byアオ
(??サイド)
とある研究所の実験室にて、ジェイルことスカさんは封を開けて中の手紙を読んでいた。チンクがその部屋に入ってきて「ドクター」と呼び掛けるが、彼は未だに気づいていなかった。
チンクはそんな彼に怪訝な表情を向けながら、隣にいるナンバーズ4のクアットロに話しかける。
「クアットロ、ドクターはいったいどうしたんだ?」
「ドクターは今、ドゥーエの報告書を読んでいるのですよぉ。あのお馬鹿なオジサンの、ね」
お馬鹿なオジサンとは陸の管理局のトップであるレジアスのことを言っている。彼はスカさんと裏では協力関係である。しかし、レジアスとて管理局の犬。いつ裏切るかわからないため、監視のためにドゥーエを派遣したのだ。
「それでチンクちゃんは何しにここへ来たのぉ?」
「ドクターに『ヤツ』の報告をな。『あの力』は機能はしてないが魔法だけならば千香と同じくらいだそうだ」
「ドクターはなんであの人形に拘るのでしょうかねー? 所詮は余分なモノを持った『失敗作』でしょ」
『失敗作』という言葉を聞いてチンクはムッとした表情になった。『ヤツ』が確かにそう言われても仕方ないとは言え、チンクにとっては弟みたいな存在である。
家族を貶されることは誰だって嫌なのだ。
「ふむ…………すばらしいよドゥーエ。聞いてくれ、クアットロ、チンクよ」
「何か良いことが書かれていたのですかぁ、ドクター」
「そうだよ、クアットロ。これはとてもとてもとーッてもめでたいことだ!!」
スカさんはとても喜ばしい表情だった。それを見たクアットロは期待するような目でドクターに聞いてきた。
「ドゥーエがめでたくゴールインしたッ!」
「「はぁ!?」」
バーンと背景に出るほど、スカさんは手紙を高らかにあげる。
ゴールイン――――つまりドゥーエの結婚報告だったのだ。
「ふむふむ、相手は私達と同じく敵対するテロ組織のスパイ、赤井シュウ君という男性のようだ。どうやらデキ婚という形で入籍したようだね」
「いや、なんでスパイ活動中にめでたくゴールインしちゃってるのですかぁ!? あと、デキ婚ってこんな時期にナニやっちゃってるのですかぁ!?」
「ちなみに手紙には彼の組織は彼自身の手で終わらせたみたいだね。すばらしいよ。たった一人で組織を壊滅させるとはうちでも欲しい人材だよ」
「どんな超人!?」
「そうか…………私も叔母になるのか…………」
「どうでもいいわよ!」
チンクとスカさんのボケにクアットロのツッコミが火を吹く。
「というか、これで二人目ですよぉ! ナンバーズがデキ婚で抜けるなんてふざけてるのですか!?」
「何を言うのかね、クアットロ。これも立派な策略さ。ナンバーズという我々、管理局の敵がこんなふざけた形で彼らの本拠地にいるとは思うまい」
「そ、それもそうですが…………逆に目立つんじゃないですかぁ?」
「いやいや、目立つことはないさ。なんせ、表向きは一般局員と一般局員のデキ婚だから親しい者しか目立たないものさ。それにこの機会に管理局の上層部の新たな情報を得られるかもしれないだろう?」
「確かに…………。そ、そうですよねぇ! ドクターがそう言うなら!」
「うむ。理解してくれて何よりだ。…………ところで、シュウ君からドゥーエのお腹にいる娘の名前を考えてほしいとこの手紙に書かれているのだが。私としては『メアリー』と『ヘレン』のどちらがいいと思うが、どちらがいいね、クアットロ」
「ドクター、さっきの本当に策略ですよねぇ!?」
「それにしても、さすが千香くん。まさかトーレだけでなくドゥーエのために彼とのゴールインをセッティングしてくれるとは…………」
「またあの変態の仕業ですかぁッ!」
実は言うと、四年前にナンバーズ2のトーレは千香のおかげで管理局の一般男性とゴールインしてしまい、今は一児の母となっていた。
当時の彼女は厳格で恋愛という無意味なことには冷淡で切り捨てる女性だとナンバーズのみんなの印象に残っていたが、千香の「女として君は不合格」と言いたい放題言われて、ナニカを刺激された彼女は研究所を飛び出した。
それから一週間後に彼氏ができたという報告がきてスカさんファミリーに衝撃を与えた。お相手は合法ショタで女装可能な男の娘である。
その時のトーレは既に千香の『ショタ』『男の娘』『カップリング』という同人誌に汚染されていたため、こうなったのではないかとソラは推測していた。
出会った当初の彼女は無垢に近かったためか汚染するのは早かったのだろう。
ちなみにトーレを崇拝していたセッテがそれを知ったとき、血涙流すほどその男性に嫉妬していたのは過去の話だ。
「というか、なんでナンバーズが抜けることなのにドクターはそんなにお気楽なんですかぁ!? 戦力が減ってるのですよぉ!?」
「ハッハッハッ、クアットロ。人生はなるようになれというものなのだよ。それが理解できなければ千香くんの変態力には対応できないと思ってくれたまえ。それにしても…………私の孫娘はかわいいなぁ。今年で四歳かぁ…………」
「駄目だこの人。早くなんとかしないと…………」
写真を取り出して自分の孫娘にホクホクするスカさんにクアットロは呆れていた。チンク以外の姉妹達もソラ達によってどこかが変だし、もはや、自分しかまともな人材はいない!!
「トーレ姉様もトーレ姉様です。あんなナヨナヨして頼りなさそうな男に腑抜けされてしまうなんて、どうかしてますわ!」
「――――ほう、うちの旦那が腑抜けだと?」
「そうですわ! だいたいあんなブ男が好み、なん……て――――」
肩を掴まれたクアットロは振り返るとそこには自分の娘の手を引いて研究所に久しぶりに訪ねてきた一般主婦がよく着る洋服姿のトーレがいた。
クアットロはその姿を見て、絶句して顔を青くした。
「ナヨナヨして頼りなさそうなのは認めるがブ男とは心外だな…………。どちらかと言えばかわいい系なのだが?」
「あ、え……? ど、どうしてトーレ姉様がここに?」
「レイがじぃじに会いたいと駄々をこねてな。まぁ、久しぶりに会ってみるかと思ってここに来たが……………………私がどうかしてるのかな、クアットロ?」
「め、めめ滅相もないですわ! 私はドゥーエ姉様の男が――――」
「私のパパが、なんだ?」
声がした方向へ振り返るとそこにはお腹が少し膨れたドゥーエと輪郭の整った顔だちの青年がいた。
「な、なななんでドゥーエ姉様がここにぃ…………?」
「ドクターにパパの顔見せとこれからのスパイ活動をパパに任せるとの頼もうと思って訪ねたのだが……………………私のパパが、なんだ?」
二人の形相にクアットロは尻餅をついてしまった。
方や一児の母、方や妊婦という変わった組合わせだが、クアットロの目には彼女の背景には般若と阿修羅のスタンドが具現化していた。
「ね、姉様達。何とぞお話しを…………」
「「少し、頭を冷やそうか…………」」
「いやァァァァァァァァァァ!!」
クアットロは逃げ出した。しかし魔王から逃げられないのが世の理である。
トーレの高速移動能力のIS『ライドインパルス』でクアットロは周り込まれ、ドゥーエがどこからか取り出した縄でクアットロを捕獲。
トーレは固有武装である虫の羽に似たエネルギー翼『インパルスブレード』を取り出して、ドゥーエは固有武装である『ピアッシングネイル』という爪の武器を取り出した。
「「さあ、O・HA・NA・S・H・Iの時間だ、マイシスター☆」」
「ドクタァァァァァ助けてェェェェェ!」
哀れ、その肝心のドクターはドゥーエの旦那のシュウと談笑していた。
「なんまいだーなんまいだー」
唯一彼女を同情して合掌していたのはトーレの愛娘であった。小さな少女に同情される大人の女性とはこれ如何に?
「ほぉ、なるほど。あのトーレという女性と私の妻にはあなたの因子が埋め込まれていないのか」
「そうだね。トーレはその因子を埋め込む前に研究所を飛び出して家庭を作ってしまったからね。まさか、ドゥーエは婚活という感じでスパイ活動していたとは…………」
「まあ千香という少女に焚き付けられたようだからね。『妹に先を越される姉貴、プップスー(笑)』という一言が決めてで私と結婚を申し込んだね」
「ほほう、やるなマイドーター。それでこれからは君が諜報活動してくれるのかね?」
「快く引き受けよう。義理の父にあたる者を裏切るほど、外道ではないからね」
スカさんはシュウと握手をしていると、白衣をクイクイするレイが上目遣いで見つめていた。
「じぃじ、はなそ♪」
「ククク、よかろう。では今日は何を話そうかね」
「りょーしろん♪」
「……ジェイル。彼女はやはり君の孫娘だよ」
大学レベルについて語り合おうとする小さな少女に、シュウは少しの戦慄を覚えた。なお、ゆまちゃんはトーレの義理の娘になっていたそうな。
現在、トーレの旦那さんのお宅で祖父と遊んでいる。
(アオサイド)
ヤッホー。我らの主人公のアオくんだよーん。…………あれ、違う?
これは所謂世代交代ってヤツさ。それで納得してよ。
とにかく今回のミッションは隊長達の判断ミスだった。新人達に神器使いやマスタークラスを相手させるのはキツすぎるのだ。
本来なら、隊長達が相手するべきなのだがねー。ま、ガジェットを大量に隊長達へ迫ってきたのはそれが理由だろう。
できるだけ実戦に慣れてない相手ならば、数値的に高い可能性で奪えるからな。
だから自分は今回のことは気にしてない。ミスしたら次を行かせばいいと思っているからねー♪
自分がブラブラ歩いていると食堂で落ち込む二人がいた。エリオとティアナだった。
「実力不足はわかるけど…………」
「悔しいですよ……僕は…………」
「なーに引きずってるのかねー、チミ達」
俺が話しかけると二人は意外そうな表情をしていた。俺も落ち込んでいないのがそんなに意外?
「アオさんは気にしてないのですか……?」
「今回の失敗か? 当たり前さ。初めての実戦が神器使いや怪物染みた相手とか、ほぼ無理ゲーだろ」
だから気にする必要はない、と言った。まあ、そんなこと言っても彼と彼女のネガティブオーラは変わらない。
ふぅ、仕方ないな。俺はある人の言葉を借りて励ますか。
「『弱くたっていい、失敗してもいい。だけど前へ進む足だけは止めるな』」
「えっ…………?」
「その言葉って?」
「隊長の言葉さ。あの人って昔はかなーり弱かったみたいだけど、あの人は努力して今を手に入れたんだ。お二人さんはいつまでも、そこで立ち止まってるかねー?」
「「ッ!」」
大袈裟に腕を広げていると、二人は立ち上がってどこかへ行った。たぶん、訓練室だろうな。
「これでいいんですか? 隊長」
「上出来だ。おかげでエリオとティアナは立ち直った」
隠れるように見ていたのか隊長が曲がり角から現れた。話している最中に気づいていたけど、空気を読んでくれていたのか自分達の前には出てこなかったんだと思う。
「しかしあの二人が立ち直ったところで残りの二人が立ち直るモノかねー?」
「残りの二人はアヤツらのパートナーだ。心配あるまい。むしろ、自身と共に鍛え上げようとするだろうよ」
そんなもんかねー? よくわかんないや。自分って『そういう同期』いないし。
「それで隊長様は自分にも自主トレしやがれとか言うのですか?」
「ほざけ。貴様に自主トレは必要あるまい。あの動きは完全に『実戦慣れ』だ。貴様に今必要なのは、新人とヤツとの交流だ」
おやおや、交流深めろ……ねー。ま、こちらも願ったり叶ったりだけど。それよりも俺は気になることがある。
…………そうあれは――――
――――回想――――
北郷一刀と五河四季の戦いが激化した。四季はインファイトでがんばるが、刀と短刀ではややリーチが違うし、一刀は近距離の相手がどうくるかわかっているかのように上手く突き放しながら四季を近づけさせない。
「カカカ、まだまだいけるだろ!? え?」
「んなわけないだろ! てか、なんで俺の動きがわかるんだよ!? ニュータイプかテメーは!」
「今のワシは『王』! そんなこと造作でもないわい!!」
「口調がジジイになってるぞ、オラァ!!」
四季は一刀の一閃を受け流して、側面へ逃れると彼は足払いをかける。それはジャンプで回避されたが、自分はその背中を狙って雷の魔法を放つ!!
「予想通り…………ってか?」
自分が放った雷の魔法が一刀の斬撃で相殺された。
なんてヤツだ。
自分の攻撃が見えていたのか。
一刀は四季を自分のところまで蹴り飛ばした。四季はそれを防御したが、怯んで足を止めてしまった。
一刀はそれを確認してから口を開く。
「ふぅ……複数を相手するのは疲れるな。つーか、一人はものスッゲートリッキーだし」
「よく言うぜ。この馬鹿力ヤロー。こっちも一太刀一太刀受ける度にビリビリ震動が来るんだよ」
四季は呆れながら一刀に悪態をつく。そりゃ、あんなに震えた手を見ればスッゲー力を受けてるのはわかるわ。
一刀は「カーカカッ!!」と笑いながら、抜刀の構えに入る。
「だから、お前らを切り離すというわけさ」
何を、と思った直後。何かを感じた自分は咄嗟に後退した。すると一刀はいつの間にか、俺の目の前に現れた。
一瞬で相手の距離を詰める歩法術――――縮地。
ヤバい、この抜刀術を受けたら即死は確実ッ!!
「さあ、お前からだ!」
刹那、視界がモノクロになる。
キャロの悲鳴が聞こえ、四季は叫びながら自分に手を伸ばす…………が届きそうもない。
自分は死ぬのか?
ここで夢も果たせず、くたばるのか?
『先生』の約束も果たせないまま、斬られるのか?
嫌だ、いやだ、イヤダ!!
そんなの嫌だ。何も成せないまま死にたくない!
自分はまだ死ねない! ここで死にたくない!
そんな自分に迫る斬撃は――――――――身体から逸れた。
否、俺が逸らした。身体をやや仰け反らせて、斬撃をギリギリ回避した。
「ッ!? 回避しただと!」
一刀の驚愕の声が聞こえた直後、視界に色が戻った。その直後、頭痛が起きて自分は膝についた。
…………今のは、まさか……。
「チッ、さやかと同じ技を使いやがって…………」
さやか…………? どこかで聞いた覚えが…………。
「まあいい。そろそろ俺は戦線離脱させてもらおう」
一刀はビー玉くらいの黒いモノを取りだし、地面に叩きつけた。黒い煙で一度見失ってしまった。
「逃がすか!」
四季は一刀を追おうとするので、呼び止めようと思ったが自分の足元にレーザーが飛んできた。エリオのところまで回避したところで煙幕は晴れたが、そこには多くのガジェットが待ち構えていた。
「手伝えエリオ、キャロ。これはちとばかし、キツいぞ」
四季達を追うためにも俺は一刀が言っていたことを頭の隅に置いて、ガジェット殲滅に専念した。
――――回想終了――――
あのとき『さやか』という名前に覚えがあった。記憶にはないはずなのに…………。
自分には幼い頃の記憶はない。あるのは『先生』と一緒に過ごし、修行した毎日だ。両親の顔は覚えておらず、先生によれば既に死んでいるそうだ。
ま、別に知らない両親のことは今はどうでもいいとして。
「先生に渡されたこのアクセサリー…………。これにも秘密があるのじゃないかな?」
なんとなくそう思いながら自分は弄るのだった――――
――――カギのような形をした剣のアクセサリーを
アオのアクセサリーは一体何の道具なのでしょうか?
それは話が進むにつれて判明します。
次回、久しぶりに見たお二方
――――こ、これが百合……!
※千香ではございません