遊戯王 渓谷の戦士   作:Σ3

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筆者はWeb小説初心者です。色々とおかしい所があると思いますが大目に見てください。

そしてこの回ではデュエルをしません。




プロローグ

 

 

 

 

嵐が巻き起こる、目も開けられないくらい猛烈な嵐が。そこに一人の少年が嵐に巻き込まれていた。

 

『うっ、なんで僕こんなところに…』

 

少年は粉塵が目に入らない程度に目を開けた。するとそこには少年の何十倍もの大きさがある影があった。こんな嵐の中でも威風堂々としているのが影しか見えない少年でも直ぐに分かった。そしてその影も少年に気づいたのかドンドン少年に近づいてきた。

 

すると影はドンドン大きくなっていき、おぼろけだった身体の形も徐々にわかるようになった。しかしもう少しで全部見えるという所まで影が近づいたところで少年が恐怖で後退りした。

 

何故ならその影が一体の龍だったからだ。

 

その龍は少年が自分に恐怖しているのに気付いているのか分かっていないのかそのまま近づきながら少年に風の音が大音量で響く中で話しかけた。

 

『少年!貴様--らを--る力-----か!』

 

だが少年には暴風の音のせいで言葉の断片しか伝わっていないようで少年は一体何を言っているのか分からないといった顔になった。だが龍はお構いなしに話を続けた。

 

『今、我---戦士たち----ようと---る!そこ---に----われ----我が戦---を率いて-------い、この------くれ!』

 

そしてそう言い終わった龍は嵐の中何処かへ消えようとした。

 

「待って!」

 

少年が嵐の中消えゆく龍を引き留めようとその手を伸ばそうとしたその時、

 

 

 

ピピピ!ピピピ!とデジタル時計のアラーム機能特有の電子音が鳴った。

 

 

 

少年は直ぐにそれが夢だと気づいた。少年はベットから上半身を起こしデジタル時計のアラームを止め、大きく背伸びをした後にベットから立ち上がりカーテンを開けた。天気は晴天、清々しい朝だった。

 

それからいつも通り、自分の部屋がある二階から洗面所がある一階に下りて顔を洗い寝癖のついている髪を整え、二階に上がりお気に入りのパジャマを脱いでから通っている中学の制服を着て、今日ある授業の教科書やらを学校の指定カバンに入れて、一階に下りて両親と共にいつも通り朝食を食べ始めた。

 

すると重大発表があったとテレビから聞こえたのでテレビに目を向けるとそこには《デュエルモンスターズ》というカードゲームの創造者であるペガサス・J・クロフォードという長髪の白人が多くのカメラのフラッシュを浴びながらこう演説していた。

 

『この召喚方法はデュエル界に革命を起こしマース。その召喚方法の名は…』

 

少年はそこまで聞いてテレビのチャンネルを変えた。一緒にテレビを見ていた両親はそれを咎めようとはしなかった。

 

デュエルモンスターズ、今全世界で大流行しているカードゲームだ。その人気は社会現象という言葉ですら説明がつかず、プロリーグもありプロ決闘者(デュエリスト)と呼ばれる職業もあり、ついには決闘者(デュエリスト)を要請するデュエルアカデミアという学校も存在しているほどだ。それに使用されるカードの中には希少な物もあり、一枚何百万もするカードもあるらしい。事実この世界はデュエルモンスターズで動いていると言っても差し支えない。

 

だが少年とその家族にしてみればそう言った話は馬鹿馬鹿しい話にしか聞こえない。少年の家族は両親に一人息子の少年の三人で両親は共働きで何処から見ても普通の会社に努めている。この家族はデュエルモンスターズという物にあまり接点が全くない。両親の勤めている会社はプロ決闘者(デュエリスト)のスポンサーになっていない。デュエルをやっているところは見たことがあるが両親も少年もデュエルどころかカードにすら触ったことはない。例えばプロリーグで誰かが破竹の50連勝をしたというニュースが流れても「ふーん、すごいんだ」と感心はするが「だからなに?」といった状態だ。

 

別に嫌いだとかそれにトラウマがあるだとかではない。ただ知らない、興味がない、それだけの話だ。

 

そして少年は朝食を食べ終えて鞄を取りに二階へ上がった。ちなみに少年の学校ではあともう少しで期末試験が始まる、少年はこれまでずっと勉強では優秀な成績を修めている。なので少年の両親は息子の勉強の事には口出しをしないし、進路の事も自分で決めさせようと思っている。

 

少年はいつも通りの時間にいつも通り何事もなく家から学校へ向かった。だがその足取りは軽くはなかった。何故なら彼にとって学校に通うことは苦痛だったからだ。

 

彼は俯きながら登校していると同じ中学校の生徒が次々と通り過ぎていくが誰一人として少年に話しかけることはなかった。通り過ぎ行く生徒の中には少年のクラスメイトもいたがその生徒も少年に挨拶もせずに通り過ぎて行った。

 

少年が学校に通うことに苦痛を感じる最大の理由はこれだ。少年には友達と呼べる人が学校にはいないのだ。別にいじめられているわけではない。ただ学校の中で少年の存在が浮いているだけなのだ。

 

通学路では誰にも話しかけられず、クラスの教室に入っても最低限の挨拶はされるがそれ以上の会話は一つもなかった。こんな朝が中学3年間ずっと続いている。少年の席は窓側の一番端の席だ。浮いているから端に追いやられているとも思われる席だが少年は内気で恥ずかしがり屋なのでここが丁度いいと思っている。

 

そして朝礼の時間になり教室の殆どの席が生徒で埋まってクラスの担任が教室に入ってきた。明るく誰とでも平等に接してくれる先生で、内気な性格の少年にとってもそれなりに接しやすい先生だ。

 

しかし先生が出欠確認を始めようとしたその時、教室のドアがドバァン!、と唐突に勢いよく開いた。少年はその時の音にビックリしたが、教室内の生徒達と先生はまたかと言いたげそうな呆れ顔になった。

 

「いや~、ギリギリセーフかな?アウトかな?」

 

そこからいつも遅刻ギリギリにやってくる生徒が笑いながら教室に入ってきた。今日は完全に遅刻だ。先生は遅刻してきた生徒に近づきこう怒鳴りつけた。

 

「豊田!お前はなんでいつもこんな時間に登校してくるんだ!これで遅刻は20回目、もっと早起きして時間にゆとりを持って登校して来いと何度も何度も言っているだろう!」

 

だがその生徒は開き直って自信有り気にデュエルモンスターズのカードのデッキを鞄から取り出しこう言い放った。

 

「先生、もし俺が決闘(デュエル)に勝ったらこれまでの遅刻をチャラにしてもらえませんかね?」

 

あり得ないとしか言えない一言だった。だが先生はその生徒にこう答えた。

 

「いいだろう、だがお前が負けたら今日親御さんに遅刻の回数をご報告するため家に訪問しに行くからな」

 

そう言って先生は教卓の引き出しからデッキが入った決闘盤(デュエルディスク)を取り出し、遅刻してきた生徒も鞄から決闘盤(デュエルディスク)を取り出し、両者左腕に装着した。生徒たちは決闘(デュエル)を止めさせようとするどころかデュエルスペースを作る為に机や椅子を端に寄せ始めた。さらに決闘(デュエル)を見に他の教室の生徒達が教室の窓に集まり始めた。

 

この様にこの学校では何かあったらそれを決闘(デュエル)で決着をつけようとする。というかこの世の中では何でも決闘(デュエル)で決めようとする風潮がある。少年の父親は会社にとって大事な契約を決闘(デュエル)で決めていた、と家で愚痴ったことがある。その愚痴に少年の母親がその内政治や外交も決闘(デュエル)で決めようとする日が来るんじゃない?と冗談交じりに返したのだが少年には本当にそうなっているんじゃないかと思えるくらいこの世の中はデュエルモンスターズを中心で回っているように見える。

 

少年は元々端の席なので机を動かさなかった、と言うより動かす気にならなかった。少年が学校で浮いている理由、それは少年が決闘(デュエル)に、デュエルモンスターズにあまり興味がないからだ。他の生徒は、というか少年以外のこの学校に所属している人は全員デュエルモンスターズをしている。確かに全員がしている物をやっていない人がいればその人は浮いた存在になるだろう。

 

生徒と先生の決闘(デュエル)は先生の圧勝で終わった。勝敗が決まった瞬間、見ていた生徒達は歓声を上げた。負けた生徒は悔しがり、勝った先生は誇らしげにこう言った。

 

「豊田、お前は確かデュエルアカデミアへの入学試験を受けるらしいがそんな実力じゃあ考え直した方がいいんじゃないか?」

 

「うっ……」

 

デュエルアカデミア、大手玩具メーカーである海馬コーポレーションによって創立された決闘者(デュエリスト)を育成するための学校である。中高一貫教育の学校だが高校からの入学試験がある。もうすぐその入学試験があり、最近学校ではその試験の話題で持ちきりだ。だが少年はその話に乗る気もないし、そのデュエルアカデミアに編入しようなんて思っていない。

 

だが少年は何処の高校の入試を受けるかまだ決めていない。魅力的な高校はいくつもあるが何処に行ってもこの学校みたいになんでも決闘(デュエル)で決めようとする人ばかりだと思うと中々決めきれなかった。少年は勉強の成績が良い。余程の事がない限りどこの高校でも受かる様な成績の為、どうせならデュエルモンスターズが中心でない高校に行きたいと思っている。

 

そんな感じでいつも通り少年は誰にも深く干渉されず、今日の学校は終わった。下校時刻になると生徒達は集団で近くのカードショップに向かった。カードショップに向かわない生徒もデュエルをするために近くにある公園に向かうだろう。少年はそんな生徒達とは違い一人で下校した。

 

少年の両親は共働きで帰りはいつも遅い。だから晩御飯は少年が作ることになっている。少年が小学生高学年のころに遅くまで仕事を頑張った母親を楽にさせるために晩御飯を作った時からほぼ毎日少年が晩御飯を作っている。晩御飯の食材の買い物も少年がすることになっているが、今日はまだ冷蔵庫の中に食材がある事が分かっているので今日はスーパーには向かわず真っ直ぐ家に帰った。

 

「ただいま」

 

少年は誰もいないのにそう言い、二階へ上がり自分の部屋に入った。少年は自分の部屋のベットに鞄を放り投げ、窓を開けて外の景色を見始めた。そして黄昏ながらどうしてこの世の中はデュエルモンスターズを中心に回っているのだろうと考え始めた。そんなこと考えてもまだ中学三年生の少年に答えが出せる訳がないのにいつも学校が終わるとそう考えてしまうのだ。

 

いつもなら晩御飯を作ろうとする時間までこうやって黄昏ているのだが今日はいつもとは違う、とんでもないことが起きた。

 

いつも通り外の景色を見ているとそよ風が起きた。そのそよ風は気持ちよい風だったがそろそろ晩御飯を作る時間だなと思い少年は窓を閉めようとすると、先程までそよ風だった風がいきなり突風に変わった。

 

その突風に襲われた少年は目を閉じ、とっさに顔を両手で覆うとふと今朝見た夢の事が頭をよぎった。そう思っていると窓から突風に流されてきたであろうと思われるカードが大量に少年の部屋に入ってきた。

 

少年も何かが部屋の中に入ってきたと感じ、突風が収まると同時に目を開けると部屋一面にカードが足の踏み場もない程に散らかっていた。そのカードがその見た目からデュエルモンスターズのカードだと直ぐに分かった。誰かのカードが風に飛ばされて来たのだろうと思い、少年は足元に散らかったカードを踏まないように一枚一枚拾い始めた。

 

そのカードの中に一枚気になるカードがあった。そのカードの名前欄には《ドラグニティアームズ-ミスティル》と書かれていた。イラスト欄には右手に剣を持っている黄色の龍が書かれていた。

 

そのカードを見ていると誰かがいる気配を感じたので顔を上げてみるとそこには、先程まで見ていたカードに書かれていた龍にそっくりの龍が目の前にいた。

 

「う、うわああああああああああああああああ!!?」

 

少年はあまりに突然の出来事に驚いて悲鳴を上げた。しかも驚きで今まで拾い上げたカードをまた辺りにばら撒いてしまい、その場から数歩後退りした後尻餅をついてしまった。

 

「あああ……」

 

少年は目の前にいる大剣を持つ龍に恐怖して少しでも遠ざかろうと涙目で尻餅をついたまま後ろに下がった。それを見た龍は少年にこう話しかけた。

 

『貴様が我が王が救世主と認めた人間か……』

 

龍が我が王と言ったその瞬間に少年、風龍翼は恐怖の中で二つだけを理解した。一つはこれは今日夢で見た龍が関係していることと、

 

『頼みがある、どうか我らと共に我が王を救ってはくれないか!』

 

もう一つは自分がとんでもないことに巻き込まれているということだった。

 

 

 

 

 






一話は15日に更新します。それ以降は基本的に月一更新です。




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