とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「んなわけあるかァァァァァ!!」

byキリト


第九十二話

(アオサイド)

 

 

まず飛び出したのはキリトだった。ヤツは得意の接近戦へ持ち込むために襲撃者達へ突っ込んだ。

黒髪の女性はそうはさせまいとグロックを構えるが、その前に自分が炎の魔法で牽制した。

 

おかげで女性の発砲が免れたが、今度はピンクの髪の女性が弓を引いた。

 

「いっくよー♪」

 

 

――――刹那、弓に備わった矢だけでなくピンクの女性の周りに矢が展開された。その弦が離された直後、展開された魔力の矢がキリトに向かって飛んできた。

 

自分達がいるところは狭い路地道だ。つまり接近戦を行うキリトは前へしか行くことができない。

そこを狙って、ピンクの髪の女性は魔力の矢をバンバン撃ってきた。

 

「ッ! 鬱陶しい!」

「ティヒヒヒ。ほらほら、まだまだ行くよ?」

 

キリトは矢を回避や切り伏せながら悪態をつく。

マズイ。これじゃあジリ貧だ。今はキリトが防いでいるがいずれは体力と集中力が切れる。

 

「『跳ね返――――(ミラーしる)』」

「させると思って?」

 

自分の背後から黒髪の女性が延髄蹴りを放つ。それを、身体を低くさせて回避し、その場を離れた。

 

「いつの間に!」

「私の神器って時間操作できちゃうのよね」

 

ペロッと舌を出しながら言う女性に向けて、自分は雷の魔法を放つ。

 

女性はその場から消えて、今度は上空でグロックを構えていた。発砲されたが、なんとか前へ転んで回避した。

黒髪の女性が着地した直後、自分の策が上手くいった。

 

「ッ!? 地面が凍って」

「正解!」

 

前へ転んだときに自分は地面に氷の魔法で凍らせていた。この魔法はあんまり得意じゃないため、少し凍らせる程度だが、足を滑らせるには充分だ!

 

あの消えた現象が時間停止なら、足を滑らせた今なら停止することを考えてる暇はないはずだ!

 

自分は雷の魔法を女性に放った。

 

 

「『リリース』」

「えっ…………」

 

自分が放った魔法が女性へ向かわず、こちらに返ってきた。

そのまま魔法は自分に当たりそうになったが、なんとか回避できた。

 

「なんでだ……魔法が戻ったのか?」

「そうね。『戻した』わね。時間操作が停止だけと思わないことね」

 

やられた。時間操作=時間停止だけだと自分は思い込みをしていた。

黒髪の女性は再びグロックをこちらに向けて発砲。

 

自分は加速魔法でなんとか回避した。

 

「ああくそ、厄介だな!」

 

悪態をつきながらどうやって彼女に魔法を当てようと考えていると、カランと金属を落とす音が聞こえた。

そこを見るとキリトが力なく膝についていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ピンクの髪の女性に背中から抱擁される形で

 

「ってキリト、てめぇ! なに呆けてんだよ!」

「ふ、まどかの抱擁を前にして戦意損失しないものはいないわ! あのたわわに実ったお餅に抱き締められて損失しないはずがないのよ!」

「どんなアビリティ!? めちゃくちゃ、うらやま――――ゲフンゲフン。アホらしいわ!!」

「今、さりげなくうらやましいって言いかけたわね」

 

仕方ないでしょ! あんな美少女に背中から抱擁されてうらやましいわけがないだろ!

クソッ、嫌がらせにキリトを魔法で吹き飛ばしてやろうか?

 

そう思っているとキリトが自分に手を伸ばして何かを懇願しているように見えた。

 

「ふん、何をして――――…………ん?」

 

自分はここで疑問に思った。キリトはただの抱擁でどうにかなる男なのか?

いや、それ以前にピンクの髪の女性の服装が戦う前と違う。

 

あのドレス……どこかで見覚えが………………。っ!!

 

 

自分は咄嗟にキリトに軽い雷の魔法を放った。嫉妬の意味ではなく、キリトが自分に何を頼んでいたのかわかっての行動だ。

魔法を受けたキリトは虚ろだった瞳に光が元に戻り、ピンクの髪の女性の抱擁を振りほどいた。

 

「助かったぜ……アオ」

「キリト、何があったんだ?」

 

キリトの説明によればピンクの女性に近づけたが、その後に放った斬撃が『すり抜けた』そうだ。

まるで肉体が幽体化したかのように、そこに『いる』のに『いない』。

 

…………やっぱりか。自分がそう呟くと「どういうことだ?」とキリトが聞いてきた。

 

「変なビジョンが見えたんだ。あの女性の子どもらしき少女が黒髪の女性の子どもらしき少女にリボンを渡して、スゥーと消え去るところをな。一見、関係なさそうに見えたんだが、そうでもなさそうだった」

「どういう意味だ?」

「キリトの見た現象は概念化って言うモノだ。まだあんまりわかんないけど、ビジョンに出てきた黒髪の女の子がそう言ってたんだ」

 

それを聞いたピンクの女性はパチパチと拍手した。

 

「へぇー? よくわかったね。そ。私は神器だけでなく、概念化って言う力があるんだよ♪」

 

「外史で得た力だけど」とピンクの女性は踊るようにワンターンしてから言葉を続ける。

 

「この力は触れるとき以外は実体化しない。それからさっきのキリトくんが意識をなくなりかけたのは私が彼の意識を『もっていこう』としたからだよ」

「そんなことが…………」

「できるよ。私は元々、円環の理という魔法少女を救済して導く女神様。一種の概念化した女神様だからあなたの意識を絶つことも造作もないよ♪」

 

もっとも殺せるというわけでもないけど、とピンクの女性は舌を出してお茶目な笑顔を向ける。その顔は一見かわいらしく見えるが、自分達にとって恐怖の対象そのものだった。

 

――――話をまとめるとこの女性はいつでも自分達を眠らせることができるのだ。しかも、攻撃が一切無意味で干渉することもできない。

 

「さーて、今度こそ眠ってよ?」

 

自分は咄嗟に逃げようとしたが、足がナニカに固定されて動けなかった。

キリトも同じ現象で逃げることができない。

 

何が原因と探していると、黒髪の女性がニヤリと笑っていた。彼女が原因か!!

足の時間を止められたため、その打開策を考えようとしたが、既に遅く、ピンクの女性が抱擁してきた。

 

「もういいだよ。がんばらなくて、いいだよ?」

 

心地よい死神の声に自分の意識がだんだん暗くなる。

 

 

 

――――力が抜ける

――――闇に落ちる

 

 

 

死ぬわけじゃないが、悔しい。このまま彼女達を逃がせばレリックが取られてしまう。

犯罪に使われてしまう。

 

だから――――――――求める。

 

いや求めろ。自分の力を、自分の魂を!!

 

 

自分は手を伸ばした――――

 

 

――――ナニカを掴むため――――得るため――――そして、『手に取った』!!

 

そのとき魔方陣が浮かび上がり、ピンクの女性は退いた。

 

「召喚術!? まさか、神器なのか!?」

 

キリトの驚愕の声がしたがどうでもいい。とにかく自分は神器を掴む。

 

光と共に現れたのは――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――HARISENN……?

 

 

「は、ハリセン?」

「ハリセンね」

「ハリセンだね」

 

上から自分、ピンク、黒髪の感想である。

うん。とりあえず、言わせてもらおう。

 

「なんでさァァァァァ!?」

 

なんでハリセン!? ツッコミをしろと!? 漫才でもしろってことか、ゴッドよ!

 

「あの……ほむらちゃん、なんでハリセンかわかる……?」

「大方、彼女のせいでしょ…………。だって『混沌』だもの……」

 

哀れみの視線を送らないでェェェェェ自分はカッコいい剣とか求めてたんだよォォォォォ!

 

「とりあえず撃っとこ」

「さすがまどか。容赦ないわね」

 

ピンクの女性は問答無用で撃ってきた。あーもう、ヤケクソ!!

 

「せや!」

 

ハリセンで魔力矢を叩いた。

 

 

パシュンッ

 

 

消滅した。え、何がって? 魔力矢が。

 

「え?」

「は?」

 

目を丸くする女性達。いや、自分も目を丸くしてんだけど。

 

「もしかしてキャンセルされたの?」

「だとしたら…………マズイわね」

 

なんか知らないけど、自分は足を叩くとかかっていた時間停止が解除された。もう一度確認のため、キリトにかかっていたヤツも解除した。

 

うぉっ、スッゲー。最近のハリセンって万能なのか?

 

「んなわけあるかァァァァァ!! なんだよ、そのハリセン。キャンセルするとかどんだけ高性能なんだよ!?」

「知るかボケ。こっちが聞きてーよ…………」

 

キリトのツッコミの通り、もはや呆れるしかあるまい。

ま、いいや。

 

自分は嘆息を吐いてから女性達にハリセンを向ける。

 

「さあ、覚悟しろ。こっから先が自分のターンだ」

 

そう言いながら不敵に笑った。




概念化はまどかが外史で得た能力です。まあ、攻撃というより無力化させるためのなので戦闘向きではなく捕獲専用だったりします。ほむらの僅かながらも悪魔の力を持っていたりして(意味深)

さて次回はアオの新たな力の披露です。

――――とは言え、ハリセンだからなぁ……

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