by五木雷斗
(雷斗サイド)
――――夢を見ていた。
それは荒野の話だ。青年が教えていた少年が青年の元へ帰ってきた。
青年は少年に戦うように仕向けていた。これから起きる戦争のためらしい。
しかし、少年はそれを聞こうとしない。彼には彼の理想のためがあるのか、人殺しはしたくないようだ。
少年の理想は間違ってはない。ただ戦争においては不可能なことだ。
命のやり取りの地で殺さず、敵を倒すことは愚か者だと俺は思う。
いつか、きっとそれは少年自身が命の危機を体験することになる。
案の定そうなった。
…………そして、青年が少年を庇う形で彼を守った。
少年は自分のせいだと何度も何度も青年に謝る。しかし青年は最期の最後で彼の頭を撫で、自分が持つ力を託して笑顔で逝った。
残された少年は呆然としていた。周りの敵らしき人物は嘲笑し、少年を殺そうとしてきた。
――――そこで修羅が一人生まれた。
少年は自らの理想を否定し、人殺しした。もはや彼に迷いはなく、後悔もなく、ただ敵を蹂躙した。
命乞いや逃亡も関係なくの皆殺しだった。
青年が死んだ後に行われた大虐殺はなんと皮肉なモノだったか…………。
そうしているうちに少年に近づく女性がいた。
そう彼女は――――――――
☆☆☆
アリサ先輩の誕生日パーティが過ぎた後、俺は今度は月村先輩に連れられて喫茶店に来ていた。
なぜ俺がここにいるのか?
理由はアリサ先輩のことについて話したいことがあるそうだからだ。
最近のアリサ先輩はおかしい。
ふざけた発言をしてるのに、制裁はなくただ呆れるだけになったのだ。
あり得ぬ。あの激しいという代名詞のアリサ先輩が制裁することがないなんて。
さては偽者だなと言ったらアイアンクローされたけど。
しかも事あるごとに俺に話しかけては笑顔になったりと顔を紅くしたりと感情が他の人に向けるよりも表れていた。
まさに解せぬのこれ一言である。
そういうわけで月村先輩に相談したら、休日に指定された駅の近くに来るように言われた。
とりあえず行ってみると喫茶店に案内された。彼女はコーヒーを頼んだので俺も頼んだ。
「アリサちゃんが最近おかしいのは知ってるよね?」
「はい。理由がわかるのですか?」
「もちろんだよ。何年、幼馴染みをしていると思ってるの?」
「半年くらい」
「それは五木くんのことじゃないかな?」
そうだった。さて、冗談はこれくらいにして真面目に彼女の話を聞くこととしよう。
アリサ先輩はどうしてああなったのですか?
「それは君が原因だよ」
「俺…………ですか?」
「うん。アリサちゃんはあなたに惹かれ始めているんだよ」
な、なんだってー!?(棒読み)
はい、なんとくわかってました。だって最近あの人が見る目が熱っぽいもん。
まあ、あんまり自信がなかったから確信していないが。
「だから率直に聞くよ? アリサちゃんのことをどう思っているの?」
「狂暴だった頼りなる先輩」
「それは…………ホントにそう考えてるの?」
「それ以外にはありませんねー。あの人は俺に好意があるのはわかりましたが、自分はよくわかりません。卑怯かもしれませんが俺は『恋』とか『愛情』というのがわかりません。…………なんせ記憶喪失ですから」
俺は月村先輩に記憶喪失のことを話した。両親がどこにいるのか、どんな人なのかわからないし、愛のことがよくわからない。
…………
「それは…………」
「まあ、唯一の救いは友達がなんなのかをわかっていることですかね。今のところ友愛が強いってところです。だから嫌いとかそういうのはないですから安心してください」
俺がそう言うと月村先輩は何かを考え込んでいた。俺の記憶喪失に関してだろうな。
まあ、考えたところであんまり意味ないと思うのだがねー。
「…………記憶を取り戻そうと考えたことはないの?」
「取り戻せば何かメリットがあったら考えてましたよ。それに取り戻して『俺』というモノが失って昔の『俺』になってしまうのがイヤなので」
そう言って俺はコーヒーを含む。月村先輩は「これは強敵だよ……アリサちゃん」と呆れていた。
強敵って俺は普通の一般人なんですが、戦えと申すのかこの人は…………。
☆☆☆
「今日はありがとうね」
「いえいえ、美少女とお茶ができて目の保養ができましたから」
「それは素で言ってるのかな?」
「基本本音はぶちまけるのが俺のモットーなので」
ちょっぴり照れた月村先輩に癒しを感じながら俺は彼女と別れた後、そのまま帰ろうと足を運んだとき、背後から月村先輩の悲鳴が聞こえた。
…………なぜか知らないが悲鳴がしたところへ向かってしまった。そこには黒のワゴン車に乗せられそうになった月村先輩がいるではないか。
咄嗟に飛び出した。
頭では引き返せ、戻れなくなるぞ、と声がする。
――――それがどうした。わかってるんだよ。
無謀かもしれない。
不可能かもしれない。
だけど逃げ出すわけにはいかない。俺の魂がそう叫んでいた。
俺は月村先輩を乗せようとした男にタックルをくらわした。そいつが怯んだ隙に彼女の手を掴もうとした。
ザシュッ
右手の感覚が無くなった。
月村先輩の手を掴んでいた手が切り落とされた。
激痛で顔が歪むが切り落としたヤツを睨み付けた。
――――その人のことは、俺は知っていた。
否定したかった。嘘だと思いたかった。
だってその人は――――――――
――――――――俺に世話を焼いてくれた女性だったのだから。
ズバッ、ブシュー!!
今度は身体を切り裂かれた。
沈む、シズム、しずむ…………。
意識が…………失う…………。
このまま俺は…………しぬ、の…………かな……………………。
(??サイド)
さて今宵始まるのは復活劇。
誰が少年は無力だと決めた?
誰が少年は普通だと決めた?
誰が少年は死んだと決めた?
ここからが本番だ。壊れた女性が殺したのは『普通を望む少年』だ。
ではその少年から生まれるものを紹介しようではないか――――――――
目覚めるの『無血の死神』を育て上げた男。
光速を体現する者なり。
ノエル「さあさあ、これから始まりますのは彼の復活劇!
私が望んだ劇場!
悲劇なんてない、喜劇なんてない、笑劇なんてない――――ただの復活劇さ!
次回、月村すずかの脱走劇。
――――あれ? まだ彼は出てこないの?」