遊戯王 渓谷の戦士   作:Σ3

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「前回は闇の決闘者(デュエリスト)みたいな人と決闘(デュエル)して勝ったよ!」

『一体何者だったのだあの男は…』


第6話《丸藤亮と翼の動揺》

昨日の事もあり翼は熟睡をしていた。

 

「えへへ…」

 

見ている夢は、ある日突然男らしくなって皆から尊敬されるという翼の願望が詰まった夢だった。

 

すると何処かのドアが乱暴に叩かれる音で翼は起きた。

 

「なんだよこんな朝早く…」

 

『貴様がいつも起きる時間より遅いぞ』

 

「えっ?あっ、本当だ」

 

翼は上半身だけ起こし目覚まし時計を見ていつもより長く寝ていたことに気づいた。まぁ昨日は深夜に廃寮に出かけて闇の決闘(デュエル)もどきをしたのだからしょうがない。

 

「まぁいいか、今日は学校は休みなんだ」

 

『休みならなぜ今日はこんなに煩いのだ?』

 

「知らないよそんな事…」

 

翼はもう一度ベットに入り二度寝しようとした。

 

『少し見てくる』

 

ミスティルは外の音が気になり外に出た。すると外では軍隊のような連中が遊城十代と丸藤翔を攫っている最中だった。

 

ミスティルは直ぐに二度寝を始めた翼に報告した。

 

『遊城十代と丸藤翔が何処かへ拉致されていった』

 

「なんでそんなことに!?」

 

翼はそれを聞いた瞬間上半身を起こして驚いた。翼の眠気は一気に覚めたようだ。

 

『さあな』

 

「…!廃寮だ!昨日の事がアカデミアにバレたんだ!」

 

『それしかないな』

 

すると翼は急いでアカデミアの制服に着替えて、早々に出かける準備を済ませた。

 

「ミスティル、ちょっとアカデミアに行ってくる!」

 

『私も行こう』

 

翼は目一杯急いでアカデミアまでやってきた。目指すは校長室、鮫島校長なら何か事情を知っていて、さらに十代達を助ける動きをしてくれるかもしれないと思ったからだ。

 

翼とミスティルが校長室の前までたどり着くとそこには明日香と前田隼人がいた。

 

「あ、明日香さんと前田さん!」

 

「あら、あなたも十代達の事を聞いてきたのね」

 

「今から鮫島校長先生に直訴するつもりなんだな」

 

どうやら考えていることは同じらしい。

 

「でもどうして十代君と丸藤君だけ…」

 

『そこのパンダ男は決闘(デュエル)をしないから退学させなくとも後々勝手出ていく。娘子(じょうし)と貴様は優秀だからアカデミアに残らせた。だからあの二人だけ拉致られたのではないか?』

 

ミスティルがそう考えを口にすると翼は他の二人に悟られないようにミスティルを睨んだ。

 

明日香が校長室のドアをノックして、三人は校長室に入った。

 

「失礼します」

 

「おお、どうしたのかね?」

 

鮫島校長は笑顔で迎え入れてくれた。

 

「十代君と丸藤君についてお話があります」

 

しかし明日香がその話を話題に持ちかけると鮫島校長の表情が曇った。

 

「…二人は査問委員会の決議により制裁タッグ決闘(デュエル)を行うことになった」

 

取り敢えず無条件で退学ではないことに翼と隼人は安堵した。

 

「制裁タッグ決闘(デュエル)…ですか?つまり十代と丸藤君がタッグを組むということですか?」

 

「そうです。勝ったら無罪放免、負けたら即退学と決められました」

 

「そんな…」

 

両極端な結果に翼はショックを隠せなかった。

 

「これは査問委員会で決定されたこと、覆すことはできません」

 

「でも僕たちは十代達と一緒に廃寮にいたんだな。なんで僕たちには何もないんだな」

 

隼人の発言に鮫島校長は驚きの表情を見せた。

 

「そうなんですか!ですがたとえあなた達が自首しても状況は悪くなる一方です。今のは聞かなかったことにします」

 

鮫島校長がそう言うと三人はこれ以上何を言っても無駄だと悟った。

 

「…分かりました、失礼します」

 

三人は校長室から出た。

 

「どうすればいいんだ…このままじゃ二人とも退学になってしまうんだな…」

 

「制裁タッグ決闘(デュエル)…十代は問題ないとしても翔君が心配だわ…」

 

明日香の言うとおり、十代は問題ないが翔の方はあまり決闘(デュエル)の腕が芳しくない。だがタッグ決闘(デュエル)はお互いの連携が大事であるためそこはカバーできるかもしれない。

 

しかし翔はいつもネガティブでもしかしたら十代に迷惑を掛けまいと自主的に退学する恐れもある。

 

二人の不安は大きくなる一方だ。

 

「みなさん、取り敢えず十代君と丸藤君の所へ行きませんか?僕たちにも何かできることがあるかもしれません」

 

「そうね、行きましょう」

 

「そ、そうなんだな。俺にも励ますことくらいならできるんだな」

 

翼の提案に二人は賛成した。

 

翼たち三人は十代と翔を探した。すると十代と翔が海岸で決闘(デュエル)をしているのを崖から発見した。

 

「えっ!?どうして十代君と丸藤君が決闘(デュエル)しているの!?」

 

「タッグ決闘(デュエル)はお互いの連携が大事なんだな。しかも相手をよく知らないと連携がうまく取れないんだな。だから二人は相手をよく知るために決闘(デュエル)をしているんだな」

 

状況は十代のライフポイントは無傷の4000、フィールド上に《E・HERO フェザーマン》と《E・HERO スパークマン》が召喚されていてさらにカードが一枚伏せられてる。一方の翔はライフポイントが2600でフィールドはがら空き。明らかに翔が十代に圧倒されている。

 

 

 

《E・HERO スパークマン》

 

通常モンスター

星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400

様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。

聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

 

 

 

《E・HERO フェザーマン》

 

通常モンスター

星3/風属性/戦士族/攻1000/守1000

風を操り空を舞う翼をもったE・HERO。

天空からの一撃、フェザーブレイクで悪を裁く。

 

 

 

「十代の場には《E・HERO フェザーマン》と《E・HERO スパークマン》がいる。一方翔君のフィールド場には何もない、十代が圧倒的に有利だわ」

 

「えっ、隼人に明日香に翼!?何でここにいるんだ?」

 

すると十代が三人の存在に気づいた。

 

「あなた達が退学を賭けた制裁タッグ決闘(デュエル)をするって話を聞いてきたのよ。気にせず決闘(デュエル)を続けなさい」

 

明日香がそう言うと決闘(デュエル)が再開した。

 

「ぼ、僕のターン、ドロー!」

 

周りがいるからなのか翔のドローはどこかぎこちなかった。

 

「手札から魔法カード、《強欲な壺》を発動!自分のデッキからカードを二枚ドローする!ドロー!…!?」

 

 

 

《強欲な壺》

 

通常魔法

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

緑色をした満面の笑みを浮かべた顔をした壺が現れ、翔はデッキからカードを二枚ドローした。

 

そして翔はドローしたカードを見るととても驚いた表情になった。

 

「翔?どうした?」

 

「翔君、どうしたのかしら…」

 

十代と明日香はいきなり表情が急変した翔を心配した。

 

「もしかしたら状況を打破できるカードが引けたのかも…頑張れ丸藤君!」

 

翼が翔を応援した。しかし翔が今度はブルブルと震えだしたのだ。

 

「どうしたんだな?ブルブルと震えだしたんだな」

 

「お~い、どうした?」

 

しかし十代の声で我に返ったのか翔は決闘(デュエル)を再開した。

 

「手札から魔法カード《融合》を発動!見ててよアニキ、今度は僕の融合モンスターでお返しだ!手札の《ジャイロイド》と《スチームロイド》を融合!《スチームジャイロイド》を融合召喚!」

 

翔の手札から青いヘリコプターのモンスターと機関車のモンスターが融合し、プロペラの付いた機関車のモンスターが出現した。

 

 

 

《ジャイロイド》

 

効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻1000/守1000

このカードは1ターンに1度だけ、戦闘によっては破壊されない。

(ダメージ計算は適用する)

 

 

 

《スチームロイド》

 

効果モンスター

星4/地属性/機械族/攻1800/守1800

このカードは相手モンスターに攻撃する場合、

ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。

このカードは相手モンスターに攻撃された場合、

ダメージステップの間攻撃力が500ポイントダウンする。

 

 

 

《スチームジャイロイド》

 

融合モンスター

星6/地属性/機械族/攻2200/守1600

「ジャイロイド」+「スチームロイド」

 

 

 

「バトルだ!《スチームジャイロイド》、《E・HERO フェザーマン》に攻撃!『ハリケーン・スモーク』!」

 

十代LP4000⇒2800

 

《スチームジャイロイド》のプロペラが起こした風を受けて《E・HERO フェザーマン》は咳き込み、その隙を突かれて《スチームジャイロイド》の体当たりを喰らい破壊された。

 

「ターンエンド。どうだアニキ!少しはまいったか!」

 

翔はこの攻撃で自信が付いたのか少し強気になっていた。

 

「…フフフハハハ、やっぱ決闘《デュエル》はこうでなくちゃ!翔!ちょこっと面白くなってきたぜ!」

 

すると十代は笑った。翔の本気を見て面白くなったのだろう。

 

「あら?」

 

それを見て翔はやってはいけない事をしたような気がした。

 

「よっしゃー!!お互いに本気出そうぜ!」

 

「あ…うん」

 

十代が本気で来ることを知った翔はもう強気ではいられなかった。

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

ドローしたカードを見て十代は笑みを浮かべた。

 

「よーし、手札から魔法カード《融合》を発動!スパークマン、そしてクレイマン!お前たちのパワーで新たなるパワーを生み出させてもらうぜ!」

 

今度は十代のフィールド上にいるスパークマンと手札にいた粘土の鎧を着た巨体のヒーローが融合した。

 

「《E・HERO サンダージャイアント》を召喚!」

 

雷鳴と共に黄色と紫色の鎧を身に付けた巨体のヒーローが召喚された。

 

 

 

《E・HERO クレイマン》

 

通常モンスター

星4/地属性/戦士族/攻 800/守2000

粘土でできた頑丈な体を持つE・HERO。

体をはって、仲間のE・HEROを守り抜く。

 

 

 

《E・HERO サンダージャイアント》

 

融合・効果モンスター

星6/光属性/戦士族/攻2400/守1500

「E・HERO スパークマン」+「E・HERO クレイマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。

自分の手札を1枚捨てる事で、フィールド上に表側表示で存在する

元々の攻撃力がこのカードの攻撃力よりも低いモンスター1体を選択して破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 

 

「これで勝負は決まったわ」

 

「え?どうしてですか?」

 

「そうだ、まだ翔は頑張ってるじゃないか」

 

二人の疑問に明日香は淡々と答えた。明日香はこのモンスターの効果を受けたことがあるからこれからの展開を予想できた。

 

「《E・HERO サンダージャイアント》は1ターンに一度手札を一枚捨てることによって元々の攻撃力がこのカードの攻撃力よりも低いモンスターを一体、破壊できるの」

 

「あ…」

 

翼は直ぐに気付いた。翔のフィールド場には何も伏せられてはいない。つまりもうなす術がないのだ。

 

「《E・HERO サンダージャイアント》の効果発動!《スチームジャイロイド》を破壊しろ!『ヴェイパー・スパーク』!」

 

十代が手札を捨てると《E・HERO サンダージャイアント》は天高く右手の人差し指を掲げて雷を天へ向けて放ち、雷の雨が《スチームジャイロイド》へ降り注ぎ破壊された。

 

「ああ!僕のフェイバリットカードが!」

 

《スチームジャイロイド》が破壊されて翔は戦意を喪失し始めた。

 

「さらに手札から《E・HERO バーストレディ》を召喚!」

 

 

 

《E・HERO バーストレディ》

 

通常モンスター

星3/炎属性/戦士族/攻1200/守 800

炎を操るE・HEROの紅一点。

紅蓮の炎、バーストファイヤーが悪を焼き尽くす。

 

 

 

そして十代は赤い服を着た女性のヒーローを召喚した。これでもう翔に勝ち目はなくなった。

 

「バトル!《E・HERO サンダージャイアント》でプレイヤーにダイレクトアタック!『ボルティック・サンダー』!」

 

《E・HERO サンダージャイアント》は両手で雷を作り翔に向けて思いっきり投げつけた。

 

翔LP2600⇒200

 

「さらに《E・HERO バーストレディ》でダイレクトアタック!『バースト・ファイヤー』!」

 

最後に《E・HERO バーストレディ》は両手で作った炎を翔に向けて放った。

 

翔LP200⇒0

 

翔の完全敗北だった。

 

「ガッチャ!翔、面白い決闘《デュエル》だったぜ!」

 

十代はそう言うが翔はこれでまるっきり自信を無くしてしまった。

 

「やっぱ僕駄目だ、タッグ決闘(デュエル)に勝つなんて無理だよ…」

 

「なにいってんだよ。最後は見事な散りっぷりだったけど途中までは紙一重の闘いだったぜ」

 

「でも…」

 

十代のフォローを聞いても翔は悲観的になるばかりだった。

 

「そうだよ丸藤君。凄い決闘(デュエル)だったよ」

 

ここで翼が崖から降りてきて、翔を励ました。すると翔は翼にこう言った。

 

「風龍さん…やっぱり風龍さんがアニキとタッグを組めばいいッス。僕なんて足手まといッスよ…」

 

「そんなことないよ!」

 

翔はどこか性格が翼に似ている。自信がない、悲観的になるなど翼は自分を見ているような気がしていた。しかし翼はそれを徐々に克服してきている。よって翔もきっかけさえあれば強くなれると思っている。

 

「そういえば《強欲な壺》でドローした時変な顔してたろ?」

 

「あ、それ僕も聞きたかった。ねぇ、ちょっと手札見せてくれない?」

 

ここで十代が件のドローについて聞いた。翼もそれに呼応した。そして二人は翔の残っていた手札を見ようとした。

 

「えっ、あっ…」

 

十代が翔の手札を取り、二人でそれを確認した。すると二人ともその手札にあった一枚のカードに注目した。

 

「えっ、どうして《パワー・ボンド》を使わなかったのか?」

 

「本当だ…もし使ってたら《スチームジャイロイド》の攻撃力が二倍になって4400の強力モンスターになってたのに…」

 

その手札の中には《パワー・ボンド》があったのだ。翼はこれがあのドローしたカードだと気づいた。このカードはデメリットがデカい分、強力な力を得る機械族使いの切り札的カードなのだ。

 

 

 

《パワー・ボンド》

 

通常魔法

自分の手札・フィールド上から、

融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

機械族のその融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。

このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、

自分はこのカードの効果でアップした数値分のダメージを受ける。

 

 

 

「やっちゃダメなんだ!お兄さんから封印されているカードなんだ!」

 

翔は取られた手札を乱暴に取り返した。

 

『封印…?ではなぜその封印されているカードをデッキにいれているんだこの男は…』

 

「やっぱり僕じゃあアニキとタッグを組むなんて無理なんだよ!」

 

そして翔はどこかへ逃げてしまった。

 

「翔!」

 

「丸藤君!」

 

二人の声に翔は振り返ることなく一目散に消えていった。

 

「翔!」

 

隼人はそんな翔を見て追いかけて行った。二人は追いかけなかった、追いかけても自分たちじゃあ説得は無理だと感じたからだ。

 

「二人とも、一体どうしたの?」

 

そんな中、明日香も崖を降りてきて二人に声をかけた。

 

「明日香さん…丸藤君のお兄さんってどんな人ですか?」

 

「俺も聞きたい、あいつ苦しんで決闘(デュエル)している。お兄さんに封印されているカードもデッキにいれている。一体あいつのお兄さんって誰なんだ?」

 

二人は明日香に翔の兄について聞いた。

 

「翔君のお兄さんの名前は丸藤亮、3年のオベリスクブルーのトップで皆からはカイザーって呼ばれているわ」

 

「カイザー、一体翔とそのアニキの間で何があったんだ?」

 

明日香の答えを聞いた十代は海の方を眺め何かを考えていた。

 

「…十代君?」

 

翼が気になり声をかけた直後に十代の考えがまとまった。

 

「よし!ちょっと行ってくる!」

 

そして十代は直ぐに何処かへ向かおうと走り出した。

 

「ちょっと十代君!どこ行くの!?」

 

「カイザーと決闘(デュエル)してくる!」

 

翼が行先を聞くととんでもない答えが返ってきた。それがどれだけ無謀で無理なことかアカデミアの生徒なら知ってなくてはならないのに。

 

「十代!あなた人の話を…」

 

「聞いてたぜ!3年のオベリスクブルーでカイザーってあだ名が付いてるんだろ!」

 

明日香の話をきちんと聞かずに十代は走り去っていった。

 

「ああ…行っちゃった…」

 

「カイザーはオベリスクブルーのトップだから、オシリスレッドのあなたが決闘(デュエル)しようとしても無理なのに…」

 

十代はこれから決闘(デュエル)許可願を書こうとしたらクロノス教諭に破り捨てられ、オベリスクブルー寮に乗り込もうとしたら水をかけられたりすることを翼は知らない。

 

「…僕も丸藤君の為に何かできないかな…」

 

翼も翔の為に何かできることはないか考えたら直ぐに一つ思いついた。

 

「明日香さんってその丸藤亮先輩の知り合いですか?」

 

「ええ、兄が親友だったから…」

 

乳母差は明日香に頭を下げて頼んだ。

 

「明日香さん、その丸藤亮って人に会わせてください!お願いします!」

 

明日香は少しだけ考えて翼の頼みを承諾した。

 

「…分かったわ。でも翔君を説得してほしいなんて言わないでね。翔君もそれを望んではいないだろうし」

 

「分かりました!」

 

翼は元気よく返事をした。

 

そして翼と明日香の二人はアカデミアの港にある灯台へとやってきた。

 

「灯台…ですか…」

 

「ええ、私のお兄さん、天上院吹雪が行方不明になってからお互いに情報交換するために定期的にここで会っているの」

 

兄が行方不明、それを聞いた翼はなんだか申し訳なくなってきた。

 

「そうなんですか…」

 

すると誰かがこちらに近づいてきた。

 

「あ、来たわ」

 

明日香の反応からそれは件のカイザー、丸藤亮だと分かった。

 

「あっ…」

 

オベリスクブルーの制服、キリッとしたつり目、イケメンな顔、そして厳格なオーラ、翼はこの男がカイザーだと直感した。カッコよくて憧れの人かもと思った。

 

しかし、その考えは直ぐにある感情に塗りつぶされた。

 

「!!!!!!!!!!」

 

翼を一目見たカイザーからズキュウウウン、と銃声のような音がした。

 

「…何か今聞こえませんでした?」

 

「奇遇ね、私も銃声みたいな音が聞こえたわ」

 

翼と明日香はその音が幻聴でないことを確認しあった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

そしてカイザー一心不乱に全速力で翼の方へ近づき、翼の両手をがっちりと掴んだ。カイザーの眼には気迫に満ち溢れていた。

 

「な、ななななな、なんですか一体!!」

 

いきなり両手を掴まれた翼は動揺する中、カイザーは大声で翼の目を見ながらこう言った。

 

「俺と…付き合ってくれ!!」

 

翼はその言葉の意味が一瞬わからなかった。

 

「えっ、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!??」

 

翼は大声で叫んだ、目一杯の大声で叫んだ。翼を女の子と勘違いする人は大量に居る。その中には翼に告白をする人もいた。しかし見ず知らずのイケメンに告白なんて初めてだった。翼は動揺して全身から汗が出て、目が高速で泳いでいた。

 

「い、いいいいいいいきなりなななななな何を…」

 

言葉もきちんと発せなかった。

 

「入学試験の時からずっと気になっていた!最初クロノス教授と相対した時の緊張した顔、《古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)》を見た時の絶望した時の顔、そしてクロノス教授を倒した時のあの凛々しい顔!そして歓声に恥ずかしがる顔!全てが素敵だった!全てが魅力的だった」

 

カイザーは体全身を使って翼の魅力を語った。ようするに一目惚れという奴だ。まさか弟の事を聞きに来たら兄から告白されるなんて夢にも思ってなかった翼は動揺しかできなかった。

 

「しかし近くで見るとここまで可愛らしいとは思いもしなかった!私はもう君に魅力されてしまった!お願いだ、付き合ってくれ!というか結婚してくれ!」

 

そして話が跳躍して求婚までされた。翼は泣きながら明日香に助けを求めた。

 

「い、いきなりなんですかこの人!明日香さん、ちょっと助けてください明日香さん!」

 

「良かったじゃない、あのカイザーに一目惚れされるなんて」

 

明日香は嫉妬なのか翼が嬉し泣きをしていると勘違いしているのか祝福した。

 

「いやいやいやいやいやいや、僕男ですからね!気持ちは嬉しいんですが僕男に興味ないですからね!」

 

それを聞いたカイザーは今度は翼の両肩を掴んだ。

 

「嘘だ!!こんなに可愛らしい君が男なはずはない!この抱きしめた時の柔らかさ、間違いなく女だ!君がいや、もし男であろうとも同性結婚が認められているオランダへ移住し結婚しよう!」

 

そしてカイザーは翼を思いっきり抱きしめた。これで翼の頭は混乱と動揺でパンク寸前になった。

 

『この男がカイザー、皇帝の異名を持つ者なのか…?いや確かに有名な皇帝は男色を好むと聞いたからもしや…』

 

そんなミスティルの話なんて翼の耳には入らなかった。ここから逃げ出したい、翼はもうそれだけしか考えられなかった。

 

「い、いやああああああああああああああああああっ!!」

 

翼はカイザーを全力で突き出して一目散に灯台から逃げた。当初の目的なんてもう頭にはなかった。

 

「ああっ、どこへ行く!」

 

カイザーはなぜ翼が逃げたのか分からなかった。ここまで愛があるのになぜ逃げたのか分からなかった。

 

「そりゃ見ず知らずの男からいきなり愛の告白をされて抱きしめられれば誰だってああなるわよ」

 

「くっ…」

 

「はぁ…」

 

カイザーは次こそは告白を成功させてやると悔しがり、明日香はカイザーの見たくない一面を垣間見てあきれ果てた。

 

そして翼はオシリスレッド寮に戻ると直ぐに部屋のドアに鍵をかけてベットの布団に潜り込んで枕を涙で濡らした。

 

「…ううっ、もう当分外に出たくない。あの人に会いたくない…」

 

カイザーの行動によって翼の心がズタズタになってしまった。

 

『学校はどうするんだ』

 

「…絶対会いたくないから行かない」

 

『かなり根深いトラウマが付いてしまったなこれは…』

 

ミスティルは翼の登校拒否に何も言わなかった。それほど翼はカイザーに拒絶反応を抱いていたのだ。

 

それから一週間程翼は部屋に閉じこもってしまった。その間にカイザーと十代の決闘(デュエル)、前田隼人の父親が来るなどの出来事があったが翼は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 







「今日の最強カードは《E・HERO サンダージャイアント》だぜ!1ターンに一度手札を一枚捨てることによって元々の攻撃力がこのモンスターの攻撃力より低いモンスターを一体破壊できるぜ!」

『元々の攻撃力であるから効果で強化されていても破壊できるのが強みだな。さて、今度はどう説得して立ち直らせればいいのやら…』




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