遊戯王 渓谷の戦士   作:Σ3

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「前回はデュエルアカデミア入学試験で僕がクロノス教諭を倒したんだ!」

『貴様は私の言うとおりに動いただけだがな』





第2話《デュエルアカデミア入学 風龍翼と遊城十代》

 

 

 

 

 

風流翼は部屋の片隅で落ち込んでいた。原因は綺麗好きな翼にしては珍しく部屋の床に無造作に置かれたデュエルアカデミアの制服のせいだ。

 

一体何があったのかと言うと今日の朝まで遡る、翼が起きるとなんと翼宛に宅急便が届いていたのだ。急いで部屋に戻りその荷物を開けるとその中にはデュエルアカデミア入学試験の合格通知と件のデュエルアカデミアの制服が入っていた。それを見た翼は喜び、ミスティルはこれで第一段階クリアしたなと取り敢えず安心した。さらに驚いたことにデュエルアカデミアの制服を広げてみると何と青色の制服、オベリスクブルーの制服だったのだ。

 

デュエルアカデミアは3つの階級に分かれている。アカデミア中等部で優秀だった者たちのクラスであるオベリスクブルーと高等部入学試験で優秀だった者たちのクラスであるラーイエロー、そして成績次第では退学もありうる所謂落ちこぼれの者たちのクラスであるオシリスレッドの3つだ。

 

翼の筆記試験の成績は100番目、実技試験で実技試験最高責任者のクロノスを1ターンキルした事は評価できるがそれでもオベリスクブルーは行き過ぎである。だが青色の制服を見た翼はすっかり舞い上がり、制服を持ってクルクルと部屋中を回り始めた。それに呆れてミスティルが止めようと声を掛けようとしたら止める前に翼が止まった。翼の目にありえない光景が映ったからだ。それは届いた荷物だった。何とそれは、本来ズボンが入っているはずなのに、なぜか、なぜか、なぜか青色のスカートがそこにはあったからだ。

 

翼は今持っている制服を冷静になってよく見た。すると直ぐに気づいた、それが男子の制服であるジャケットではなく女子の制服であるノースリーブだという事を。デュエルアカデミアの女子生徒は自動的にオベリスクブルーになるのだ。つまり翼はデュエルアカデミアから女子だと間違えられたのだ。

 

確かに翼は肩までかかるほどの鮮やかで手入れが行き届いている綺麗な緑髪で、目はクリクリッとした丸くとても可愛い目をしていて、身長も低く、別に女と間違えられてもおかしくはない見た目をしている。と言うか翼は一目見たら間違いなく男ではなく女と間違えられるほど可愛らしい見た目をしているのだ。最初ミスティルも真面目に女だと思ったほどだ。

 

だが翼はこれしきの事では落ち込まない、何故なら女と間違えられることはいつもの事で慣れているからだ。だから何も言わず制服を畳んで仕舞おうとしたらミスティルが言いたいことを思いっきり何の躊躇もなく言ったのだ。

 

『ふん、確かに貴様は娘子(じょうし)に見える容姿をしているな。それに私はこの数日間貴様を見ていたが朝にはいつも鏡の前で髪の手入れを丁寧にして枝毛を見つければ不機嫌になり、熊のぬいぐるみを抱き枕にしなくては寝むれない、綺麗好きで毎日掃除をするほどの掃除好き、家事全般も完璧にこなせる、それに貴様の性格を含めたらもうそこらの娘子(じょうし)よりも立派に娘子(じょうし)をやっている。しかも入学試験の時にはいつもオドオドとしてさらに決闘(デュエル)中は丁寧な敬語、勝った時に会場から歓声を受けると恥ずかしさで顔を真っ赤に染めて会場から颯爽と出ていく。これでは間違えられるのも無理はない』

 

止めだった、会心の一撃だった、一撃必殺だった。ミスティルの言葉を聞いた翼は何も言わず無造作に制服を置き、部屋の片隅に縮こまりこのような状況になったのだ。

 

ミスティルは翼に励ましの言葉を掛けようとした。だが何を言っても無駄な気がしてならなかった、それほど翼は落ち込んでいた。だが何か言わなければ翼はいつまでたってもこの状態だ。

 

『おい貴様…私が少し言い過ぎたからと言ってそこまで落ち込むことはないのではないか』

 

ミスティルの声に反応して顔を上げた翼の顔は何処か諦めたような雰囲気を出していた。

 

「なんですか…どうせミスティルの言った事は全て本当ですよ。そうですよ僕は何処へ行っても女の子に間違われるんですよ。学校とかの男子トイレを使おうとすると中にいた男子が異常な反応するし、公共のトイレなんて使おうとしたら丁寧に女子トイレの方を案内されるし、服を買いに行ったら店員さんには必ず女物の服を勧められるし、意を決して男物の服をレジに持っていったら弟か彼氏へのプレゼントに勘違いされるし、髪を切りに行ったら女の子用の髪型を勧められて、髪が長いから女の子と勘違いされるのかなと思ってバッサリ切ってくださいって言ったら店員に、彼氏さんに振られたんですか?髪は女の命ですからそんな簡単に切ろうと思っちゃいけませんよって言い返されるんだよ!そんな生活を僕は10年もしているんだ、そんな僕の気持ちがミスティルに分かるっていうの!?」

 

壮絶だった。翼はミスティルが思っていた以上に壮絶な生活を送っていた。

 

「どうせ僕は一生女の子と間違えられながら生活しなくちゃならないんだよ、もうとっくに諦めたよ……」

 

翼は泣きそうな顔を隠すように俯いた。このままでは翼はデュエルアカデミアに入学しない、王の救出なんか手伝わないなんて言いかねない気がした。それだけは阻止したいミスティルは翼が立ち直れるような言葉をかけてやった。

 

『貴様、私が思うに性格さえ変えればそれなりには間違われることはなくなるのではないか?』

 

すると翼は俯いていた顔を上げた。目には涙が浮かんでいた。

 

「本当?」

 

『ああ、人は外見より内面で決まると聞いたことがある。内面が変われば間違えられる事がなくなるかもしれん』

 

だがミスティルの言葉に翼はネガティブな反応を見せた。

 

「でも僕ってミスティルの言うとおり女の子みたいな生活をしてる。変わろうと何度も思ったけど全然ダメなんだ。部屋の掃除は一日一回しないと落ち着かないし、この髪の毛は綺麗で僕の数少ない誇れるポイントだから大事だし、ぬいぐるみがないとさびしくて眠れないし…とにかく男らしくしようと思っても全然ダメなんだよ!」

 

『いや、私が言いたいのは性格の話だ。弱気で引っ込み思案な性格さえ直せば男らしく見られるのではないかという事だ』

 

「成程…分かったよミスティル!僕、弱気な性格を変えて男らしくなってみせるよ!」

 

翼は浮かんでいた涙を拭いて立ち上がって高らかに男らしくなると宣言した。

 

(立ち直ったな。だが私もいつの間にか口がうまくなったものだな、こいつの見た目では何をやっても娘子(じょうし)にしか見えんというのにな)

 

だがミスティルは翼の心意気が無駄だと悟っていた。

 

「翼ー、ちょっといらっしゃい」

 

そんなこんなで翼が立ち直った矢先、一階から翼を呼ぶ声が聞こえた。翼の母親の声だった。翼は近くにあった目覚まし時計を見た。

 

「なにお母さん、夕ご飯のお買いものならまだ時間が早いよ?」

 

「ううん違うわ、お父さんが翼のデュエルアカデミア入学について話したいことがあるって」

 

母親の言葉でミスティルは気づいた。いくら翼に手伝ってほしいと頼んでも翼の親が翼のデュエルアカデミア入学に反対したら全て水の泡になるという可能性に。

 

「えっ、お父さんが?と言うかなんでお父さんとお母さんが僕がデュエルアカデミアに入学するって知ってるの?」

 

「だって滅多に来ない翼宛ての荷物の所にデュエルアカデミアって書かれてたらそう思うに決まってるじゃない」

 

ミスティルも翼と一緒に二階から降りた。ちなみに翼の親はミスティルが見えないことは確認済みだ。

 

「翼…」

 

「お父さん…」

 

翼は目の前に座っている父親を見た。いつも生真面目で優しい父もこの時だけは怖く見えた。

 

『貴様、例え反対されても入学するという意志を見せろ。分かったな』

 

ミスティルは翼にこう言ったものの実際は反対された時点で全て終わると思っていた。ただの中学生がデュエルアカデミアに入学できる程のお金を一人で用意できるわけがないからだ。ミスティルは祈る気持ちで翼を見守るしかなかった。

 

「お父さんはやっぱりデュエルアカデミア入学に反対なの?」

 

「…いや、私もお母さんもデュエルアカデミアに入学するのは反対ではない。むしろ賛成している」

 

「え、本当?ありがとうお父さん、お母さん!」

 

翼の親が入学に賛成だと知った瞬間ミスティルは心の中で安堵した。

 

「ふふ、翼が決めたことに反対なんてしないわ」

 

「じゃあ僕は少し必要な買い物をしてくるから!」

 

翼は意気揚々と家から出て行った。

 

「まさかあの翼が私たちに内緒でこんな大きなことを決めているとはな…」

 

「そうね、あの子最近変わってきたわよね…」

 

翼は昔から気弱で人見知りが激しかった。優柔不断でもあり両親は志望高校すら翼は自分で決められないだろうと思っていたのだが、いつの間にか翼は決めていて入学試験を受けて合格していた。両親は翼の成長に内心喜んではいたが翼がなぜここまで急に変わったのか疑問でならなかった。

 

そして月日は立ち、翼はデュエルアカデミアに入学をした。今翼とミスティルはデュエルアカデミアのある島にたどり着いていて、この島の景観に興味津々になっていた。

 

「うわ~すごいな、火山もあるしこの島って本当に日本なのかな?」

 

『確かに興味深い島だ』

 

翼は煙の出ている火山を見て驚き、ミスティルは点在しているデュエル施設に興味津々だった。

 

「この島の何処かにミスティルたちの王が封印されてるんだよね?」

 

『ああ、先ずは手掛かりを探さなくてはな』

 

そう、ミスティルは王がこの島の何処かに封印されているという事しか知らない。つまりこれから一から探さなければならないのだ。

 

『しかし貴様、いくら裁縫が得意だからといってまさか本物そっくりのオシリスレッドの制服を作るとはな』

 

ミスティルは翼の着ているオシリスレッドの制服を見て感服した。この制服は翼が一から作った物なのだ。資料がデュエルアカデミアのパンフレットにしかなかったが本物と遜色ない、いや今日他の生徒の制服を見て本物以上の出来だと思えるほどの仕上がりだ。

 

「うん、僕の実力ならオシリスレッドが妥当だと思うし…」

 

そういう意味で言ったのではないとミスティルは呆れた。わずか数日で僅かしかない資料を基に本物以上の出来の制服を作れる技量は裁縫を知らないミスティルでも常人の技ではないと思った。

 

『貴様がそう思っているのならそれでいい。貴様がオシリスレッドなら私たちの目的、我が王の捜索への利点があるからな』

 

「利点って何?」

 

『それは…』

 

ミスティルが説明しようとしたら翼と同じオシリスレッドの少年2人が近づいて翼に話しかけてきた。

 

「おーいそこのお前ー!」

 

『話はまた後でだ。私たち精霊は常人には見えん、貴様が独り言をいう電波な人間と思われてはかなわんからな』

 

そんなドジはしないよ、と翼は言いたかったがもう二人が目の前まで来ていたので言えなかった。

 

「確かお前もクロノス教諭を倒したんだってな!俺は遊城十代、よろしくな!」

 

「僕は丸藤翔、兄貴と君と同じオシリスレッドッス」

 

元気な少年と翼と同じように気弱少年はそれぞれ自己紹介してきた。中学時代友達がいなかった翼にとって自己紹介はかなり緊張する場面なのだ。

 

「よ、よろしく。僕の名前は風龍翼って言うんだ」

 

翼は照れくさそうに自己紹介した。

 

「へぇ~カッコいい名前だな」

 

「兄貴!女の子にそんな事言っちゃダメっすよ!」

 

十代が名前をカッコいいと褒めてくれたと喜んだ矢先、翔が爆弾発言をした。

 

「女の子?どこに居んだよ翔」

 

「ほら目の前にいる風龍さんの事っす…って風龍さんどうしてそんなに落ち込んでるんすか!?」

 

翔が翼を見ると翼はどこか違うところを見ながらをブツブツと何か言いながら落ち込んでいた。

 

「ハハ、どうせ僕は女の子にしか見えないどうせ僕は女の子にしか見えないどうせ僕は女の子にしか見えないんだ……」

 

『この小僧…せっかく私が励ましたというのに』

 

『クリクリ~』

 

ミスティルが翔にイラつきを覚えたその時、どこからか茶色の羽の生えたモフモフとした毛玉が翼を励まそうと近づいていた。

 

「えっ」

 

『反応するな、その羽の生えた毛玉も精霊だぞ』

 

思わず翼は反応してしまったがミスティルの注意にハッとした。こんな生物がいるわけないじゃないかと。だが少し反応してしまったため十代に不審に思われてしまった。

 

「ん?どうした?」

 

「い、いや、なんでもないって言うか…その…」

 

「翔、こいつ男だぞ?」

 

十代のその一言に翼はかなりオーバーリアクションで驚き十代に詰め寄った。

 

「!!!!!?遊城君今なんて!!」

 

「うおっ!?いきなりどうした…てか十代で良いよ」

 

ビックリした十代に翼はさらに近づいてさっきの発言について問い詰めた。

 

「分かったよ十代君。で、今なんて言った!?」

 

「いや、お前が男って…」

 

自分の聞き間違いではなかったと確信した翼は十代の手を掴んで半泣きの状態で感謝した。

 

「ありがとう…君が初めてだよ、僕の事を見た目で男の子だって判断してくれたのは……」

 

翼は幼い時から女の子と間違えられてきた。親戚からも、通っていた保育園の先生からも、みんなみんな誰だって翼の事を最初は女の子と間違えるのだ。それほど翼は女の子のような容姿をしている。今でもそうだ、誰が見ても10人中10人が可愛らしい女の子と答えかねないほどのカワイイ容姿を持つ翼の事を、十代は男の子と正しく認識したのだ。女の子と間違えられることが苦痛だった翼にとってこれほど感激することはない。

 

「そうか、ってなんでお礼を言われなくちゃならないんだ?」

 

だが当の本人はなんで感謝されているのか全く理解できていなかった。

 

「こんなに可愛いのに男の子、この世には絶望しかないッス…」

 

翔が絶望に打ちひしがれている中、風龍翼は人生で初めて自分の事を一目で男と思ってくれた人に出会えたことが嬉しくてたまらなかった。

 

 

 

十代達は一足早くオシリスレッド寮に向かった。だが翼は一緒には行けなかった。何故なら翼は女の子と間違えられてオベリスクブルーの女子寮に部屋があるからだ。早々にオシリスレッド寮の寮長に状況を説明して空き部屋を用意してもらうか他の寮生の部屋に入れてもらわなくてはならない。だからといって十代達にそれを知られると何かと誤解を受けそうなので知られたくはない。やっと自分を男と認識してくれる友達に出会えたのに初日で誤解されて女の子と思われるようになったら多分翼は絶望して死にたくなってしまうだろう。だから誰にも知られる前にこの話を終わらせたい翼は十代達が周りにいないのを確認してオシリスレッド寮の寮長を探した。

 

「うわ~カワイイ~!」

 

だが翼はオシリスレッド寮の近くにいたトラネコにメロメロになってしまった。締まりのない笑顔で猫をなでる翼のその姿はもはや女の子にしか見えない。

 

「よしよし」

 

「あらら~、もう気に入られちゃったみたいだにゃ」

 

翼がネコを撫でているとどこからか眼鏡をかけた長髪ののんびりとした雰囲気を持った男が現れた。

 

「あなたは?」

 

「僕はこのオシリスレッド寮の寮長、大徳寺だにゃ。担当科目は錬金術にゃ。その子は私の愛猫のファラオだにゃ」

 

「あなたが寮長さんですか。ちょうどあなたを探していたんです」

 

『この男……』

 

ミスティルは大徳寺先生を見て何か違和感を感じた。

 

「?」

 

『人前では出来るだけ私たち精霊の行動に反応するなと言っただろう。なんでもないから気にするな』

 

だが取り敢えず危険ではないものと判断した。

 

「さて、君は私に何か用があるみたいだけどどうしたんだにゃ?」

 

「…部屋がないんです」

 

「にゃ?」

 

「いや、実は手続きになにか不備があったのか僕の部屋がないんです…」

 

取り敢えず誰かに聞かれる危険性もあるので翼は女子と間違えられたことは伏せた。

 

「にゃるほど、それは困ったにゃ…」

 

「安心しろ翼!」

 

大徳寺先生が対処に困っていると寮の部屋から一足先に寮についていた十代が現れた。

 

「あ、十代君」

 

「話は聞いてたぜ先生!それなら翼を俺たちの部屋に…」

 

「それはダメにゃ」

 

十代の提案を大徳寺先生は最後まで聞くことなく却下した。

 

「え、なんでだよ!」

 

「君たちの部屋はもう3人だし、それに女の子を男の子と同じ部屋に入れるわけにはいかにゃいにゃ!さあ、僕が今すぐ鮎川先生と鮫島校長に連絡するから君は直ぐにオベリスクブルーの女子寮に…ってなんでそんな隅っこで落ち込んでいるにゃ!?」

 

「ハハッ、十代君に間違えられなかったからいけるかなって思ってたけどやっぱり僕は……」

 

大徳寺先生にも性別を間違えられたことに落ち込んだ翼はその場に座りこんで地面を指でつつき始めた。

 

『しまった、無駄に希望を与えてしまったせいかその反動で落ち込みやすくなってしまったか』

 

ここでミスティルはこの前の励まし方に問題があったと後悔した。

 

「どうしたんだにゃ!?先生なにか傷つけること言ったかにゃ!?」

 

「…大徳寺先生、僕は男ですからオシリスレッド寮に僕の部屋をお願いします」

 

混乱する大徳寺先生に気づいたのか翼は事実を伝えて大徳寺を落ち着かせようとした。

 

「男!?分かったにゃ、今すぐ空き部屋に案内するにゃ!」

 

だが翼が男と言った瞬間大徳寺先生は驚き落ち着かないまま翼を空き部屋に案内した。

 

「ここが君の部屋にゃ」

 

そうやって大徳寺先生に案内された部屋は三段ベットに三つの勉強机と三人部屋だった。少し周りが埃をかぶっているのを見るとあまり使われていない部屋のようだった。だが翼にとってこれ以上の部屋はない。他に誰か住んでいたらミスティルと会話がしにくくなるためだ。

 

「ありがとうございます…すみません」

 

「にゃに、とにかく君も色々と大変だね」

 

翼が謝ると大徳寺先生は翼の苦労を労った。

 

「はい、分かってもらえて何よりです」

 

これで翼は誤解が解けたと思った。だがミスティルには大徳寺先生がまだ翼の事を女だと思っているように見えた。だがまた翼が落ち込みそうなので翼に言うのは止めた。

 

『初日からこれでは先が思いやられるな』

 

「そうだねミスティル」

 

さっき会った3人中2人が翼を女と間違えていた。これなら学園生活を続ける中で何回間違えられることになるか想像できなかった。翼はその中で唯一自分を女と勘違いしなかった遊城十代という同じオシリスレッドの同級生の傍にいたミスティル曰く羽の生えた毛玉の事を思い出した。

 

「ミスティル、精霊っていっぱいいるもんなのかな?」

 

『そんなことはないはずだがこの島ではそうとは言い切れんな』

 

ミスティルはここに自分の王が封印されているのだからその封印を守る精霊がいる可能性は必ずいると考えてはいたがまさか他のデュエルアカデミアの生徒に精霊が憑いているとは思っていなかったため、ここで起きることはこちらの常識では考えてはいけないと肝に銘じた。

 

「そうだね、あの毛玉みたいな精霊モフモフで温かそうだからいつかギュッと抱きしめてみたいなぁ…」

 

『全く貴様は…忠告しておくが私たちの目的を忘れてはならんぞ』

 

「分かってるよ」

 

すると翼はなぜか制服を脱ぎ始めた。

 

『おい貴様、確かこれから新入生歓迎会が行われるはずだ。なぜ制服を脱いでいる?』

 

「今から掃除をするからに決まってるじゃないか、これから住む部屋なんだし掃除くらいはしておかないと。それにまだ歓迎会まで時間があるし」

 

『だからってなぜ着替える必要がある?』

 

ミスティルは嫌な予感がした。何かとんでもないことが起きる予感がした。だが翼は気にせず制服を脱いで上半身裸となり掃除のときにいつも着ている無地のTシャツと青いジャージをカバンの中から探していた。

 

「だって歓迎式に着ていくのに今汚れたら大変じゃないか…」

 

そして翼が目当てのTシャツとジャージを見つけて着替えようとした瞬間、急に翼の部屋のドアが開いた。すると十代が大きな声で翼に話しかけた。

 

「おい翼!今からデュエルアカデミアを探索しに行こう……ぜ?」

 

そこで十代が見たものはハンガーに掛けられたさっきまで翼が着ていた制服と綺麗に畳まれた服となぜかあるクマのぬいぐるみが入ったカバン。そして上半身裸の状態でジャージに着替えようとしていた翼だった。

 

「ひっ…」

 

すると翼は顔を真っ赤に染め、持っていたジャージでとっさに上半身を隠してその場に蹲り思いっきり大きく甲高い悲鳴を上げた、いや上げてしまった。

 

「き、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

「な、何事だにゃ!?」

 

その悲鳴を聞いた大徳寺と寮内にいたオシリスレッドの生徒達が翼の部屋の前に集まってきた。ドアを開けた張本人の十代は何が起こったのか分からず慌てていた。ミスティルは翼に物凄く呆れていた。

 

『…男に着替えを見られると恥ずかしさで悲鳴を上げる、か。もう貴様は娘子(じょうし)として生きればいいのではないか?』

 

その後、翼の部屋の扉に《ドアを開ける時は必ずノックして本人の了承を得ること!絶対に唐突に開けてはダメ!》と書かれた張り紙が貼られることになり、さらに翼はオシリスレッドの生徒達および大徳寺先生からとある事情があって男のフリをして入学してきた女の子と思われるようになる。

 

 

 

 

 

 






「……ぐすっ…」

『どう慰めればいいのやら…だがこいつの自業自得でもある…だが放っておいても目的が先に進まん…こういう時どうすればいいのだ?』



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