遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

3 / 38
3月7日
追記:またもやカードの効果を間違えたりしたので色々と修正しました。
デュエルの内容は少し変わっている程度で話の流れは変わってません。


第三話 風邪をひくとろくな事がおきない

一歩足を進めるたびにふらつき、頭がボーとしていて体には錘がついたように動きが鈍くなる、背筋に寒気が走り咳やくしゃみが出た。

 あの一件で私は風邪を引いてしまったらしい。

 学校や結にはすでに連絡をしているので大丈夫だが、九十九君は大丈夫だろうか?

 私と同じでびしょぬれで帰ったはずだけど……。

 おかゆを作って食べたのであとは薬を飲んで寝るだけ、早く部屋にもどろう。

 歩くたびに頭がふらつくのでゆっくり階段を上がって部屋へと戻りベッドに潜り込む。

 ぼーとする頭で天井を見上げていると急に咳が出始め、何度もしていくうちに息苦しさを感じて眉間にしわが寄る。

 

「ずいぶんと苦しそうだな」

 

 途端に聞こえた声に体を起こし周りを見渡すと机の上に置いてある私のデッキから黒い靄のようなものがあふれ、その靄は一つの塊となると人の形へと変わっていく。

 全身真っ黒で髪の毛はまとめて逆立て、服は着ておらずいたるところに宝石のような装飾と模様があり、瞳は左目が黒で右目が金色のオッドアイだった。

 目の前のありえない現象に呆然としていたがすぐに我に返ることができた。

 

「……いったいなに?」

 

「俺はNo.96ブラック・ミスト」

 

「No.?」

 

 天城が使っていたNo.とはまったく違う目の前の存在に目を細める。

 するとNo.96ブラック・ミストは口元に弧を描き、嫌な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「お前、この世界の人間じゃないだろ?」

 

「……は?」

 

 心臓がドクリと脈打つ、誰にも打ち明けたことがない秘密をあったばかりの他人に言い当てられ隠す余裕もなくただ固まった。

 その反応に良くしたのかブラック・ミストはさらに口元を吊り上げて音を一つ立てずにこちらへと飛んでくる。

 

「お前の魂はこの世界でもアストラル世界でもバリアン世界でもない、別のものだ。心の闇も普通のものとは違う」

 

 ぐっと顔を近づけて囁くようにそういった。

 

「……で、結局何が言いたいの?」

 

 少しだけ落ち着いてきた私はさっさと休みたいがために用件を言うように促すとブラック・ミストは喜色をあらわにし離れる。

 

「お前と一つになり俺は更なる高みへと上る。お前は俺の糧となれ!」

 

 一つになる(意味深)とかギャグをいってる場合じゃないよね。

 この前のことといい、最近いいことがなさ過ぎる。

 巻き込まれ体質ってわけじゃなかったんだけどな……。

 私は深くため息を吐き、目の前に浮かぶブラック・ミストをにらみつけた。

 

「おい、デュエルしろよ」

 

「ふっ、いいだろう。俺が勝ったらお前は俺のものだ」

 

「私が勝ったら、おとなしく私の言うことを聞くこと」

 

 おそらくブラック・ミストの言葉には深い意味はないんだろうけど、言い方には気をつけてほしいと思ってしまう。

 別にときめいたりとかまったくしないけど。

 

 

 

 

 家から移動して現在人気のない公園へときている。

 家の中でデュエルをするわけにはいかないしかといってテーブルデュエルじゃ相手も納得しないだろうから外に出た。

 もちろん服は着替えてある。

 人がいないことを確認してからブラック・ミストと向かい合いDゲイザーとデュエルディスクをセットする。

 相手は腕に黒い靄がまとわりつきデュエルディスクの形へと変わっていった。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は……なんだ!?」

 

「なに?」

 

 ピキンという音が鳴り響き私とブラック・ミストは周りを見渡すが人は見当たりず特に変化がないと思われたが空を見てみると鳥が飛んでいたのだが。

 

「鳥が空中で止まってる……」

 

「太陽が3つ……」

 

 ブラック・ミストの言葉に太陽に目を向けてみるとそこには太陽が3つ存在していた。

 あー……またありえないことが起こってしまった。

 おそらく何かしらの影響で時が止まって太陽が三つに増えたということだろうか……。

 

「バリアン世界とアストラル世界で波動が重なったか……」

 

 なにやら向こうはこの現象について知っているみたいだ。

 うん、本当に最近ろくなことしか起きてない。

 

「続けるぞ。俺が先攻だ、ドロー!」

 

 特にうろたえることなくデュエルは続行され私は小さく咳をしてから手札を見てみる。

 今回はエンジェルパーミッションデッキではなく普段使っているデッキだ。

 パーミッションは自分が使っている分は気持ちよくデュエルが出来るが、相手にとっては自分が出したモンスターや逆転のカードをことごとくつぶされるので心境的にはよくない。

 昔使ってたら相手に文句言われたことがあるし。

 なので文句を言われないように別のデッキを作り使用しているのだ。

 おっと、デュエルに集中しないと。

 

「俺はモンスターをセット、カードを2枚伏せターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー」

 

 鼻とかいろいろとつらいからあまりしゃべりたくないけど、小さな声でもしゃべるしかない。

 

「水精鱗(マーメイル)-アビスパイクを召喚。召喚に成功した時、効果を発動。手札の水属性モンスターを墓地に捨て、デッキからレベル3の水属性モンスターを手札に加える。手札に加えるのは海皇の狙撃兵。バトル、アビスパイクで攻撃する」

 

レベル4 水精鱗-アビスパイク 攻撃力:1600

 

 トビウオのような兜を頭に乗せ、下半身が魚の尾で出来た男性の戦士が現れ、伏せモンスターに向かって空中を泳ぎ、腕で殴りつけた。

 カードがリバースされ出てきたのは紫色の球体で茶色の斑点があるウィルスのモンスターだった。

 

「破壊されたのはジャイアントウィルスだ。効果を発動! このモンスターが戦闘によって破壊され墓地に送られたとき、相手に500のダメージを与える。くらいな!」

 

「くっ……」 

 

LP4000→3500

 

「さらにデッキからジャイアントウィルスを特殊召喚することが出来る。俺は2体のジャイアントウィルスを特殊召喚!」

 

レベル2 ジャイアントウィルス 攻撃力:1000

 

レベル2のモンスターが2体か、次のターンでエクシーズ召喚をしてくるだろうけど……何が出てくるか。

 

「カードを1枚セットしターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー! 手札からマリスボラス・フォークのモンスター効果を発動! 手札の悪魔族モンスターを墓地に送り、特殊召喚する。来い、マリスボラス・フォーク!」

 

 金色のフォークを背負った蟻みたいな姿をしたモンスターが出てくる。

 

レベル2マリスボラス・フォーク 攻撃力:400

 

「さらにネクロ・ディフェンダーを召喚!」

 

レベル2ネクロ・ディフェンダー 攻撃力:0

 

「攻撃力0?」

 

 角が3本ある頭の下にはドクロのようなもう一つの大きな顔があり、そこから大きな二本の腕が生えその腕で体を支えて地面に立っているモンスターを見て私はブラック・ミストに聞こえないように呟いた。

 攻撃力0のモンスターというと厄介な効果を持つモンスターが多い。

 レプティレス・ナージャやユベルがその代表例だ。

 

「俺はレベル2のジャイアントウィルス2体をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 来い、シャインエルフ! さらにレベル2のマリスボラス・フォークとネクロ・ディフェンダーでオーバーレイ、エクシーズ召喚! 現れろ、ガチガチガンテツ!」

 

ランク2 ガチガチガンテツ 守備力:1800 ORU:2

ランク2 シャインエルフ 攻撃力:1600 ORU:2

 

「ガチガチガンテツのモンスター効果を発動。このモンスターはオーバーレイ・ユニットの数×200ポイント、フィールド上のモンスターの攻撃力・守備力をアップさせる!」

 

ランク2 ガチガチガンテツ 守備力:1800→2200 ORU:2

ランク2 シャインエルフ 攻撃力:1600→2000 ORU:2

 

「さぁ、バトルだ! シャインエルフでアビスパイクに攻撃!!」

 

「つうぅ!」

 

LP:3500→3100

 

「ターンエンドだ」

 

 ガチガチガンテツとか厄介なモンスターを使っているなぁ。

 破壊耐性あるし早めに除去したい。

 

「私のターン、ドロー。っ……ゲホッゲホ! 手札から水精鱗-メガロアビスの効果を発動。手札の水属性モンスター2体を墓地に捨て、このカードを特殊召喚する」

 

 鎧を身にまとった二本足で立つ赤色のサメが現れ、その手には突起がいくつもついた剣のようなものを持っている。

 

「シャインエルフのモンスター効果を発動! 相手がモンスターを召喚・特殊召喚した時、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、そのモンスターの攻撃力を500下げる!」

 

 シャインエンジェルの手から白く光る鎖が現れるとそれはメガロアビスに絡まり束縛する。

 

レベル7水精鱗-メガロアビス 攻撃力:2400→1900

 

「メガロアビスが自身の効果により特殊召喚されたことでデッキからアビスと名のつく魔法・罠を手札に加えることが出来る。アビスコールを手札に加える。そして墓地に捨てた海皇の狙撃兵と海皇の重装兵の効果を発動。重装兵は水属性モンスターの効果を発動するために墓地に捨てられたとき、相手フィールド上の表側表示にあるカードを破壊する。選択するのはガチガチガンテツ」

 

「なに!? だが、ガチガチガンテツはオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで破壊を免れる!」

 

ランク2 ガチガチガンテツ 守備力:2200→2000 ORU:1

ランク2 シャインエンジェル 攻撃力:2000→1800 ORU:1

 

「続いて狙撃兵は水属性モンスターの効果を発動するために墓地に捨てたられ時、相手フィールド上のセットされたカードを破壊する。その右の伏せカードを破壊」

 

「ちっ。リバースカードオープン! エンジェルリフトを発動! 墓地にいるレベル2以下のモンスターを特殊召喚する。俺はジャイアントウィルスを特殊召喚!」

 

レベル2 ジャイアントウィルス 攻撃力:1000→1200

 

 回避されたか……。

 エンジェルリフトはレベル2以下のモンスターを墓地から蘇生させるカード。

 相手のデッキは低レベルのモンスターが多いのだろうか?

 

「バトル。メガロアビスでシャインエルフを攻撃」

 

 メガロアビスは持っている剣をシャインエルフに向かって振り下ろし、モンスターを破壊した。

 

「ちっ……」

 

LP:4000→3900

 

「カードを2枚セットしターンエンド]

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ブラック・ミストは引いたカードを見て口元を吊り上げた。

 何かいいカードを引いたのだろうか?

 

「見せてやるよ。俺の分身を! 俺はマリスボラス・ナイフを召喚。マリスボラス・ナイフの効果を発動! 召喚に成功した時、墓地からマリスボラスと名のつくモンスターを特殊召喚する! 現れろマリスボラス・フォーク!」

 

 ナイフというよりバターナイフの先を鋭くしたようなそんな剣を手に持った黒いモンスターが現れ、その横に先ほどのマリスボラス・フォークが現れた。

 

「さらに自分フィールド上に闇属性モンスターが存在する場合、手札からクロクロ-クロウを特殊召喚!」

 

 足には鋭く大きな鉤爪があり羽が小さく半目のカラスが現れ、3体のモンスターは黒い光の玉へと変わる。

 

「俺はレベル2のマリスボラス・ナイフとマリスボラス・フォークとクロクロ-クロウをオーバーレイ! 3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 黒い光の玉となったモンスターたちは渦巻く黒い穴の中に入っていき、その中から光が爆発する。

 

「現れろ、我が分身No.96」

 

 3つのオーバーレイ・ユニットが浮かぶ中心に黒とオレンジの液体のようなものが現れ、それはぐにゃぐにゃと動き中から鋭いつめがついた腕と足が生え、体が形成されていく。

 

「漆黒の闇からの使者、ブラック・ミスト!」

 

ランク2 No.96ブラック・ミスト 攻撃力:100→300

 

 攻撃力が100?

 仮にもNo.と名のつくモンスターだしランク2だけど3体のモンスターを素材としているから強力な効果を持ってるはず。

 

「いけ! ブラック・ミストでメガロアビスを攻撃!!」

 

「な!?」

 

「そしてブラック・ミストの効果を発動! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き相手モンスターの攻撃力を半分に下げ、その変化した数値分ブラック・ミストの攻撃力をアップする! シャドウ・ゲイン!!」

 

 ブラック・ミストから黒い靄が噴出しメガロアビスの攻撃力が下がりブラック・ミスとは攻撃力が上がる。

 

レベル7 水精鱗-メガロアビス 攻撃力:1900→950

ランク2 No.96ブラック・ミスト 攻撃力:300→1250 ORU:3→2

 

 オーバーレイ・ユニットがある限り常に100を超えるというわけか……邪神アバターみたいだ。

 

「さぁ、行け! ブラック・ミラージュ・ウィップ!!」

 

 ブラック・ミストの腕から触手が生えてメガロアビスを襲い、メガロアビスは破壊される。

 

「つ!」

 

LP:3100→2900

 

「さらにジャイアントウィルスでダイレクトアタックだ!」

 

 ジャイアントウィルスはすごい勢いでこちらに飛んでくるとそのまま私に突進をしてくる。

 

「ああぁ!!」

 

LP:2900→1700

 

 普段なら感じない本物の痛みと衝撃に体は吹き飛ばされて地面へとたたきつけられる。

 なにこれ、本当に痛いんだけど……。

 もしかしてNo.との戦いって遊戯王恒例の闇のゲームをするってことなの?

 私の考えをよそにブラック・ミストはニヤニヤ笑っていた。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー」

 

 ドローした瞬間、No.96ブラック・ミストを見てみるが攻撃力は上がったままの1250という中途半端な数値。

 永続的なのか……厄介な。

 

「手札から……!?」

 

「……元に戻ったか」

 

 デュエルをはじめたばかりのころに聞いたピキンと何かが砕けるような音が聞こえると三つあった太陽がいつもどおりの一つに変わり、空中でとまっていた鳥たちも動き始めていた。

 さて、続きをはじめようと思った私はおそらくいろんな意味で慣れてしまったんだろうなと悟った。

 

「刹!!」

 

 不意に自分の名前を呼ばれ驚いて周りを見渡してみると公園の入り口から九十九君が走ってくるのが見えた。

 

「九十九君?なんで……」

 

「ちっ、来やがったか」

 

 私が困惑している間、ブラック・ミストは舌打ちをして不機嫌そうに目を細め九十九君をにらみつけていた。

 

「No.96どういうつもりだ! なんで刹とデュエルを!」

 

「外野は黙ってみてろ。いまはこいつとデュエルをしてるんだぜ?」

 

 にぃと口元に笑みを描きブラック・ミストは私を指差す。

 

「九十九君、悪いけどこれは私たちの問題だから……」

 

 そういうと九十九君はでも……と不安げな顔でこちらを見ている。

 どうやら九十九君とブラック・ミストはお互いを知っている、どういう経緯で知り合ったのかはわからないがこのデュエルは私から仕掛けたものだ。

 私は九十九君を安心させるように微笑んだ。

 

「九十九君、大丈夫だから」

 

 仮にも精神的に大人なんだからまだ13歳の子供を心配させるのはちょっと心が痛む。

 

「それにしても、外野が多くなったなぁ」

 

 ブラック・ミストの言葉に疑問を持っていると九十九君がいる場所の反対側から何かが落ちたような、そんな音が聞こえたので視線を向けてみるとなぜか天城がいた。

 天城はオービタル7と会話をしているのか口元が動いている。

 

「まあ、いい。さぁ、続けようぜ」

 

 デュエルの続きを促され私は再び手札から発動しようとしていたカードを取り出した。

 

「わかってる。手札からサルベージを発動。墓地にいる攻撃力1500以下の水属性モンスターを手札に加える。私は海皇の狙撃兵と海皇の重装兵を手札に加える。モンスターをセットしターンエンド」

 

「ヒャハハ!! 防戦一方だな。俺のターン、ドロー! ガチガチガンテツを攻撃表示に変更!」

 

ランク2 ガチガチガンテツ 攻撃力:700

 

「バトル!! ジャイアントウィルスで伏せモンスターに攻撃!」

 

 ジャイアントウィルスはやはりそのまま突進を仕掛けてきた。

 モンスターカードはリバースされ、出てきたのは鎧を着て金色の銛を持った男の人魚、水精鱗-アビスタージだ。

 勢いよくアビスタージを轢きその勢いのまま空中を旋回して自分のフィールドに戻っていった。

 うん、これでいい。

 

「ガチガチガンテツでダイレクトアタック!」

 

 その大きな巨体で走り出しガチガチガンテツは腕を振り上げて私を殴りつける。

 攻撃は腕に向かって横から振りぬかれ、私はそのまま吹き飛ばされた。

 

LP:1700→1000

 

「終いだ! ブラック・ミストでダイレクトアタック! ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

 

「ちょっ!? リバースカードオープン、ガードブロックを発動! 自分への戦闘ダメージを0にしデッキからカードを1枚ドローする」

 

 起き上がる前に攻撃を仕掛けられ驚きながらも伏せていたカードを発動した。

 モンスターのブラック・ミストの腕から触手が生え、それが鞭のようにしなり私へと攻撃するが目の前に薄いバリアのようなものが現れ攻撃を防いだ。

 

「ちっ、逃れたか。だが、次で決めてやる。ターンエンド」

 

「っ……」

 

 痛みをこらえながら体を起こし、立ち上がろうとするが途中でふらついて膝をついてしまった。

 やばい、頭が重い……。

 

「無様だな」

 

 遠くにいるはずなのに天城の冷たい声が嫌に耳に届き、顔だけ上げてみると天城は眉間に皺を寄せ明らかに怒っている。

 

「俺を追い詰めたお前がこんなところで折れるのか?」

 

「ゲホッゲホ……勝手なこと、言ってくれる」

 

 一度咳をするといままで我慢していたせいか何度も咳がでて、なんとか落ち着くと片手を頭に添えながらゆっくりと立ち上がる。

 

「刹! もしかしてお前、具合悪いのか!?」

 

 九十九君があせった声で言うが、その問いかけに答えずに手を振って笑顔を浮かべておき、デッキに指を置いた。

 

「私のターン……ドロー」

 

 肩で息をしながらデッキからカードを引き、ちらりと引いたカードを見て私はすぐに動き出した。

 

「手札から強欲なウツボを発動。手札の水属性モンスターを2体デッキに戻し、カードを3枚ドローする。海皇の狙撃兵と水精鱗-アビスディーネをデッキに戻しシャッフル」

 

 私は深く息を吐いてからデッキからカードを3枚引く。

 大丈夫、いける。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動しその伏せカードを破壊する」

 

 カードから飛び出した竜巻がブラック・ミストの場にある伏せカードを破壊した。

 破壊されたのは罠カード、安全地帯だった。

 

「私は手札から水精鱗-ディニクアビスの効果を発動。手札の水属性モンスター1体を墓地に捨てこのモンスターを特殊召喚する。ディニクアビスの効果を発動、この方法で特殊召喚されたときデッキから水精鱗と名のつくレベル4以下のモンスターを手札に加える。手札に加えるのはアビスリンデ。そして墓地に捨てた海皇の重装兵の効果を発動。ジャイアントウィルスを破壊する。」

 

 墓地へとつながる黒い穴が開かれるとそこから海皇の重装兵が顔をだし勢いよくその穴から飛び出しジャイアントウィルスへ突撃すると当たった瞬間、爆発が起こりジャイアントウィルスは破壊された。

 

「リバースカードオープン、罠発動アビスコール。自分の墓地の水精鱗と名のつくモンスター3体を選択し守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは効果が無効化される。私はアビスタージ、アビスパイク、メガロアビスを選択し特殊召喚する」

 

「ハッ、たとえエクシーズ召喚したとしても俺のブラック・ミストの敵じゃない!」

 

 たしかNo.はNo.でしか戦闘破壊されない。そしてブラック・ミストの分身の効果は相手の攻撃力を半分にして自分の攻撃力を加算させる効果。

 でも、それはただのモンスター効果だ。

 

「それはどうかな……」

 

「なに?」

 

「まずはレベル4のアビスタージとアビスパイクをオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚。現れろバハムート・シャーク。さらにレベル7のメガロアビスとディニクアビスをオーバーレイ。エクシーズ召喚、現れろ水精鱗-ガイオアビス」

 

ランク4 バハムート・シャーク 攻撃力:2600

ランク7 水精鱗-ガイオアビス 攻撃力:2800

 

 バハムート・シャークは四つの翼を持ったドラゴンのような海竜、ガイオアビスは下半身が海竜の尾で出来きており上半身は青い鎧を着た貫禄がある男性のモンスターだ。

 

「ガイオアビスの効果を発動。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、ガイオアビスよりも攻撃力の低い相手フィールド上のモンスターの効果をターン終了時まで無効化する」

 

「なんだと!?」

 

 ガイオアビスが持つポセイドンの槍の先端から鎖が伸びてブラック・ミストの場に居るガチガチガンテツとモンスターのブラック・ミストに絡みついた。

 

ランク7 水精鱗-ガイオアビス 攻撃力:2800 ORU:2→1

ランク2 ガチガチガンテツ 攻撃力:700→500 ORU:1

ランク2 No.96ブラック・ミスト 攻撃力:1250→1050 ORU:2

 

 これでブラック・ミストのやっかいな効果もなくなった。

 

「続けるよ。バハムート・シャークのモンスター効果を発動。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、エクストラデッキからランク3のエクシーズモンスターを特殊召喚する。しかしこの効果を使ったターン、バハムート・シャークは攻撃することが出来ない。現れろ水精鱗-アビストリーテ」

 

 バハムート・シャークに青いオーラが包み込み大きな咆哮をあげるとフィールドに穴が開きそこから光が漏れ出す、光が収まると紫色の髪をした女性の人魚があらわれた。

 すぐにアビストリーテは青色の光の玉となってエクシーズ召喚をするときのあの穴の中に吸い込まれる。

 

「オーバーレイ・ネットワークを再構築。エクシーズ召喚。現れろFA-ブラック・レイ・ランサー!ブラック・レイ・ランサーはオーバーレイ・ユニットの数×200ポイント攻撃力をあげる。ブラック・レイ・ランサーのオーバーレイ・ユニットは1つ。よって200ポイント攻撃力が上がる」

 

ランク4 FA-ブラック・レイ・ランサー 攻撃力:2100→2300

 

 なかなかいい効果なんだよね。このブラック・レイ・ランサーは。

 もう一方のブラレは水属性モンスターを素材としてるのに闇属性ですこし残念なんだよね。

 

「一気にモンスターエクシーズが3体も!」

 

 九十九君は私のフィールド上にいる3体のモンスターを目を輝かせてみていた。

 このターンで決める!

 

「手札からエクシーズギフトを発動。自分フィールド上にいるエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットを墓地に送ることでデッキからカードを2枚ドローする。私はバハムート・シャークとガイオアビスのオーバーレイ・ユニットを墓地に送る」

 

 中心に黒い穴が開きバハムート・シャークとガイオアビスについていたオーバーレイ・ユニットが送り込まれる。

 

ランク4 バハムート・シャーク 攻撃力:2600 ORU:1→0

ランク7 水精鱗-ガイオアビス 攻撃力:2800 ORU:1→0

 

「伏せていたリビングデッドの呼び声を発動し墓地にいるメガロアビスを特殊召喚する。ついでに海皇の龍騎隊を召喚しメガロアビスの効果を発動。自分フィールドに攻撃表示でいるモンスターを1体リリースしメガロアビスはこのターン2回攻撃が出来る。海皇の龍騎隊をリリースする」

 

 海皇マーメイルは展開力があるから好きなんだよね。

 もしこれにシンクロとかが入ったらもっとすごいことになりそう。

 まぁ、この世界にはシンクロもチューナーモンスターも存在しないんだけどね。

 

刹―モンスターゾーン

ランク4 バハムート・シャーク 攻撃力:2600 ORU:0

ランク4 FA-ブラック・レイ・ランサー 攻撃力:2300 ORU:1

ランク7 水精鱗-ガイオアビス 攻撃力:2800 ORU:0

レベル7 水精鱗-メガロアビス 攻撃力:2400(2回攻撃)

 

No.96-モンスターゾーン

ランク2 ガチガチガンテツ 攻撃力:500 ORU:0

ランク2 No.96ブラック・ミスト 攻撃力:1050 ORU:2

 

「バトル、ブラック・レイ・ランサーでガチガチガンテツに攻撃!」

 

 ブラック・レイ・ランサーから黒く光る槍が現れてそれをガチガチガンテツへと投擲する。

 

「ぐうぅ、まさか……そんなばかな!」

 

LP:3900→2100

 

 ブラック・ミストは自分が敗北することがわかり、あせった表情で毒づいていた。

 

「メガロアビスでブラック・ミストに攻撃」

 

 つぎにメガロアビスが突起がついた剣でモンスターのほうのブラック・ミストを切り裂いた。

 

「うああぁ!くっ、この俺が……ただの人間に!!」

 

LP:2100→750

 

「ガイオアビスで止め、ダイレクトアタック!」

 

 ガイオアビスは手に持っているポセイドンのやりを掲げると先端に青く光る玉が集まる、勢いよくブラック・ミストへと振り下ろすと青色の玉ははじけて電撃へと変わりブラック・ミストへと飛んでいく。

 

「ぐああああぁぁ!!」

 

LP:750→0

 

 吹き飛ばされたブラック・ミストを見てデュエル終了の合図が鳴り響き、ARビジョンのリンクが切れたと同時に私は地面に膝をついた。

 

「ゲホゲホッ! ゴホッ!」

 

 やばい、咳が止まらない。

 効果説明とかするとき、途切れ途切れに言ったら聞こえづらいし格好がつかないと思って咳とか我慢してたんだけど、失敗したなぁ。

 

「せ、刹!? 大丈夫か!? ど、どうすればいいんだよ~?」

 

 近くで九十九君のうろたえている声が聞こえ、背中をやさしく摩ってくれているのがわかる。

 やっと波が収まってきたのか息を荒くしながらも喋れるぐらいまでには落ち着いてきた。

 

「九十九君、あのNo.は……」

 

「やめろ!!」

 

 九十九君にブラック・ミストはどうしたか聞こうとすると不意にブラック・ミストの怯えているような、そんな必死な声が聞こえた。

 

「俺を封じ込めるのか……!? 俺は、俺はただ自由になりたいんだよ!!」

 

 あぁ、やだな。そんな言葉聴いたら無視出来なくなっちゃうじゃん。

 普段なら、無視したんだろうなぁ……これも全部風邪のせいだ。

 

「九十九君、あのNo.は私に任せてもらえないかな?」

 

 九十九君の袖を引っ張りこちらに顔を向かせて私は言ってしまった。

 

「え……でも、No.は危険なカードだ!その中でもNo.96はすっごく危険で……」

 

「つい昨日知り合ったばかりで信用ならないと思うけど、お願い」

 

 真剣な顔で九十九君を見ていると九十九君は不意に空中に視線を向け、誰かと相談するようにしゃべりだした。

 私もそこに視線を向けるけど残念ながら私には何も見えなかった。

 もしかして幽霊でも憑いているんじゃ……と心配し始めたときだった。

 

「わかった。でもNo.は本当に危険なカードなんだ。もしかしたら操られるかもしれない……」

 

「幸い彼はしゃべることも出来るし。もし、操られたときは悪いけど……お願いね」

 

 私がそういうと九十九君は力強くうなずいた。

 私は九十九君の力を借りながら立ち上がりブラック・ミストに近づいていく、ブラック・ミストは警戒を解くことなく私をにらみつけていた。

 

「ブラック・ミスト。デュエルする前に言ったこと、覚えてる?」

 

「……まぁ、な」

 

 私が勝ったら私の言うことを聞くこと、そういう風に言った。

 前世と違ってここのデュエリストはデュエルの勝敗で決まったことは大切にする思考を持っている。

 勝ったらもう二度と近づくなと条件を出してデュエルに勝ち、相手が本当にその人に二度と近づかなくなったというのはよくあること。

 

「じゃあ、ちゃんと言うこと聞いてね。でないと、本当に何も出来ないまま終わらせてあげるから」

 

 満面の笑みを浮かべてそういうとブラック・ミストは口元を引くつかせながらも素直にうなずいた。

 でも言っただけじゃ意味がわからないと思うから、あとでちゃんと実践してあげよう。

 あのロックデッキを使わせてもらおうか。

 

「とりあえず人に危害を加えるようなこと以外は好きにやっても良いから。よろしく、No.96ブラック・ミスト」

 

「ふん、とりあえず。よろしくしてやるよ」

 

 そう言ってブラック・ミストは私の肩を触ろうと手を伸ばした。

 突然、電撃が走ったような音が鳴り響く。

 大きな音に吃驚して肩を震わせていると目の前にいるブラック・ミストは予想外のことが起きたといわんばかりに目を丸くして驚いていた。

 

「なにしたの?」

 

「……それはこっちの台詞だ」

 

 ブラック・ミストは手を押さえながら敵意のある目で私を見つめ、舌打ちをし選択を間違えたか? と独り言を呟いていた。

 

「約束だからな、しばらくはそばで活動させてもらう」

 

 ブラック・ミストはぶっきらぼうにそう言うとカードとなって私の手元に収まった。

 だいぶ、疲れた……。

 ぐらっと頭がふらつきその影響でバランスが崩れてそのまま地面に倒れそうになるが、地面と接触する前に誰かの腕に支えられた。

 

「天、城……?」

 

 視界に入ってきた腕をみて、それが天城のものであるとわかった。

 なぜと疑問がわく前に体を押され、今度は柔らかさがまったくない硬いものに受け止められた。

 

「オービタル、そいつを運べ」

 

「なっ!? カイト様、ですがこの小娘は……! カ、カシコマリ!!」

 

 下のほうでオービタルの声が聞こえ、さらに何か言おうとしていたが言葉を詰まらせ慌てた様子で了解の意を伝える。

 ごそごそと動き始めるとオービタルの上半身が伸び、最終的には肩を貸すような形へと変わった。

 

「九十九遊馬。こいつの家は知ってるか?」

 

「あ、あぁ。確かこの近くだったぜ」

 

 歩くのが面倒だからオービタルに引きずられながら家へと向かう間で私は襲い掛かってきた睡魔に耐え切れなくなりそのまま眠ってしまった。

 




ブラック・ミストが仲間になった!

無理やり感が否めないけどブラック・ミストを仲間にしたかったんだ…。
あとブラック・ミストってこの時期バリアンとか知ってたっけ?とか疑問に思いましたが、あの人の一部だしなんか本編で意味深なこと言ってたし知ってるだろうと押し切りました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。