遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

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第三十三話 罠だとわかってて行くとろくな事がおきない

 雲雀とラスボス役を交換してもらい、自由時間をもらったのでカップルデュエルのほうに行ってみた。

 やはりプロのタッグデュエリストが相手をしているためか観客が多かった。

 座る場所がないので適当な位置で立ってみようと歩いていたら結と真月君が柵に寄りかかってデュエルを観戦しているのが見えた。

 

「あれ? 結、もうデュエル終わったの?」

 

「刹! あの、えっと……言いたいことがありすぎて何から言えば」

 

「結さん、深呼吸です! 深呼吸!」

 

 慌てた様子でいる結を隣にいる真月君が落ち着かせると、結は話し始めた。

 まずは羽原プロ夫妻のタッグデュエルに遊馬君と見知らぬ女子生徒がカップルデュエルに出場しデュエルが開始された。

 しばらくしてから女性の海美プロがバリアンズ・フォースを使いCXを呼び出し、その後遊馬君がバリアンのカードを使ってホープをランクアップさせホープレイVを召喚したらしい。

 途中でDゲイザーをかけてデュエルを見てみたが、丁度ホープレイVで止めを刺しているところだった。

 遊馬君、あのカードを真月君からもらってたんだ……。

 

「ねぇ、刹。なんで遊馬君はバリアンのカードを……」

 

「それにはわけがあるんです!」

 

 私が答えようとした矢先に真月君が声を出して結に説明しだした。

 内容はこの前ギラグとデュエルをして勝った時にバリアンのカードを取ったというものだった。

 どうしよう。

 真月君から渡されたカードを使うのは良くないことがおきそう。

 でも、遊馬君に言ってもおそらくバリアンのカードをデッキから外さないと思う。

 言うだけ、言ってみようか……。

 

「……私、ちょっと遊馬君のところに行って来る」

 

「え、刹?」

 

 結の戸惑う声を無視して私は遊馬君のところに走った。

 遊馬君はサッカー場から移動して校庭に羽原夫婦、見知らぬ女子生徒、小鳥ちゃん、キャットちゃんと一緒にいた。

 

「遊馬君!」

 

 大声で名前を呼ぶとそこにいた人たちはこちらを向くが、私は遊馬君に駆け寄って腕を掴んだ。

 

「遊馬君、さっき使ったリミテッド・バリアンズ・フォースのことで話が」

 

 私が小声でそういうと遊馬君は周りにいる小鳥ちゃんたちを一瞥してから頷いた。

 

「あー、えっと……わりぃ!ちょっと刹に用事が」

 

「小鳥ちゃん、ちょっと遊馬君を借りるね」

 

「え、えぇ!?」

 

 小鳥ちゃんに一言声をかけてから掴んだ腕を引っ張っていき人気のない校舎裏に移動する。

 校舎裏にたどり着き、私は遊馬君をまっすぐ見る。

 

「遊馬君、正直に言うけどバリアンのカードはあまり使わないほうが良いと思う」

 

「え、なんでだよ?」

 

 不思議そうに首をかしげる遊馬君にため息を吐きそうになるが、我慢して話を続ける。

 

「何が起こるかわからないし、それに……」

 

「それなら問題はない」

 

 バリアンのカードの危険性を説こうとしたら、遊馬君の後ろから真月君が現われた。

 いつの間に……。

 

「私が遊馬巡査に渡したリミテッド・バリアンズ・フォースは善のバリアンが持つカードだ。ギラグなどが持っていたバリアンズ・フォースならともかく、私が渡したカードには副作用などない」

 

 いつもの明るい真月君ではなく、あの時見せた凛々しい雰囲気を纏わせて遊馬君と私に説明をする。

 使うカードに善とか悪とかあるの?

 

「でも、それは人間が使っても大丈夫なわけ? 絶対副作用がないとは言い切れないんじゃない?」

 

「それは……」

 

 真月君が悲しげに視線を下に向けると遊馬君が私と真月君の間に割り込んできた。

 

「心配するなよ、刹! 俺はこの通りなんともない。だから真月を信じようぜ!」

 

 曇りなき目でそういわれてしまうと何も言えなくなる。

 真月君のほうに目を向けてみると視線が合い、暫くしてから遊馬君のほうに顔を向けて話をしていた。

 

「……わかった。でも、やっぱり心配だから極力使わないようにしてね」

 

 私がそういうと遊馬君はわかったと返事をした後、真月君と一緒に小鳥ちゃんたちの下へ戻っていった。

 

『あれが真月の正体ってやつか?確かにうさんくせぇな』

 

「(だよねー)」

 

 私は壁に寄りかかってため息を吐く。

 やっぱり遊馬君のデッキからバリアンのカードを外させることができなかった。

 あまり使わないようにって言ったけど、恐らくバリアンと戦うときとか使うんだろうな。

 大丈夫かな……。

 

「(とりあえず、皆のところに戻ろうか)」

 

『詳しい話はまた後でだな』

 

 軽く頷き、私も小鳥ちゃんのところへと向かった。

 そしたら小鳥ちゃんとキャットちゃんから刹さんでも遊馬は渡さない!となぜか宣戦布告をされ、その誤解を解いたり。

 羽原夫婦から結と真月君のタッグデュエルのことを聞いたりした。

 結と真月君のタッグは羽原夫婦に負けてしまったがコンビネーションは良かったと海美プロに褒められて喜んでいた。

 それからは特に何も起きずに、ハートランド学園の文化祭が終了した。

 

 

 

 数日後、学校も終わりブラック・ミストはいつも通りソファに寝転がってテレビを眺め、私もソファの隅に座ってアイスティーを飲みながらくつろいでいるときだった。

 見ていたテレビの画面がニュースに変わり、どこか焦った表情を浮かべている女性に右端に緊急速報とかかれていた。

 

「緊急速報です。先ほどハートランドシティにある○○ビル、○○ビルなどの建物が突然倒壊する事件が発生しました」

 

 画面に映像が映し出され、ビルに大きな球体が通り抜けたような穴が開いていた。

 そして画面は移り変わり、中心が赤色で周りが黄色の球体が建物や道路を破壊しながら通っていく映像が流れた。

 

「ブラック・ミスト、これって……」

 

 ブラック・ミストはいつの間にか体を起こしてテレビを食い入るように見ている。

 

「恐らくバリアンだ。刹、早く準備しろ!」

 

「わかった。着替えてくる」

 

 急いで私服に着替えた後、いつものデッキを腰につけて家を出た。

 場所のほうはブラック・ミストがニュースを見ていたから問題はなく、地図を見ながらその場所へと向かう。

 その場所に近づいていくとバリアンの力を感じ取ったのかブラック・ミストが案内をして川が近くにある広場にたどり着いた。

 そこには遊馬君のほかに小鳥ちゃんたちの1年組とカイトと凌牙がいた。

 遊馬君はなぜかカイトの首元にある襟を掴んで大声で話していたが、暫くしてカイトは遊馬君の頬を叩いた。

 

「落ち着け、見苦しいぞ」

 

「……カイト」

 

 カイトに叩かれて少し落ち着きを取り戻したのか遊馬君はおとなしくなった。

 しかし、表情は暗くいつもの明るさはない。

 

「遊馬君、何があったの?」

 

「刹、真月が……ベクターに」

 

 ベクター?もしかしてアーカイドが言っていたベクちゃんのことだろうか?

 遊馬君から話を聞いてみたところベクターというバリアンが突然姿を現わし遊馬君とデュエルをした。

 デュエルは遊馬君が勝ったのだが、ベクターが遊馬君を連れ去ろうとしたのを真月君が庇い、代わりに連れて行かれてしまったと言う。

 その場面を見ていなかったからなんともいえないけど、怪しいな……。

 

「とりあえず、場所を移すぞ」

 

 カイトがそういうと遠くからサイレンが聞こえてきたので私達はすぐにその場から移動した。

 ハートランドの中心にある大きな塔にカイトに案内されて部屋にたどり着いたのは良いけど、小鳥ちゃんを含めた1年組は関係のないものとしてカイトがハートランドに入れなかったが、あれでよかったのだろうか。

 まぁ、話がややこしくなりそうなのは目に見えてるけど。

 カイトに案内された部屋の中は壁一面ガラス張りになっており中心には円になるように2つのソファがおかれている。

 私と凌牙はソファに座り、私達の前で遊馬君はベクターのことを話している。カイトはガラスの壁に寄りかかって黙って話を聞いていた。

 

「それじゃあ、真月をさらったのがDr.フェイカーやトロンを操っていたバリアン。ベクターってやつなのか」

 

 話を聞き終えて凌牙は確認するように言うと遊馬君は頷いた。

 でも、遊馬君を攫おうとした理由は何だろう。

 やっぱり真月君はベクターとアーカイドと繋がっていて何かするために遊馬君を庇ってわざと攫われたりしたんじゃ……考えすぎかな。

 

「で、そのベクターがどこにいるのかわからねぇのかよ?」

 

「あぁ。バリアンについて分かっている情報は少ない。もし奴がバリアン世界に戻っていたとしたら、どうすることも出来ないな」

 

 凌牙がカイトにたずねると思っていた通りの返事が返ってきた。

 こちらからバリアン世界に行く方法はないからね。

 

「じゃあ、どうやって真月を助けに行けば……」

 

 遊馬君がそういうと同時に部屋が赤く点滅し始め、カイトの前に画面が現われる。

 

「カ、カイト様! 大変です! 我々がいる塔の真上に非常に強い重力変化が!!」

 

「まさか、バリアンか?」

 

 私達は急いで部屋から出て屋上へと向かう。

 屋上にたどり着き、空を見上げてみるとそこには大きな黒い雲が渦巻いていた。

 

「えっ、うお!」

 

 急に遊馬君の首にかかっている皇の鍵が輝き、そこから雷のような電流が雲の渦巻いている中心部に向かっていき、デュエル中でNo.をエクシーズ召喚した時に見られるあの光の爆発が起きた。

 まぶしさに目を瞑り、光が収まったのがわかって目を開けてみると雲から歯車のようなものがいくつも付けられた大きな飛行船がこちらに向かってくるのが分かった。

 驚いている間にそれは私達がいる塔に激突した。

 衝撃に体はふらついてみんなして地面に座り込み、目の前にある物体を呆然とながめた。

 

「これは、皇の鍵の中にあった……」

 

「何で現実の世界に?」

 

 カイトと遊馬君には見覚えのあるものなのかそんなことを言っていた。

 というか皇の鍵の中にこんな大きなものが入ってるの?

 そうこうしていると私達の目の前にアストラルが現われる。

 

『遊馬、私達が向かうべき場所が分かったぞ』

 

「え、どういうことだよ? アストラル」

 

 アストラルの話によるとベクターから渡されたNo.を調べてみたら、それはこの大きな飛行船を動かす鍵となっており起動したと同時に地図が現われたらしい。

 その地図には向かうべき座標も記されていると言った。

 

「その場所って……」

 

『恐らく、バリアン世界。ベクターはこの飛行船で来いと言っているようだ。君の友達もそこにいるだろう』

 

 アストラルの説明を聞きながら私は眉間に皺を寄せる。

 なんか、話がうますぎるような……。

 

「上等だ。やってやろうじゃねぇか」

 

 なぜか燃えている凌牙の肩に手を置いて止めた。

 

「明らかに罠を張って待ってるでしょ。行くのは危険だと思う」

 

「同感だな。どうも話がうますぎる」

 

 カイトも可笑しいと思うのか話に乗ってきた。

 私達の言葉を聞いて少しは冷静になったのか凌牙は神妙な顔で考え込み、遊馬君は逆に怒りの表情をあらわにした。

 

「じゃあ、真月を放っておけって言うのかよ! 俺は、俺1人だけでも真月を助けに行くからな!」

 

「遊馬君……」

 

私はカイトのほうに視線を向けるとカイトはため息を吐き、首を振った。

 

「わかった。一緒に行くよ」

 

「お前1人で行かせたら何が起こるかわからないからな」

 

「俺はベクターに借りを返しに行く。それだけだ」

 

 私達の言葉を聞き、アストラルは頷き飛行船を仰ぎ見て話しはじめた。

 なんでも飛行船のエネルギーの充填が完了していないようで、明日の朝には出発できるようだ。

 それまでに各自準備をするように言われた。

 

『……刹』

 

 遊馬君たちの後を追うように屋上から出ようとした時、アストラルに呼び止められた。

 その声が聞こえたのか遊馬君たちも足を止めている。

 アストラルは少し言いづらそうに視線を泳がせてから口を開いた。

 

『すこし、聞きたいことがある』

 

「なに?」

 

 私はアストラルに近づきながら問いかけるとアストラルは私の後ろのほうに視線をやった。

 

「あー……遊馬君たちは先に下の階に行ってて! ちょっとアストラルと話してから行くから!」

 

 距離が離れているので声を張り上げてそういうと遊馬君はこちらに来ようとしたが、凌牙に首根っこつかまれ下の階に連れて行かれた。

 凌牙、ナイス。

 

「それで、どうしたの?」

 

「なにかあったのかよ」

 

 いつの間にかブラック・ミストが隣にやってきてアストラルの話を聞く体勢に入っていた。

 

『あの時、ギラグのデュエルで遊馬に一体何があった? 文化祭では遊馬はバリアンのカードを使っていた。ギラグから奪い取ったといっていたが、本当なのか?』

 

 私はアストラルに言うべきかどうかブラック・ミストに視線をやるとかすかに頷いた。

 今は真月君もいないし、教えても大丈夫か。

 

「アストラル、落ち着いて聞いてね。リミテッド・バリアンズ・フォースは真月君が遊馬君にあげたカードなんだ」

 

『なんだと!? では、真月はバリアンなのか!?』

 

 声を荒げて詰め寄るように聞いてきたアストラルに戸惑いながら頷くと、アストラルは急いでどこかに行こうとする。

 

「待て、アストラル」

 

 ブラック・ミストがアストラルの腕を掴み、動きを止めさせた。

 

『離せブラック・ミスト! 私は遊馬に……』

 

「落ち着けって言ってるだろ。話はまだ終わってねぇ」

 

 2人で何とかアストラルを落ち着かせて真月君について話をした。

 バリアンズ・ガーティアンのこと、アリトを闇討ちしたのも真月君だということも話した。

 

『遊馬はそれを信じたのか?』

 

「遊馬君は真月君を完全に信用している。私達は、まぁ見ての通りかな」

 

 つまり真月君を信じていない、その事を悟ったアストラルは沈んだ表情のまま答えた。

 

「……アストラル。遊馬君はアストラルを守るために言えなかった」

 

『わかっている』

 

 アストラルはどこかさびしそうに微笑んで見せると話は終わりだといって遊馬君のところに向かうが、背を向けたままとまった。

 

『……ブラック・ミストは最初から知っていたのか?』

 

「え? まぁ、私が教えたから知ってたよ」

 

 それだけ伝えるとアストラルはそうかと答えて飛んでいってしまった。

 一応このことは遊馬君に秘密にしておくように言っといたけど、大丈夫かな……。

 

 

 

 皆と別れた後、家へとたどり着きリビングでデッキを広げて明日の準備をしていた。

 やっぱりアーカイドも一緒に待ち受けていると思うからパーミッションデッキがいいよね。

 相手も複数のデッキを使うから次はどんなものを使うか分からないし、パーミッションなら大体のデッキと対抗できる。

 カウンター罠のカードを見比べているとき、突然玄関のチャイムが鳴った。

 立ち上がって台所の近くに設置されているインターホンを確認するとそこには結が写っていた。

 

「え、結!?」

 

 驚きつつも私は急いで玄関のドアを開けにいく。

 ドアを開けると結がすこし大きめな荷物を持ち、不安げな表情で立っていた。

 

「色々と聞きたいけど、とりあえず中に入って」

 

「ごめんね、刹。お邪魔します」

 

 申し訳なさそうに謝りながら結は家の中に入り、リビングに案内した。

 広げたデッキを片付けて結を椅子に座らせ作り置きのアイスティーをコップに淹れる。

 

「それで、どうしたの?」

 

「小鳥ちゃんから、零君がバリアンに攫われたって、聞いて……」

 

 結は顔を下に向けてポツリポツリと話す。

 その言葉を聞いて思わず額に手を当ててしまった。

 小鳥ちゃん……良かれと思って知らせたんだろうけど。

 

「それで大きな飛行船で零君を助けに行くんでしょ? だから……」

 

「だめだよ」

 

 そういうと結は顔を勢い良く上げ、私はもう一度だめと答えた。

 

「なん、で?」

 

 泣きそうな声で問いかけられ私は持っているコップに視線を向ける。

 

「真月君がいる場所にアーカイドがいる可能性がある。結、私とアーカイドのデュエルを見たよね?」

 

 問いかけると結はそのデュエルを思い出したのか息を呑んで頷く。

 

「アーカイドはまた人質をとってデュエルをするかもしれない。あのときはモンスターが実体化していたからブラック・ミストを助けられたけど、次は……分からない」

 

 もし、あの時モンスターが実体化している闇のデュエルじゃなかったら恐らく私は良いようにいたぶられて負けていたと思う。

 

「私、デュエルは強いって思ってるけど、それ以外はからっきしだから……。他の人を守れる、自信がないんだ。ごめんね」

 

 両手でコップを握り締め、結に向かって苦笑いを浮かべ謝った。

 結は俯いたまま黙っている。

 とりあえず、もう遅いので結には家に泊まるように伝えてお風呂に入れさせた。

 

「あれで、よかったのかな……」

 

 テーブルの上にうつぶせになり、飲みかけのアイスティーを眺めながら呟く。

 

「良いと思うぜ。俺も余計な人間を連れて行くのは反対だ」

 

 ブラック・ミストは私の意見に賛成してくれたが、気持ちは晴れず胸にもやもやとしたものが残り続けていた。

 結がお風呂から上がった後、私もお風呂に入った。

 私の部屋に結が寝るための布団を敷いて一緒に寝る。ブラック・ミストはリビングのソファでいつも寝ているので気にする必要はないと結に伝えた。

 机の上に置いているデュエルディスクにパーミッションデッキを差し込んでからベッドのなかにもぐりこんだ。

 結も布団のなかに入り、寝る体勢になっている。

 

「刹、ごめん。ごめんね……」

 

 私が眠りにつく直前に結は静かにそう告げていたような気がした。

 

 

 

 朝――。

 私は結に合鍵のことや朝食のことを手紙に書いて置いておき、ハートランドへと向かった。

 飛行船がある屋上にたどり着くとそこには凌牙、カイト、オービタルのほかに璃緒ちゃんと雲雀までもがいた。

 

「お、おはよう。なんで2人がここに?」

 

 挨拶をしながら戸惑っていると凌牙、璃緒ちゃん、雲雀は挨拶を返した後にわけを話し始めた。

 

「璃緒は勝手についてきた」

 

「雲雀は私が知らせておきましたわ」

 

 なんだか簡単に説明をされて頭を抱えそうになった。

 えー……昨日結を説得したって言うのにこっちでは簡単に人を巻き込んで。

 

「私達は足手まといにはならない。だから、心配をするな刹」

 

 見透かされたように言われた言葉に何も言えなくなる。

 まぁ、確かに雲雀と璃緒ちゃんは運動神経良いしデュエルも強いけど……。

 不安に思っていると後ろから遊馬君の声が聞こえてきた。

 

「おーす! 皆早いな!」

 

「お前がおせぇだけだろ」

 

 最後に来た遊馬君が元気にそういうと凌牙が突っかかった。

 

「てか、妹シャークに雲雀。なんで此処に……」

 

「妹シャークって呼ばないで!」

 

 璃緒ちゃんは腰に手を当てて怒った後、雲雀が落ち着かせて遊馬君に顔を向ける。

 

「戦力は多いほうが良いだろうと思ってな。きっと役に立つ」

 

「そっか、ありがとな! 2人とも!」

 

遊馬君が2人に礼を告げた後、遊馬君の後ろにアストラルが現われる。

 

『遊馬、いつでも出発できるぞ』

 

「よっしゃあ! そんじゃ、いくぜ!! て、でもどうやって乗り込むんだ?」

 

 そういえば階段みたいなものはないし、なんか仕掛けとかあるのかな。

 そんなことを思っていると飛行船から緑色の輪がこちらに向かって降りてきた。

 

『このフラッシュトランサーでコクピットの中に入れる』

 

 な、なんかすごくハイテクな飛行船なんだね。

 まるで漫画に出てくる宇宙船みたいだと思っているとフラッシュトランサーの中に何人もの人が入り込んできた。

 その人物達は小鳥ちゃんなどを含めた1年組の子達と結だった。

 

「結、なんで!?」

 

「ごめんね、本当にごめんね刹! やっぱり零君が心配だから……」

 

 あー……こういうところでは頑固なんだよね、結って。

 しばらくそういうことがなかったから忘れてたよ。

 今から降りろと言うわけにもいかず私は絶対に皆と離れないことを約束させた。

 

『では、乗り込むぞ』

 

 アストラルが飛行船に向かって手をかざすと次の瞬間にはコクピットと思われる場所についていた。

 

「此処がコクピット……」

 

 目の前に舵があり、私達がいる後ろ左右に何かを見るための装置、その奥の段差の上にも赤色の操縦するための機械があった。

 中心のほうには地図だと思われる球体のものが浮かんでいる。

 なんか、すごいな……。

 呆然と中を見ているとブラック・ミストが出てきて隣に浮かぶ。

 

「おい、あいつ。いいのかよ」

 

 ブラック・ミストは結に視線を向けて問いかけてきた。

 

「……しょうがないよ。今から言っても聞かないと思うし」

 

 苦笑いを浮かべながら言うとブラック・ミストは眉間に皺を寄せていた。

 

『目標座標を確認。ただいまより、この船は出港する』

 

「アストラルの姿が俺達にも見えるウラ!」

 

 え、そうなの?

 振り返って璃緒ちゃんなどに目を向けるとあれがアストラルと呟いていた。

 

「ブラック・ミストと良く似てますわね。色はまったく違いますが」

 

『それは違う。私がブラック・ミストに似ているのではなく、ブラック・ミストが私に似ているのだ』

 

「いや、どっちでも良いだろ」

 

 真剣な顔で璃緒ちゃんに言っているアストラルにブラック・ミストが突っ込みをいれていた。

 アストラルとブラック・ミストが言い合っている間にオービタルが飛行船を操作して起動させていた。

 

「オールシステムズ、正常動作確認!」

 

 正常に動くことを確認し終わり、アストラルはいったんブラック・ミストとの話をやめて遊馬君に視線を向ける。

 

『遊馬、君が指示を出すんだ』

 

「え、俺が?」

 

 まぁ、このメンバーを引っ張っていっているというか中心になっているのは遊馬君だし妥当だと思う。

 

「遊馬、頑張って!」

 

「おう! それじゃあ、いくぜ! 5・4・3・2・1……発進!!」

 

 皆はそれぞれの位置に移動し、私は舵がある左側のところに璃緒ちゃんと一緒に立つ。

 遊馬君のカウントダウンが終わりを告げ、飛行船は動き出した。

 飛んだことにより飛行船は揺れ、倒れないようにバランスを保っていると異次元トンネルというものを開いてそこに突入したらしい。

 なんか色々とあってうっかりしてたんだけど、この飛行船って一般人に見えるんだよね?

 ……あれ?色々とやばくね?

 

「あら、刹。どうしましたの?」

 

「いや、うん、なんでもない」

 

 気にしないでおこう。

 

 

 

 異次元トンネルを飛んでいる間は静かなもので、逆になんだか不気味な感じがした。

 他のみんなはそんなこと思っていないらしく、持ってきたおやつを食べようと提案して明るく振舞っていた。

 するとブザーの音が鳴り響き、飛行船が大きくゆれる。

 

「なんだ、この衝撃は!?」

 

「飛行船前方に未確認物体を確認!」

 

 璃緒ちゃんは目の前の装置を操作すると舵がある場所の前に画面が現われ、そこには無数のモンスターが映っていた。

 あれってデュエルモンスターズのモンスター?

 じゃあ、実体化してるってこと?

 モンスターの大群は飛行船の周りを囲んで攻撃をしているらしい。

 

「シャーク、カイト、刹! 行くぜ!!」

 

遊馬君の言葉に頷くと璃緒ちゃん、雲雀、鉄男君も一緒に飛行船の上へと転送された。

 

「本当にモンスターがいる……」

 

「刹、よそ見をするな!」

 

 目の前でモンスターが動いているのを見て驚いているとカイトから注意をされてしまった。

 

「現われろ、希望皇ホープ!」

 

 遊馬君がエースモンスターであるホープを召喚するとカイトは銀河眼の光子竜、凌牙はシャーク・ドレイク、璃緒ちゃんはシルフィーネ、雲雀はサイバー・エンド・ドラゴン、鉄男君はブリキの大公を召喚して敵を迎撃していた。

 

「お願い、ブラック・ミスト!」

 

「現われろ、俺の分身。No.96ブラック・ミスト!!」

 

 モンスターの方のブラック・ミストが現われて効果を使いながら周りの敵を倒していくが、中々モンスターの数が減っていかない。

 

「カイト様、大変です!船の目の前に巨大なブラックホールが出現しました!」

 

「なに!?」

 

 オービタルの通信を聞いて船の前方に視線を向けると周りが紫で中心部分が真っ黒なブラックホールが現われていた。

 船がブラックホールに近い位置にいるせいか船は大きく揺れながらブラック・ホールに吸い込まれていく。

 

「くっ、う」

 

「大丈夫か、刹!」

 

 倒れそうになるところを浮かんでいてあまり被害がないブラック・ミストに支えられる。

 しかしブラックホールに吸い込まれていく途中で私達は体を投げ出されてそのままブラックホールに吸い込まれてしまった。

 

 

 

 

 

「つ……おい、刹!」

 

 誰かが呼ぶ声が聞こえてゆっくり目を開くと目の前にはブラック・ミストがいた。

 ブラック・ミストはホッと息を吐いた後、大丈夫かと聞いてくる。

 

「平気。ここは?」

 

 確かブラックホールに飲み込まれたところまでは覚えてるんだけど。

 体を起こして周りを見渡してみると宇宙のような空間に空中に浮かぶ大きなコンクリートがあり、私達がいる場所のほかにそれが3つある。

 地面を見てみると白い線が引かれており、おそらくこれは道路だったのだろう。

 

「ようこそ、刹っちゃん!なんかおまけもついてきてるけど、歓迎するよ!」

 

 無駄に元気で明るい声に我に返って前を見てみると、そこにはフードを被ったアーカイドが立っていた。

 ていうか、おまけ?

 再び周りを見てみると少し離れたところに雲雀が立っていた。

 

「アーカイド、此処はどこなの?」

 

「んー? 知りたいの? どうせわかんないと思うけどなー。此処はね、異世界の墓地サルガッソだよ」

 

 うん、たしかに分からなかったけど聞かないときがすまないというか……。

 

「それにしてもいいのー? 向こうがちょっとした騒ぎになってるけど?」

 

 アーカイドが指差した先は私達がいる場所の隣にある大きなコンクリートがある場所だった。

 画面が現われると真月君がぼろぼろの姿のまま倒れており、遊馬君は真月君の姿を見て叫んでいた。

 

「ベクちゃんってば遊ちゃんたちがくるのが遅いとか言って、暇つぶしにいじってたらうっかりやっちゃったみたいなんだよねー」

 

 困ったよねーと笑っているが、言っている意味が良く分からなかった。

 

「殺したのか? 真月を……」

 

 雲雀はアーカイドを睨みながらそういうとせーかい!と答えていた。

 

「貴様!!」

 

「えー、僕は何もしてないよー。怒るんだったらベクちゃんに言ってよねー」

 

 怒っている雲雀に文句を言った後、アーカイドはこちらに顔を向ける。

 

「それじゃあ、デュエルをはじめようか? 刹っちゃん」

 

 アーカイドは着ているマントを脱ぐと無造作に放り投げた。

 アーカイドのバリアン形態は一言で言うとピエロに似たものだった。

 顔は目だけが露出しており、他は仮面で覆われ右目の近くに雫の形をした模様が付けられている。口元は右側が吊り上がり、左側は下がっている口が描かれていた。

 全体的に暗い青色、服装はシンプルなものでミザエルのような上半身裸ではないようだ。

 私もデュエルディスクとDゲイザーを取り付けると突然アーカイドは叫んだ。

 

「さてさて、僕と刹っちゃんのとっくべつルール!!」

 

 私が何か言う前にアーカイドはまず1つ目!と人差し指を立てて言いはじめた。

 

「LPは8000でやる。2つ目は3分以内にターンを終了させること!」

 

「なに?」

 

 制限時間ありのデュエルか……。

 2つ目のルールというものを聞き、ブラック・ミストは眉間に皺を寄せ雲雀もアーカイドを睨んでいる。

 アーカイドが何かを企んでいるのは明確だけど。

 

「……わかった」

 

「刹!?」

 

 ブラック・ミストはいいのか?と問いかけてくるが私は諦めたようにため息を吐く。

 

「どうせいやだって言っても無駄だよ」

 

「さっすが刹っちゃん! わかってるー!」

 

 分かりたくもないんだけど。

 露骨に嫌そうな顔をするがアーカイドは特に反応はせずにデュエルディスクを構え、私もデュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!」」

 




次はお待ちかねの衝撃の真実ぅ~wですね!
あ、第三者視点と主人公視点のどちらを先にしよう…。

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