とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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今回も長いです。ではどうぞ!

「楽しい時間はおしまい。そうだろ?」

by五河四季


第百二話

(??サイド)

 

 

クラウとオリビア――――男と幼女は動かなくなった死体を見下ろしていた。死体は彼らを見返すような形で死んでいるのでクラウはその瞼を閉じてあげた。

 

「ふう……ホントに意味があるのか、これ? さっきの肉とか言いながら逃げられた子どももそうだし、単に子どもを殺して快楽殺人者になってとけってオチじゃねぇだろ」

「知らないよ。でも仕方ない。これが私達の運命なのだから……」

 

彼と彼女は過去の英雄だった。彼女は戦争を決戦兵器で勝利し、彼女を失った彼は強さを求めて最強になった。

 

そんな彼と彼女を蘇らせたのは過去の遺物達の仕業だ。なぜ、彼と彼女がこんなことをしなければならないのかは定かではないが、ソラやシイなど管理局員ではない者達の敵であることは確実である。

 

「それでコレどうすんの? そのまま放置ってかわいそ過ぎだろ」

「しばらくしたら回収組が来てくれるはずよ。それまで――――クラウ!」

 

オリビアは何かに気づいたのか、咄嗟にクラウスを押し倒した。クラウがいたところには斬撃が地面を抉りながら飛んできたのだ。

 

斬撃を放った犯人を確認しようとオリビアは見た。

 

 

――――そこにいたのは黒髪をなびかせた鬼神がいた。

 

「よくも……よくもぉッ。四季を殺したなァァァァァッッ!」

 

涙を浮かべ怒りの化身となった十香が霊装を纏い、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を握っている。

彼女は怒り悲しんでいることは明白である。

 

「恋人か?」

「どのみち消すしかないわ」

 

オリビアが十香に肉薄し、必殺の拳を放とうとした。

 

避けられないッ。

 

待つのは死。これはかつて自分もそうだった。でぇとの最後に彼女は腹部を撃ち抜かれ、泣いて悲しむ彼にお別れを言って、彼女は死んだことがある。

 

彼女が生きている理由は『士道』のおかげだ。その代償に『四季』は『士道』といた記憶と自分との出会いを忘れた。

 

彼女は自分のために犠牲になった『士道』とある約束した。

 

 

――――『四季』を一人しないでくれ。彼は一人でいようとするかわいそうな男の子なんだよ

 

 

彼女はその約束に付け加え、『四季』を一人にさけないだけでなくあらゆる害敵から守るとも約束した。

 

 

…………なのに、なのに、ナノニィ!!

 

死んだ。

死なせてしまった。

殺されてしまった。

 

コイツらが殺したんだ!

 

「あァァァァァ!!」

「んなッ?」

 

オリビアの手刀を掴み、木へぶん投げた。彼女は理性無き獣の如く斬りかかる。

 

オリビアは籠手で迫る斬撃をいなしていく。

 

「はぁァァァァァッ」

 

十香を蹴り飛ばすことで距離を開けることができた。オリビアは彼女の次にくる猛攻に思案しているに対して十香は全く別のことを考えていた。

 

 

――――足りない、これでは足りない……。

 

精霊だった頃の十香ならば圧倒できるが今の十香は精霊の力が一部だけ戻ってきただけだ。

早くコイツらを蹂躙したい、泣き叫ぶようなことがしたい。

 

憎悪の矛先である二人に十香は更なる力を望む。

 

 

――――そうだ、精霊の力だけじゃないもっと別のチカラヲ…………!

 

望む、のぞむ、ノゾム!

 

それを望めば待つのは破滅と消滅。されど彼女は躊躇わない。彼を殺したこの愚者を早急に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿、なこと……やめろ…………」

 

 

望もうしたとき声がした。それは死体となっていた少年だった。過呼吸で血まみれの彼は辛うじて立っているのもやっとな状態だ。

 

だが立っていた。そして十香の怒りが治まった。

 

「シキッ、大丈夫か? 大丈夫だったのか!?」

 

十香は四季にギュッと抱き締める。うらやましい状態かと誰もが思っているかもしれないが、彼は重傷であることを忘れてはいけない。めちゃくちゃ痛そうに苦しそうにしていた。

 

精霊化した十香は力持ちだったりする。

 

「く、くるじぃ……」

「心配したのだぞ! もう……もう私を一人にしないでッ!」

 

子どものように十香は四季の胸の中で泣き始める。四季は親のように十香をあやしながらクラウスとオリビアを睨み付ける。

 

「よくもやってくれたな。おかげで一回死んだじゃねぇか」

「貴様……なぜ…………」

「答えるか、バーカ」

 

四季は辛そうな表情で手合わせ錬成をした。地面から砂煙を上げるただの目眩ましだが、視界を遮ることができた。

 

「目眩まし程度で」とオリビアは鼻で笑い、砂煙に見える影を狙って拳を放つ。致命傷を負っている今の四季がそう簡単には離れられないと考えていた。

 

その影の正体は――――錬成された石の人形。

 

同じくクラウもワンパンしたが、砕けたのは生身の身体ではなく石でできた人形だ。

クラウは舌打ちして砂煙そのものを吹き飛ばした。その砂煙が晴れたとき、横着してしまい、手を抜いたことを悔やんだ。

 

既に四季と十香はこの場に居なかったのだ。残りの影は全て人形だった。

 

「油断した。あの女の子は人外の一人だったようだ」

「これはまずいよね……」

「顔は見られてないから安心だけど、『神器使いを狙う敵』がいることが明るみなるな」

 

まあ気にしない。敵がいるという警戒心を与えることで彼らが強くなればこちらも楽しめる。

なぜなら、彼と彼女は次元世界において『最強』なのだから。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

一方、四季は木にもたれ掛かっていた。十香は心配そうに声をあげているが彼の耳には届かない。

 

(カマエルの……再生のおかげで助かったが……だめー、じが大きい、な…………)

 

精神的に辛い。死というモノを感じた恐怖と苦痛による疲労で体力と精神がゴリゴリ削られた。

 

「     ッ?     ッ!」

 

十香が何かを言っている。だけど聞こえない。ああ、ホントに疲れた。

四季はもう眠たくて眠たくて仕方がなかったのだ。もう立てることができない。

 

(『姉ちゃん』……ごめん。俺、十香を泣かすわ……)

 

そりゃ、悲しませることはしたくない。心配もさせたくない。

 

だけど限界だ。もう無理だ。だから今は疲れを取るために休もう。大丈夫、すぐに目覚めるから。

 

四季はそう考えながら目を閉じた。

 

「シキッ? シキッ、シキィィィィィッ!」

 

呼びかけには四季は答えない。死んではいないが目を覚まさない。

 

こうして五河四季は意識不明の重体になった。

 

 

 

 

(ソラサイド)

 

 

 

 

メタスラ捕獲は中断された。理由は六課の雇われた神器使いの一人が意識不明の重体で十香と呼ばれる少女に運び込まれたのだ。戦闘中にも関わらず、オレはつい目を見張ってしまった。

 

さっきまで会話していたヤツが、さっきまで元気だったヤツがこんなことになるとはオレも六課も思っても見なかった。

 

「顔を隠した男と女にやられたッ。四季は殺されかけたッ!」

 

十香は錯乱しながら四季をこんなふうにした犯人の特徴を口に出していた。

 

「師匠…………」

「ああ……やめだ。とっとスライムを終わらすぞ」

 

「了解」と答えた刹那、オレと師匠は『閃光の衣』を使ってあっという間にスライムを一匹になるまで蹴散らした。

その間、僅か五秒。再生や増殖もさせないくらいのスピードで全て狩り尽くした。

 

残った一匹はロスギアの本体だ。それにとどめをさしたのはアオだ。

 

神器の力でそのロスギアを封印したのだろう。

 

「……千香、ほむら、さやか。帰るぞ」

「あ、うん。わかったソラ……」

「そだねー。…………」

「……………………」

 

それぞれが返事してオレはドコでもドアを展開してスカさんの基地に繋げた。

 

「じゃあな六課。どうやら敵は他にもいるみたいだ。せいぜい気を付けな」

 

八神や高町が何かを言っていたような気がしたが無視してオレ達はその場から去った。

 

 

 

 

 

(??サイド)

 

 

 

 

 

五河四季が六課の医療施設に緊急搬送されてから三日後、はやては急遽六課に戻ることを宣言した。どうやら被害者は四季だけではなかったのだ。

 

「一誠が消えたって……」

「文字通りです。この召喚で喚ばれた者が命の危機に直面したときには強制的に還らせる措置があります」

「つまり一誠くんは四季くんがやられる前に既にやられていたってこと?」

 

おそらく、とシイは答えた。しかも悪いことにこの措置が発動した場合、二度と召喚に喚ばれないこととなっている。

 

「幸いなことにミッドにおるキリトくんやアスナさんには何にもなかったらしいで。つまり『敵』は私達の休暇もとい、帰郷を狙っての犯行ってことやな」

「あるいはミッドではできなかったから、という可能性がある」

「どういうことや? 衛くん」

「管理外という世界は管理局では注目されていない。つまり監視された世界だからこそ、行えた犯行ということもあるのだ」

 

衛の言う通りかもしれない。ミッドでは管理局の本部がある。故に徘徊している局員が多いし、目撃者が多くなる。

つまり犯人は知られてはいけない(・・・・・・・・・)者――――有名で名のある者と考えることが妥当なのだ。

 

「絞り込めへんな」

「それもそうだ。有名な局員および著名人が犯人だとすると数えきれぬ」

 

容疑者が多すぎるに証拠がないので捕まえることもできない。

 

「あのゴムゴムの能力者でドラゴンの血筋の男が敗れるほどの実力者とは…………」

「衛さんと互角だった人ですよね?」

「そうだティアナ。ヤツには筋肉はないが、パワーならば我以上だった。その者が負けただと? ならばどれほど実力者なのだ、敵はッ」

 

友がやられたことに拳を握りしめ無力な自分を悔やむ衛にはやては肩をおいて「大丈夫や」と言葉に出す。

 

「とにかく私達がすることは?」

「戻って訓練祭りや」

「上等だよ……!」

 

三人の隊長娘の気合いは充分だった。衛も腕を組み、頷く。

 

「十香さんと四季くんの無念を晴らす」

「そうだねティア!」

 

こちらも気合い充分。

 

「四季さんの仇討ちです!」

「エリオくん、抱いて!」

「あ、ごめん。僕の好みは巨乳の同級生」

「解せぬ」

 

エリオの嘘八百に騙されるキャロ。てか、お前ら真面目にやれよ。

 

まあ、なんにせよ。

彼らと彼女達は再び戦う決意を固めるのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『ソレ』はいた。暗闇の中で蠢くナニカがいた。

 

それに近づく男がいた。黒いレインコートを着た男で両目が紅く染まった瞳。

彼は笑みを浮かべながらソレに語りかける。

 

「もうすぐ、もうすぐ始まる…………終焉のときが、な」

 

ナニカも笑っていた。

その声は少女のモノだった。だいたい中学二年生くらいの女の子のモノだろう。

 

 

その笑い声はどこまで美しく、狂っていた。

その笑い声はどこまで綺麗で、不気味だった。

 

 

――――その笑い声の正体は…………まだ誰も知らない。




最後に出てきたのは黒幕です。『彼女』の目的は未だに不明です。そして『彼女』に語りかけた男は閑話で邪神となった男です。

この者達はいったい何を望むかはまだ判明しません。

次回、強くなりたい

――――彼女は望む。誰かを守る力を

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