とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「さあ、楽しませろよ!!」

by北郷一刀


第八十八話

(??サイド)

 

 

青い髪の少年、五河四季は合唱して手に持つ短刀に青白い紫電を与える。すると短刀はナイフへと形状変化させた。

 

『錬金術』――――彼は衛と同じ錬成ができるが、全くの別物だ。

彼は前世から――――生まれたときから『真理』にたどり着いていた。

 

つまり『鋼の錬金術師』の特典である『真理の門』を見ていたのだ。

まあ、前世の彼は転生者だったのかどうかはもはやわからないが生まれ持ってしての天才だったのは過言ではないし、ゆえに錬成陣無しの錬成が可能である。もちろん手合せから始まるモノだが。

 

ちなみに彼の神器は右手にある腕輪である。

 

さて、話を戻すが彼の傍らにいる少女は不安そうな瞳で彼を見ていたが、彼は彼女の頭を撫でながら呟く。

 

「大丈夫。十香は大人しく下がっててくれ」

「しかし、あいつは…………」

「強いだろうね。うん、もしかすると十香よりも強いかもね。だけど、殺されるつもりはない」

 

彼がそう言うと、視線を一刀に向ける。

 

「それで『切り裂き魔』がワシをどうするつもりだ?」

「そんなもんわかってるだろ――――『切り裂く』」

 

四季はナイフを逆手に持ち、横一閃へ斬りにかかる。一刀は偶然あったガジェットの残骸を四季に向かって蹴る。

すると、一閃されたガジェットが真っ二つに切り裂かれた。

 

それが、四季の持つ『切り裂く者』の神器の能力だ。

 

概念や魂など知覚できないモノ以外ならば、なんでも切り裂ける神器である。

 

「やっかいだな。だが…………関係ない」

 

確かに強力な神器であるが、要は当たらなければ意味がないし、四季の体格からすれば明らかに力技が苦手でテクニックだけで相手を翻弄するタイプだと一刀は推測した。

 

まさしくその通りに四季は力勝負はせずに、下段からの袈裟斬りをフェイトにした突きや突きと見せかけて拳を月賦に放ったりしてきた。

 

そんな攻撃を一刀は受け流し、防ぎ、反撃に移って四季を遠ざける。

 

(ひねくれ者だな、コイツ)

(チッ、そう簡単に引っ掛からないか…………)

 

それぞれの思惑が交差する中で、一刀が最初に動きだそうとした直後、彼の腕に紫の魔力でできた鎖が巻き付いた。

 

バインド――――魔導士が使う拘束魔法である。

 

「あの黒髪の仕業か!」

 

一瞬だけ、動けなくなった一刀は邪魔をしてきたアオに苛立ちを覚えたのも束の間、アオがニヤリと笑うところを見て気づいた。

いつの間にか四季の姿がなかった。振り返ると彼がすでに、ナイフかは短刀に形状変化させた神器で一刀を一閃しようとしていた。

 

四季の神器は文字通り『切り裂く』。

 

つまり、どんなに硬い武器であっても、魔力強化しようが、人が知覚できるモノであればなんでも切り裂けるのだ。今の一刀は『氣』で身体を強化しており、文字通り鋼の身体だ。

 

しかし四季の神器の前では何も意味をなさない。

 

 

 

ブシュゥゥゥゥゥ!

 

 

一刀の身体はその一閃で、深い切り傷ができて血が吹き出した。一刀が少しよろめく姿を確認した四季はペロリと唇を舐める。

 

「ナイスだぜ、黒いの。おかげで帝王様に切り傷ができたぜ」

「いやー、なんとなくやっちゃったけど怒られずに済んでよかった。卑怯だとか卑劣とか言われて」

「安心しろ。卑劣だろうが卑劣だろうが、それでも目的が果たせるなら俺は別に気にしないさ」

 

アオに誉める四季だが、エリオとキャロは納得してなかった。

 

いくらなんでも、あんな傷を負うほどことをしなくていいだろう!!と言いたかったが、その考えが甘いと自分達は悟ることになる。

 

 

…………一刀が針を傷口に刺したとき、その傷が凄まじい勢いで治癒されたのだ。

 

 

普通の人間とは思えないくらいに。

 

「…………オイ、お前どこの九尾だコラ。反則だろ、それ」

「卑怯だろうが卑劣だろうが目的が果たせるなら良いのだろ? なら、おあいこだ」

「いや、俺の奇襲とその回復。明らかに不利なのが俺なんだけど…………」

「いくぞ、四季くんよぉ!! 『鬼・斬り!!』」

「いきなり大技ッスかッ?」

 

一刀が遠心力を利用した斬撃を放とうとした。

 

「秘技――――『鬼・斬り』!!」

 

まるで大きな鉈が迫るように、巨大な『氣』でできた斬撃が四季に迫る。

 

『氣』――――それは魔力とは違う人間が持つ生命エネルギー。

その力さえあれば、身体の病、傷は容易く治癒できる。さらに身体能力を向上させ、魔力のように刃が作り出せる。

 

一刀がしたのは巨大な魔力刃を作り出すことだ。

 

四季はその巨大な斬撃を切り裂き、無効化したが背後にあったガジェットの数体が真っ二つになった。

 

それを見た四季は冷や汗を流す。

 

「…………ヤベ、これ勝てる気がしないや。けど……お前の身体、面白いな。あとで解剖してやる」

「やれるならやってみな!! さあさあ…………『切り裂き魔』さん。ワシを楽しませろよ!!」

 

水を得た魚のように、一刀は攻撃を開始した。まだまだ彼らの戦いは始まったばかりだ。

 

 

 

(ティアナサイド)

 

 

 

スバルと一緒に内部へ突入した私達だが、ガジェット達の数は少なく、呆気なくレトリックがあると思われる貨物車両へ入った。

 

「あっれー、どこにあんのかなー? ちくせう。なんであたしがレリックの確保なのよ…………」

 

車両の荷物を漁る青い髪の女性がいた。歳はなのはさんと同じくらいだと思われる。

ヘソを見せた大胆な服で、腰にはサーベルがある。

 

あれを抑えれば、どうにかできる。そう思って、私が撃った後、スバルに反対側からの特攻するように指示を出した。

彼女を取り押さえようと動きだそうとしたとき、女性はフゥと息を吐きながらこちらに振り向く。

 

物陰で私達が窺っているのに気づかれた?

 

そんなネガティブなことを考えていたのも束の間、女性は「うなー!!」とくしゃくしゃと髪を荒げながら叫ぶ。

 

「だァァァァァ!! 鬱陶しい!」

 

女性はそう言った刹那、サーベルが二つにしてからその場を二刀流の回転斬り。

積み荷、次々に斬られ始めた。

 

 

――――ちょっ、ヤケクソなって全部斬るつもり!?

 

 

アホな行いに私は口を開いて呆れる。スバルも女性の剣劇に驚いた様子で見ていた。

 

「ふぅ、スッキリスッキリ。これでちょっとは……………………ヤバい、余計にゴチャゴチャなった……」

 

それもそうだ。積み荷のコンテナの中身を全部ぶちまける行為をしたのだ。

ゴチャゴチャになるのは当たり前だ。

なぜか彼女はアホの子だったのではないかという新たな仮説が生まれた。どうでも良いわよね、そんなこと。

 

「うー…………ソラにどやされる。ほむらに嫌みを言われる…………。ああ、どうしよう…………」

 

その場でORZのポーズを取るので、これ以上は不憫なので私はスバルに合図を送ろうとした。すると、女性は突然立ち上がり、手に何かを掴んで掲げる。

 

「レリックみーけッ!」

「「えェェェェェ!?」」

 

私とスバルは思わずツッコミの声をあげてしまった。女性はその声に気づいてこちらに振り向いた。

 

「出てきなよ。隠れてるのはわかってるわよ」

 

完全に気づかれた…………!

こうなったら、と一か八かの賭けに出ようした私はクロスミラージュを握りしめる。

 

「そこにいるのはわかってるのよ――――――――ほむら!!」

 

えっ、と私は女性が指をさした方向を見た。

 

誰もいない? 彼女はいったい何を――――

 

 

「なーちゃって。残念。嘘だヨーン♪」

 

後ろから女性が声がしたときには既に遅し。彼女は私の胸ぐらを掴み、スバルへ向けて放り投げた。スバルは私を受け止めようと前へ出てきた。

 

「大丈夫!? ティア」

「大丈夫よ。くっ…………やってくれるじゃない、アイツッ」

 

そう言って女性を睨む。女性はヘラヘラと笑いながら私達に向かって言い出す。

 

「騙されたあんた達が悪いんでしょ? ヤーイ、引っ掛かったー♪」

「子どもっぽいこと言うじゃない。精神年齢が身体と似合ってないじゃない?」

「うーん、それはあんたの相方も同じことじゃない?」

「大丈夫よ。コイツ脳筋というキャラポジションだから」

「把握したわ」

「ティアは私の味方だよねッ? そうだよね!?」

 

心外そうな表情ですがり付くスバル。訓練学校時代のアンタの作戦を思い出してほしい。全部『突撃、粉砕、勝利』という提案ばかりじゃない。

 

……それを聞いて張飛という『にゃははは』と笑う少女が頭に浮かんだときもあったわ。あれは学校で見た妖精ということにしたけど。

 

「それでお嬢ちゃん達はあたしを捕まえにきたの?」

「アンタとは三つ違いで対して歳は変わらないと思うけど」

「そのたったの三年が生死を分けるのを気づかないのかな?」

 

それを聞いてゾッとした。確かにそうだ。最初の放り投げたときだ。

 

――――もし、あのとき『投げる』ではなく『斬る』ということをされていたら、私は…………

 

身体が震える。死の近さに恐怖した。そんな私にスバルが手を握る。

 

「大丈夫。ティアは私が守る」

 

自信満々にスバルは言う。

 

カッコいいこと言ってくれるわね。

でもおかげで震えは止まった。勇気が出た。

 

――――もう怖くない。戦える。

 

「おー、恐怖に打ち勝ったのかー。お姉ちゃん、ちょっと感動」

 

で・も、と彼女は続ける。

 

「勇気や根性で勝てるほどあたしは甘くない。敵に負けてやるほど、あたしはお人好しじゃない」

 

サーベルを構える女性。私達はそれぞれデバイスを構える。

奇襲は失敗。ならば、後は訓練通りの初めての実戦をこなすだけだ。

 

勝てるかどうかはわからない。むしろ負けてしまうのが常識だ。だけど……負けるつもりはない。勝つつもりで挑む。

 

「満足した? 充実した? なら、安心してとっと死んでよ」

 

その言葉が吐き出されたとき、女性は私達に斬りかかる。




さて次回はさやかVSティアナコンビです。

新人とベテラン。明らかに差がありすぎる戦いが始まろうとしています。

――――さあ、勝てるかな? ルーキ!!

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