遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

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第三十一話 怒らせるとろくな事がおきない

 此処は遊馬がいつも首にかけている変わった形のペンダント、皇の鍵の中に存在する空間。

 そこは太陽もなく、空は夜のように薄暗いが不思議と周りは見える明るさがあった。

 地面には白い砂漠のようなものが広がり、中心にある大きな物体以外には何も存在しなかった。

 その大きな物体は大きな輪が何十も取り付けられ、中には無数の歯車が存在している飛行船だった。

 その中にNo.をセットできる場所があり、そこには薄い青色の球体の中で横たわるアストラルと体育座りをしているブラック・ミストがいた。

 

「ブラック・ミスト、君はまだ拗ねているのか?」

 

 アストラルは首だけを動かして背を向けて座っているブラック・ミストに声をかけた。

 ブラック・ミストはというと不機嫌そうな表情を隠そうとせずにそのまま答えた。

 

「別に……。置いてかれたことなんて気にしてねぇし、夕食と朝食が塩おにぎり1つだけとか気にしてねぇし」

 

「それは気にしているのではないか?」

 

 言っている意味が分からないというように首をかしげるとブラック・ミストは小さな声でうるせぇと返す。

 昨晩、ブラック・ミストはアストラルの容態が安定してきたので刹の元に戻ろうと皇の鍵から出てくるとそこには遊馬しかいなかった。

 刹の所在を遊馬に聞くともう家に帰ったぜと呆気らかんに答えられた。

 刹の所に帰るとブラック・ミストは主張するがすでに日は沈み、今から刹を呼ぶのは迷惑になるし遊馬自身が刹の元に行くのは姉が許さないだろうと遊馬は伝える。

 それから拗ねているブラック・ミストに慰めの言葉をかけたり、夕食を要求してきたので祖母と姉の目をかいくぐってデュエル飯をあげたりと刹が聞いたら頭を抱えそうなことをしていた。

 今は遊馬が学校に行っているので、アストラルやNo.の様子を見ながらおとなしくしている。

 

「……まぁ、なんかあったんだろうな」

 

 不意にブラック・ミストは今までの拗ねた口調ではなくどこか悟ったように呟いた。

 

「どういうことだ?」

 

「おそらく遊馬達とギラグのデュエルで刹が驚くような、そんな出来事があったんだろ。それについて色々と考えて……」

 

 ブラック・ミストはムッと口を結び、その先は意図的に言わなかった。

 

「その出来事とは?」

 

「しらねぇよ。遊馬に聞いてみれば良いだろ」

 

 俺は刹に聞くけどなと告げた後、アストラルは目を伏せて考え込んでしまった。

 2人の会話が途切れて辺りはまた沈黙が漂う。

 暇つぶしになるようなものがないこの空間でブラック・ミストがつまらなそうにぐーたらとしているとアストラルが口を開く。

 

「君は、本当に変わったな」

 

「……いきなりなんだよ」

 

 背を向けていた体をアストラルにむけ、怪訝そうに言うブラック・ミストにアストラルは笑みをこぼす。

 

「いや、以前のことを考えるとこうやって君と話すこと自体想像もしなかった」

 

「フン」

 

「それに人間界の生活にだいぶ馴染んでいるようだが」

 

 どこか羨ましいという雰囲気を漂わせながらジト目でブラック・ミストを見ている。

 

「べつに良いだろ。食べ物はうまいし、テレビは面白いもんやってるし……。お前の使命が終わるまで好きにさせろよ」

 

「……使命? ブラック・ミスト、君は知っているのか?」

 

 アストラルは寝ていた体を起こしバリアから出てブラック・ミストに詰め寄った。

 ブラック・ミストは急なことに少々驚きながらも呆れたようにため息を吐く。

 

「まだ思い出してなかったのかよ。ならNo.の記憶をもう一度見てみろ。そうすればその使命ってやつを思い出すだろうよ」

 

 口元を吊り上げてそういうとアストラルは頷いて目を閉じる。

 暫くすると薄暗かった周りは一瞬明るくなり、次の瞬間轟音が鳴り響いた。

 雷は飛行船の上に落ちたようでブラック・ミストはすぐに上へと向かう。

 上に出るとそこには暗い藍色の鎧に二つの角を生やした兜を被り、金色の盾を装備している巨人がそこにいた。

 

「ほう、こいつは……」

 

「ブラック・ミスト!」

 

 目の前にいる存在がどういうものか理解したのかブラック・ミストは楽しげに笑っているとアストラルがその隣に飛んできた。

 

「我は汝を試す者。我とデュエルをするのだ」

 

 アストラルが姿を現わすと目の前の巨人は突然しゃべりだした。

 

「……この者は一体?」

 

「お前がNo.の所有者として相応しい者か試す存在らしい。しょうがねぇから力を貸してやるよ」

 

「助かる」

 

 2人は顔を見合わせて笑うと真剣な顔つきになり相対する巨人を見つめていると赤い光が上から落ちてくる。

 見たことのあるその赤い光はアストラルとブラック・ミストの間に落ちて光がなくなると遊馬が現われた。

 

「遊馬!」

 

「あ、アストラル!? それにブラック・ミスト……此処って皇の鍵の中か?」

 

「あぁ、その通りだ。彼が君を呼んだのだろう」

 

 そういってアストラルが巨人に目を向けると遊馬もつられてそちらを向くと再び巨人が話しかけてきた。

 

「我は汝を試す者。さぁ、デュエルだ!」

 

「良くわかんねぇけど、いいぜ! やってやるよ!」

 

 遊馬はデュエルディスクとDゲイザーをセットしてARビジョンを展開させる。

 遊馬の右側にはアストラル、左側にはブラック・ミストがついてデュエルは開始された。

 

 

 

 

 

 

 学校に来てすぐ、ブラック・ミストを迎えに行こうとしていたのだが遊馬君がまだ来ていなかった。

 教室で時間ギリギリまで待ったが、遊馬君は来なかった。

 小鳥ちゃんいわく、最近遅刻が多いみたいで時間以内にくるほうが珍しいみたいだ。

 仕方なくブラック・ミストを回収するのは放課後にしようとしたのだが、運悪くその日は1週間後にある文化祭について話し合いがある日だった。

 仕切り役の雲雀にはわけを告げてブラック・ミストを迎えに行かせてもらえる代わりに2日目のラスボス役をやれと言われた。

 私達のクラスは演劇コスプレデュエルをやるのだが……1日目は普通の演劇をしながらデュエル、2日目は5人が悪役になりきり外部からきたお客さんとデュエルをするといったものだ。つまり四天王+ラスボスを連続で倒せるかどうかの腕試しということ。

 一応グループは2つある。しかしラスボス役だけは1人と決められていた。

 WDC参加者の私、雲雀、結、凌牙と璃緒ちゃんが四天王役として入っていたからボスまで勝ち進む人は少ないだろうというのが理由だったりする。

 ラスボス役とかろくな事がおきなさそうだが……しかたなく了承して私は遊馬君のクラスに向かった。

 教室には遊馬君の姿はなくついでに小鳥ちゃんや真月君の姿もなかった。

 鉄男君に聞いてみたところ授業中に突然遊馬君が保健室に向かい、小鳥ちゃんと真月君がそれについていったときいた。

 面倒だと思いながら保健室に行くとそこには小鳥ちゃんと真月君が立っていた。

 

「あれ? 小鳥ちゃん、遊馬君は? 此処にいるって聞いてきたんだけど……」

 

「刹さん! それが……」

 

 どこか慌てた様子でこちらに来た小鳥ちゃんが説明をしだした。

 なんでもアストラルの調子が悪そうだから皇の鍵をベッドに寝かせてお薬をやるなんて良く分からない行動を起こしたらしい。

 そして突然皇の鍵が輝いて、気づいたときには遊馬君がいなくなっていたという。

 この現象、前にもあったような気が……。

 いつだったかと思っていると保健室のベッドに寝かされている皇の鍵が輝き始め、まぶしさに目を瞑り光が収まって目を開けたら遊馬君がベッドの前に立っていた。

 

「遊馬!」

 

「無事だったんですね!」

 

 2人が遊馬君の姿を見て喜んでいると遊馬君の近くに光の粒子が集まり、その隣に黒い靄が出てくるとアストラルとブラック・ミストが現われた。

 

「あ、ブラック・ミスト……」

 

 目が合って謝ろうとした瞬間、ブラック・ミストは腕を組んだまま顔を逸らしてすぐにエクストラデッキのほうに戻っていってしまった。

 ……お前は女か。

 仕草などがまさにそれっぽかったので思わず突っ込んでしまった。

 

「刹さん、ブラック・ミストと何かあったんですか?」

 

「あーうん。ちょっと忘れていったというか置いていったというか……」

 

 昨日皇の鍵の中にいたブラック・ミストを置いて家に帰ってしまったことを小鳥ちゃんに話すと苦笑いをされた。

 ブラック・ミストに話しかけても返事はなく、随分と拗ねているようだ。

 まぁ、機嫌を直す秘策を昨日の夜から用意しておいたので問題ないだろう。

 

 

 

「あの、ブラック・ミストさん」

 

「なんだ?」

 

 私が声をかけるとブラック・ミストは不機嫌そうな表情を崩さず、足を組んで椅子に座っている。

 

「なんで、正座なのかな?」

 

 遊馬君たちと別れて家に帰った私だが、現在正座をさせられている。

 家に着いたとたん、ブラック・ミストはリビングにある椅子に座り、不機嫌な表情のまま正座しろよと言った。

 これ以上不機嫌になったら面倒なので素直に正座をしたのだが、一応聞いてみた。

 

「……前に女を怒らせた男が正座して謝っていたのをテレビでみた」

 

 またテレビか……。というかその状況だと、いやこれ以上は言わないほうが良いか。

 

「あー、うん。置いてちゃってごめん」

 

「おまえ、軽いな」

 

 ジト目で本当に悪いと思ってるのかよと呟き、ため息を吐くといつものブラック・ミストに戻っていた。

 うーん、そこまで怒ってなかったのか?

 もしかしたらまたテレビでやってたから再現してみたというものなのだろうか。

 

「で、何があったんだよ」

 

「実は……その前に正座やめていい?」

 

「そのままでいろ」

 

 私は正座をしたまま昨日ギラグと遊馬君たちのデュエルで真月君がバリアンだとカミングアウトしてバリアンズ・ガーディアンという役職についていることを説明した。

 バリアンズ・ガーディアンといった瞬間にブラック・ミストは胡散臭そうな顔をしていたのでやはりブラック・ミストもこの役職は信じられないのだろう。

 

「で、遊馬はどうなんだよ」

 

「遊馬君は完全に真月君のこと信用してる。たぶんアストラルにも言わないんじゃないかな。アストラルとブラック・ミストにはいうなって言われたし」

 

 でもブラック・ミストに言わないという選択肢はないからこうして言ったんだけど。

 

「あいつ、何が目的だ?アストラルと遊馬の仲を裂くつもりか?」

 

「……その可能性は十分ありえそうだね」

 

 何気なく言ったブラック・ミストの言葉に私は頷いた。

 遊馬君はアストラルに助言をされながらデュエルをしている。

 それに2人が合体したゼアルとか言うやつも2人が信頼しあっているから出来る代物。あのシャイニングドローをさせないために2人の仲を悪くさせ、ゼアルに変身させないようにする。

 ありえそう……。あのシャイニングドローはその場でカードを創造するから敵からしてみれば厄介なものだろうし。

 そのことをブラック・ミストに伝えると険しい顔つきに変わった。

 

「ゼアルにさせないためか……。確かにありえそうだな」

 

「遊馬君は真月君を信用しきってるから何を言っても駄目だし。アストラルに真月君のこと言う?」

 

 ブラック・ミストは暫く考え込んだ後、首を振った。

 

「いや、アストラルに言ったらすぐに遊馬に聞くだろうな。そうなると俺達がアストラルにばらしたことを真月の奴にばれる」

 

 真月君にばれたら何をするか分からないしな……。

 やっぱり誰にも言わないで私達で警戒するしかないのか。

 

「そっちはなにかあったの?」

 

 問いかけるとブラック・ミストは皇の鍵の中でおきたことを話した。

 アストラルがNo.の所持者として相応しい存在か見極めるために遊馬君と一緒にデュエルをして、ブラック・ミストは力を貸したらしい。

 そして無事に勝ったアストラルは自分の使命、ヌメロンコードをバリアンよりも早く探し出すということを思い出した。

 

「ヌメロンコード?」

 

「ああ。ヌメロンコードはすべての世界を作り上げた神のカード。あらゆる世界の運命を決める力がある」

 

 私は何も言えずに呆然としていた。

 その様子に気づいたブラック・ミストは笑いをこらえながら口を開く。

 

「おいおい、信じられないのか?」

 

「いや、なんか壮大すぎてピンとこないというか……」

 

 ブラック・ミストが言うことだから信じられるんだけど、なんというかスケールがでかすぎないか?

 1枚のカードで世界の運命を決める力があるといわれてもへー……ぐらいにしか感じないというか。

 

「でも、それをバリアンに取られるとまずいんだよね。ヌメロンコードで人間世界とかアストラル世界を滅ぼすかもしれないし」

 

 私の言葉にブラック・ミストは頷いた。

 それにしてもヌメロンコードって一体どこにあるんだろうか。

 ヌメロンコードのありかを記憶しているNo.を手に入れてアストラルが思い出さないといけないみたいだけど……。

 一応ヌメロンコードのことはカイトに教えたほうが良いか。

 あーなんか、どんどん話が大きくなって言ってるような気がする。

 

「まぁ、話はこれで終わりだね。ブラック・ミスト、バケツプリンが冷蔵庫に入ってるからよかったら食べて」

 

「わかった」

 

 バケツプリンという単語を聞いた途端、ぴくと反応してブラック・ミストはすぐに冷蔵庫に向かっていった。

 機嫌が悪かったらバケツプリンをちらつかせて機嫌を直してもらう作戦は出来なかったけど、あまり怒ってないようでよかった。

 あぁ、それにしても……。

 

「足がしびれてつらい……!」

 

 私は正座を崩して足の痺れが取れるまでソファに寝転がることにした。

 結構長く正座していたから痺れが取れるまで時間がかかるだろう。

 その間に私はDゲイザーを取り出してカイトに電話をかける。

 3コールぐらい鳴ったところでDゲイザーの画面にカイトの姿が映し出された。

 

「どうした? なにかあったのか?」

 

「うん、実は……」

 

 先ほどブラック・ミストと話したヌメロンコードのこと、それをバリアンが探していることをカイトに伝える。

 

「ヌメロンコードか……こちらでもその手がかりを探ってみよう」

 

 やはりというべきかヌメロンコードのことを話してもカイトは大きな反応はなかった。

 普通なら世界を変える力を持つカードがあるとか言われたら信じられないと少しは思うけどな……。

 

「カイトのほうはバリアンについて何か分かった?」

 

「残念ながら手がかりといって良いような情報はないな」

 

 やっぱり世界が違うから情報が手に入りづらいのかな。

 こっちから攻めることもできないし仕方ないといえば仕方ないんだけどさ。

 

「話は以上か? なら切るぞ」

 

「あ、ちょっとまって。ハルト君に代わってくれる?」

 

 私がハルト君の名前を出した瞬間、怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「なぜだ?」

 

「1週間後にハートランド学園で文化祭があるからそのお誘いに。カイトも来る?」

 

 笑みを浮かべてそういうとカイトは深いため息を吐いた。

 

「お気楽な奴だな」

 

「学園の行事だから仕方ない。それに息抜きは必要だと思うけど?」

 

「……ハルトには俺から伝えておく。期待はするな」

 

 呆れた顔をしていたが暫くしてそういうとカイトは電話を切ってしまった。

 たぶん、ハルト君に言われて一緒に来るだろうな……。

 あとで演劇コスプレデュエルと2日目のイベントのことをメールで送っておこう。

 足の痺れが取れたのでソファに座ってDゲイザーをテーブルの上におき、振り返る。

 いつも食事をしているテーブルの上に3リットルのバケツで作られたプリンが置かれ、黙々と食べているブラック・ミストがいた。

 うまく出来たようで何よりだけど、よくあんなに食べられるな……見ているだけで胸焼けがおきそうだ。

 

「ブラック・ミスト……ご飯は?」

 

「食う」

 

まだ食べる気かよ。

 




次は文化祭、その次があの回一歩手前?ぐらいになると思います。

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