とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「どうしようもないときは……どうしようもない」

by友江杏子


第九十七話

「ふーん、ふふーん♪」

 

鼻唄を歌いながらオレは杏子を連れて歩き回っていた。オレの役目は千香達の退路の確保だが、接敵したら殺り合ってもいいそうだ。

 

うむうむ、素晴らしきかなシンプル・イズ・ベスト。

 

「呑気に鼻唄歌ってる場合かよ」

「まだ強いのが来てないから別にいいだろ?」

「まあ…………それもそうか」

 

杏子の服装はファンタジーの世界のギルドとか着そうな赤を基調にした動きやすい格好である。スカートは少し長めだが、たまにあるチラリズムにドキドキしてしまう。

 

「…………なんかお前、エロくなってない? たまにアタシの胸とか見てくるし」

「杏子がかわいいからいけない。杏子のおっぱいが大きいからいけない」

「後半いらねぇだろ!」

 

Dくらいある胸を腕で隠すがより強調していることに彼女は気づいてない。

 

「ヤバい…………ムラムラしてきた」

「ちょっ、マジかよ!? こ、ここでスルのかよ!?」

「え? シたいの?」

「スルわけねぇだろ! 時と場所を考えろ!」

「まあ半分冗談はさておいてー」

「残りの半分は本気!?」

 

ツッコミを無視して魔力感知で辺りを探る。こちらに向かってきているのは二人。

あんまり強くなさそなのに見つかったかな?

 

「というわけで杏子さんや、どうしますか?」

「どうするもこうするも倒して、財布抜き取って、デバイスからソイツのダチ達へイタ電連射する」

「わかっているじゃん。ちなみにメールで『私はロリコンロリコンロリコンロリコンショタコン』というのが抜けている」

「……どうでもいいけどアタシも毒されているなぁ」

 

ため息を吐く彼女に苦笑しているといきなり魔力弾がこちらに飛んできた。

それを手で握りつぶして、撃ってきたヤツを睨み付ける。

 

「オイオイ、いきなり撃ってくるのが管理局のポリシーか?」

「違うわ。うちの教官のポリシーよ」

 

怖いなその教官。

 

橙色のツインテールと青髪の女が構えていた。いつでも戦闘体勢ってことか?

やれやれ…………たかだか魔導士の二人が逃げることなく立ち向かっていくのはどれだけ無謀なのか知らないのか?

 

「ま、とりあえずはじめまして。オレが『無血の死神』。魔導士の天敵様さ」

「ッ! やっぱり……あんたがッ」

 

なんか知らないけど橙色のツインテールが歯を食いしばりながらこちらを睨み付けていた。

…………え? オレ、なんかした?

 

「いや色々しただろ。向かってくる魔導士達から魔法を奪い取り、再起不能または亡き者にしてるだろ」

「仕方ないだろ。鬱陶しいくらい傲慢で正義とか口ばっかりなヤツらだったし」

「まあ確かにそうだけど……」

「そんなわけで杏子さんや、亡くなった人に一言」

「Amen」

「無駄に発音いいな」

「現役シスターナメんなよ」

 

「あんた達ふざけてるのッ?」

 

軽口を言っているとなんかツインテールに怒鳴られた。ふざけてるも何もこれがオレらのスタンダードだし。

 

「んで、お兄さん達になんの用なの?」

「あんたを捕まえにきたに決まってるでしょ!」

「捕まえにって…………お兄さんのこと知らない、はずはないでしょ?」

 

殺気を当てると彼女達は震えながらも失神を耐えた。ほほう、これは見所ある根性だこと。

 

「合格だ。オレへの挑戦権を認めよう」

 

オレは神器を召喚し、構える。

 

「死ぬ気来い。殺しにかかって来い。でないと――――

 

 

 

 

――――死ぬのはお前らだぞ?」

 

杏子はやれやれと肩を竦めていたが気にせずオレは構える。

油断しないし、手加減しない。敵は抹殺あるのみ。

 

 

 

 

 

(はやてサイド)

 

 

 

 

 

 

戦闘が始まってから三十分が経った。ユーノくんを含めた有名人達はメイド服のマミさんのリボンで縛られておった。

 

…………そのとき何人かが縛られて変態化してたのは気のせいやと思いたい。

 

てか、早ようしないと外の連中がやられてしまう!

私はそう思いながら周りを見て考える。

 

「ふふ、いつまで逃げているのかしら?」

「ちょっとは隙を与えてほしいね!」

「ダーメ♪ お姉ちゃんとまだまだ踊りましょ?」

 

なのはちゃんはマミさんによって思い切り翻弄されておった。火力ならなのはちゃんが上だけど手数が多いから攻撃に移れないらしい。今さらやけどメイド服のままで戦えるのはどういうことやろ。

 

「なんで……なんでなの……!」

「いやー。一応、あの人のお世話になってるからね。その恩返しってところかな」

「だからってこんなことあんまりだよ…………!」

「じゃあ、隅でジッとしたら? わたしはドクターの指示に従うだけだし」

「ッ…………!」

 

フェイトちゃんはフェイトちゃんで因縁のある女と戦っていた。顔は仮面で見えないが髪が金髪なので、いつか見つけたら捕まえたると思う私である。

 

「さあさあ、ダンスの時間だよ!」

 

ティヒヒヒヒと笑いながら白いドレスを着たまどかちゃんが打ち上げた魔力矢が雨のように降り注ぐ。

 

ガジェットや来席客にはお構い無しかい!

 

「ならば――――『マグネットマッスルゥゥゥゥゥ』!!」

 

衛くんは集束魔法で魔力素を集める。変な魔法名やけど、なのはちゃんのスタラに次ぐ強力な砲撃魔法や。

せやけど、今回は砲撃を撃つんやない。

 

魔力素に引かれて魔力矢が衛くんを集中放火した。

客席や私達を守るために自分の身体を張ってくれているのだ。

 

「筋肉に不可能はない!」

「あぅ……全て防がれちゃった」

「隙ありや! 彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、『ミストルティン』!」

 

私は七本の石化の槍を放ち、まどかちゃんの動きを止めようとする。しかしまたしても、半透明の壁に遮られてしまい、魔法が打ち消された。

 

「くっ、千香ちゃんか!」

「正解正解♪ というかまずボクから潰すべきじゃね?」

「やっかましいわ!! じゃあ、なんやねんその滅茶苦茶張られたバリアーは!!」

 

千香ちゃんがいるところは世界に隔絶されたかのように半透明の壁が多数張られておる。さっき『デアボリック・エミション』を放ってみたが、バリアーの先にいる千香ちゃんのところまで届かないし、干渉できへん。おそらくやけど、千香ちゃんがいるところは魔力素なんてない遮断された空間や。

酸素など人間が生きるのに必要なモノは通気されるけど、それ以外は遮断される厄介なもんや。

 

「そもそもそんなにバリアーが張れることがおかしいで! どんだけ魔力があんねん!」

「女は秘密を重ねるごとに変態になっていくのさ!」

「そうなのか? はやてよ!!」

「騙されるなや、アホ旦那ッ。つーか、美しさやろ普通!」

 

度々、衛くんが千香ちゃんに騙されてまどかちゃんへの攻撃の手を緩めてしまう。地味に心理戦を持ち込むなんて最悪な状況や!

 

「ぬ? はやてよ。ちと聞きたいことがあるがいいか?」

 

衛くんは何かに気づいたかのように背中合わせで私に話しかける。

 

なんやねん。今めっさ忙しいねん。

 

「いやまどか殿と千香殿に繋がってるラインらしきモノが見えたのだが……そんな魔法があるか?」

「いや聞いたことないで。というかそんな魔法初めて…………待てや。それホンマか?」

「ああ、千香殿の背中からラインらしきモノが伸びており、それはまどか殿に繋がっているのだ」

 

まさか…………その魔法は…………。

思い出したで。『団結せよ(コネクト)』やな!!

 

きっとそうや。アインスから聞いた話やとかつて彼女と戦っていたときに使っておった魔法や。魔力供給させる補助系の魔法やったはずや。

 

「我が友の魔法か! しかしなぜ千香殿も…………」

「ソラくんだけが使えるとは限らないんや。ただでさえ千香ちゃんとソラくんは修羅場を潜り抜けた猛者やで? 戦いで使えるありとあらゆるを覚えているのは当たり前や」

 

私の答えを待ってましたとばかり千香ちゃんはパチパチと拍手してきた。

 

「いやー名推理だね♪ ちなみにまどかちゃんの魔力量は無尽蔵だから持久戦じゃあ、君達が勝てるのは絶対に無理だから♪」

 

ナメられとる…………腹立つな、ホンマ。

せやけど千香ちゃんの言うとおりや。まずまどかちゃんを倒さなきゃあかん。

 

だけどまどかちゃんに攻撃すれば千香ちゃんのバリアーが邪魔するし…………。

 

「いやはやてよ。千香殿のバリアーにはいくつかの制限が見られた」

「どういうことや?」

「彼女のバリアーは多く張れば張るほどその強度も弱くなっている」

「せやけど魔法じゃあ…………」

魔法(・・)であればな…………。ならば物理攻撃ならばどうだ?」

 

確かにそうや。千香ちゃんのバリアーは魔力素を遮断することで打ち消すモノやと推測できる。だから魔法は効かないと考えると――――試したことないのは物理攻撃や。

 

…………試してみる価値はある。

 

「はやては我に何も近づけさせるな!」

 

衛くんはまどかちゃんへ飛び込む。またしても千香ちゃんのバリアーが衛くんの拳を遮る――――

 

 

 

ガシャァァン!

 

 

 

――――ことなくバリアーを破壊できた。まどかちゃんは驚愕して衛くんの次の攻撃に反応できなかった。

 

「くらえ、『マッスル砲』!!」

 

至近距離からの『マグネットマッスル』で溜めた集束砲撃魔法を放つ。

 

「きゃあァァァァァ!!」

 

悲鳴をあげて地面へ叩きつけられたまどかを好機と見て、私は氷結魔法の詠唱を唱える。

 

仄白(ほのしろ)き雪の王、銀の翼()て、眼下の大地を白銀に染めよ。()よ、氷結の息吹――――『氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)』!!」

 

小規模やからコントロールが難しかったが上手く発動してまどかちゃんを氷付けにできた。

 

「あちゃー…………これじゃあ、ボクの魔力がもたないや」

「よし! 今だはやて!」

 

千香ちゃんの多数のバリアーが消失したときを狙って私は砲撃魔法を放つ。

千香ちゃんがその魔法に飲み込まれてしまい、姿が見えなくなった。

 

「ふぅ…………なんとか倒せたか」

「全くだ。しかしこれで我が友と戦うヤツらの増援に――――ッ!!」

 

衛くんは咄嗟に私を小脇に抱えて横へ飛んだ。

何事や、と言おうとした刹那。私がいたところが魔力矢(・・・)で吹き飛んだ。

 

…………嘘やろ。氷付けにしたまどかちゃんがもう出とる。

しかも優しい紅の瞳が金色に変わっとる。

 

「氷付けしたはずやで…………」

「ティヒヒヒヒ、あの程度の拘束はちょちょいのちょいだよ!」

「どっかの洗剤のCMのように言われるやなんて…………!」

「どうでもいい。それよりもはやてよ。…………あっちも無事らしいぞ」

 

衛くんが指をさすところにボロボロになったドレスを着たセクシーな千香ちゃんがいた。ボロボロなのはドレスだけでそれ以外の白い肌は無傷やった。

 

「神器使い達は化け物かいなッ」

「いやいや、千香ちゃんとソラくんが例外なだけだよ。普通ならあれを受けたら動けなくなってたよ?」

「そういうまどかちゃんはどうやって私の氷結魔法を解いたの?」

「ティヒヒヒヒ、それは今の私は人間じゃないからだよ」

 

人間じゃないやって? どういうことや、と聞こうとしたら代わりに衛くんが答えた。

 

「『概念化』かッ」

「正解♪ 肉体を概念化させて氷付けから解放されたのでーす」

 

ニコニコ笑うまどかちゃんに私はゾッとした。報告書から知っとったけど、人間じゃないという言葉に私は目の前にいるのは普通の女の子には見えなくなってしまったのだ。

 

「はやてよ、怯えるな」

「ま、衛くん…………」

「確かにまどか殿は人間ではなくなったかもしれぬ。しかし、我が友の大事な人であり、我が友の友。怯える必要はどこにある。そして、我は彼女達や彼を止めるために全力を尽くすのみだ」

 

……スゴい。スゴいで、衛くん。その勇気が臆病風から私を守ってくれる。

 

 

恐れるな。

前を見ろ。

背中を向けるな。

 

目の前の相手だけに集中するんや!

 

「へー、私が怖くないんだ?」

「当たり前じゃん、まどかちゃん。彼と彼女はソラが認めた友達だよ?」

 

嬉しいこと言ってくれるやないか。とっくにソラくんは私達を認めてくれてたんや。

 

 

「ならば私はあなた達の勇気を試そう」

「ならばボクは君達の信念を試そう」

 

「「だからとっと示してみせろ、弱者達よ」」

 

 

私達の戦いはまだ終わらない。

 

 

 

 

 

(アオサイド)

 

 

 

 

 

そんなこんなで、自分のターン!

 

さっさと『無血の死神』に遭遇したティアナ達の増援に向かわなければならないのに、ガジェット達が邪魔をしてきた。

 

てか、なんかいきなりガジェット達が合体して約二メートルの小さな機動戦士になったのは完全に遊び心だろ!

 

しかも何気なく強かったし!

 

『くっ…………このキングガジェットを倒すとは見事。さあ、持っていけ。我がビームサーベルをッ』

「いらねぇよ!!」

 

魔法で完全に破壊した。『青春してるかお前らーッ!!』とどっかのゲジマユみたいなセリフを残して逝った。

 

…………もはや最初からカオスだった!

この気持ちを隊長に伝えたい!

 

「ヴィータ隊長! そっちはどうです!」

『駄目だ! なんか変態が現れてティアナのところへ行けねぇ!』

「変態?」

 

ウィンドに移るヴィータ隊長の映像をよく見ると、なかなかイケてるおじ様写っていた。見た目からして三十路後半くらいか?

 

『ハァハァ……お嬢ちゃん、おじさんと一緒にいこう』

 

訂正。変態だ。しかもフェイトさんと同類の。

 

「んじゃ、その変態の相手は任せました」

『ちょっと待てェェェェェ!? ティアナよりこっちの方を応援に来てほしいんだけど!』

「無理です、嫌です、却下です。なんか知らないけど、変態という存在を見ていると鳥肌が立ちます。嫌な記憶が蘇りそうです」

『忘れた記憶に何があったんだ、お前!?』

『見ろ、このゼストの素晴らしきマッスルをォォォォォ!!』

『ぎゃァァァァァこいつ衛の同類かよォォォォォ!?』

 

ロリコンで筋肉信者とはなにその究極のレッテル。もはやヴィータさんは助からない。

 

 

…………さらばヴィータ。今度はまともな人と出会えよ。

 

 

ま、三秒で忘れるけど。さてとヴィータさんを生け贄にしたからには自分だけでもティアナのところへ向かわなければならない。

 

キングガジェットは現れることなく、「I'll be back……」と呟く筋骨隆々なオッサンが歩き回っていたが攻撃してこない辺り無害だと判断して無視した。

 

そしてやっとティアナがいるポイントに着いた。スバルもいる。

 

彼女達と対峙しているのは一人の青年と紅いドレスの女性だ。

 

「ッ…………!」

 

肌で感じる殺気。幾度の戦いを駆け抜けた猛者が持つモノだ。

 

…………駄目だ。あれは自分達が相手してはいけない。

 

隊長達がいない今、ティアナ達を撤退させるべきだ。

自分は声を出そうとした直後、ティアナが魔力弾を撃ちやがった。

 

「あんの馬鹿がァァァァァ!!」

 

自分が駆け出したとき、ティアナの魔力弾はあっさり回避され、そこへスバルが『無血の死神』に拳を放つ。

 

しかしそれはあっさり受け止められ、今度は『無血の死神』の反撃が放たれた。

スバルがディフェンスを張るが、自分にはその拳が魔力で強化され、一種に凶器になっていたことに気づいていた。

 

自分はスバルに何重の『跳ね返せ(ミラーシルド)』を張った。

 

 

――――拳は普通に殴る程度になり、スバルは吹き飛ぶ形で済んだ。

 

危ない。今のはスバルの顔面が吹き飛んでスプラッタになるところだった。

 

「なにやってんだバカ二匹! 今のシールド張らなきゃ顔がミンチになっていたぞ!!」

「うるさいわねッ。あんたは黙ってなさい!」

 

神器を召喚したとき、ティアナは自分の言うことを無視して再び魔力弾を撃つ準備をしていた。

 

チッ、今のティアナは使い物にならん。司令官が冷静じゃなければただのうるさいギャラリーと変わらない。

 

とは言え、接敵したからには逃げられない。とりあえず神器を召喚した自分はこの場を抜ける策を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……れ……?」

 

腹部からナニカが生えてる。これは…………や、り……?

 

「ワリーな。コッチもコッチで事情があるんだ。一回(・・)死んどけ」

 

さっきの紅いドレスの女性がどうやら自分を刺したようだ。それから意識が遠くなり――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――何もみえなく…………なっ、た……………………




アオくんが死んだ!←この人でなし!
というわけでアオくんは倒れました。しかしまだ死んでいません。
なぜなら彼はあと二回変身を残しているのですからッ(嘘)

さて次回は覚醒者

――――やってくれたな、千香……

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