遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

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第九話 デュエル観戦はろくな事がおきない

私たちの目の前には神代とⅣが対峙している。

 その雰囲気は悪く、特に神代は仇を見るような目つきだった。

 

「凌牙……。フン、そうだな。お前が俺の一番のファンだった。忘れていたよ」

 

「あのときの借りを返させてもらうぜ」

 

 あのときの借り? 神代とⅣの間でいったいなにがあったのだろうか……。

 

「借りねぇ……。そういえばお前の大切な妹は元気か?」

 

 神代の妹。確か璃緒ちゃんという名前で2年前に事故に巻き込まれ、現在も意識不明で入院していると聞いた。

 もしかしてその事故にⅣが関わっている?

 

「何もかも貴様が仕組んだんだ。俺のせいで……俺のせいで……アイツは!」

 

 神代は何かを悔やむように呟くとⅣに向かって指を指す。

 

「俺は此処でお前に復讐をする!」

 

 復讐という言葉を聞いて私は目を細めた。

 おそらく、以前に言っていたもう関わるなという言葉はこれに関係しているんだろうな……。

 

「デュエルで復讐……ね」

 

『なんだ? お前はそういうのはお嫌いか?』

 

 楽しそうな雰囲気で問いかけてくるブラック・ミストに私は少し考え込んで首を振る。

 

「(別に私と友達に被害が及ばないなら好きにしていいよ)」

 

『ほぅ……』

 

 あ、でもⅣは結を傷つけたわけだからそれ相応の報いを受けてもらわないといけないわけでして……。

 やっぱり此処は譲れないかな。

 

「いいねぇ。好きだよ、俺はそういうのが」

 

 歪んだ笑みでⅣがそういうと隣にいたピンク髪の少年の右手首から赤く光る紐のようなものが飛び出して神代の右手首に巻きついた。

 

「これは!?」

 

「デュエルアンカーです。これで僕とのデュエルが終わるまで離れることが出来ません」

 

 ピンク髪の少年はにっこりと微笑みながら腕を振るうと赤色の紐は消えてなくなる。

 うわぁ、あれってどういう原理なんだろう。

 

「Ⅲ。こいつは俺の獲物だ! ひっこんでろ」

 

「Ⅳ兄様。凌牙のデッキにはNo.はない。だったら兄様が相手にすることはないでしょう?それに、トロンの命令は絶対だよ」

 

 トロンの命令……とすると2人のバックには黒幕みたいなものが存在するみたいだ。

 それにしてもあの2人は兄弟だったのか……まったく似てないよなぁ。

 

「ちっ……ファンサービスは終わりだ」

 

 Ⅳは舌打ちをするときびすを返してその場から立ち去ろうとした。

 

「(ブラック・ミスト)」

 

『ハッ、昼飯抜きは撤回しろよ!』

 

 私が言いたいことを理解したブラック・ミストはその場で具現化し右手から触手を飛ばしてⅣの右腕に巻き付かせる。

 腕を引っ張られ体をふらつかせ、Ⅳは腕に巻きついている黒い触手をみて眼を見開いた。

 

「なっ、こいつは!?」

 

「Ⅳ兄様!?」

 

 2人が驚いている間に私は歩き出して神代の隣に立つ。

 

「逃がすとでも思ってる?」

 

「黒峰?」

 

 声に反応して2人はこちらに顔を向けると後ろにいるブラック・ミストの存在に気づき困惑していた。

 隣にいる神代も私とブラック・ミストを見て驚いているのが分かる。

 

「あのNo.って確か……アストラルと遊馬を襲った」

 

「なんで刹先輩と一緒にいるんだ!?」

 

 小鳥ちゃんと武田君もブラック・ミストのことを知ってたんだ…。

 あー……ちょっと失敗したかも。

 

「No.……あれが?」

 

 Ⅲ君は小鳥ちゃんたちの言葉を聞いてブラック・ミストを見つめている。

 

「あの女じゃなくて、お前がNo.を持っていたのか」

 

 忌々しそうに腕に巻きついている触手を見ながらⅣは呟き、私は笑みを浮かべた。

 

「戦う理由が出来たでしょ? さぁ、デュエルをしましょうか」

 

 右手を腰に当ててそういうと待てと神代の手が私の肩に置かれたので目を細めて神代を見ると彼は私をにらみつけていた。

 

「Ⅳの相手は俺だ。邪魔はさせない」

 

「悪いけど、これは譲れないよ。それに、神代はそっちの子を相手にしないといけないんでしょ?」

 

 その後、私たちは無言でにらみ合っていた。

 しばらく経って神代も譲る気はまったくないということが分かり私はため息を吐いたときだった。

 

「調子に乗るなよ、この女!!」

 

 Ⅳの右手の甲に描かれた紋章が光ると触手を通じて電流のようなものが走り、それはブラック・ミストを襲った。

 

「くっ、ぐあぁ!」

 

「ブラック・ミスト!?」

 

 ブラック・ミストの苦痛を上げる声に驚き、すぐにⅣの拘束を解くように告げるとブラック・ミストは触手を解いた。

 

「手間を取らせやがって……。決勝で待ってるぞ、凌牙」

 

「なっ! 待ちやがれ、Ⅳ!!」

 

 Ⅳは完成されたハートピースを見せると背を向けて歩きだし、砂埃が彼の姿を隠した次の瞬間にはⅣの姿が消えてしまっていた。

 

「チッ……まさかあんな力まであったとは」

 

「ごめん、ブラック・ミスト…大丈夫?」

 

 右手を摩りながら悪態をつくブラック・ミストに罪悪感が生まれ、謝罪をする。

 まさかあんな形で攻撃してくるとは思いもしなかった。

 

「ふん、昼飯にはデザートが付くんだろうな?」

 

 ブラック・ミストの言葉に呆気に取られつつ、苦笑いを浮かべる。

 しょうがない、大切に取っておいた水精鱗アイスをブラック・ミストにあげよう。

 

「さて、トラブルがあったけど僕とデュエルをしてもらうよ。Ⅳ兄様を倒したいならまずは僕を倒すことだ」

 

「いいだろう。望み通り、貴様からぶっ倒してやる」

 

 そんなやり取りをしている間に神代とⅢ君がデュエルを始めることになったので私はブラック・ミストを出したまま遊馬君のところに戻る。

 私が狙っているのはⅣであってⅢ君じゃないからね。

 そのとき、遊馬君の後ろにいる小鳥ちゃんと武田君が気絶している等々力君と結を支えながらブラック・ミストをみて警戒していた。

 2人のみる目つきは明らかに敵を見る目なんだけど……。

 

「まったく、いったい何をしたんだか……」

 

 歩きながら呟くとブラック・ミストは口を閉ざして顔を背ける。

 言うつもりはまったくないようだ。

 

「遊馬! なんで刹さんがあのNo.を持ってるの!?」

 

「えっとそれは、その……」

 

 2人に言い寄られて遊馬君は当時の出来事をうまく説明できないようだったので変わりに私がブラック・ミストとデュエルして現在は一緒にいるということを簡単に説明する。

 

「だから、今のところブラック・ミストは誰かを襲ったりしないよ。もし何かしようとしたら本気でつぶす予定だから」

 

「おい、もしかしてあのデッキでか? あのデッキでやる気なのか?」

 

 私がそういうとブラック・ミストは焦ったように聞いてきたので微笑むことで答えるとブラック・ミストは顔を青くした。

 そういえばWDCが始まる前に一度、私の本気デッキでデュエルしたことがあったな。あんまり使ってないと使い方を忘れそうだからという理由で。

 ブラック・ミストの異常な反応を見て2人は納得したようだ。

 

「遊馬。私たちは委員長たちを病院に連れて行くから」

 

「お前はこのデュエルを見届けろ」

 

 2人がそういうと遊馬君は分かったと答えて神代とⅢに目を向ける。

 

「刹さん、遊馬をお願いします」

 

「え?」

 

 私も結を連れて病院に行くつもりだったんだけど……しょうがないか。

 

「ごめんね。結をまかせていいかな?」

 

「はい、任せてください!」

 

 気絶した結と等々力君を連れて小鳥ちゃんと武田君は去っていった。

 私もデュエルを見ようと神代とⅢ君に目を向けたらブラック・ミストが服を引っ張ってきた。

 

「おい、分かってるだろうな」

 

 ブラック・ミストがそういったのでわかってるといいながらポケットの中に入れておいたりんご味のアメをブラック・ミストに渡す。

 

「ちゃんとデザート付きのご飯を食べさせるから」

 

「本当、だな?」

 

 渡したアメを口の中に入れながら問いかけてきたので笑いを表に出さないように頷くとブラック・ミストは満足そうに頷くが急に眉間に皺を寄せた。

 

「あん? うるせぇよ、アストラル。お前には関係のないことだ」

 

 あ、ブラック・ミストもアストラルが見えるんだ。

 空中に向かって話し始めたブラック・ミストを見てそう思った。

 

「「デュエル!!」」

 

 私たちが話している間にすでにデュエルの準備が出来ていたようで、神代とⅢ君はデュエルの宣言をしていた。

 神代は青色のデュエルディスクを腕に付けレンズの部分が紫色のDゲイザーをつけており、Ⅲ君は銀色の籠手をつけ先が水色で白い羽のようなデュエルディスクを展開し左目の周りにオレンジ色の模様が描かれ、目の色は赤紫色に変わっていた。

 

「僕から行かせてもらう。僕のターン、ドロー! フィールド魔法、深海の王国-サンケンキングダムを発動!」

 

 神代とⅢ君の間から水があふれ出て周りは一瞬のうちに水中へと変わり、海中に水没したと思われる古の街が佇んでいた。

 

「このカードは水属性モンスターの攻撃力を300ポイントアップする」

 

 やっぱりAR空間は凄いな。

 魚がそこらへんを泳いでいるし、髪の毛とかまるで本当に水の中にいるように漂ってる。

 

「ブハッ! フィールドが水の中に! 酸素ボンべー!!」

 

 しゃべりながら口に手をやり苦しそうなしぐさをしている遊馬君をみて苦笑いを浮かべる。

 そして遊馬君は私が言う前に納得したようにあぁ……と此処がAR空間だと思い出していた。

 おそらくアストラルに説明でもされたのだろう。

 

「僕は先史遺産(オーパーツ)マヤン・マシーンを召喚!」

 

 地中から灰色の魚のような形をした機械のモンスターが現われる。

 

レベル3 先史遺産マヤン・マシーン 攻撃力:1500

 

 攻撃力が上がらない?

 となるとあのモンスターは水属性モンスターではないということか…。

 フィールド魔法を発動したからおそらく先史遺産専用のフィールド魔法だとは思うんだけど……。

 

「なんだ?オーパーツって……」

 

 遊馬君が疑問の声を上げるがまた隣に視線をやったのでおそらくアストラルが説明をしているのだろう。

 

「さらに僕はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 初手としては普通か。

 それにしても水属性モンスターの攻撃力を上げるから神代が有利に働きそうだ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はハンマー・シャークを召喚」

 

 渦潮がフィールドに現われるとその中から頭がハンマーの形をした魚のモンスターが現われる。

 

レベル4 ハンマー・シャーク 攻撃力:1700→2000

 

「どうやらお前は、俺が水属性デッキを使うのを知らないようだな」

 

 水属性というか魚族デッキのような気がするんだけど…まぁ、些細な違いかな?

 

「だけどフィールド魔法、サンケンキングダムの中ではレベル4以下のモンスターで先史遺産モンスターを攻撃することは出来ないよ」

 

 また攻撃制限をするフィールド魔法か……。

 

「レベルでの攻撃制限なんて無意味だと思うけど」

 

「ほとんどのやつがモンスターエクシーズを出してくるからな」

 

 私の呟きにブラック・ミストは同意する。

 普通のモンスターはレベルだけどエクシーズモンスターはランクで決められている。

 ランクはレベルとは違うのでこのフィールド魔法の前では意味をなさない。

 

「それがお前の保険ってわけか? だが、魔法カード下降潮流! このターン、自分のモンスターを1から3の任意の数値に出来る。俺はハンマー・シャークのレベルを1つ下げる」

 

レベル4→3 ハンマー・シャーク 攻撃力:2000

 

「あなたはおかしなデュエルをしますね。なおさらレベルを下げてどうするつもりです?」

 

 まるでプレイングミスだと言わんばかりの態度に神代はふっと笑みをこぼした。

 

「俺はビッグ・ジョーズを特殊召喚! ビッグ・ジョーズは通常魔法を発動したターン、手札から特殊召喚できる」

 

 地面から渦潮が現われるとそこから歯が鋭くて大きいサメのモンスターが現われた。

 

レベル3 ビッグ・ジョーズ 攻撃力:1800→2100

 

「レベル3のモンスターが2体……」

 

「俺はレベル3のハンマー・シャークとビッグ・ジョーズでオーバーレイ!」

 

 2体のモンスターは青色の球体になると宙に躍り出て、地面に現れた穴の中に入る。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現われろ、ブラック・レイ・ランサー!」

 

 黒の体色に背中からは羽を生やし足がヒレのようなもので出来ている、赤色の槍を持ったモンスターが出てくる。

 

ランク3 ブラック・レイ・ランサー 攻撃力:2100 ORU:2

 

 ブラック・レイ・ランサー……水属性モンスターを素材縛りとしているのに属性が闇だというモンスター。

 初めてそれを知ったときは軽く落ち込んだなぁ。

 

「モンスターエクシーズにレベルはない。サンケンキングダムの効果は効かない!」

 

「うまいぜ、シャーク!」

 

 遊馬くんは素直に賞賛しているが……どうしようこれは当たり前のことだと思って神代を褒めることは出来ないや。

 遊馬君は純粋なんだなぁ…。

 

「ハッ、こんなの当たり前だろうが」

 

「なんだと!?」

 

 ブラック・ミストの言葉に遊馬君は許せなかったのかブラック・ミストに突っかかっている。

 

「ブラック・ミスト」

 

 諌めるようにいうとブラック・ミストは舌打ちをした後、小声で悪かったと遊馬君に謝罪を述べる。

 まさか謝ってくるとは思わなかったのか遊馬君は驚いていた。

 なんか、最近思うんだけどブラック・ミストがちょろくなったような気がする。

 

「行け、ブラック・レイ・ランサー! マヤン・マシーンに攻撃、ブラック・スピア!」

 

 ブラック・レイ・ランサーの槍が輝き、それを振るうと槍から光り輝く槍が生まれてマヤン・マシーンを貫いた。

 

「うっ……」

 

LP:4000→3400

 

「罠発動! ストーンヘンジ・メソット! このカードは先史遺産が破壊されたとき、デッキからレベル4以下の岩石族の先史遺産モンスターを表側守備表示で特殊召喚する。現われろ、先史遺産コロッサル・ヘッド!」

 

 地面からいくつもの大きな岩が囲むように現われ、その中心が光り輝くと下から岩で出来た顔だけのモンスターが現われる。

 

レベル4 先史遺産コロッサル・ヘッド 守備力:1600

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

「僕のターン、ドロー! 先史遺産ゴールデン・シャトルを召喚!」

 

 頭上から金色の飛行機のような形をしたモンスターが現われる。

 

レベル4 先史遺産ゴールデン・シャトル 攻撃力:1300

 

「さらに永続魔法、オリハルコン・チェーンを発動! このカードがフィールド上にあるとき次のエクシーズ召喚、オーバーレイするモンスター1体を減らすことが出来る」

 

「なに!?」

 

次のエクシーズ召喚というと使えるのは1度きりというわけか……。

 

「だけど、オリハルコン・チェーンにはリスクがある。このカードが破壊されたとき、この効果でエクシーズ召喚したモンスターのコントロールは相手に移る」

 

 リスクが大きすぎるな。

 でも、デメリットしかないエクシーズモンスターを相手に渡すとかそういう使い方がありそうだけど……デメリットがあるエクシーズモンスターっていたっけ?

 

「僕はレベル4のコロッサル・ヘッド、ゴールデン・シャトルそしてオリハルコン・チェーンの効果でオーバーレイ」

 

 2体のモンスターは橙色の球体となり発動したオリハルコン・チェーンから金色の鎖が飛び出すと地面に現われた穴の中に入る。

 

「2体のモンスターとオリハルコン・チェーンでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現われろ、No.32!」

 

 地面が割れて渦潮が現われるとその中から魚の尾ヒレの形をした黒いものが浮かび上がり、鋭いつめが付いた両腕、足とヒレが形成されると左胸に32という数値が浮かび上がる。

 そして現われたのは何処かサメに似たモンスターだった。

 

「最強最大の力を持つ深海の帝王、その牙ですべてのものを噛み砕け! 海咬龍シャーク・ドレイク!」

 

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:2800→3100 ORU:2

 

「No.!」

 

「現われたな……」

 

 やっぱりあの子もNo.を持ってたか……。

 

「行け、シャーク・ドレイク! ブラック・レイ・ランサーを攻撃しろ! デプス・バイト!」

 

 シャーク・ドレイクの口から放たれたサメを象った青白い光線がブラック・レイ・ランサーを襲う。

 

「くっ……」

 

LP:4000→3000

 

「シャーク・ドレイクの効果を発動! バトルでモンスターを破壊した時、1ターンに1度オーバーレイ・ユニットを一つ使い、破壊したモンスターを1000ポイント下げて特殊召喚させる。そしてそのモンスターと再びバトルすることが出来る!」

 

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:3100 ORU:2→1

 

 シャーク・ドレイクの両腕から水の渦を飛ばし、神代のフィールドに現われた紫色の円の穴に入り込むと先ほど破壊したブラック・レイ・ランサーを引きずり出した。

 

ランク3 ブラック・レイ・ランサー 攻撃力:2100→1100 ORU:0

 

「じゃあ、あのNo.二回も攻撃が出来るのか?」

 

 二回目の攻撃はそのモンスターの攻撃力を1000も下げるから大ダメージを受けることになる。モンスターによっては1キルも可能だね。

 でも素材がレベル4×3……超古深海王シーラカンスなら楽に揃えられるか。

 

「サメは骨まで食い尽くす。シャーク・ドレイク、再びブラック・レイ・ランサーに攻撃!デプス・バイト!!」

 

 またシャーク・ドレイクの口からサメの形をした青白い光線が放たれてブラック・レイ・ランサーを襲い、破壊した。

 

「うわああぁ!」

 

「シャーク!」

 

LP:3000→1000

 

 神代は攻撃によって吹き飛ばされて仰向けに地面へとたたきつけられた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「黙ってろ、遊馬! こんな程度で俺がやられるか!」

 

 遊馬君が心配そうに声を上げるが神代は起き上がってその言葉を跳ね除け、一瞬だけこちらを見た。

 

「僕はさらにカードを1枚伏せて、ターンエンド。さぁ、シャーク・ドレイクを何とかしない限りあなたに逃げ場はない!」

 

「シャークのやつ、このままじゃ……」

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

 遊馬君は不思議そうに視線をやり、私はもう一度大丈夫といって笑みを浮かべた。

 

「神代ならこの状況をすぐに打破する。だから、信じて見守ろうよ」

 

「……おう!」

 

 私の言葉に遊馬君は力強く頷いてデュエルのほうに目を向ける。

 この状況を何とかするためには方法はいくらでもあるけど、手っ取り早く自分を有利にする方法は……オリハルコン・チェーンを破壊してNo.を奪うこと。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はスカル・クラーケンを召喚!」

 

 地面が割れてそこから黒色の触手が出てくると頭のてっぺんに口をはやしたドクロに触手が生えたモンスターが現われる。

 

レベル3 スカル・クラーケン 攻撃力:600

 

「スカル・クラーケンの効果を発動。このカードの召喚に成功した時、相手フィールドに表側表示である魔法・罠カード1枚を破壊できる。俺はオリハルコン・チェーンを破壊する!」

 

 スカル・クラーケンの頭が上下に回転して、口と思われる部分から黒い墨のようなものを吐き出すと、それはⅢ君の場にあるオリハルコン・チェーンを破壊した。

 シャーク・ドレイクの首に金色の首輪が現われてそれは消滅すると、シャーク・ドレイクは神代の場に移った。

 

「これで、シャーク・ドレイクのコントロールはもらった! ……ぐっ、ぐはっ!」

 

 シャーク・ドレイクが神代の場に移ったと同時に神代の体とシャーク・ドレイクから黒いオーラがあふれ出した。

 あれは、No.にとりついていた人と同じオーラ……。

 

「このままだとアイツ、No.にとり付かれるな」

 

「シャーク!!」

 

 ブラック・ミストの言葉を聞いて遊馬君は神代の名を呼んだ。

 私は平気だったけど、神代は普通のデュエリストNo.を操る術はないはず。

 このまま操られたら今度は私たちが神代の相手をしなければいけないことになる。

 神代は自分の中でNo.と戦っているのか苦しげに呻いていたが、しばらくすると肩で息をして強い意志を瞳に宿し前を見る。

 

「俺は、俺だぁー!!」

 

 神代の叫び声に胸をなでおろしていると隣でブラック・ミストが驚きの声を上げていた。

 

「No.の力を、押さえこんだだと?」

 

 No.を押さえ込むことも出来るのか……初めて知った。

 

「こいつの力があれば……。行くぜ、シャーク・ドレイク! やつにダイレクトアタック!」

 

 右手の甲に32という数値が浮かび上がり神代はシャーク・ドレイクに指示を出した。

 

「よし、この攻撃が決まれば大ダメージだ!」

 

「そうは行かない! 罠発動、アンティキティララギア! このカードは相手にモンスターが2体以上いてダイレクトアタックしてきたとき、攻撃モンスター以外の相手モンスターのコントロールを守備表示で得る!」

 

 カードから岩で出来た歯車が現われそこから鎖のようなものが何本も飛び出してスカル・クラーケンへと向かっていく。

 

「させるか!罠カード、超水圧! このカードは自分のモンスター1体を破壊しデッキからカードを1枚ドローする!」

 

 スカル・クラーケンは水圧によって押しつぶされながらその場から消えていった。

 

「これでお前の罠は不発だ」

 

「ぐっ……」

 

「攻撃を続行しろ、シャーク・ドレイク!」

 

 シャーク・ドレイクの口から青白いサメの形をした光線を放ち、それはⅢ君へとあたり後ろに吹き飛ばされた。

 

「ぐああぁ!!」

 

LP:3400→300

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

「くっ、やってくれる!調子に乗るなよ、凌牙!! 僕のターン、ドロー! 僕は手札から先史遺産技術(オーパーツテクノロジー)を発動!」

 

 発動されたカードから顔が描かれた円形の岩が現われる。

 

「このカードは墓地にいる先史遺産モンスターを除外し、デッキからカードを2枚ドローして1枚を墓地に送る。僕は先史遺産クリスタル・ボーンを特殊召喚! このカードはフィールド上に相手のモンスターしかいないとき、手札から特殊召喚できる」

 

 地面が割れて出てきたのはクリスタルで出来た頭がない骨のモンスターだった。

 

レベル3 先史遺産クリスタル・ボーン 攻撃力:1300

 

「この効果で特殊召喚に成功した時、墓地から先史遺産モンスター、クリスタル・スカルを特殊召喚できる! よみがえれ、クリスタル・スカル!」

 

 墓地に通じる紫色の魔方陣の穴からクリスタルで出来たドクロが現われた。

 

レベル3 先史遺産クリスタル・スカル 攻撃力:900

 

「レベル3の先史遺産クリスタル・ボーンとクリスタル・スカルでオーバーレイ!」

 

2体は黄色の球体となり空中に浮かび上がると地面に空いた穴の中に入っていく。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現われろ、先史遺産クリスタル・エイリアン!!」

 

 胸に水晶のようなものが埋め込まれ、翼をはやしたエーリアンのような形をしたモンスターが現われる。

 

ランク3 先史遺産クリスタル・エイリアン 攻撃力:2100 ORU:2

 

「このカードはオーバーレイ・ユニットを一つ使ってこのターン、バトルによるモンスターの破壊を無効にして僕が受けるダメージは相手が受ける」

 

 クリスタル・エイリアンのオーバーレイ・ユニットが胸の中心にある水晶に宿った。

 

ランク3 先史遺産クリスタル・エイリアン 攻撃力:2100 ORU:2→1

 

「なに!?」

 

「つまり、君のフィールドのシャーク・ドレイクと僕のモンスターの攻撃力の差は1000ポイント。君はその分、ダメージを受ける。行け、クリスタル・エイリアン! シャーク・ドレイクに攻撃!」

 

 胸の水晶の辺りを手で沿えて両腕を広げると水晶から黄色の光線が飛び出した。

 

「やばい、この攻撃が決まったら……」

 

「終わりだ、凌牙!」

 

 私は神代に目をやると、ちょうど神代は攻撃を防ぐために動き出していた。

 

「速攻魔法、プレート・サルベージ!プレート・サルベージは2ターンの間、フィールド魔法を無効にする」

 

 フィールド魔法が無効になった影響で周りの景色に変化が訪れる。

 まるでこの場所が浮かび上がっていくように海水が下へと消えてなくなり、古代都市が地上へと現わした。

 

「すっげー、水の上に出たー」

 

「本当、AR空間ってすごいね……」

 

 海中では見られなかった青い空と輝く太陽、周りに広がる岩で出来た都市を眺めて私はそんな感想を抱く。

 

「サンケンキングダムの効果は消えた。シャーク・ドレイクの攻撃力は300ポイントダウンだ!」

 

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:3100→2800

 

 表示されている攻撃力が下がるとクリスタル・エイリアンが放った光線がクリスタル・エイリアンの姿へと変わりシャーク・ドレイクの鋭いつめで体を突き刺され光の粒子となる。

 光と粒子となったそれはクリスタル・エイリアンの水晶に仕込まれていき、放たれると光の渦となって神代に当たった。

 

「ぐっ……」

 

LP:1000→300

 

 シャーク・ドレイクの攻撃力を下げてライフを残したか……ギリギリだなぁ。

 

「だが、これでシャークもⅢもライフは300」

 

 もってあと一撃って所だね。

 フィールドを見ると神代が有利だけど、Ⅲ君は何かしら対策を立てるはず。

 

「僕はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー! シャーク・ドレイクでクリスタル・エイリアンを攻撃、デプス・バイト!」

 

 神代はシャーク・ドレイクに指示を出し最後の一撃を食らわせようとする。

 

「よし、これでシャークの勝ちだぜ!」

 

「まだだ! 僕は先史遺産コロッサル・ヘッドの効果を発動! 墓地からこのカードを除外することで自分フィールドにいる攻撃表示モンスターを守備表示に出来る!」

 

ランク3 先史遺産クリスタル・エイリアン 攻撃力:2100 → 守備力:1000 ORU:1

 

 クリスタル・エイリアンは腕を交差してしゃがみ守備の体勢に入るがシャーク・ドレイクのサメの形をした光線にやられて破壊される。

 

「くそっ……!」

 

 これで一回目の攻撃はダメージを通らなかった。

 動き出すのはおそらくシャーク・ドレイクの効果を使った次の攻撃のときかな。

 

「だめだ、守備表示だとⅢにダメージが入らない……」

 

「だが、この瞬間シャーク・ドレイクの効果を発動! バトルでモンスターを破壊したとき、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、破壊したモンスターの攻撃力を1000下げて相手フィールドに特殊召喚することが出来る!」

 

 シャーク・ドレイクの頭にオーバーレイ・ユニットが当たると体が金色に輝き、水の渦を相手フィールドに現われた紫色の魔方陣が描かれた穴に放ち、クリスタル・エイリアンを復活させた。

 

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:2800 ORU:1→0

ランク3 先史遺産クリスタル・エイリアン 攻撃力:2100→1100 ORU:0

 

「ぐっ……」

 

「俺がシャーク・ドレイクの効果を忘れているとでも思ったのか? 行け、シャーク・ドレイク!」

 

 神代の指示に従いシャーク・ドレイクはクリスタル・エイリアンに向かってもう一度攻撃をしようとしたが攻撃を開始する前にⅢ君は笑みを浮かべた。

 

「君を舐めなくて良かったよ。君なら、そのNo.を使いこなすと思っていた! 罠発動! 先史遺産レイ・ライン・パワー!!」

 

「なに!?」

 

「このカードはバトル中に特殊召喚したモンスターがバトルするとき、モンスター同士の攻撃を入れ替える!」

 

 クリスタル・エイリアンの胸の水晶から赤いレーザーのようなものが放たれるとそれはシャーク・ドレイクに向かい、シャーク・ドレイクはそれを振り払うしぐさをするも体に赤いレーザーが当たった。

 するとシャーク・ドレイクの体から青色のオーラに包まれ、レーザーはシャーク・ドレイクからは青色に変わり、中間部分で赤色になり2体の攻撃力が入れ替わった。

 

ランク3 先史遺産クリスタル・エイリアン 攻撃力:1100→2800

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:2800→1100

 

「これでクリスタル・エイリアンとシャーク・ドレイクの攻撃力が入れ替わった! このデュエル、僕の勝ちだ!」

 

「やはりな……」

 

「えっ!?」

 

 口元を吊り上げて告げられた神代の言葉にⅢ君は驚きの声をあげ、目を見開いた。

 

「俺のほうこそ、お前を舐めなくてよかったぜ。お前なら俺が、シャーク・ドレイクの効果を使うのを読んでいると思っていた。罠発動、深海王の宣告!このカードはバトル中に発動した罠カードの発動を無効にする!」

 

「なんだって!?」

 

 Ⅲ君は発動された深海王の宣告の効果を聞き、驚いているが私はこう思ってしまった。

 

「トラップ・スタンでOK……」

 

「台無しにするようなことを言うのやめろよ」

 

 遊馬君たちに聞こえないように呟くとブラック・ミストも配慮してか小声で突っ込みを入れてきた。

 カードからポセイドンの槍を持つひげを生やした男性が現われると、男性は槍を投げてシャーク・ドレイクとクリスタル・エイリアンの間にあったレーザーを破壊した。

 

「馬鹿な!!」

 

「攻撃を続行しろ、シャーク・ドレイク!」

 

 シャーク・ドレイクの口から光線が放たれてクリスタル・エイリアンをばらばらに破壊するとⅢ君は攻撃の余波に吹き飛ばされた。

 

「うわああぁ!!」

 

LP:300→0

 

 デュエルの終わりが告げる合図が鳴り響くとモンスターは消え、周りの景色がもとの人気のない空き地へと変わる。

 

「やったー! シャークが勝った!!」

 

「最後は凄かったね」

 

 ジャンプをして喜びを体で表現している遊馬君にDゲイザーを外しながら笑みを浮かべて感想を述べる。

 Ⅲ君はふらつきながらも体を起こして立ち上がった。

 

「なるほど、いい腕をしている。今日のところは負けておくよ!」

 

そういってⅢ君は何かを神代に投げ、神代はそれを受け取った。

 

「だが、僕は決勝に行く。今度会うときはそうは行かない」

 

「アイツもハートピースがそろってるのか!?」

 

 ⅣといいⅢ君も1日でハートピースを揃えられるほどの実力者か。

 まぁ、私も昨日のうちにハートピースを揃えているんだけどね。

 

「そのNo.は君にやるよ。今のデュエルのご褒美だ」

 

 Ⅲ君の左手の甲にある緑色の紋章が輝き始め、目を開けられないほどの光に思わず目をつぶり光が収まったのを感じて目を開けるとそこにはⅢ君の姿はなかった。

 

「消えた……」

 

 周りを見てもⅢ君の姿は確認できなかったので、あの紋章の力でテレポートをしたのだと思う。

 突然、Dゲイザーの電話を知らせる音が鳴り響き、遊馬君がDゲイザーを取り出して通話モードに切り替えた。

 

「遊馬!」

 

「小鳥!?」

 

 小鳥ちゃんからの連絡だとわかり私は遊馬君に近づいてDゲイザーに写る小鳥ちゃんの姿をみた。

 

「今、病院。委員長と結さんはとりあえず大丈夫だって」

 

 結は無事だと聞いて胸を撫で下ろしたとき、バイクのエンジン音が聞こえそちらに目を向けると神代がバイクに乗りヘルメットをかぶっていた。

 

「シャーク!」

 

「遊馬……俺にもう、関わるな」

 

 ヘルメットについているゴーグルが降りると同時にバイクは走り出す。

 またあんなことを言ってる……。

 

「シャーク……復讐なんて。シャーク!!」

 

 遊馬君は悲しげに呟いてから神代の名を叫ぶが、神代は止まることなくそのまま走り去っていった。

 

「あいつがどうなるか見物だな」

 

「どういうこと?」

 

 ブラック・ミストが楽しげに呟いているのを聞いて思わず問いかけるとブラック・ミストは口元を吊り上げる。

 

「人の心の闇はそう簡単に抑えられるもんじゃない。わずかなきっかけがあれば、アイツはまたNo.に取り付かれる可能性がある」

 

「……そう」

 

 そうなると遊馬君か私とデュエルをする可能性があるということ。

 出来れば正気があるうちにデュエルをしたいんだけどなぁ。

 

「遊馬君、今はとりあえず結たちが心配だし病院に向かおう」

 

「……わかった」

 

 私たちはこの場から離れて結たちがいる病院へと向かった。

 




アニメと同じ展開なので飽きるかもなぁ…と思いつつそのままにしておきました。


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