とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「偽物と本物。自分は所詮コピーさ」

byアオ


第百六話

(??サイド)

 

 

ソラは神器(全てを開く者)を肩に抱えて、目の前の少年を見据える。

それに対してアオは姿勢を変えず、ただソラを見ていた。

 

「この騒ぎを起こしたのお前?」

「まあな。そろそろって千香が行ってオレをここに向かうように言われてな。来てみたらドンピシャ、お前が捕まって絶望してるじゃあーりませんか」

「別に絶望はしてないさ。いや、絶望は少ししてるか……」

「へえ、どんなことに?」

「お前の『偽物』だってことさ」

 

アオは絶望していた。

 

それもそうだ。『彼』はやっと思い出した記憶が『偽物』である事実だったのだから。

彼はソラによって記憶を封印されていたのだ。そして封印された記憶には彼の正体があった。

 

「『人造神器使い開発プロジェクト』。通常の神器使いよりスペックより高い神器使いを創造し、戦争の道具として使うために開発された計画だろ。かつて『No.14』――――いや今は『天ヶ瀬千香』という名前か。前世の彼女もこの計画で産み出された神器使いだ。前世の彼女のスペックは異常だったしな」

 

記憶力、身体能力、魔力の創造力――――前世の千香は幼いながらもそれらが異常なほど長けていた。

 

中でも魔力の創造力はかなり難しい。体力と精神力を混ぜて練るとか普通の子どもができるはずがない。

 

しかし、それができたのが『千香』である。ソラのように死ぬ気でやらないとできない『天才』に比べて千香はまさに造られた『神童』ということだ。

 

ソラはアオの答え合わせに耳を傾けていた。今のところは何も言わない辺り、間違いはない。

 

「そして『オレ』はプロジェクトFを使って産み出された『人造神器使い』。タイプはおそらく――――あんた(・・・)だろ」

 

それがアオの答えだ。モデルはおそらく『神威ソラ』。

『全てを開く者』を持つ神器使いは彼しかいない。だからこその『偽物』とアオは名乗った。

 

――――造られた存在

――――ソラのコピー

 

それらの意味を踏まえて。

 

しかしソラは鼻で笑って「違う違う」と言わんばかりに首を振る。

 

「違うのか?」

「半分正解だが満点はあげられない。確かにお前のモデルは『神威ソラ』だ。だが、お前のモデルはそれだけ(・・・・)じゃないんだよ」

 

「どういうことだ?」とアオは喰ってかかった。

 

「お前の正式名は『ナンバーズ番外(エクストラ)』。モデルは『神威ソラ』、それから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――『天ヶ瀬千香』」

「んなッ!?」

「驚いただろ? お前のママはあの千香なんだぜ?」

 

なぜ千香の因子を入れ込む必要があったのだろうか?

 

そんな疑問に答えるかのようにソラは続けて口に出す。

 

「『人造神器使い開発プロジェクト』は確かに優秀な人材確保はもってこいだった。だけど、前世のオレ達の世界では同時にかなりのリスクとコストがかかる計画だった。わかるか?」

「……実験体と費用、そして神器の欠陥化」

「正解。実験体はクローンか孤児達を使えば問題ないが、拒絶反応を考えてどちらを選ぶと言えばクローンの方が成功率が高かったため

クローン製作には主要にした。だけどクローンの製作にはかなりの費用があったし、ここと比べて製作には失敗が多かった。また拒絶反応でたまに欠陥化する神器も出てきたため、『人造神器使い』の創造はあまりに少なかった」

「しかしそれはプロジェクトFでクローンの問題は解決された」

「そういうこと――――と言いたいところだが、お前(人造神器使い)を開発するにはクローンが誕生するまでの死亡確率が高かった。なぜかわからないけど、神器使いを生み出すにはプロジェクトFではなんらかの力が働いていたんだろな。だからスカさんはいろんな遺伝子を使って創造しようとしていたよ」

 

例えば朱美まどか。

例えば朱美ほむら。

例えば友江さやか。

例えば友江杏子。

例えば友江マミ。

 

当初、試作段階で彼女達の遺伝子を使って生み出そうしたが、なぜか彼女達は生み出される前に死亡してしまった。

 

「それからはコンピューターから演算した結果、成功率が高かそうなオレの遺伝子を使ったクローンを創造することを決めた。が、やはりクローンが生まれる前から死んじゃうことが多かった。失敗が付き物だったんだよ」

 

ここまでが失敗談。彼は「だけど」と続けて口に出した。

 

「それを解決した方法を生み出した」

「まさか……『人造神器使い』の遺伝子……?」

「そゆこと。千香は転生するときに頼んだ身体は『人造神器使い』のモノって女神に頼んだみたいなんだ。だからその遺伝子をしっかり持っていた。

スカさんはその遺伝子を目につけてオレの遺伝子とそれを掛け合わせてプロジェクトFを造り出した。

そしてやっと誕生したのはお前ってことさ。

結果は失敗だったが」

「失敗?」

「お前は生まれつき『全てを開く者』を持っていないんだよ。そのアクセサリーが証拠だ」

 

アオの神器は生まれつきではなかった。『人造神器使い』は生み出されたときから神器があることが必須である。ゆえに『失敗』だった。

 

「だが、お前は神器の適正が高かったから処分されず、逆にお前に合う神器を千香はお前を連れて、異世界に向かったらしいな。

……そしてキリトがいた世界で見つけた。オベイロンが持っていたアクセサリーにされた神器――――『全てを開く者』を」

 

ソラが思い出すのは千香と共にいた黒いレインコートで顔を隠していた小さな少年。その少年こそアオだった。

 

あのときのアオには『人形』という言葉がふさわしかった。

 

「それからあんたの修行を受けて記憶を封印された…………そんなところか? 『先生』」

「そんなところだな」

 

先生の正体はソラだった。彼の実践経験がある理由はソラの修行の賜物だったのだ

 

「ま、意外だったのはさやかと一緒に鍛練していたときにヤツが使っていた『神速』ができるようになっていたことかな」

 

まさしく『神童』。一度見た技を模倣できる天才だ。

 

「オレとしてはさやかの因子があるんじゃねって思ったよ。あいつって一目見ただけで剣術を模倣できるし」

「アホの子因子が入っていたら今ごろ脳筋発言してたって」

「お前って口が悪いな」

「パパに似たんだよ」

 

ニヒルに笑うアオにソラは呆れながら嘆息を吐いた。

 

――――オレってそんなに口がひどいのかねー。まあ、自覚してるけど

 

そう思いながら彼は本題へと入った。

 

「アオ、オレと来い」

「管理局を裏切れ……と?」

「お前の居場所がここにあると思っているのか? 『無血の死神』は管理局にとって恐怖の対象だ。そのコピーであるお前も恐れられる対象――――または怨恨の対象になる」

 

迷惑な話だ。この人が勝手に恐怖の対象になっただけでこちらにも被害を被る可能性があるなんて。

 

アオは嘆息を吐いた。いずれにせよ、アオの正体がバレなければなんの問題はないが、スカリエッティが情報をばら蒔く可能性もある。

ヤツは混沌を目指す者――――天ヶ瀬千香と同類で彼女と比べるとややマイルドで迷惑な人物だ。

 

まあ悪い人ではないと彼の記憶にあった。

 

「確かに悪くない。スカリエッティは自分にとってもう一人の父みたいなものだ。あの人はどうもフェニミストみたいだし」

「自ら生み出した戦闘機人を『娘』って呼んでいるしな」

「だから信用できる人だろうな。自分があの人に造られた存在だからこそ、な」

 

ソラは期待した。

 

おっ、脈ありか?と彼は思っていた。だから彼はアオに手を差し伸べた。

 

そしてアオは答えた。その答えは行動によって示される――――

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「ああもう、なんやねん! このウイルスはッ。さっきから『Yes we can !』とか『I can fly !』とかめちゃくちゃ流暢な英語ばかり言っとるのが腹立つ!」

「通称ノバウイルスです。たまにノヴァうさぎとか出てくるハッキングようのウイルスです」

「どうでもいいわッ!」

 

グリフィスははやてに焦っていることがよくわかっていた。なんというかわけのわからないウイルスで六課は乗っ取られ、『無血の死神』がアオを監禁してる部屋に入っているのだから。それは映像で確認済みである。

 

今のところこのウイルスを駆除しているので、六課の七割の機能は回復している。隊長達も解放されて、今アオのいる部屋に向かっていた。

 

(なのはちゃんの砲撃なら一発やけど今の彼女に魔法の力はない)

 

だからこその今だったのだろうか。

 

アオを閉じ込められ絶望している。今の彼ならばスカリエッティに寝返る可能性はないとも言えない。

なのはが魔法の力を失い何もできない。今の彼女は何もないか弱い女性だ。

 

今だからこそ狙ってきたのだろう。

 

「フェイトちゃん、早く行って。ソラくんが勧誘しとる!」

『したいのは山々だけどなぜかここのシャッターが多いし、魔力が上手く練れない!』

 

おそらくAMF(アンチ・マギリング・フィールド)が展開されているのだろう。完全なる時間稼ぎだ。

これだと早くアオのところにはいけない。

 

するとスバルから通信が入った。

 

『大変です八神隊長! 十香さんが、十香さんがいません!』

「なんやって!?」

『あと、あとッ』

「落ち着いて。あと……なんや?」

 

スバルの通信から伝わった情報を知ったはやては思わず愕然した。しかし絶望からの愕然ではない。

 

呆れの愕然だった。だからこそ、彼に頼むしかはやてには手立てがない。

 

「頼むで……」

 

彼はアオのところに向かっている。アオの命運は彼に委ねられたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫なのか?」

「ちょっぴり痛いや。だから先制は任せた」

「うむッ、任せろ!」

(さてさて、久しぶりの運動だ。どこまで動けるかな?)

 

彼は笑う。久しぶりに戦う相手だからこそ、楽しみなのだから。そして彼は最後のシャッターを『切り裂いた』。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「…………それがお前の答えか」

 

アオはボロボロの身体で膝についていた。狭いところで彼はソラに攻撃をしかけて、どこかの次元世界に誘導され、そして敗北した。

やはり経験の差が大きい。アオでは戦争で英雄となった男には敵わない。

 

現在、アオとソラは元の部屋にいた。すると、ソラはアオに聞いてきた。

 

「なぜ断った?」

「自分がなりたいのは……救いのヒーロー。だからあんたみたいな悪党にはなりたくない……」

「ここだとお前は拒絶されるのだぞ? 悪党だとかヒーローだとかそんなくだらない区切りにこだわるのか?」

「こだわ、るさッ!」

 

彼は叫ぶ。立ち上がって神器を構えた。

 

「あんたはかつてヒーローに憧れた。救いを求める人を助ける救いのヒーローに。自分は先生がなれなかったものをなりたいだよ!」

 

アオの心にいた少年――――幼いソラは泣いていた。それはソラの嘆きの声だとアオは思っている。

 

「それに自分は約束したんだ。白髪の少年の『ライル』とッ!」

 

白髪の少年と聞いてソラは目を開いた。

間違いない。こいつはオレや千香だけでない…………『全てを開く者』を持っていた少年の魂がある。ソラはオベイロン殺された少年――――ライルを弔った。そのとき彼の特徴を知っていた。

アオがライルの特徴と名前を言っていた辺り、彼の中にライルがいるのだろう。

 

いやアオ=ライルと考えるべきだろう。かつてのアオは魂無き人形みたいな者だった。

ならばその白髪の少年の(神器)を埋め込むことで自我を得たのでは?

 

ソラはそう思っていたがその考えを首を振る。

 

「安心してとっと死ね」

 

ソラはアオを殺すことはやめない。理由は簡単。自分達の脅威になる。

 

 

――――千香はアオをオレ(ソラ)に近づけようとしているが、どのみちオレの復讐には障害だ

 

可能性が無限大。自分だからこそ、侮れない。

 

だから始末する。

だから殺す。

だから消す。

 

もはや仲間にならないこの敵を殺すしかない。

 

そしてソラの斬撃がアオの首を狙う――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかよ」

 

アオに当たるはずの曲線は何者かの刃物に阻まれた。そしてソラはアオを守った男に蹴り飛ばされる。ソラはその男を見た。

それから笑みが溢れた。だってそいつは――――

 

 

「よお、ソラ。辺り何か良いことでもあったのか?」

「ああ。お前が元気になったことに、な――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――四季」

 

四季と十香はアオを守るかのようにソラの前に立ちはだかる。

 




四季、復活!

まあアオの理想論は現実において不可能です。しかし、不可能だからって否定する権利はあるのでしょうか?

誰もが夢を見たことを、誰もが求めたモノを否定しなければならないのでしょうか?

もしかすると、アオはソラに思い出してほしいのかもしれません。かつてそういう青い思い出があったことを、そしてそれを否定してほしくないのだと。

まあ、彼のトラウマが解決するまでの話ですが。

次回、シリアス――――と思った?

――――残念! 最後にコメディがあるのがこの小説!

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