「さて、これから俺と翼との恋愛物語が始まるのさ!」
※神楽坂の出番はもうありません。よって神楽坂と翼との恋愛物語は始まりませんのでどうかご安心ください。
それは冬休みのこと、翼はミスティルのために本土へ帰らずデュエルアカデミアに残ることにしていた。翼はデュエルアカデミアに残っていた十代と
その頃ミスティルは島中を捜索していたが全く成果を挙げられずにいた。理由は精霊の力を完全に失っているからだ。力は回復もせず、今のミスティルはただの浮遊霊となってしまっている。
だがそれでもミスティルは諦めず手掛かりを探して今日も島中を彷徨っている。今はSALの事件の際、翼が攫われた時に通った森を捜索している。
『…不毛だ。本当にこんなことをしていて意味があるのか?』
ミスティルは最近愚痴をこぼしながら捜索している。いつもなら返答なんて帰ってくるはずはない。それなのに、今日は違った。
『そうだね、不毛以外の何物でもないよ』
その声は木の陰から聞こえた。
『誰だ!』
ミスティルが叫ぶと声の主は木の陰からゆっくりと姿を現した。その姿は白を基調とした服を着た、エメラルドグリーンの髪、ヴェール様な羽を生やした男とも女とも思える精霊だった。
『誰だ、だって?君のような駄目精霊に教える名なんてないよ』
『なんだと…』
ミスティルは憤慨した。仮にもドラグニティの戦士たる自分が駄目精霊と揶揄するなど侮辱以外の何物でもないからだ。
『まぁいいさ。僕は精霊界の総意を君に伝えに来ただけさ』
憤慨するミスティルを気にも留めず、精霊は話を進める。
『なに?』
精霊はミスティルを指差し、思わぬ一言をミスティルに告げた。
『ミスティル、今すぐ君は精霊界に戻るんだ』
『!?なぜだ!』
ミスティルは身を乗り出して訳を聞いた。
『君の精霊の力は完全に無くなってる。それ以外に理由はないよ』
ミスティルを納得、いや諦めさせるにはその理由で十分だった。精霊界なら精霊の力を取り戻せる、しかしそれでは翼と離れ離れになってしまう。そうなれば翼が危険に晒された時どうしようもない、主にカイザーの暴走とか。
『しかし…』
『大丈夫、僕がここに残るから。君のパートナーにはうまく言っとくよ』
気楽に考えている精霊、このままではあの男により翼の精神が崩壊してしまう。
『だがそれでは!』
『くどい!足手まといなんだよ今の君は!』
足手まとい、そう思われても仕方のない体たらくだ。ミスティルが今まで翼の役に立ったことなんて
『くっ…』
『さあ、精霊界への扉は僕が開いてあげるね』
ミスティルが折れ、精霊が精霊界への扉を開こうとしたその時、奥のほうから人が現れた。
「ミスティルと…誰?」
『翼…』
それはミスティルの帰りがいつもより遅く、嫌な予感がして辺りを探していた翼だった。
『えっと…君がミスティルのパートナー?』
そして精霊と翼は同時に目を合わせ、同時にお互いの姿を見た。
「!?」
『!?』
その時、二人に衝撃が走る。前方に移る男と女の狭間にいそうな姿をした人を、自分と同じ苦悩と経験をしたであろうと容易に感じられる姿をした精霊を、二人は見た。そして直ぐに分かり合えた。
僕たちは、同類であると!
「僕の名は風龍翼!君の名は?」
『僕の名はエフェクト・ヴェーラ!よろしく翼!』
二人は固い握手を交わし、互いに自己紹介をした。今ここに会って数秒で固い絆が結ばれた。
『…なんとまぁ、二人とも似ているな』
ミスティルはエフェクト・ヴェーラを見て直ぐに察していた。
「それで、エフェクト・ヴェーラーはなんでここに?」
『ヴェーラーでいいよ。僕はちょっとミスティルに伝えることがあってきたんだ』
もう打ち解けている二人だった。
「ミスティルに?」
『うん、ミスティルは精霊界に帰ることになったんだ』
ヴェーラーはあっさりと翼に真実を告げた。そこはもうちょっとオブラートにと思うミスティルだった。
「!どうして!?」
『ミスティルは今精霊の力を完全に失っているからね』
またもや翼にとって衝撃的真実をあっさり告げるヴェーラーである。
「そんな…ミスティル、それはいつからなの!」
『それは…』
ミスティルは返答に困った。いったいどんな顔をしてカイザーを足止めしていたら思いのほかカイザーの力が強く精霊の力を失ったと言えばいいのか。
『精霊界でミスティルの精霊の力を感じられなくなったのは人間界の太陽暦に合わせると…月…日だね』
その日は十代と翔が迷宮兄弟と退学をかけて
「ミスティル…」
『翼…』
ミスティルは幻滅されたと感じた。これでは精霊の力が戻っても翼の元へと戻る資格などないと思った。
しかし、翼はミスティルに向かって頭を下げた。
「ごめん」
ごめん、この一言はミスティルも、ヴェーラーも驚いた。謝罪の言葉は本来なら黙っていたミスティルがする方なのに。なぜか翼のほうから謝ってきたのだ。
「僕、全然ミスティルのこと見てなかった。だから力を失ってるなんて気づかなかった」
翼は後悔していたのだ。自分がミスティルの事をもっとちゃんと見ていれば、自分がミスティルのことを気にかけていたらと。後悔の念がどんどん深くなっていく。
「僕はいつも十代君たちデュエルアカデミアの皆とここでの学校生活のことしか頭になかった。僕のせいだ…僕のせいでミスティルは……」
とうとう翼の目からポロポロと涙がこぼれはじめた。
『お、おい、ちょっと翼!』
翼が泣きはじめてミスティルは慌てふためいた。悪いのは自分なのに、翼が泣くことでもないのに。もし翼が今ミスティルの精霊の力が失われた原因を知ったらどう思うだろうか。
『泣ーかーしーたー』
『お前は黙ってろ!』
ヴェーラーはまるで他人事のようにミスティルを煽った。まぁ実際他人事なのだが。
『翼、別にお前が気にすることじゃない。私の不手際でこうなったのだ』
ミスティルはそっと手を泣いて震えている翼の肩に置いた。
「でも…」
『そうやって心配してくれる、それだけで十分だ。だから泣くな』
「うん…」
ミスティルの言葉を聞いて翼は泣き止んだ。
『それで、エフェクト・ヴェーラー。お前に聞きたいことがある』
ミスティルはヴェーラーの方を向いた。
『何を聞きたいの?』
『今の精霊界の現状だ』
ミスティルが一番聞きたいこと、それは今の精霊界についてだ。長い期間精霊界に戻ってないミスティルにとってとても重大なことだ。
『あー…』
先ほどまであっさりと言ってきたヴェーラーだったがその質問の答えはどこか言いづらそうだった。
「あ、僕がいたら邪魔かな?」
それに気づいた翼はその場から立ち去ろうとした。自分は精霊界に何も関係のない部外者だと弁えての行動だ。
『いいや、翼も聞いていたほうがいいかもね』
『そうだ、翼は協力者だからな』
しかし精霊の二人は翼を引きとめた。
『今、精霊界は窮地に立たされているといっていいかもね』
「何だって!?」
『何!?』
そしてヴェーラーは先ほどまでの言いづらそうな表情から一転、あっさりと衝撃の真実を二人に言い放ち、翼とミスティルは驚愕した。
『君たちの探している王、テンペストとドラグニティの精鋭たちが消えた時から精霊界ではある現象が起きているんだ』
『ある現象…それは何だ?』
『精霊が消えてるんだ』
消える、それを聞いて翼が首を傾げた。
「精霊が…消える?いなくなるとかじゃなくて?」
翼の言うとおり、消えるという表現には色々とあるが翼は行方不明的な意味として捉えたようだ。
『うん、行方不明とかそんなんじゃない。ミスティルのように完全に精霊の力が消えたわけじゃない。何もなかったかのように消えるんだ』
『…他の王は何と?』
ミスティルは重苦しい雰囲気で質問した。
『さあ、他の王、ブラスター、タイダル、レドックスの三体とも消息を絶っているから…』
『何だと!?それは一大事じゃないか!』
他の王もミスティルの王に匹敵する強さを誇る。その三体が一斉に消息を立つなど前代未聞なのだ。
「初めてミスティルの王の名前を聞いた気がする…。それに他にも王がいるんだ…」
一方翼は初めて聞くことばかりで少し呆然としていた。
『取りあえず四体の王が消えた今、ここにいるだろうテンペストの救出を最優先に考えないといけなくなった。だから最初にミスティルを精霊界に呼び戻して力を戻しておくんだ』
精霊の力を取り戻す、それを聞いて翼はあることを思い出した。ミスティルは精霊の力を失っていたから自分に
もしかしたらミスティルの力が戻ったらもう自分は必要ないのでは?
「…ねぇ、ちょっと気になることがあるんだけど」
そう思い翼はおそるおそるミスティルとヴェーラーに聞いてみた。
『何だ?精霊界のことか?』
「いや、どうして僕を必要とするのかなぁ…って。ミスティルの精霊の力を取り戻せるんなら僕がいなくても
その言葉を聞いてヴェーラーはジト目でミスティルを睨んだ。
『ミスティル…あんた』
『あ、いや…私はどうも説明が苦手でな…』
二人のリアクションからして自分はまだ必要なんだなということがなんとなく分かった。
『ハァ…いいよ。僕が説明してあげる』
ヴェーラーはため息を吐いて翼に説明を始めた。
『精霊同士の
精霊の力で決まる。それでは
「え?でもドローするカードとかタクティクスとかでどうにかならないの?」
『ならないんだよそれが。精霊の力が大きいと小さい相手の運やら何やらを掌握できちゃうんだ。人間だって実力差のある相手と戦うときにそんな感じがしないかい?』
「まぁ…そうかもしれない」
確かに十代と
『勿論大金星がないわけじゃないけどね。でもその可能性はほとんど0に近い。今回の相手はテンペストを封印できるほどの強敵、しかも相手はおそらく闇の
「そこでどうして僕なの?」
『聞いて驚かないで、精霊の力は人間にある程度譲渡出来るんだ』
「それはミスティルの話してたことから分かるけど…」
『そして精霊の力を持った人間対精霊、もしくは力を持った人間同士の
「…?」
翼は首を傾げたがヴェーラーは話を続けた。
『精霊の力によって付加される力は主に三つ、ドロー運の向上、判断力の向上、そしてデッキに入ってない未知のカードの創造かな?』
「ちょっと待って!最後の凄くない!?」
翼は付加される最後の力に驚きを隠せなかった。もしそんなことができたなら無敵以外の何物でもない。
『まぁね、そういった効果を人間に託して
「カードの創造…か」
翼は自分の右手を見た。自分にそんなことができるのかという不安と、もしできたらという興奮が翼の心を駆け巡った。
『簡単に言うと強大な敵と戦うためには絶対に君の力が必要ってことなのさ』
「うん…なんとなく分かった」
ヴェーラーが話を終えても翼の心は上の空だった。
『あ、それとこれ』
ヴェーラーが翼に渡したのはカードだった。
「これは…カード?ヴェーラのカードに…
渡されたカードは翼の知らないカードばかりだった。しかしそのカードたちはそれぞれが強力なカードであることは直ぐに分かった。
『まぁ戦うのは翼だしこのくらいはね』
だが翼はここで疑問に思った。自分たち人間はカードをパックやらなにやらで買って手に入れているのに精霊たちはどうやってカードを手に入れているのだろうと。
「でも君たち精霊はどうやってカードを手に入れているの?」
翼がそれを質問するとヴェーラーは先ほどよりも鋭い目と感情をこめてミスティルを睨んだ。
『ミ~ス~ティ~ル~?』
『わ、私は説明が…』
ミスティルは言い訳をするがもう頼りなさが半端じゃないくらいに上昇してきた。
『それでも説明してあげようよ、ほとんど何も知らないじゃないか…』
『すまない…』
『まぁいいけど、今から説明するから。』
「…」
誤るミスティルを見て翼はちょっと申し訳ない気持ちになった。ただ単に気になったから質問しただけなのに。
『私たち精霊の持ってるカードはね、モンスターカードはその精霊の力によってカードにしてもらうの。魔法、罠カードは物だとか文献に書かれている出来事とか精霊の持ってる記憶とかを精霊の力によってカード化するの』
「精霊の力が弱い精霊はどうするの?」
『従ってる精霊からカードを譲ってもらうか闇の
闇の
「ふ~ん、でもこれ人間界で使っても大丈夫なの?」
『大丈夫大丈夫、今までだってミスティルのデッキを使ってたんでしょ?そのデッキを使って不具合とかがあったの?』
「いや…」
翼の心の中にこんなカードをいつも使っていいのだろうかという罪悪感が沸いてくる。
『なら遠慮せず使っちゃいなよ、君のためでもあるし』
「うん…」
渋々翼はそのカードを受け取った。
『さて、そろそろミスティルを精霊界に戻さないと』
ヴェーラーが手をかざすとなにやら透明な扉が翼たちの前に出現した。
「それは…?」
『精霊界に続く扉だよ、開く精霊によって形は違うけどね』
『…』
精霊界への扉、つまりもうミスティルとしばしの別れのときだということだ。ミスティルは何も言わず、扉を開けた。
「また…帰ってきてね」
『ああ、今度はお前に迷惑をかけたりしない』
翼の声に答え、ミスティルはゆっくりと精霊界へと帰っていった。そして扉は閉まると同時に消えていった。
「…」
『寂しい?』
黙る翼を見てヴェーラーは優しく声をかけた。
「うん…ヴェーラーは帰らないの?」
『ミスティルが帰ってくる前に翼が刺客に襲われたら困るからね。翼の精霊として残るよ』
「そう…よろしくねヴェーラー!」
翼はようやく笑顔になった。
『うん、よろしくね!』
するとヴェーラーは背中から抱きついてきた。いきなりの行動に翼は驚いた。
「わわっ、いきなりくっつかないでよ!」
『いいじゃないか!』
ヴェーラーは屈託のない笑顔で翼をどん底に貶める一言を口にした。
『女の子同士なんだし!』
「…」
翼は黙り込んだ。まさか、まさかヴェーラー女の子であるなんて思わなかった。しかしそれよりも同類と思ってたヴェーラーに女の子と間違えられるとは夢にも思わなかった。
『翼?』
「うわああああああああああああああああああん!!」
ヴェーラーに離しかけられると同時に翼はショックと悲しみのあまり泣きながら猛ダッシュした。
『ちょっと、翼ー!?』
ヴェーラーはなぜ翼がそうなったのか分からなかった。いつになったら十代以外に翼を男と本気で思ってくれる人物は果たして現れるのだろうか…。
『翼の前に現れた編入生はなんと、男装をした女の子!?オシリスレッドに入った編入生は翼と一緒の部屋に住むことに。そして翼がついに本性を現す!今までカイザーのような男達の告白を嫌がっていた理由、それは翼が同性愛者だったから!?何も知らない無防備な編入生に翼の毒牙が迫る中、ついにカイザーが愛の力で覚醒する!次回、地獄皇帝爆誕!デュエルスタンバイ!』
「ヴェーラー!嘘予告をしないでください!」