とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「ムカついた。だけど後悔してない」

by雷斗


第百五話

(アオサイド)

 

 

「知らない天井だ……」

 

いやマジで。気がついたら知らない白い天井だった。というか鉄格子のあるドアに閉じ込められていた。

 

「独房なのかねー」

 

どうやらぶちこまれたようだ。まあ、それもそうか。

 

上官に背き、しかもその上官から魔法の力を奪った反逆者みたいなモノだからねぇい。

ぶちこまれても仕方ない、仕方ない。

 

「それに……もう迷わない」

 

ハッキリした。自分が何者で、そして『先生』の正体が。

 

これを伝えたいことやまやまなんだが、まだティアナの復讐とかそういうのがまだっぽいし、後にしよう。

 

「このまま処分されるオチなのかなー」

 

それもそれで悪くない。なんせ自分は――――『偽物』

 

『彼』のコピーなのだから。

 

 

 

(??サイド)

 

 

 

ティアナが目を覚ましたのは六課の医療室であった。担当医であるシャマルはティアナが目を覚ましたことを遅くまで看病して寝ていたスバルを起こすことで伝えた。

 

心配かけちゃったみたいね……。

 

スバルの涙顔に少しだけ罪悪感を感じていると衛が中に入ってきた。

 

「平気のようだな」

「衛さん、あの後どうなったかわかりませんか?」

 

衛は目を伏せながら事の端末を彼女に伝えた。

アオ・S・カナメは上官に対する反逆及び武力行使により六課の独房で謹慎処分させられた。そしてその被害にあった高町なのはは魔法が使えなくなり、活力を無くした子どものようになってしまった。

 

「私の、せい……」

「確かにそうだが全てが貴様のせいとは言えん。高町のあの指導に対することを反論したアオの言い分はもっともだ。努力の否定をする上にあのような指導は認められぬよ。ゆえに高町にも非があるとは言える」

 

衛は踵を返して部屋を出る間際に、

 

「だが、貴様らは高町を信用せずに勝手なことをした。その行いを招いた結末だと知れ、愚か者」

 

と言って出ていった。

その言葉にティアナは胸をおさえつける。

 

私は……私はこんなことを望んでいたわけじゃ……。

 

そんなティアナをスバルは何も言えず、手を握るのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

その頃、フェイトとはやてはなのはをどう励まそうと模索していた。今のなのははなんとも言えない痛々しさの笑顔で誤魔化していた。

 

そう、かつて身体が動けず魔法が使えなくなったなのはと同じ状態なのだ。

 

「どないしよう、フェイトちゃん」

「とにかく今はそっとしておくべきだと私は思う。今のなのはは草太を失ったときに似ているから……」

「せやけど時間でどうにかなる問題やないで」

 

最善と言えるのはアオに封印を解除してもらうことだが、肝心のアオはやる気はなさそうだし、衛も今は「待て」と言っていた。はやてとしては文句を言いたいがかつて衛が言っていたことを思い出して口を抑えた。

 

だからこそ、どうしようかと画策する中で彼女達の話を曲がり角から聞いている者がいた。彼は目を伏せてそれからなのはのいる部屋に向かう。

 

 

閑話休題

 

 

なのはは一人引きこもっていた。自分は無力な一般市民と変わらない者になった。魔法のない自分には存在価値がないと思っていた。

 

 

(こんな私にみんなはどう思うのだろうか……。きっと嫌われているね……)

 

思うこと全てがマイナスなっていく。自分に魔法がなければ離れていく。魔法が彼女にとって『希望』であり、『絆』だった。

 

「なつかしいなぁ……お父さんが倒れたときも一人なんだっけ……」

 

あのときは一人だった。公園で一人ぼっちだったときにソラが話しかけてきたが、なんの理由も無しに彼を嫌悪し、草太の勘違いで彼は蹴り飛ばされていた。当時はザマァと思っていたりしていたが、今では後悔している。

 

せっかく話しかけてくれたのに、友達になってくれる子だったのに、私は拒絶してしまった。

 

「あのとき神威くんが私の友達になっていたらどうなっていたのかな……」

「問答無用のお前の完成さ」

 

彼女が振り返ると雷斗がいた。どうやらドアを破って入ってきたようだ。

 

「…………勝手に入らないで」

「どうでもいい。高町なのは、テメーに言いたいことがあってきた」

 

「言いたいこと?」と聞くと彼は頷く。

 

「お前は『魔法』があるからみんながいると思っているようだが、勘違いも甚だしい。お前に魔法が無くとも誰もお前から離れない。お前は孤独じゃねぇよ」

「勝手なこと言わないでッ」

「悪いが勝手言わせてもらう。ぶっちゃけ、テメーの勘違いぶりに腹が立って仕方ないんだよ、コチラはッ」

 

雷斗はなのはを胸ぐらを掴んで怒鳴る。

 

「お前の仲間は魔法がなくなった程度で離れるのかッ。テメーの作った絆はその程度の柔なもんなのかッ!」

「ッ…………」

「月村すずか、アリサ・バニングスの二人は魔法がなくともお前の親友だろうがッ。そうだろッ!」

「そ、それは…………」

「テメーは魔法がなくともいるんだよ。テメーをちゃんと思ってくれるダチが。それがテメーの作った『絆』だろーがッ!」

 

雷斗はそう言って胸ぐらを離してやった。

 

「もう一回行ってやる。テメーは孤独じゃない。テメーと出会って、テメーと苦楽を共にして、それからできたモノこそ、『絆』だ。そこんとこ覚えておいて八神はやてとフェイト・ハラオウンに心配かけたことを謝ってやれ。それにティアナともしっかり話し合ってこい。アイツの実力ないって勘違いした結果がこのザマだからな」

 

雷斗はそう言って部屋から出ていった。彼が曲がり角にさしかかった境にエールがニコニコしながら彼の腕に抱きついてきた。

 

「雷斗は甘いなぁ。なのはちゃんに手をさし伸ばしてあげるなんて♪」

「…………別に俺は助けたつもりはない」

「ツンデレ乙ー。まあ、あのままだったら私が手を伸ばしていたかもねん」

「お前の場合は『手を伸ばす』じゃなくて『手を出す』だろーが。どうせ、高町なのはの倫理、信念、理想を自分好みにするつもりだったんだろ?」

「せいかーい♪ ま、雷斗にとられちゃったからもういいけど」

 

エールは壊れた女だ。壊れた変態だ。彼女は楽しければそれでいいし、雷斗がいれば何もいらない『最凶』の神器使いだ。

なのはは危うく彼女の魔の手にかかるところだったのだ。そうさせないためにも、雷斗は動いた。

 

まあ、主にこれ以上彼の心労が増えないための行動が良いように働いただけなのかもしれないが。

 

「アオくんと戦ったときに見せてくれたあの『狂気』をまた見たいなー♪」

「安心しろ。もうねーよ」

「なんで? あの子はある意味狂っているんだよ?」

「残念だけどアイツは狂ってない。他者を思うほど心優しく、それに苦悩する――――そういう純粋な馬鹿だからな」

 

雷斗はそう言ってエールという重みを引きずりながら歩いていった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

ティアナはなのはがいる部屋に向かっていた。とにかく自分がしたこと、信用できなかったことを謝りたかった。彼女が曲がり角にさしかかると、なんとバッタリ謝るべき人物と遭遇してしまった。

 

「なのはさん……。…………」

「ティアナ……。…………」

 

気まずい。部屋に入る前に気合いを入れてから謝ろうと思っていたため、口が出ない。

 

「あの……その……! …………」

「少しお話しようか……」

 

なのははティアナの手を握り、静かなところへ向かう。

ブリーフィングルームとして使われてる部屋に入り、彼女は椅子に腰掛けるように言いかける。

 

「ごめんね、あなたの気持ちをわかってあげなくて……」

「いえ、こちらこそ。私もなのはさんを信用してなかったのですから、謝るべきは私です……」

 

また沈黙の空気となる。お互い口に出そうにも言葉が出ない。するとなのはは意を決してある事件を口に出した。

 

「私ね……昔、ティアナのように無茶をしていた時期があったんだ……」

「そうなのですか?」

「うん。幼い頃の友達を『無血の死神』にどこかに飛ばされて、探すために寝る間や休む時間を割いて必死になって仕事をこなしていたんだ」

 

それを聞いてティアナは『無血の死神』の酷さに怒りが沸いたが、原因はなのはの友達にあったのだとなのは自身が言っていたため治まった。

 

――――『無血の死神』も大切な人に手を出され、挙げ句の果てにバラバラにされた。だから管理局を憎悪しているんだ

 

「でね、ある日事件が起きたの。その日の任務の帰りにアンノウンと呼ばれるモノに襲撃されて重傷を負ったんだ。普通の私ならそんなモノには負けるはずはなかったと思う。でも無茶をしていたから、身体に疲労がたまっていて、あっさり敗北。さらに身体が動けなくなってしかも魔法も二度と使えないとも言われていたんだ」

「ッ…………」

「私は『魔法』がなくなくるのは嫌だ。みんなといられる『絆』がなくなるのは嫌だッ。って思って必死にリハビリしたんだ。そのおかげで今の私はいるんだ。でも、今日。雷斗くんに言われたよ…………勘違いしているって」

「雷斗が、ですか?」

「うん。私の『絆』は『魔法』で繋がっているわけじゃなかった。出会って一緒にいたときからあったんだ。元々あったんだって、ね。私はたぶん『魔法』に依存していたんだよ、きっと」

 

彼女は俯いていた。ティアナに今の自分の顔を見せたくない。こんな……こんな情けない顔を……。

 

「なのはさん……」

「うん、大丈夫……平気だから。それから私はこれを教訓にしてみんなに無茶な訓練させないようにと思うようになったんだ。だからティアナのあの連携が許せなくて…………」

「ごめなさいッ。私……私はあなたの気持ちをわかっていなくてッ」

「もう気にしてないよ。それにティアナは才能ないとか言ってるけど、違うよ。指揮官としての能力や状況の洞察力、それに射撃の精密度は誰よりも上だよ」

 

なのははそう言ってクロスミラージュを出すように言う。彼女はティアナのデバイスにあるダガーモードを解放する。

 

「これは…………」

「もっと早く解放すればよかったね。ごめんね、遅くなって……」

「いえ、私の方こそ……ごめんなさい……。遅くなってしまって…………」

 

感情が思わず溢れてしまいお互い抱き締める。百合百合しい展開だなーとこのときエールがいたなら、そう口に出していた。

しかし、今彼女はいない。しかもそれだけでなく雷斗、シイ、サイト、キリト、アスナもいなかった。

 

彼らと彼女達はそれぞれ出かけていた。

 

 

――――だからだろうか……六課は気づかなかった。

 

 

 

ウーウーッ!!

 

 

 

「警報!?」

「六課に侵入者!? いったい誰がッ」

 

さらに防衛システムでブリーフィングルームにシャッターが落ちた。出られない!

中枢機能に何者かがハッキングしたの!?

 

なのははそう思いながら通信をフェイト達に繋げる。どうやら彼女達も閉じ込められているようだ。

 

「いったい何が……」

『大変ですッ』

 

グリフィスから届いた通信は意外なことだった

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

轟音がする。誰かが壁を破っているそうだ。

いったい誰が破っている?

誰がこちらに向かっている?

 

アオはそんなことを考えていると目の前の壁がひび割れて、その犯人が姿を現した。

 

「よぉ、『偽物』。何か良いことでもあったのか?」

「やあ、『本物』。別にないさ。いつものように変態やってたら捕まっただけさ」

 

『本物』と『偽物』。

再会する『全てを開く者』を持つ二人。

 

 

彼と『彼』はお互い再び出会えたことに笑みを浮かべる。

 




再び合間見る二人。
本物と偽物――――果たしてその言葉の真意とは?

次回、再会した先生

――――あれ、なんかシリアスじゃね? これ…………

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