いや、本当に長らくお待たせしてしまってすみません。
ちょっと長いお休みをしていました。
前のようにはいきませんがぽつぽつと更新して行こうと思っています。
あと、感想返信はもうしばらくお休みさせていただきます。
いつかきちんと返信しますので!
遊馬とアストラルに敗れたベクターは満身創痍な状態でバリアン世界にある悪意の海に来ていた。
ここにベクターが訪れた理由はただ一つ。この海の底に眠っているというバリアンの神、ドン・サウザンドを目覚めさせることだった。
ドン・サウザンドを蘇らせ、その力を与えてもらいあの2人を倒すことがベクターの目的だった。
結果的に言うと成功した。
満身創痍だった体は元の姿に戻り、体の中から力が湧き上がってくるのを感じる。
『ベクター、まずは7枚の封印されたNo.と4枚のカードを探すのだ』
「なに?」
体の内から聞こえてきた声にベクターは怪訝な表情を浮かべる。
『封印されたNo.とその4枚のカードがそろえば我の力は元に戻る』
ドン・サウザンドの言葉にベクターは思考を巡らした。
No.を探すというのはまだわかる。しかしドン・サウザンドがいう4枚のカードを探すというのは不可解だった。
「その4枚のカードというのは一体なんだ?」
ベクターが問いかけるとドン・サウザンドは小さな笑いを発した。
『神のカードだ』
ところ変わり玉座がある広間でドルベ、ミザエル、アーカイドの3人のバリアンが顔を合わしていた。
突然大地が揺れ始め異変を感じ取った3人がたまたまこの広間に集まったのだ。
「これは一体、どうしたというのだ?」
地震が起きた影響で上から落ちてくる結晶に気をつけながらドルベとミザエルは周りを見渡している。
それに対しアーカイドは興味なさそうに階段に座り込んでカードを弄っていた。
「この異変はまさか、滅びの前兆か?」
広間から見える外の景色を眺めながらドルベは呟くように言った。
「その通り!」
その声が聞こえた途端、アーカイドは顔を上げてそちらに目を向けた。
ドルベとミザエルも後ろを振り向いてその人物を視界に入れる。
「アストラルの力が目覚めようとしているのさ」
「貴様、よくもおめおめと!」
ミザエルはベクターをにらみつけて詰め寄る。いまにも掴みかかってきそうなミザエルにベクターはため息を吐いた。
「なんだ?サルガッソの失敗は俺のせいだって言いたいのか?」
「そうではないのか!? 貴様のせいで遊馬とアストラルは新たな覚醒をしたのだぞ!」
「ハッ!じゃあ、なにか? 何の作戦も立てない能無しのお前たちが俺より偉いってわけか?」
ベクターが煽るように言い放つとミザエルは怒りに身を震わせ表情を歪めた。
「貴様!!」
「やめろ、ミザエル」
一歩前に踏み出したミザエルをドルベが慣れた様子で押しとどめる。
その間にベクターは本題に移るために話をし始めた。
「お前たちも知ってるだろ? 数千年前、バリアン世界の神ドン・サウザンドがアストラルの戦いによって闇に封印された」
「ドン・サウザンド?」
ここに来て初めてアーカイドが口を開く。
その表情は人間のときとは違ってわかりにくいが、困惑の色が見られた。
「あ? お前、ドン・サウザンドのこと知らなかったのか?」
「我々が住むバリアン世界の神の名すら知らぬとは……」
仲が悪いはずの2人は同時にアーカイドを嘲笑った。
また喧嘩が始まるのかとドルベは身構えるが、アーカイドは2人の発言を無視して何か考え込んでいる。
その様子を薄気味悪く思いながらベクターは人間世界にあるといわれた7枚のNo.の話をミザエルとドルベに話す。
「(あれ? ドン・サウザンドなんていたっけ?)」
ベクターの話を聞き流しながらアーカイドは原作のことを思い出していた。
「(この後、No.探しをしてベクちゃんが色々暗躍するでしょ。色々やって最終的にナッちゃんとデュエルしてベクちゃん死亡。その後、ナッちゃんと遊ちゃんがデュエルするん……だよね?)」
この後、起きる出来事は大体覚えてはいた。しかしその中にドン・サウザンドの名前は一切出てこなかったのだ。
もしかしたら名前しか出てこないちょいキャラだったのかと思ったが、曲がりなりにも神と名乗る人物がそうだとは思えなかった。
胸にもやもやとしたものが漂い、アーカイドは人知れず不機嫌になっていた。
あれから数日が経ち私、凌牙、璃緒ちゃん、遊馬君、小鳥ちゃんが屋上に集まって話し合いをしていた。
何でも授業中にブラック・ミスト、凌牙、璃緒ちゃん、遊馬君の4人が何かを感じ取ったのだという。
璃緒ちゃんが何か感じるか調べている間、私はボーと灰色の空を眺める。
あのサルガッソでの戦いが終わって、私たちが得たものもあったが失ったもの、傷ついたものが多かった。
私はアストラルの記憶であるNo.をアーカイドに奪われてしまった。
油断していたからといってもあれは私の失態だ。ブラック・ミストにでも預けておけばこんなことにはならなかった。
アストラルは奪われたNo.のモンスター効果を聞いて険しい表情をしていたが、遊馬君と一緒に許してくれた。
結はアーカイドに洗脳された後、雲雀がデュエルで正気に戻した。
でも、アーカイドにやらされたことはすべて覚えていてすっかり塞ぎこんでしまった。
私も遊馬君たちも結には気にしなくてもいいとアーカイドのせいなのだと言ったのだが、そう簡単に納得できるわけなく……。
今のところ雲雀が何とかしようと動いている。
私達にはバリアンのほうに集中して欲しいとそう言っていた。
私も何とかしたかったが、あの一件から私は結に避けられている。おそらくデッキの入れ替えやNo.のことで顔を合わせられないのだと、そう思いたい。
「何か感じるか?」
凌牙の問いかけに璃緒ちゃんがつぶっていた目を開いて首を横に振る。
「いいえ。さっきは強い何かを感じ取ったのに今はなにも」
「妹シャのアンテナでもだめか……」
遊馬君が腕を組んで残念そうにいうと璃緒ちゃんは目尻を上げて遊馬君を睨み付けた。
「その名前で呼ぶな!」
強い口調に遊馬君はは、はい!ととっさに正座をしていた。
その様子に苦笑いを浮かべていると頭上に広がる雲に変化が現れた。
ちょうど私達がいる真上辺りの雲が黒くなり始め、雷が鳴り始める。
何事かと私達は立ち上がるとその雲が黒くなった部分から緑色の光の輪が私達を包み込むように降りてくる。
そして気がついたときにはあの飛行船の中に移動させられていた。
目の前にはアストラルが腕を組んで浮かんでおり、遊馬君は周りを見渡しアストラルに話しかけた。
「あ、アストラル! 一体どうしたんだよ? びっくりするだろ」
『すまない。だが、これを見て欲しい』
アストラルの後ろに大きな緑色の球体が浮かび上がった。
その緑の球体は地球儀みたいなものなのか描かれている模様に見覚えがあった。
「アストラル、これは地図?」
私が問いかけるとアストラルは説明し始めた。
『そうだ。この地図に描かれた赤い点はある遺跡を示している。それはNo.がある場所でもある』
「No.が……」
『そして、同時にこれが出現した』
アストラルが手を前に出すと私達の後ろに赤色の画面が現れる。
私達が後ろを振り返ると同時に赤色の画面に光が集まり、それは人の形を作った。
ベージュの中折れ帽を被り上下ベージュ色の服を着た男性が現れた。
「遊馬、アストラル」
「と、父ちゃん!?」
突然現れた男性の映像に遊馬君が驚きの声を上げてその画面に近づいた。
あの人が遊馬君のお父さん?
確かに遊馬君と似ている部分がある。しかしなぜこの飛行船に遊馬君のお父さんの映像があるのだろうか……。
「お前達がこのメッセージを聞くということは、自体は最悪に向かっている。一刻も早く遺跡にある7枚のNo.を集めるんだ。それは特別なNo.だ。もしそれがバリアンの手に渡ったら彼らに強大な力が蘇るだろう」
遊馬君のお父さんはそれとと付け加えた。
「彼から渡される3枚のカードは絶対にバリアンの手に渡らないよう気をつけて欲しい」
この部分だけ遊馬君のお父さんは真剣な表情をしていた。しかし次の瞬間には笑みを浮かべ遊馬君とアストラルに頼んだぞと伝えるとその姿が消えてなくなった。
彼から渡される3枚のカードって? というか彼って誰?
色々と残る疑問点に頭を抱えるが、いま考え込んでも情報が少なすぎてわかる筈もない。
「父ちゃんはいつも俺を導いてくれた。だったら信じて行ってやる!」
遊馬君は拳を握りそう言い放った。
「確かにそんな力をバリアンのやつらに渡す理由はねぇ、俺も行くぜ!」
「凌牙は一度言い出したら聞かないものね。私もお供しますわ。ね、刹?」
璃緒ちゃんが笑みを浮かべてこちらを見る。
私も釣られて笑い、遊馬君のほうを見てうなずいた。
「うん、私も一緒に行くよ」
「じゃあ、そうと決まれば出発しましょう! 遊馬!」
小鳥ちゃんがそういうと遊馬君は力強くうなずいた。
「よっしゃ!No.を目指して出発! かっとビングだ、俺!!」
遊馬君の掛け声と共に飛行船は動き出し、異次元トンネルが開いてその中に入っていった。
雲雀たちに何も言わずに出発しちゃったけどよかったのかな……?
ふとそう思ったが、サルガッソの一件もあるし人数は少ないほうがいいか。
それに結のこともあるし……。
ゆっくりと息を吐き出すとエクストラデッキからブラック・ミストが出てきた。
「刹、本当にあれのことは言わないのか?」
ブラック・ミストはアストラルと遊馬君を一瞥した後、小声でそう聞いてきた。
「……うん」
私は間を置いて静かにうなずく。
ブラック・ミストがいうあれとはアーカイドが私のデッキに入れたRUM-バリアンズ・フォースのことだ。
このことを遊馬君たちに言うかすごく迷った。
でもあのカードは使わなければ何も影響はないようだし家に隠しておいてあるから問題はない、はず。
一人で頷いていると、突然飛行船が大きく揺れ始めた。
「な、何だ一体!?」
『これは、飛行船が何かに引っ張られているようだ!』
「まさかまたバリアンか!?」
アストラルの言葉に凌牙がそう聞くがブラック・ミストが否定した。
「いや、この力はおそらく違う! 一体なんだ、これは!」
ブラック・ミストは大きな力を感じ取っているのか、険しい表情を浮かべている。
何がなんだか分からないうちに飛行船は本来行くはずだった軌道から反れて別の場所へと向かっているようだ。
しばらくすると揺れは収まり、私達は安堵の息を吐く。
「と、止まった……」
「いったいなんだったの?」
恐る恐る立ち上がり小鳥ちゃんは疑問の声を上げる。
アストラルは再び飛行船を起動させようとするが、なぜか動かない。
「なぁ、ちょっと外に行ってみようぜ」
飛行船も動かず、どうするべきかみんなで考えているときに遊馬君が提案を出す。
それに凌牙とアストラルはすぐさま首を横に振った。
「何言ってんだ。外に何があるかわらねぇだろ」
『あぁ、この飛行船はとてつもなく大きな力に引き寄せられた。外に出るのは危険だ』
「だからってここで何もしないんじゃ、進まないだろ!」
3人が言い合っている間に私はブラック・ミストに先ほどのことを詳しく聞くために問いかけた。
「ブラック・ミスト、さっきバリアンとは違う力を感じ取っていたみたいだけどなんだったの?」
ブラック・ミストは腕を組み、難しい表情を浮かべながら口を開いた。
「……あれは、カードの精霊の力だと思う。ただ、カードの力にしちゃ大きすぎる」
「精霊の力って……」
カードの精霊がこの飛行船を引き寄せたってことだよね?
それってすごく強いカードじゃなければ無理なはず……。
悩んでいると遊馬君たちの話し合いが終わったらしく今後の方針を言い始めた。
まず甲板にでて外の様子を伺う。大丈夫そうなら飛行船から降りてここがどこだか探るというものだった。
私達が移動して甲板に出ると目の前には砂漠が広がっていた。
「うわ!何だここ?」
「見事に砂漠だけの場所ですわね」
遊馬君は驚きの声を上げ、璃緒ちゃんは困ったように呟いた。
砂漠といえばエジプトとかそこらへんを思い浮かべるが、外に出ても焼けるような暑さを感じない。
おそらく、ここは私達の知らない場所なんだと思う。
「え、うそ!」
突然小鳥ちゃんは何かに気づいたのか口元を覆い、信じられないと首を振っていた。
不思議に思い小鳥ちゃんが見ていた空に視線を向けるとその意味が理解できた。
「太陽が3つ……」
暗い色に覆われている空には3つの太陽が浮かび上がっていた。
このような光景は確か、ブラック・ミストと初めてデュエルしたときに起こった現象とよく似ていた。
でも、あの時は周りの時間も停止していたはず。
「またあの現象が起きたの?」
「いや、今回はすこし違うみたいだ」
私の言葉にブラック・ミストは否定した。
ほかに何かないかとぐるりと周りをみていると私達がいる後ろのほうに大きなピラミッドの先端部分を切り取ったような物があった。
私達が話し合った結果、あそこに行ってみることになった。
地面に降りて砂に足をとられつつも歩いていくとそれには扉はなく、頂上まで続く階段があった。
このピラミッドのようなモノは5階建てのビルぐらいの高さがあった。
体力があまりない私は途中で息を切らしながら最後尾を歩き、階段を上っていく。
「刹、大丈夫ですの?」
「たくっ、だらしねぇな」
心配そうに見やる璃緒ちゃんに手を上げることで答えた。
凌牙は私と璃緒ちゃんの先を進んでおり、口ではそう言っているが待っていてくれている。
「まったく、本当に凌牙は素直じゃないんだから」
そうだねと頷きたいところだが生憎そんな余裕は私にはなかった。
やっとのことで頂上につく。息を整えてから目の前に顔を向けると私達がいる反対側に一人の男性が立っていた。
その姿を見て、私は目を見開く。
目元が隠れるぐらいに深く被った赤い帽子に赤いジャケットを着たその男性。
服装は見たことないものだった。しかしあの人は、確かに……。
「お父、さん?」
私の父だった。
私の呟きを聞き取ったのか凌牙と璃緒ちゃんが勢いよくこちらを向きお父さん!?と驚きの声を上げていた。
「え、ええ!? なんだってこんな所に刹の父ちゃんがいるんだよ!?」
『刹、本当にあの人物は君の父親なのか?』
アストラルの問いかけに私は頷く。
確かに最後に見たのは小さい頃だったが、見間違えるはずがない。
「お父さん、なんで?」
私は遊馬君達より一歩前に出てお父さんに問いかける。すると何も言っていないはずなのになんとなくお父さんの言いたいことが分かった。
「一馬に聞いただろって?」
「え、じゃあ父ちゃんが言ってた彼って刹の父ちゃんのことだったのか!?」
一馬っていったい誰だろうと思っていると遊馬君がそう言うとお父さんは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「ねぇ、お父さん。今まで何してたの? どこに、いたの?」
強く拳を握り締めて問いかけるとお父さんは困ったように笑った気がした。
話を聞いてみると、お父さんはカードの精霊達が住む世界にいたらしい。
なんでも昔、ある精霊に頼まれて3枚のカードを探し封印を解こうとしたが事故で精霊世界に落ちてしまったという。このとき、お母さんも一緒にいてお母さんも精霊世界にいるらしい。
その精霊世界で色々と事件に巻き込まれて戻ることもできずにいたという。
「なんだかすごい話ですわね」
「刹の父ちゃんってすっげぇな!」
カードの精霊などの話を聞いてみんなが様々な反応を示している間、私は黙ったままだった。
「刹……」
ブラック・ミストが心配そうに顔を覗き込み、口を開くが何も言わずにそのまま口を閉じる。
『では、彼からカードを受け取ればいいのだな?』
「あ、そうだった! 確か3枚のカードをもらえばいいんだよな?」
アストラルの言葉で思い出し遊馬君がお父さんに近づこうとするが、お父さんは手を上げて止まるように動作で伝えた。
お父さんは金色のデュエルディスクを取り出して腕にはめるとその腕をこちらに向ける。
『私達の力を試すというのか……』
「よっしゃ! それじゃ」
「待って」
遊馬君が早速デュエルディスクを取り出そうとするのを私が止めた。
「私がやる」
遊馬君が何か言いかける前に凌牙が遊馬君の肩を叩き、やらせてやれよと告げる。
私とお父さんを見比べた後、遊馬君は頷いた。
「わかった。がんばれよ、刹!」
「うん」
笑みを浮かべて頷き、私は歩きながらデュエルディスクを腕に装着しデッキを入れ替える。
いい具合の距離まで近づきお互いにDゲイザーをつけてARビジョンを展開させた。
「「デュエル」」
久しぶりに聞いたお父さんの声に私は唇を噛んだ。