byノエル
(転生した男サイド)
ふと目が覚めた。ここはどこで俺が何者なのかを確認する。
…………なるほど、俺が何者かがわかった。いや
全く…………転生してからは記憶を消去してもらったのに、これでは台無しじゃないか。
まあ、台無しにするのが彼女らしいが。
それにしても片腕を切り落とされるとは思わなかったし、身体も切り裂かれるとは思わなかった。
まあ、神器で止血したから問題はないが。
さてさて…………面倒なことに誘拐されたあの小娘を助けにいかないとな。出ないと彼女が先に壊してしまいそうだ。
(すずかサイド)
また誘拐された私は手足を縛られ、ジッとしていた。大人しくしていた理由は別に助けが来ると期待していたわけではない。
――――人が死ぬところを目の前で見てしまったのだ
――――しかもその人はアリサちゃんの…………
私はどうしてお気に入りの喫茶店でお話をしようと思ったのか後悔した。家ですれば誘拐されることや彼が殺されることはなかったのに!
私は罪悪感に苛まれていると知ってる人とその取り巻きが現れた。
「安次郎おじさん、まさかあなたが…………!?」
「察しがいいな、すずかちゃん」
この人はかつて私達の財産を狙って何度も襲撃してきた同じ夜の一族だ。最近は大人しくなっていると思っていたが、油断していた。
今度も私達の財産狙いかな?
「違う。ワタシの狙いは君の二人のお人形さんさ」
ノエルとファリン? なぜと聞くと仮面をつけたが答えた。
どうやら彼女は彼に協力しているらしく、異世界について話したらしい。その話を聞いたおじさんは魅了され、異世界に進出――――いや侵略を決意したらしい。
異世界の行き方はどうやら仮面をつけた女性が知っているらしく、後は戦力となる兵器が必要なんだとか。
「そしてワタシはその世界の頂点に立つのだ!」
「安次郎くん、その台詞は明らかに三流が吐くモノだから」
「うるさい。一度くらい言ってみたかったのだよ」
この会話だけなら自分の身に危険がなさそうに思えるが彼と彼女の背後にいる三体自動人形が武装している。そのうちの一人は明らかに異様なくらい人間身を帯びていた。
おそらく、人質の間は私を傷つけるつもりはないようだ。
その後、おじさんと仮面の女性がこの場を見張りを任せて離れた。
さてと…………行動しますか。
私は見張りを目を離した隙に胸に隠した紅い丸薬を取り出して飲み込む。
これは血でできた丸薬だ。夜の一族は貧血になりやすいがため、吸血行為や血を飲まないと本来の力が発揮しない。
私はお姉ちゃんとは違って知識方面より力関係の方面が強い。
中学生のときにやんちゃな男子に『ゴリラ女』とからかわれたときに笑顔でアイアンクローをくらわせたのも良い思い出だ。
私は夜の一族の力を発揮して縄を引きちぎり、見張りの男達を失神させた。彼らは偶然にも地図を持っていたのでそれを持っていくことにした。
誘拐されてから鍛えておいてよかった。私はそう思いながらここから出ようと隠密のように走り回る。
誰にも気づいていないのでそのまま出口へ向かう。
「意外に早かったな」
出口の前におじさんと自動人形がいた。待ち伏せされていた…………?
いや違う。彼はわかっていた。
このとき私は迂闊だったと気づいた。
見張りの男が持っていたあの地図は
あえて仕掛けたのだろう。
私が逃げ出す気があるかどうか確かめるために。
「こうなってしまったのは仕方ないが。君の手足が無事じゃ済まなくなったな」
彼は二体の自動人形に私の手足を切断するように命じた。
ブレードが迫ってきたが、紙一重でかわして一体目のブレードがある腕の関節を破壊して二体目のブレードを回避した。
二体目に足払いをかけてそれから胸に向けて踵落としを決めて心臓部を破壊した。
自動人形の心臓部は活動動力源となるモノがあり、それを破壊すれば自動人形は活動停止する。
まあものスゴく固いから踵はズキズキするがそれは仕方ないと諦めておこう。
すると一体目は私を捕まえようと無事の手を伸ばすがそれを利用した背負い投げで地面に叩きつけて心臓部をまた足で破壊した。
…………あのパイレーツの料理人の足技に憧れて足を鍛えてよかったと思う。
おかげですずかさんは鉄をも曲げる足になりました。
「やるねぇ…………。まあ予想通りか。イレイン」
イレインと呼ばれた人間身を帯びた自動人形が前に出た。…………彼女は強い。もしかすと恭也さんくらいかもしれない。
私は地を蹴り、イレインに向けて上段蹴りを放つ。
「甘い!」
アッサリ掴まれ、投げ捨てられた。すぐに立ち上がろうとしたが肩にチクリとした痛みがした直後、力が入らなくなった。
「し、痺れ薬…………?」
「そうさ。テメーみたいなチョロチョロしそうなガキを動けなくさせるためにってな」
イレインは私にブレードを降り下ろす。
身体は動けない。力も入らない。
私はこのまま手足を切断され、自由に動けなくなり、そして人質として利用されてしまう。
気丈に振る舞っていた私だが、そのことを考えているとポツリと言葉が出た。
「誰か…………助けて」
「わかった。それが今回の依頼だな?」
聞き覚えがする声がした刹那、イレインは蹴り飛ばされた。数回バウンドした彼女は受け身をとり、蹴った犯人を睨み付ける。
私はイレインを蹴り飛ばした犯人を知っている。
――――茶髪で片腕がなく
――――切り裂かれた服と何かで焼かれた切り傷
そして本来なら黒目のはずの瞳が
「誰だいテメーは!」
イレインは激昂する。それに対して彼は静かにそして冷たい声色で答えた。
「五木雷斗。またの名を――――
――――『閃光』のライト。ただの神器使いさ」
黒いマントを着た彼の身体は雷で帯びていた。
(雷斗サイド)
状況を確認。
敵は二人。戦力になるのは一人のみ。
ヤツを殺ればなんとかなりそうだな。
久しぶりにこの神器にと共に戦うことになるとは思わなかった。本来なら転生したことで
転生したことで魂も変わっているからな。しかし、前世の記憶を思い出したことにより、変わった魂が前のように元に戻った。
…………望んでいなかった復活を果たしてしまった。
これが終わったら切腹しようかなとさえ思っている。
「このクソガキがァァァァァ!!」
なんかぶちギレた美人さんがこちらに斬りかかる。何もかもがスローに見える。
光速移動も可能とするこの神器に一般より速い程度ではスローでしかない。
俺は次々にくる斬撃を回避し、隙を見つけるとすぐに持っていた縄でイレインという女性の背後から首を縛りあげる。
「効かねぇ……よ!!」
「危ない!」
月村すずかの叫びに反応して咄嗟に身を退いたが、なんとイレインの腕にはマシンガンが内蔵されていた。
数弾くらいが身体に当たってしまった。腹部が貫通して痛い。
「弾で腹を貫かれたのにまだ動けるとか化け物かよ…………」
「人間じゃないお前に化け物と言われたくない」
「うるせぇ!!」
反論とばかりに乱射してくるイレインの銃弾を回避する。しかし、受けた銃弾のため回避行動に支障をきたしているため、何回か掠る程度になっていた。
「月村すずか。こいつはなんだ? 人間じゃないのか?」
「自動人形というロボだよ――――ってそれさえ知らずに戦っていたの!?」
「当たり前だ。俺は全てを思い出してからここにきたばかりだが、こんなブリキ人形は初めてみた」
「じゃあどうやって倒すつもりだったの!?」
「問答無用に八つ裂きすればいいのかと」
「わけがわからないよ!」
月村すずかのツッコミを聞いているといきなりワイヤーみたいなモノでイレインに捕まえられた。ヤツは勝利を確信しているのか笑っていた。
…………馬鹿め。それは悪手だぜ。
「『なんちゃって十万ボルト』」
「うぎゃァァァァァ!?」
放電したことでワイヤーから伝って感電してしまい、イレインはふらふらと立つのがやっとな状態になった。
「くそ……こんなはずじゃ……」
「隙ありんす」
「ガッ!?」
俺のボディブローがイレインに直撃してくの字に曲がって飛んでいく。
「こんのクソガキがァァァァァ!!」
マジ切れしたイレインは斬りかかってきた。さてと、そろそろフィナーレといくか。
俺は手に雷を集中させ、手刀を構えて一刀の刃が完成させる。
バチチチチチチチ!!
本来ならば手刀じゃなくてクナイを使うのだがないモノをねだって仕方ない。
俺はそのまま高速移動し、イレインの胸にめがけて雷の刃で貫く。
「ガ…………ガガ…………」
糸が切れたようにイレインは倒れる。それを見た中年の男は逃げ出そうとしたが、光の鎖で拘束された。
…………これはなんの魔法だ? 初めて見る形式だな。
「『バインド』。魔導士が使う魔法だよん」
仮面つけた
月村すずかは彼女に対して警戒の色を強めている。そりゃそうか。俺を殺しかけた女だしな。
パチパチパチ
「いやー見事な抹殺だったねー♪ イレインちゃんが倒されちゃうなんて私も予想外♪」
「………………………」
「にゅふふふ、久しぶりに君の勇姿が見れて興奮しちゃった……。どう? この後、私と――――おぶ!!」
俺はヤツが言い終える前に、目の前まで踏み込んで仮面を破壊するほどの威力で顔面を殴り付けた。数回バウンドして壁まで叩きつけた後、見張りが持っていた手榴弾をヤツに向けて投げ捨てた。
ドガァァァァァン!!
よし、爆殺完了。
「や、やり過ぎじゃないかな?」
「甘いぞ月村すずか。ヤツはこの程度で治まる変態じゃない」
「いや変態って…………え?」
月村すずかは爆破された方向に目を向けると、唖然としていた。…………ヤツが爆弾でミンチになってないからな。それはもはや普通の人間じゃないことだ。
「ああン……相変わらず激しい人だねーん」
「チッ、この程度じゃ死なないか…………」
「それは再会した幼馴染みに言う言葉なのー? ぶーぶー」
「ほざけ人外を越えた究極生命体。お前を殺せるヤツはもはや概念殺しができる化け物共だけだ」
俺がそう言うと彼女は嬉しそうに、懐かしそうに微笑む。
エメラルドのようなに輝く緑色の髪。女性らしさをハッキリしたスタイル。
…………一番の異常な部分があるとした胸囲だな。魔乳だ、魔乳クラスだ。
まあ…………なんにせよ。
「久しぶりだな、エール」
「今はノエルって名乗ってるんだけど、ライト」
かつての幼馴染みは皺一つない変わらない美貌で俺と再会を果たした。
ノエル「にゅふふふ…………計画通りなりよー。いやー彼の転生体を見つけたときは胸が高鳴ったよ。
だって彼は私の大のお気に入りなんだもん。彼がいない人生はどんなに混沌をもたらしても楽しくなかったんだもん。
だからどうしても思い出してほしかったんだー♪
だから私は『普通の彼』を殺すことを計画した。元から私の干渉があったから徐々に思い出していたけど待てなかったんだよねー。
まあ安次郎を利用したかいがあったものだよん♪
おかげで『閃光』は復活を果たしたのだから。
さて次回はエピローグ。
――――とある転生者の憂鬱な日々が始まろうとしていた♪」