遊戯王 渓谷の戦士   作:Σ3

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なんで4月はこんなに忙しいんだ…、去年はこんなことなかったのに…。

このままでは間に合わない、でも何か書かなくてはと思った時、この前友人に言われたことを思い出した。

「お前の小説のカイザーっておもしろいけどあそこまですることなかったんじゃない?」

というわけで短いですが番外編をお楽しみください。





第14.5話《番外編 もしも、カイザーがまともだったら?》

 

 

 

 

 

翼は夢を見た。

 

夢の中の明日香と共に何処かへ向けて歩いていた。そこは港の灯台だった。そこには、カイザーがいた。

 

これは、カイザーがまともだったらという翼の願望が生み出す物語である。

 

「明日香、遅いぞ…お前は確か風龍翼だったな」

 

「あ…はい」

 

翼はクールに決めるカイザーにたじろいだ。こんなカッコいい男になりたいと思う翼だった。

 

「それで、何か用事があるのだろう?」

 

「あ、実は…」

 

翼は翔の話をした。するとカイザーは無表情で海を見つめながら翼にこう伝えた。

 

「それなら俺の出る幕じゃない、あいつ自身が乗り越える問題だ。もし俺が出てしまえばまたあいつは俺に対してコンプレックスを抱えてしまう」

 

「でも…」

 

「翔なら大丈夫だ、お前らみたいにあいつのことを支えてくれる仲間がいるからな」

 

「あっ…」

 

カイザーのふと見せた笑顔に翼は心を奪われた。

 

「あ、あの…」

 

「ん?」

 

「ぼ、僕を弟子にして下さい!」

 

翼はカイザーに土下座して弟子入りを志願した。立派でカッコいい男となるために。

 

「え、えっ?」

 

明日香はいきなりの土下座に呆然とした。

 

「なぜ俺に弟子入りを志願する?」

 

カイザーはすぐ断ろうとしたが一応理由を聞くことにした。今までにもカイザーに弟子入りしたいと懇願する者はかなりいた。だが彼は全て断っている。なぜなら彼に弟子入りする者は全てカイザーの強さ、サイバー流の強さを手に入れようとする強さに固執する愚か者でさらに自身で努力もせず楽に力を得ようとするものばかりだったからだ。

 

「理由ですか…」

 

翼は一呼吸おいて理由を述べた。

 

「それは、丸藤さんのように、カッコ良くて男らしい男になりたいからです!」

 

「フ、ハッハッハッハッハッハッ!!」

 

理由を聞いてカイザーは笑ってしまった。こんな風にデュエルアカデミアのカイザーとしての自分でもなく、サイバー流の丸藤亮としての自分でもなく、唯の丸藤亮としての自分に憧れて弟子入りする奴なんていると思ってもいなかったからだ。

 

こうして翼はカイザーの弟子となった。

 

それから翼はカイザーのことを師匠と呼ぶようになり事あるごとにカイザーに付いていく様になった。他生徒から弟子にしてくれるよう口添えをしてくれと懇願されることもあったが男らしさとはなんなのかをカイザーを見て学んだ。カイザーは手取り足取り教えることはなかった、というより教えることはなかったがいつも翼を気にかけてくれた。しかし夢なので翼は一向に男らしくなる気配はない模様。

 

そして色々な出会いもあった。綾小路先輩とは色々と誤解があったがカイザーが誤解を解いてくれたおかげで今では面倒見のいい先輩になっている。神楽坂は翼が励ましてから一緒にデッキを作るようになった。下手なりにデッキを作りどんどんと上達してきた。数多くのデータを記憶して積み上げた決闘(デュエル)理論、そしてデッキの特徴を理解し最大限引き出す頭脳、この二つが合わさり神楽坂はラーイエロートップの三沢程の実力者となった。そろそろオベリスクブルーに昇格するのではないかと噂になっている。

 

そして新年が明け早乙女レイがアカデミアにやって来た。同室となり直ぐに友達となったがレイがカイザーに恋していると分かったとき、少し心の中にモヤモヤとした何かが生まれるのを感じた。

 

「…なんだろう、この気持ち…」

 

結局カイザーはレイの告白を丁重に断った。

 

その日のレイは失恋のショックで一晩中泣いた。翼はレイを慰める時、心の中であらぬことを考えてしまった。レイが振られた、というよりカイザーがレイを振ってくれたことにホッとしてしまったのだ。

 

一気に罪悪感がわいた。自分は友達の恋心より自分の日常、師匠との日常が壊れるのを恐れたのだ。

 

ああ、自分はなんてことを考えたのだ。罪悪感で押しつぶされそうになる翼。

 

そこで翼は目が覚めた。翼は保健室のベッドで寝ていた。目の前には誰もおらず傍に誰かいるのを感じた。

 

「…」

 

「し、丸藤さん…」

 

カイザーが傍にある椅子に座ったまま寝ていたのだ。さらに近くの棚にあるタオルを見て翼はカイザーが看病していたのだとすぐに分かった。

 

確かにカイザーは自分に対して異常に執着し異常な形で愛情を表現してくる。でも、それは自分を思っての行動なのだと翼は分かっている。だから夢を見たのだろう、カイザーが普通に接してくれる夢を。

 

翼は気づいた、自分はカイザーの事が(憧れの目指すべき先輩として)好きなのだと。

 

そんな思いから翼は寝ているカイザーの頭を撫でた、撫でてしまった。

 

「う、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

 

「ヒッ!?」

 

次の瞬間カイザーは飛び上がり大声を上げた。カイザーの目は野獣のようで吐く息は白く、前かがみで突き出した両手の指をわきわきとさせていた。

 

カイザーは翼の予想通り看病をしていた。だが問題なのはカイザーが寝ている翼を見て暴走しそうだったことだ。寝ている翼は明らかに無防備、何度キスをしたり抱きついたりしようとしたか、だが明日香が監視するかのように一緒に看病してたり鮎川先生がいたりそれと無抵抗の翼にキスをすることに罪悪感がわいたりでどうにか自制心を保っていた。だが翼が目覚め、さらに頭を撫でてきた、そして保健室で二人きり。カイザーの理性は吹き飛んだ。

 

「我が嫁よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

亮はどこぞの大怪盗のごとく服を一瞬で脱ぎ捨て翼の元へダイブした。

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?」

 

3分後、ミスティルとヴェーラーは翼の眠る保健室に向かっていた。

 

『良かった、目が覚めたみたいだね』

 

『そうだな』

 

そして二人は保健室の扉をすり抜けた。そこには異常な光景が映った。

 

「ヒック…ヒック…」

 

「ほら、もう大丈夫だ、心配するなって」

 

翼が泣きながら十代に抱きついて泣いていたのだ。抱きつかれている十代は翼を励ましながら頭を撫でていた。その奥には裸で倒れるカイザーとそれを鬼の形相で睨みつける明日香がいた。

 

「さて亮、贖罪の用意はできてるんでしょうね?」

 

「…」

 

へんじがない、ただのしかばねのようだ。

 

翼は思い知った。あの優しくカッコいい師匠はいない、現実のカイザーは変態者で変質者なのだと。

 

この事件を機にカイザーは一か月の停学、そして今後翼がいる所から半径3m以内への侵入を禁止された。

 

 

 

 

 







「なぁ翼、そろそろ離して…」

「グスッ…」

『ああいう行動を自重すれば少しは男にみられるのだが…』



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