by五木雷斗
(ライトサイド)
それは過去の追憶――――
十五歳の彼女は泣いていた。
――――破かれた衣服に
――――男によって汚された身体
俺はただ彼女がゲスな男達に汚され、踏みにじられていることしか見ていることしかできなかった。
自分には力があった。
けど、それを使うのが怖くて、彼女に拒絶されるのが、怖くて…………。
結果、彼女は『人ならざる者』になった。
俺と同じ――――いやそれ以上のナニカになった。
後に俺と彼女が使う力を『神器』と知ることになる。
彼女はワラッテいた。
狂ったように、この世の全てに絶望していた。
俺はそれに見るに耐えられず倒れた身体を立たせる。そして抱き締めた。
「ねぇ、私が殺したんだよ? スゴいでしょ?
褒めて、誉めて、ホメテ♪」
彼女が殺したのはゲスの男達のことだ。
八つ裂き、破裂、皮を剥がれされた死体が辺りに散らばっていた。
ああ…………こうなるくらいなら俺が化け物になるべきだった。勇気を出すべきだった。
しかし、それは全て後の祭り。
ここに『混沌の神器使い』が誕生したのだ。
――――魔女が産声をあげたのだ…………。
笑顔の彼女に俺はいつものように頭を撫でて言った。
「スゴいね、エールは」
彼女は皮肉にもいつものような満面の笑みで喜ぶのだった…………。
(雷斗サイド)
さて、追憶からエピローグ的な話をすれば安次郎は月村縁の警察署に連れていかれ、イレインは修理されて変態になった。
…………誤字ではない。マジで変態化した。
いくら修復不可能から直そうと思ってエールに修理を任せたのは間違いだった。今のイレインはまさしくドMの化身である。
事あるごとに俺に踏んでくるようにせがんでくる。
…………変態と絡む運命から逃れられないのか?
まあなんにせよ。イレインが直った後、俺は月村すずかに月村家に招待されることになった。
…………面倒な予感がプンプンするぜ。
☆☆☆
今、俺は月村忍と月村恭也の二人と向かい合って座っていた。傍らにはそれぞれ付き人がいた。月村サイドには姉妹型のメイドの自動人形の二人。
俺サイドには同じくメイドで頭には猫耳を装着し、ノーパンノーブラの状態の変態がいた。ぶっちゃけ言えばエールである。
なぜ俺が彼女が下着無しのことを知っているのかは今朝、宣告したからだ。確認させようと俺の前でメイド服を脱ごうとしたところで、我が渾身のストレートで阻止できた。
そのとき彼女の悦んでいた顔は悪夢である。ドM万歳なヤツである。
…………ホントなんだこの百八十度違うメイドは。
「か、変わったメイドさんね…………」
「んなわけあるか。こいつはただの変態だ。んで、俺を呼んだのはどういうつもりだ?」
「さりげなくトンデモ発言したわね…………。まあいいわ。あなたに話したいことがあるのよ」
話と言うのはきっと月村すずかのことだろう。なんとなくだが、人ならざる者の気配がしたからな。
「それは月村すずかのことか?」
「…………どこまで知ったの?」
「初対面の頃から月村すずかが人ならざる者以外しか知らない。それに貴様らのことがどんな存在かどうでもいい」
俺にとって興味ないことである。不服そうな月村恭也だが、月村忍に遮られ、グッと堪えたようだ。
「じゃあ、私達のことには干渉してない……って言いたいのかしら?」
「然り。俺にとって肝心なことはテメーらが俺の敵であるかどうかだ」
「…………仮にそうだったらどうするつもり?」
「殺す。一族、関係者、または親戚全てを殺すつもりだ」
その言葉に月村恭也と付き人のメイドは険しい顔をしていた。俺が本気だとわかっているようだな。
「血も涙もないわね…………」
「あいにく、そうしなければ復讐する輩がいたのでな。そうしないと気が済まない」
「ヒューヒュー♪ カッコイイ~♪」
「黙れ変態。豚は黙って鳴いてろ」
「ああン♪ 罵倒が痺れるぅ~♪」
興奮する変態はスルーして俺は再び会話を戻すことにした。
「用件はそれだけか?」
「いいえ。あなたには契約をしてなければならない」
「契約? ああ……なるほど。化け物のことを口外しないことか。馬鹿馬鹿しい。そもそもこんなことを信じる愚か者がいるとは思えないな」
「残念だけど世界中にチラホラいるのよ」
「…………ホントに世界はくだらない」
前世と同じように世界には理不尽と欲望が渦巻いている。
だから俺は世界が嫌いだ。
弱者をいたぶる強者の世界があるように。
理不尽が許され、免罪で裁かれる世界があるように。
悪が善人を蹂躙する世界があるように。
…………だからこそ、俺は弟子のあいつが輝いて見えたのかもしれん。
戦場で夢物語を目指し、理想を語るバカ弟子の光が眩しく見えたのだ。
…………あいつは今ごろ何をしているのだろうな。
「契約の内容は?」
「婿入り」
「却下」
「私の妹がブサイクと言いたいの? ねぇ、そう言いたいの?」
「忍、彼にグロックを押し付けないでくれ!」
月村恭也は月村忍を羽交い締めして止める。ギャーギャー喚くこの女に俺は彼に同情していると、月村すずかが入ってきた。
「何しにきた」
「えっと……雷斗くんが心配で……」
「必要ない。これくらいで動揺するほど修羅場を潜り抜けていない」
「そ、そうなの?」
「そうだ。エールの馬鹿に三百匹くらいのヌーの群れに突き落とされたことに比べれば軽い」
「比較対象がルナティックレベル!?」
まだこれでもノーマルなんだが。ちなみにルナティックレベルはオカマ集団に単身で乗り込むことだった。
エールの馬鹿がお姫様気分で捕まったせいで助けるのに大分苦労した。
「とにかく俺は契約しない。したければケーキを寄越せ。寄越せば婿入りバッチこいだ」
「安ッ! ケーキで人生を捧げるの!?」
「駄目だよライト。ケーキ程度で人生を捧げたら駄目だよ。せめて一年分くらいだよ」
「ブルジョワな月村家には安い対価なんだけど!」
「「なん…………だと!?」」
「この人達の貧乏性はよくわかんない…………」
クッ…………これがブルジョワか! 俺の週一の楽しみはパンケーキなんだぞ!
ケーキなんて三ヶ月に一回食べれば贅沢だったんだぞ。
「それなら私の夫なんか、家族が喫茶店を営業してるから毎日ケーキ食べれるわよ」
結婚してくださいお兄様!!
「土下座でプロポーズ!? つーか、男だから無理!」
「というか人前の夫にプロポーズしてんじゃないわよ」
月村忍に怒られた。いや、そりゃそうか…………。
「ちなみに喫茶店でケーキを作ってるのはこのお姉さま」
「恭也様、わたくしめにこのお姉さまを紹介して!!」
「いや無理だし、それ見た目若いけどうちのお母さんだし!!」
「くそォォォォォ理想の女性が既に既婚者だったとはわァァァァァ!!」
「アハハハハ♪ やっぱりライトいじりはケーキ関連だね♪」
エールに何か言われているが気にしない。くっ…………まさかものの三秒で失恋するとは。
さらば今世の初恋よ…………。
「…………なんか面白いわね、この子」
「これがさっきまで殺気を出していたヤツなのか?」
「恭也……いくらお父さんだからって親父ギャグにはしるなんて」
「ワザとじゃないぞ!?」
月村忍もノリに乗って月村恭也をいじり始めた。彼がいじられるとは思わなかった。
まあ、なんにせよ。
「私をこの鞭でシバいて!!」
「なんでやねん!!」
「ああン! たぎってきたァァァァァン!!」
誰かこの変態を止めてください。
※無理です
by作者
☆☆☆
さてさて、契約は結局結ばなかったが取り引きに応じた。
月村恭也の家族にケーキをご馳走になる代わりに俺は月村家の秘密を守ることになった。
ここで断れば俺はあの有名店である翠屋のケーキが、シュークリームが食べられなくなる!!
この取り引きは絶対に守る。ちなみに月村すずかはこれを聞いて「私の魅力はケーキ以下なの…………」とORZ状態になった。その後に月村忍に何かを唆されて、目に火を灯し始めて立ち直ったそうだ。
何を唆されたかを月村忍に聞いてみると彼女は微笑を浮かべて「ひ・み・つ」と言いやがった。
わけがわからないよ。なので
月村家を後にしたときに悲鳴が聞こえたが、俺はナニモシラナイヨ?
「いやーライトが復活して私は嬉しいよ♪ これで退屈してこの世界を混沌にして壊さなくて済んだよ」
「さらりと恐ろしいこと言ったな。てか、お前。俺が転生するまでいろんな世界をむちゃくちゃにしたのか?」
「うんうん、いろんな人から非難や罵倒されて結構心地よかったなぁ。まあ、せっかく作った同志ごと滅ぼしてしまったのは失敗したと思うなぁ」
相変わらず狂ったヤツだ。
いや狂わせたのは俺か…………。
あの犯された日から彼女は狂ってしまった。
彼女の神器――――『道化師の心』はありとあらゆるモノを
理や概念、ルールでさえ彼女にかかれば全てが台無しになることさえある。
こいつの肌がシワくちゃになっていないのはこの神器で『生命』という概念が狂ったからだ。
歳は取らない、死ぬこともない――――まるで『神様』のような存在。
彼女を倒せるとしたら概念殺しができる神器か、あるいは『楽しい』という感情を人類から消すしかない。
後者は『道化師の心』は本来、世界を楽しませるオモチャだからだ。だから喜怒哀楽の『喜』と『楽』をこの世に存在する人類から消さなければならない。
まあ、絶対に不可能だが。
それに、俺があのとき――――力を出していれば彼女は救えたはず…………。
「後悔しても仕方ない…………か」
そうだ。それでも俺は前に進むべきだ。前世からそうだったじゃねぇか。
――――たとえ全人類が彼女の敵になったとしても
――――たとえ世界が彼女を否定しようとしても
――――たとえ彼女が俺を裏切ろうとも
――――俺は彼女の味方であり続ける。
それがあのとき交わした約束なのだから。
「あ。ちなみに今日からライトの家に住むから」
「なんですと? なら、早く封印術式を設置しなければ」
「ふっふっふっ…………この究極の変態に不可能な夜這いはない!!」
「よし、縛るか」
「ああン、イケずぅ…………」
とりあえず今日から貞操の危機の毎日が始まろうとしているということだ。
…………思い出さなきゃよかったなぁ。そうすればこいつは近所のお姉さんのままだったのに。
(エールサイド)
転生した彼を見つけた。
もう離さない。離してたまるものか。
彼は私のモノだ。大事な大事な遊び相手だ。誰にも渡さない。
仮に彼が誰かを愛したとしよう――――ならば私も彼を愛した人も愛そう
仮に彼が誰かを殺したとしよう――――ならば私は彼を報復から守ろう
仮に彼が壊れたとしよう――――大歓迎。私と同じだ。
私には彼しかいない。ライトしか昔の私を知らない。
そう、彼は私の思い出なのだ。思い出を失いたくないのは誰だってそうでしょ?
それが家族であれ、恋人であれ、友人であれと…………ね。
だから私は見つけたときに彼の『生命の概念』をねじ曲げた。これで彼は私と同じく死なない。二十歳後半からとらない。
――――つまり不老不死の牢獄に彼を私は閉じ込めたのだ。
そのことを帰ってる最中に彼に言ったら怒られた。まあ、勝手なことをしたからねー。でも結局は許してくれた。
やっぱりライトは優しいよ。
私からしたらこれがハッピーエンド。彼が私のモノになって終わる幸せな終わり方。
みんなからしたらバッドエンドかもね。ライトの想いを気にせず勝手なことをしたからね。まあ、私がライトを見つけたときからバッドだね。
でもどうでもいいい。他人がどう思おうが私は彼を手に入れたからそれでいい。
――――今日も私はワラウ。彼が私の手を握って家に帰っていく。
今日から幸せな毎日が――――『混沌』とした毎日が始まるのだから。
(ライトサイド)
それは遠い記憶――――
彼女が忘れ去ったかもしれない記憶――――
「ねえ、もし私が世界中を敵にまわしたらライトはどうするの?」
「見捨てる」
「即答!?」
「冗談だ」
いつものように冗談を言うと彼女は頬を膨らませる。だから俺は正直に答える。
「そのときは俺が一生味方でいてやる。たとえ、どんな相手だろうと、どんなことがあってもお前から離れないし、裏切らない」
そう答えると彼女は指切りをしようと小指を出した。
「約束だよ♪」
「ああ、約束した」
綺麗な青空が広がる世界で俺は彼女と忘れることのない約束を交わした。なぜこんな約束したって?
――――彼女は俺に『光』をもたらした希望なのだからな
エール「以上! 彼の復活劇でした!」
雷斗「余計なことを…………」
エール「えー? うれしくないのー?」
雷斗「んなわけあるか。作者を閉じ込めやがって……。おかげで本編が遅れることになったぞ!」
エール「にゅふふふ、別にいいじゃん。ライトはストライカーズの後半辺りから出るんだもん。知らない人がいたら困るじゃん」
雷斗「そういうお前も出るじゃねぇか。…………大人しくしろよ?」
エール「カオスの淑女に大人しい文字はない!」
雷斗「黙れ」バチチチチチチ!!(十万ボルト)
エール「やーん、痺れるゥゥゥゥゥ!! ハァハァ…………気持ちいぃ…………」
雷斗「はぁ…………こいつの変態ぶりを続けたら疲れる。さて次回はやっとストライカーズだ。
色んなヤツの視点とそして主人公達の邂逅を楽しみしてくれ」
エール「ライトぉ…………もっとぉ~」
雷斗「……………………」(我関せずモード=スルー)