遊戯王 渓谷の戦士   作:Σ3

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「しかしよくあんなに寝てたな」

「うん、お腹減ったよ…」


第16話《翼の本音》

 

 

 

 

 

「どうだ翼!カッコいいだろ!」

 

「ハハハ、何かごちゃごちゃとしてるね…」

 

翼はテンションが低かった。十代達もテンションが低かった。何故ならあの後、大徳寺先生が姿を消したのだ。そのショックでみんな塞ぎ込んだ。だが十代達は何か別の理由で悩んでいるように見えた。みんな何かを翼に隠している。そのことも翼のテンションを下げる要因となっている。

 

そんな中翔が学園祭レッド寮名物コスプレ決闘(デュエル)の参加を皆に進めたことが発端となりみんなに笑顔が戻ってきた。明日香もコスプレするみたいでレッド寮の男子は凄い盛り上がっていた。

 

明日香は《ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)》のコスプレを、万丈目は非常に動きにくそうな重厚すぎる《XYZ-ドラゴン・キャノン》のコスプレを、十代は色々と混ぜすぎて何のコスプレやら分からない。

 

『しかしコスプレとは…』

 

『まぁまぁいいじゃん!でも翼はできなくて残念だったね』

 

「ま、まぁね」

 

翼はコスプレをしなかった。何故なら翼は前に万丈目との決闘(デュエル)が全国放送されたことにより有名になってしまった。ちなみにあの放送、瞬間最高視聴率が30%を超えたらしい。そんな中コスプレ決闘(デュエル)をさせたら大変なことになる、というよりこれ以上目立たせるのは酷だと翼が男だと知った十代以外の皆が他の翼をコスプレさせようとするオシリスレッドの男たちを説得してくれた。約一名暴走して物理的な説得となったが皆分かってくれた。表向きはまだ怪我が治ってないからと言うことにしてある。

 

「…」

 

「万丈目君?」

 

「いや、なんでもない」

 

万丈目が何かを言いたそうな眼をしていた。だが翼が何か聞くとそっぽを向いた。

 

『アニキ~、正直に友好決闘(デュエル)の時の服を着てくれって言えばい』

 

「五月蠅い黙れクズが!」

 

『ヒドイ!』

 

万丈目は茶々を入れたお邪魔イエローに鉄槌を下した。

 

「さぁ、まずはこの遊城十代に挑む命知らずのデュエルモンスターはいないのか?」

 

「いきなり俺か!よし翼、やろう…」

 

「ふん!」

 

十代が翼と決闘(デュエル)しようと誘ったら万丈目が十代に向けてパンチをした。

 

「いきなり何すんだよ万丈目!」

 

「この馬鹿は…俺たちの苦労も知らずに!」

 

「万丈目君、ごめん十代君、僕は遠慮しとくよ」

 

「え~」

 

翼は万丈目が自分のために色々としていたみたいだと気づいた。隠していたのはこれだったのかと翼は思い、十代の誘いを断った。他の人もいろいろあって断った。

 

「あの~」

 

相手が見つからないと思ってたらなんとあのブラックマジシャンガールが立候補してきた。本物そっくりな彼女に会場は大盛り上がりを見せた。だが翼だけは違和感を感じていた。

 

「ねぇミスティル、あのブラックマジシャンガール…」

 

『ああ、精霊だ』

 

そして十代とブラックマジシャンガールの決闘(デュエル)が始まった。

 

「でもみんなに見えてるんだけど…」

 

決闘(デュエル)は互角だったがブラックマジシャンガールは自身の可愛さで観客を味方につけた。十代はホームのはずなのに大ブーイングが毎回起こりアウェーみたいになっていた。

 

『力を使えば普通の人から見えるようにはできるよ、でもそうする必要はあまりないかな』

 

『私が人前に出てみろ、パニックになること間違いなしだ』

 

「だよね」

 

『ボクは…しても大丈夫だね』

 

「でもヴェーラーやブラックマジシャンガールのような人間みたいな精霊って精霊界ではどうなの?」

 

『普通に共存できてるよ』

 

「ふーん」

 

もしかしたらミスティルの王であるテンペストも人間みたいなのかなと想像する翼だった。

 

『しかしあのブラックマジシャンガールは精霊界出身ではないな』

 

「えっ、精霊界以外にも精霊がいる所ってあるの?」

 

ミスティルが興味深いことを呟いた。

 

『あるだろうし、あったとも言える』

 

「どういう事?」

 

『精霊界以外にも精霊が住む場所があるかもって話。ま、ボクは今住んでる精霊界以外知らないけどね』

 

『私もだ。あったというのは元々人間界にも精霊がいたということだ、我が王からそう聞いただけで詳しくは知らんが』

 

もしかしたら昔は精霊が見えるのが当たり前だったのかなと考える翼だった。

 

「こっちの世界にも精霊がいたときがあったんだね。でもなんで精霊界出身じゃないって分かったの?」

 

『精霊界の精霊は人の前に不用意に出ないと例外を除き心得ているからな』

 

『と言うより精霊界で人前に出るように力を使うなんてしないからね。と言うよりそういう力の使い方は知ってるけどやり方は知らないって精霊は多いよ。てかボク達も知らない』

 

「ふ~ん、精霊って色々複雑なんだね。というかミスティルやヴェーラーの知らないこともあるんだね」

 

『当たり前だ』

 

『人間だって誕生からすべての歴史を把握してるわけじゃないでしょ?精霊も同じってこと』

 

ミスティルとヴェーラーと精霊の話で盛り上がっていると決闘(デュエル)が終わった。

 

「あ、十代君が勝った」

 

この決闘(デュエル)のおかげか会場は過去最大の盛況を見せ、その後も数多くの人がコスプレ決闘(デュエル)を楽しんだ。

 

そして翼は十代を待っているとブラックマジシャンガールが声をかけてきた。

 

『ふ~ん、やっぱり見える人みたいだね』

 

周りを見ると誰もブラックマジシャンガールに気づいてない様子だった。

 

「今は見えないようにしてるんだね」

 

『何の用だ、ブラックマジシャンガール』

 

『あ、私のことはマナって呼んでください』

 

マナ、と名前を名乗ったブラックマジシャンガール。翼はブラックマジシャンガールというのが名前だとカードに書かれているのが名前だと思っていたが違うのかと疑問に思った。

 

「ミスティルとかヴェーラーとかが名前と思ってたけど普通に名前があるんだね…」

 

『え?普通精霊に名前なんてないよ』

 

「え、そうなの?ならなんで君にはあるの?」

 

『あ、え~と昔は人間だったの』

 

「へ!?」

 

人間が精霊化するの!?でも昔は精霊と人間が共存していたんだから珍しくもないのかなとも思った翼だった。

 

『詳しくは話せないけどね』

 

『人間が精霊化か…騒動が収まった後に我が王に聞いてみるか』

 

「で、何か用なの?」

 

『あ、いや、決闘(デュエル)中に後ろの精霊と話してたのが見えて見えてるのかな~と思って話しかけてみただけで…』

 

ブラックマジシャンガールは困りながら答えた。

 

『ま、見える人なんて珍しいからね』

 

確かに翼を含めて翼が知っている中で精霊が見えている人は三人だけだ。

 

『お前の主人も見えるのだろう?』

 

『はい!』

 

すると翼は思いだした。ブラックマジシャンガールは確か一人しか使ってなかったはずだと。

 

「もしかして君の主人って…武藤遊戯さん?」

 

『正解です!』

 

「やっぱりね、前に決闘王(デュエルキング)のデッキ展示会があってその中に君のカードがあったからもしやと思ってね…」

 

決闘王(デュエルキング)の精霊か、やはり精霊を持つ決闘者(デュエリスト)は強い傾向にあるのか』

 

「そう言えば十代君と万丈目君も精霊がいたね…」

 

十代のハネクリボーと万丈目のおジャマトリオを思い出す翼だった。

 

『もし童実野町に来たら会いに来てね~!』

 

そう言ってブラックマジシャンガールは手を振りながらどこかへ去って行った。

 

『なんだったんだあいつは…』

 

『いいじゃない。でも決闘王(デュエルキング)にも精霊が憑いていたってことは翼も決闘王(デュエルキング)になれる素質があるのかもね』

 

「…」

 

翼はヴェーラーの冗談に真剣に考え始めた。

 

『どうしたんだ?』

 

「僕、そういったのに興味ないんだ」

 

『…え?』

 

『…は?』

 

ミスティルとヴェーラーは絶句した。普通向上心のある人間なら上を目指そうという気持ちになるのになぜ興味なしなのか理解に苦しむ。

 

『…普通決闘者(デュエリスト)って決闘王(デュエルキング)みたいに一番を目指すものじゃないの?』

 

『元からこういう性格とは思ってたが普通なら「なら僕も決闘王(デュエルキング)になってやる!」とか言えんのかお前は…』

 

『夢を追う気持ちが足りないね…』

 

「なんでそんな非難されないといけないの…」

 

翼は苦笑いをしながら語り始めた。

 

「僕はね、決闘王(デュエルキング)とか目指したり、その、プロになったり決闘(デュエル)で仕事をしようって気はないんだ」

 

『何故だ?決闘(デュエル)の腕も上がってきた、もう少し努力すればそのプロとやらになれるのではないのか?』

 

『もしかして自信がないとか言わないよね?』

 

「いや、自信がないって訳じゃないよ。でも…」

 

翼は言いにくそうにミスティルを見た。

 

『もしかして私たちがいないから決闘(デュエル)をしたくないと?』

 

「…うん。というよりミスティル達の頼みでデュエルモンスターズを始めたけどそれが終わった後の目標が見つからないんだ」

 

『…』

 

ミスティルは呆れた、だが考えてみると当たり前だった。翼はミスティルの王であるテンペストを救うためにデュエルモンスターズを始めた。それ以外の目的もなくただそれだけのために決闘(デュエル)をしてきた。そのためだけにデュエルアカデミアに入学した。それが終わった後には全て翼にとって無意味なものとなる。

 

「勿論デュエルアカデミアはきちんと卒業するよ。でも卒業してからは多分デュエルモンスターズは止めると思う…」

 

『…まぁ翼を巻き込んだのはボク達だし翼の決めたことに異存はないけど…』

 

『そうだな…』

 

何か重い空気になってしまった。

 

「おーい!」

 

しかし十代が来たおかげでその空気が変わった。

 

「あ、十代君!」

 

「待たせてごめんな。ほら、学園祭を回るぞ!」

 

「うん!」

 

そして十代と翼は手を繋いで一緒に歩き始めた。傍から見るとカップルにしか見えない。

 

そんな楽しそうに学園祭を楽しむ二人を見守りながらヴェーラーは口を開いた。

 

『ねぇミスティル、質問してもいい?』

 

『なんだ?』

 

『なんでテンペストは翼を選んだの?』

 

『…それは全くわからん。確かに精霊の力を受け入れやすいし頭もいい。普通なら適任とも思える。だがあの遊城十代みたいに、というより他の決闘者(デュエリスト)みたいに決闘(デュエル)が好きではない。理由は闇の決闘(デュエル)だろうな。普通あんなボロボロになったのに好きでいられるなんて心の底から決闘(デュエル)が好きでなければ無理だ』

 

『でも翼は決闘(デュエル)はそこまで好きじゃない。命を懸けるものじゃない。でもミスティルやボク、そして行方不明のテンペストと精霊界のために決闘(デュエル)をしてる』

 

『…』

 

『考えてみるとボク達って翼にかなり重荷を背負わせてるんだね…』

 

落ち込むミスティルとヴェーラーだった。

 

『翼は今までの自分を打開してくれた私たちに恩を感じてここまでしてくれているのだろう。だが…』

 

『…うん』

 

ミスティルとヴェーラーは学園祭を楽しむ翼を見ながらある決意を固めた。

 

ちなみに十代はブラックマジシャンガールと決闘(デュエル)をして勝ち、翼と学園祭を回ったことにより男子生徒ほぼ全員の嫉妬をその身に受けることとなった。

 

 

 

 

 

 







「学園祭、楽しかったなぁ…。大徳寺先生も居ればよかったなぁ…」

『…そうだな』


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