなら」」

 

 

それが彼女との別れ。もしかすると生きてるかもしれないが、生きていたとしても敵になってるだろう。

 

 

 

 

(??サイド)

 

 

 

 

一ノ瀬シイとサイトはソラを背中で見送り、ホッと息を吐いた。

 

「これでよかったのかね?」

「うん。これでもう大丈夫」

 

サイトは一瞬だがシイの顔が見えなくなった。何やら恐ろしいモノを見たような気分だ。

 

(…………まさか、な)

 

馬鹿馬鹿しい。このような少女が恐ろしいとは自分は疲れているな。彼はそう思ってデルフを構える。

 

「オレに勝てるとでも?」

「勝てれば吉。負けても吉さ。なに、君とてワタシのような化け物はほしくもなんともないだろ?」

「男だからな。まあ…………さっさと終わらせるかッ!!」

 

こうしてグリードとサイトの戦いは始まった。彼の戦いの結果を言えば敗北した。

サイトではこの強奪した神器の力では勝てなかった。

 

しかし、彼は最後の最後で笑っていたことを追記しておく。

 

そしてシイはグリードのモノにはならなかった。なぜなら――――

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

ソラ達がアースラの外を見ればそこは『全てが止まった世界』だった。灰色の世界。まるでほむらが起こした時間停止のようなモノクロの世界だ。

 

つまりアースラの中以外は全ての世界が停止していたのである。なぜアースラが無事であるのかはさておいて、四季やキリト、はやてや衛など一部の者は既に中にいたので無事だった。

 

しかしエリオとキャロ、ルーテシアなどは止まっていた。大切な者が石化したかのように固まっていたのだ。

もはやスカエリッティの問題ではない。世界の危機なのだ。

 

そしてアースラの医療室には包帯で巻かれたまどかと無事だった一刀と雷斗がいた。

 

どうやら彼女だけがグリードの魔の手から逃げ切れたようだ。彼女は「袋叩きにされちゃった」と少し悲しい笑みを浮かべて誤魔化そうとしていたがソラは彼女を抱き締めた。

 

彼女は何かを耐えているのが痛ましかったのである。

 

「ほむらちゃんが、さやかちゃんが、杏子ちゃんが…………」

「よくがんばった。たった一人で戦っていたんだよな。だから、もう…………がまんするな」

「…………グスン、うぇぇん」

 

まどかは泣いた。子どものように泣いた。ソラは前世で慰めてもらったように彼女の頭を撫でながら思う。

 

 

――――前哨戦はオレ達の敗北だ。ああ、強いよお前らは…………

 

 

まだ見ぬ敵にソラは敬意を表す。そして、何もいないところを睨むような眼光となる。

 

 

――――だから覚悟しろ。敵と認めたお前らには逃げ場なんてやらない。皆殺しにしてやる…………!

 

 

許せないから潰す。

奪われたら奪い返す。

 

ソラはそう決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。世界の危機が去るまでしばらくは見逃してやったるけど、ソラくん達は刑務所行きな」

「解せぬ」

 

やはり閉まらない…………のがこの小説だよね。




まさかのまどか意外の魔法少女達の裏切り。そして現れた敵。果たしてソラ達に勝ち目はあるのだろうかと思わせる展開――――と見せかけて実はたまにギャグが入ります。

はい、この小説はシリアス展開ながらもギャグに入っちゃうイロモノですから(ゲス顔)

次回、コラボっちゃいますその一

――――遂に出せますよ、skyアイスさん! まだ戦いませんが、ご協力ありがとうございます!

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