とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「……………………」

byアオ


第九十八話

やれやれ……杏子も容赦ないこと。まさに一撃必殺だな。

血がたくさん流れる黒髪少年にオレは同情した。

 

「こんのォォォォォ!!」

「よくもアオをォォォォォ!」

 

杏子に向かって拳を振るう青髪と魔力弾を放つ橙色のツインテール。

 

そんな攻撃をヒラリヒラリと避け、杏子は不敵に笑った刹那――――花びらが開くような連続突きの応酬で反撃した。

悲鳴をあげて青髪は吹き飛んだ。デバイスが張った咄嗟のシールドで助かったな。

 

「オイオイ……この程度か? これじゃあ、ソラどころかまどかですら勝てねぇぞ」

「うるさい! よくもよくも…………!!」

 

はぁ…………血走った目で睨まれても怖くないんだけど。てか、こいつを死なせた原因はそこのツインテールにあるんだけど。

 

そう言うとやはりツインテールは激昂した。

 

「なんですって!」

「だってそうだろ? 仮にもSSS(トリプルエス)SS(ダブルエス)クラスの化け物達をたった二人でしかも新人でどうにかしようとしているのが間違いなんだよ。普通は撤退するのがセオリーだ。それをそこのツインテールは戦いを望んだ」

「違う…………」

「オレは襲いかかるヤツには容赦しないが、それ以外はスルーだ。面倒だから相手しない。今までだってそうだろ? だいたいが返り討ちにされたって話を聞いてるだろ?」

「ちがう…………」

「『攻撃してきた』。ということは敵対する意思がありと判断してこちらから先に手を打たせてもらったけど。こいつも哀れだなー。なんせ、唯一冷静になってどう撤退しようか考えていたのに…………不憫なもんだ」

「違うーーーー!!」

 

ツインテールが自らオレに向かって突貫してきた。遅い格闘技にオレは欠伸をしながら次に放たれた蹴りを掴み、木へ叩きつけた。

 

「よくもティアをォォォォォ!!」

 

青髪がまたしても突貫してきた。やれやれ……血迷って。

 

「クロスミラージュ! カートリッジ!!」

 

あん? オイオイ、カートリッジって高町達が使っていたドーピングじゃねぇか。

それを新人が四発デバイスに打ち込むなんて、無茶じゃねぇのか?

 

ただでさえ、あれは打ち込めば打ち込むほど負担がかかるし、コントロールも難しくなるそうだし。

 

「まあ、負担は大丈夫か。素晴らしきかな、時代の進歩」

「くらえーーー!!」

 

放たれた多数のホーミング魔力弾。まあ避けるまでもなく、神器(全てを開く者)で防いだが。

 

「あ…………」

 

ツインテールがコントロールを誤って魔力弾が青髪に向かっていく。彼女も気づいた頃には既に目の前だった。

 

やっぱりバカだ、こいつ。自分の力量をちゃんとわかってないから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュン!

 

 

 

――――風が吹いた。誰かが通りすぎたのだろう。そして青髪は無傷だ。

 

魔力弾は何者かによって弾かれ――――いやキャンセル(・・・・・)されていた。

 

「…………どういうことだ」

 

言葉が思わず口に出た。

なぜこいつが『アレ』を持っている?

ヤツが『アレ』の使い手だったのか?

 

いや、首飾りのアクセサリーがいつの間にか消失している。つまり――――そういうことか?

 

「……なるほどなー。オイ、杏子。お前、知っててこいつを先に眠らせたのか?」

「さーね。ま、アタシは何も知らないから」

 

嘘つけ。口笛吹いてこっちを見ないのが何よりも証拠だ。

 

 

そう青髪を助けたのは先ほど杏子に刺された黒髪少年だ。血はもう流れていない。恐らく止血されたのだろう。

そして、手にはカギのような真っ白な剣(・・・・・・・・・・・・・・・)が握られていた。

 

 

「『全てを開く者』――――それがお前の本来の神器ってことか?」

 

 

後で名前を教えてくれよ、黒髪少年。お前のこと気に入ったようだ!

 

オレは黒髪少年に向かって斬り込みにかかった。

 

黒髪少年は青髪を突き飛ばし、オレの斬撃を受け止めた。グイグイと押せる辺り、この黒髪少年は力が強くないようだ。

 

しかし押し込みすぎて黒髪少年が引いた直後、オレはバランスを崩して前へ倒れかけた。そこを狙ってヤツは斬りかかる。

 

その斬撃をオレは防ぎ、つばぜり合いに持ち込んだ。

 

「なかなかやるじゃねぇか!」

「……………………」

「戦いになると静かになる口か!?」

 

オレがそう言うとヤツは至近距離から魔法を放とうとする。放たれた魔法を後退することで回避したが、黒髪少年は追撃に斬り込んできた。

 

それを回避、受け流し、持久戦に持ち込んだ。すると、ヤツの足取りが歪になってきた。

 

「その神器は燃費が悪いからな。使いすぎるとすぐにバテてしまうぜ?」

「……………………」

「はん、それでも前へ…………か。ま、らしい(・・・)って言えばらしいが」

 

オレは黒髪少年に問答無用に腹部へ拳を打ち込んだ。

 

「圧倒的な存在には意味がない」

 

くの字に身体を曲げて少年は地面へバウンドしていき、倒れたままとなる。ま、よくがんばったもんだよ。

 

「さてと――――さっさと殺すか」

 

オレは神器(全てを開く者)で今度こそ二人の少女に向けて斬りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼。ここで彼女達を殺さないでいただけるかね」

 

丁寧な物言いでオレの斬撃はワイシャツを着た男の剣で遮られた。

 

「なんだ、お前は」

「ワタシか? ふむ、何者かどうか考えたことがなかったな…………」

 

一端後退すると男はブツブツと呟き始める。

吸血鬼やれ、エーデルワイス家の召し使いやれ、執事やれ、どうでもいいことばかりだ。

 

いい加減ウザくなってきたな…………。

 

「…………オイ」

「はっ。すまない…………。どうやら考え込んでしまったようだ。しかし、何者かどうかと聞かれたことには答えられそうだ」

 

その男は名乗る。

 

「ワタシの名はサイト。異世界ではとある吸血姫の執事であり、虚無とその使い魔の友だった男だ」

 

…………やれやれ。一刀と同じ異世界の住人か。こうもあっちに異世界の住人が集まるとか女神から全く聞いてないぞ。

 

どうなっているんだ? これは…………。

 

 

「ま、どうでもいいか。さっさと――――」

「やっと見つけた」

 

唐突に声が聞こえた。銀髪のおさげの女がオレを見て嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

はて、どこかで会ったか?

 

「サイト、彼を捕まえて」

「捕まえられる保証はどこにもないぞ。なんせ、相手は英雄だからな」

 

オイオイ、勝手に話を進めるじゃねぇよ。オレがそう文句を言うとその女はやっとオレを見て話し始めた。

 

「久しぶりね」

「オレはお前を知らない」

「覚えてないの?」

「覚えてるも何もオレはお前に会ったことすらない」

 

オレが素っ気なく答える。しばらく顔を伏せていたが彼女は意を決して顔を上げた。

 

「私の名前は一ノ瀬、一ノ瀬シイだよ。お兄ちゃん!」

 

 

…………なんだと?

 

思い出すのはあの頃のオレ。

現実の辛さを知らず、無知にも救いのヒーローを目指そうとした愚かなオレ。

 

 

…………深く思い出せば出すほど――――

 

「やっと会えたね、おにい――――」

「ッ!」

 

オレは一ノ瀬シイに斬り込む。それはサイトの剣によって阻まれ、後退する。

 

「なんのつもりだ、『無血の死神』。妹をなぜ殺そうとした?」

「ムカついたから。それ以外何がある?」

 

それを聞いて一ノ瀬シイは驚愕した。当然だな。兄であるオレが妹である自分を殺そうとしたのだからな。

 

「な、なんで…………」

「オレにとって『一ノ瀬ソラ』は忌むべき過去だ。憎悪すべき名だ。だから許せないんだよ…………『一ノ瀬ソラ』として見るお前が!!」

 

そうだ。思い出した。

こいつは前世で実母(あの女)の隣にいた小さな女の子だ。

 

子どもの頃からオレは許せないでいた。拒絶した実母のことを。

だからオレは『一ノ瀬』を捨てた。だってそうだろ?

 

希望をもっていた幼いオレが会いたい想いでやっと会えたのに、あの女は拒絶し、化け物扱いしたのだから。

 

オレを化け物として見たあの女の目は今でも思い出せる。それを思い出すだけでオレは『一ノ瀬ソラ』だった頃のオレは嫌な想いになる。

 

「お、お兄ちゃん…………」

「お前に『兄』と言われたくない。お前がそう呼び続けるなら、容赦しない……」

 

射殺すくらいに睨み付けるとおさげの女は愕然として膝についた。

ふん、そのまま絶望していろ。

 

とにかく今は目の前にいるこの男をどうするかだ。

 

「……ワリィがソラ。どうやら時間切れらしいぞ?」

 

杏子がそう言うとオレの足元から転移の術式が現れる。なるほど成功(・・)ってことか。

 

「逃げるつもりか?」

「いんや、どうやらオレ達の目的は果たされたみたいでな。悪いが撤退させてもらう」

「なんだと? …………まさか!」

 

サイトは気づいたようだ。オレの隣にいる杏子が煙のように消えていく。

そう、オレの隣にいる杏子は分身だったのだ。

 

本物は既に内部に侵入しており、スカさんが欲してたモノを手に入れている。

 

「くっ…………お前と内部にいる神器使いは囮だったんだな!」

「そゆこと。ま、みんなは元から退路なんて作るつもりでオレをここに送ったわけじゃないみたいだが……」

「どういうことだ?」

 

オレはチラリと倒れている黒髪少年を見て「さあな」と答えた。

スカさんと千香め…………こいつを覚醒させるために送ったな。

 

まあいい。とにかく一刻も早くここから帰りたい。

おさげの女がオレをすがりつくような目で見られているだけで嫌な思い出を思い出すだけでなく、全身に不快な感じがする。

 

…………自覚はなかったがオレは過去の自分をかなり嫌っているようだ。

 

まあなんにせよ。オレ達は目的を果たして撤退した。

 

 

 

 

(衛サイド)

 

 

 

 

我らは千香殿にネタバレされ、彼女達が撤退した後、すぐに盗まれたモノを確認した。ロストロギアの類いは盗まれておらず、宝石の類いも手はついていなかった。

 

盗まれたのは古代の偉人が使用していた布切れだ。

 

…………彼女達はこのような骨董品としても価値もないモノを盗んで何がしたいのだ?

 

 

パチンッ!!

 

 

「…………なんで二人だけで『無血の死神』に挑んだの? 一歩間違っていたら死んでいたんだよ?」

 

高町がティアナとスバルを叱っていた。当然のことだ。

彼女達は無謀にも『無血の死神』に挑んだのだから。

我でさえ単身では危険な行いだと言うのに。

全く、身を弁えてほしいものだ。

 

しばらくティアナは茫然自失の沈黙な状態で、スバルが彼女を庇うような会話が続き、ふとティアナが口を開いた。

 

「……アオは、アオは無事ですか?」

「…………正直、無事とは言いようがないよ。元々、彼は身体が弱いみたいで慣れない神器の発現で、魔力が大幅に消費して衰弱していたよ」

 

そう。アオは魔力枯渇で衰弱していた。今はシャマルが彼の治療に当たっていた。

目覚めるとしたら明日以降になるかもしれないが、我としてはすぐに問いただしたいことがある。

 

「高町、説教はそこまでだ。今は我ら隊長陣が議論すべきことは他にある」

「せや、ティアナの暴走よりこの議論せなあかんことや」

 

しぶしぶ高町は従い、我は隊長陣を連れ、会議室に入った。

 

そこでウィンドを展開する。内容は『アオ・S・カナメ』についてだ。

 

「スラム街で倒れていた次元漂流者…………」

「然り。フェイトの言う通り、ヤツは次元漂流者だ。ゆえに我が友が使っていた魔法が使えると推測できる。問題はこれだ」

 

我が見せたのはヤツの神器だ。それを見た全員は驚愕の顔を浮かべた。

 

「こ、これって……!」

「嘘だろ…………」

「……………………」

「ありえない…………」

「マジかいな……」

「……………………」

 

上からハラオウン、ヴィータ、高町、シグナム、はやて、一ノ瀬殿の順だ。

そう……これは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『全てを開く者』。よもや二人目が現れるとは思わぬかった」

 

厄介事にならなければよいが…………。




アオが『全てを開く者』の使い手だった!?
まあ、考えたのは自分ですが。ちなみにあのイロモノハリセンが進化した――――もとい真の姿になったのが真っ白な『全てを開く者』です。

さてさて、どうなることやら。
次回はサウンドステージのシナリオ? 『ドキ☆カオスだらけの喫茶店』をお楽しみください。

――――そういえばショッ○ーだってライダーに年賀状送るくらいフレンドリーな敵対関係だっけ

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