とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「なんでさ」

by五木雷斗


第百三話

(??サイド)

 

 

機動六課訓練室にて、今日もティアナ達は隊長達と実戦経験を積むための試合をしていた。まあなのははいつも通り、砲撃で薙ぎ払うし、フェイトは変態機動で攻撃が当たらないし、衛に至っては全く墜ちる気配無しの耐久力である。

 

パワー、スピード、ディフェンスの全てが勝てないゲームはもはや無理ゲーだ。

 

するとはやてはその訓練を一時中断をさせた。なんでも新しく取り入れるトレーニングがあるとか。

はやてが用意したのはカーテンで隠されたコンパクトサイズの小部屋だ。よくバラエティなどでスタジオで着替えに使われるモノだ。

 

「んじゃ、ごたいめーん!」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

それを見た直後、アオ達の空気が凍りついた。ピシッと彼らは凍りついたように動けなくなった。

そう、そのトレーニングで使われるモノの正体は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――縄で縛られて白目を剥いてる雷斗である。

 

「ちょっと待てェェェェェッ。なんで雷斗がここにいるの!?」

「私が拉致するように頼んだ」

「実行犯は私とフェイトちゃん」

「ミッションコンプリート」

「勝手に拉致すんなよ! 誘拐すんなよ!」

 

犯罪を犯したお馬鹿三人組にアオはツッコむ。ノリノリにサムアップしている辺り、三人娘に反省の色無し。

 

「う、うぅ……ここは……」

「すいません雷斗さん。この馬鹿隊長三人組があなたを拉致してしまいました……。ちなみにここはミッドチルダです」

「くっ、やはりあのハニートラップは罠だったのか!」

 

ハニートラップということは誰かがお色気したのだろうかとアオは妄想する。フェイト辺りのスタイル抜群の美人だとコロッとやられそうだ。

 

「おいしそうなホットケーキを食べていたら意識がなくなって……」

「そっちのハニー!?」

 

訂正。ハニーはハニーでも味覚のハニーだった。というかホットケーキに引っ掛かったこの人は案外チョロいのかもしれない。

 

「それでこの人を連れてきて何をするつもりですか?」

「動く的になってもらうつもりや」

「鬼だ。鬼がいる……」

 

はやての発言にティアナは青くなる。確かに拉致したあげく動く的にするとは鬼の所業である。

 

「くっ、俺は屈しないぞ! ショッ○ー。俺は決して――――」

「なお、訓練が終わる毎に夕飯の最後にケーキが出る」

「よろしい。的でもなんでもなってやるぜェェェェェ!」

 

(((((チョロッ!!)))))

 

 

新人達の最初の恐い印象がこのとき薄くなったとか後日、スバルが語っていた。

 

「にゅふふふ、美少女と美少年が豊富な六課に来て私の変態パワーがたぎってきたわん!」

「あ。こいつもいたんや」

 

ちなみにエールも付いてきていた。要するに――――

 

 

「カオスな予感がするにょッ!」

「だから誰やねん、この魔法少女服着た覇王さんはッ!?」

 

 

ミルたんリターン出演。

 

 

 

(ティアナサイド)

 

 

 

『無血の死神』に勝つため、私とスバルは連携の練習をする。ヤツに勝つには一人では勝てない。二人で攻めない勝てない。ならば私達が得意とする連携攻撃を伸ばす。

 

それに接近戦も鍛えないと。

 

私は魔力刃を構えながらそう考えていた。

 

「何をやってんだお前ら?」

 

振り返るとそこには先ほどトレーニングで無傷無敗という記録を残した雷斗さんがいた。一つか二つしか違いないのに『さん』付けしてもおかしくないくらい彼は大人びていた。

 

「さっさと休め。明日もあるんだろ」

「……すみません。でも私は強くならないといけないのです」

「『無血の死神』に復讐したいのか?」

 

ッ! どうしてそれを!?

 

「オイオイ、一応俺は翠屋でアイツと話し合っていただろ? なら、アイツの口から聞いてもおかしくないだろ?」

 

…………それもそうか。忘れていた。この人は私の仇の関係者であることを。

私の雰囲気にスバルはオロオロしていたが、雷斗さんは気にせず続ける。

 

「アイツの変わりようには俺でも驚いている。まさかあのガキがあそこまで変わるとはな」

「雷斗さんは彼とどんな関係なのですか?」

「師匠と弟子。前世ではそういう関係だった」

「えェェェェェ!?」

 

スバルが驚くように私は驚愕した。まさかこの人が…………。

 

「あなたが『無血の死神』を育てたのですか!」

「然り。されど俺が育てたのは『無血の死神』じゃない『ソラ』だ」

 

彼はポケットに手を突っ込んで語り始める。

 

――――彼は心優しい少年だった

 

――――彼は殺しはしない救いのヒーローに憧れていた

 

――――彼は雷斗さんが死んだ後に絶望してしまった

 

 

「『無血の死神』は神器使い達の戦争によって生まれた。環境によって生まれた英雄。それが今のソラだな」

「あなたなら説得できないのですか?」

「無理だし、無駄だ。アイツにはアイツなりの譲れないモノがあるし、許せないモノがある。だからぶつかるのは必然だ」

 

スバルはシュンと顔を俯く。穏便に済ませたいと考えているのでしょうね。けれど私は違う。アイツが捕まるのであればなんだっていい。

 

だからこそ、頼む。お願いする。

 

「雷斗さん、私達を鍛えてください」

「理由は?」

「ヤツに勝ちたい。負けたくないからです」

「……………………」

「私は……私はもう誰も失いたくないです…………」

 

兄が死んだとき私の頭は真っ白だった。なぜ兄さんが死ななきゃいけないのか、どうして真面目なあの人が死ななきゃいけなかったのか。

 

それに私にあのとき力があればアオに無茶させずに済んだ。無力は罪だと私は思う。

 

だからこそ、力を求める。

 

「…………後日、ココに来い。ある程度は見てやる」

「じゃあ!」

「鍛えはしない。俺が教えるのは欠点と戦い方だ」

 

踵を返して彼は背中を見せて去った。私とスバルはその大きく見えた背中をいつまでも見ていた。

 

 

 

 

(??サイド)

 

 

 

 

とある世界にて一人の少女がいた。雪のように白い肌に真っ黒のワンピースを着た彼女は鼻唄を歌いながら、灰色の空を見上げていた。

青空ではなく灰色な空――――つまり世界が死んでいた(・・・・・・)

 

世界を殺したのはこの少女の仕業だ。

 

「クスクス……」

「ラン、ここにいたのか」

 

一人の男が彼女に話しかける。邪神となった彼だけがこの世界の唯一の生存者と言っても過言でもない。

 

「やあ、クロ。どうだい? ここは」

「生き物全てが何かを吸いとられて全滅した世界はとてもつまらない」

「そうかな? 全てが止まった世界ってとても美しいじゃん」

 

少女は微笑む。まるでこの世界を作り出したのは自分だと自慢するような子どものように。

 

「『無に帰す者』。生命体から全てを食らう神器……か」

「世界も生きているからねー。でも抑止の存在を倒さないと世界も食いつくせないのよねーん」

 

彼女の手が変化する。その手は牙のある芋虫だ。体内に存在する神器の影響だと彼女は言っていたが、クロにとってはどうでもよかった。さっさとあの世界で行きたいのだ。

 

暴れたい、壊したい、破壊したい。

 

それが邪神である彼が与えられた役目だから。

 

「ミッドチルダってどんなところ?」

「多くの人間がいる。また多くの次元世界がある」

「それは食いがいがあるね……」

 

ペロリと唇を一舐めして彼女は笑う。

 

彼と彼女の登場は先。

『喰らう者』と『破壊する者』がミッドの世界にいずれは来る。

 

「ああ、ホントにいるのかなー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無血の死神』くんは」

 

 

彼女のお腹に傷をつけた怨敵との邂逅は…………いずれ。




次々に現れる化け物達。彼と彼女達はオリビアとクラウの仲間です。

次回、愚かな結末

――――勝者のない戦いが始まってしまった

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