ミザエルとの戦いの後、遊馬君と凌牙は怪我を負い入院することになってしまった。
2人とも骨などには異常はなく、打撲で済んでいるらしいが一週間程度の入院が必要みたいだ。
次の日には結と雲雀にバリアンの襲撃で2人が入院したことを伝え、皆でお見舞いに行くことになった。
病室にたどり着くとそこには小鳥ちゃんのほか1年組の子達が遊馬君のお見舞いに来ていた。
こんなにたくさんの人が押しかけてしまって良いのだろうかと思ったが、病室には2人以外に患者はいないようだった。
先生から配られた宿題のプリントを渡したり、結と真月君のデートの話を女性陣がこぞって聞いたりしてそんな何気ない話をしていた。
面会時間が終了して私達は帰宅する。
皆と別れて遠くにあるオレンジ色に染まっている空を見ながら今日の夕飯について考え1人で歩いていたとき、突然1人の男性に腕を掴まれた。
前髪は長くぼさぼさで服は清潔感がないだぼっとしたジャージを着ており、No.やバリアンなど呟いていた。
前髪で見えにくかったが、男の額にはバリアンに洗脳された人がつくあのマークがつけられている。
車や人が通っている大通りでデュエルするわけにもいかず、移動して人気のない廃倉庫でデュエルをした。
なんというか、男とのデュエルはすごくあっけなく終わってしまった。
といっても大天使クリスティアなどを特殊召喚したので当たり前なのだろうけど。
ARビジョンが解除されDゲイザーを外した、そのときだった。
「やはり人間では役に立たんな」
聞こえてきた声に驚いて振り返る。
倉庫の入り口から近い場所に昨日遊馬君に襲い掛かったバリアン、ミザエルが立っていた。
何でこんなところに……。
「何故ギラグはこのような劣弱なものでNo.を収奪できると思ったのか……」
独り言のように呟き、ミザエルは小さな黒いひし形のキューブを取り出す。
「黒峰刹。アーカイドを倒したその力、見せてもらおう。バリアンズ・スフィアフィールド、展開!」
「刹!」
ミザエルが黒いひし形のキューブを頭上に投げると同時にブラック・ミストがエクストラデッキから出てくる。
そして頭上に投げられたキューブが光りだし、赤いカードの形をしたものが居つくも並んで私達の周りを球体状に包み込んでいく。
私の体が浮かび上がり、昨日見た赤いスフィア・フィールドが展開された。
「さぁ、早く構えろ。それとも怯えた猫のように逃げおおせるか?」
「……冗談も程々にしたほうが良いんじゃないかな?」
軽口をたたいてはいるが、今ミザエルが此処にいることに非常に驚いている。
まさか昨日の今日で襲い掛かってくるとは思いもしなかった。
「刹、気をつけろよ」
「分かってる」
私はデュエルディスクを立ち上げてDゲイザーを装着する。
ミザエルもデュエルディスクを展開させ、左目が赤色に変わった。
「「デュエル!」」
「先攻は私から行こう。ドロー! モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンドだ」
昨日とは違って随分と消極的だ……何か考えているのだとしたら気をつけないと。
「私のターン、ドロー。手札からヘカテリスの効果を発動。このカードを墓地に送りデッキから神の居城-ヴァルハラを手札に加える。そして永続魔法、神の居城-ヴァルハラを発動。このカードは1ターンに1度、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスターを特殊召喚できる。私はこの効果を使用してマスター・ヒュペリオンを特殊召喚」
私の場に金色と黒の装飾をつけ肩には金色の肩当てに同じ色のマントをつけた男性型のモンスターが現われる。
レベル8 マスター・ヒュペリオン 攻撃力:2700
「さらに手札からマンジュ・ゴッドを召喚」
マスター・ヒュペリオンのとなりに緑の体色に体からいくつもの腕を生やしているモンスターが出てくる。
レベル4 マンジュ・ゴッド 攻撃力:1400
「マンジュ・ゴッドは召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターまたは儀式魔法を手札に加えることが出来る。私は高等儀式術を手札に加える」
一息ついたところでふとミザエルに視線を向けると彼は私を観察するようにじっと見つめていた。
どこか不機嫌そうにも見えるその顔に内心首をかしげながらもデュエルを続ける。
「バトル。マスター・ヒュペリオンで伏せモンスターを攻撃」
マスター・ヒュペリオンの手に光が集まり、玉となったそれを伏せモンスターに向かって放つ。
当たる直前にカードはひっくり返り、伏せられていたモンスターが姿を現わした。
白い体に腹の部分が赤色、長い首と尻尾が特徴的で顔はまるで白いマスクを被っているような顔つきをしたドラゴンだった。
「仮面竜のモンスター効果を発動! このカードが戦闘で破壊されたとき、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを1体特殊召喚することが出来る! 来い、幻木龍!」
赤い瞳に頭には白色の角が生え、茶色の体に腹の部分の色が緑色の細長い竜が現われた。
レベル4 幻木龍 守備力:1400
「バトルは終了。マスター・ヒュペリオンの効果を発動。墓地にいる天使族モンスターを1体除外して、フィールド上のカード1枚を破壊する。私は幻木龍を破壊する」
「速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! フィールド上にいるモンスター1体を選択し、選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズまで400ポイントアップするが効果は無効化される。私が選択するのはもちろん、マスター・ヒュペリオンだ!」
レベル8 マスター・ヒュペリオン 攻撃力:2700→3100
幻木龍を守ったか……。
あのモンスターはレベル4だけど、レベルを上げるカードがあるかもしれないし。
次のターンにタキオンドラゴンが来ることを覚悟しておいたほうが良いかもしれない。
「私はこれでターンエンド」
レベル8 マスター・ヒュペリオン 攻撃力:3100→2700
「ならば私のターン、ドロー! 幻水龍を特殊召喚!」
体は白く透明でまるで水で出来ているようなドラゴンが現われる。
レベル8 幻水龍 攻撃力:1000
「このモンスターは自分フィールド上に地属性モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できるのだ。さらに幻木龍の効果を発動! 1ターンに1度、自分フィールド上のドラゴン族・水属性モンスター1体を選択し、このカードのレベルは選択したモンスターと同じレベルとなる」
レベル4→8 幻木龍 守備力:1400
「レベル8のモンスターが2体……」
ブラック・ミストは心配げに私に視線をよこす。
「レベル8となった幻木龍と幻水龍でオーバーレイ!」
2体のモンスターはオレンジ色と青色の光の玉となって上に現われた渦の中に入っていく。
「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! 宇宙を貫く雄叫びよ、遥かなる時をさかのぼり銀河の源よりよみがえれ! 顕現せよ、そして我を勝利へと導け! No.107 銀河眼の時空竜!」
赤と青の宝石がついた黒い四角錐の姿から展開されて昨日見たあの黒いドラゴンがフィールドに舞い降りてきた。
ランク8 No.107銀河眼の時空竜 攻撃力:3000
「あの九十九遊馬のように無様に倒れてくれるなよ? 行け、銀河眼の時空竜!マスター・ヒュペリオンを攻撃!」
タキオンドラゴンの紫色のブレスがマスター・ヒュペリオンに襲い掛かり、マスター・ヒュペリオンは爆発を起こして破壊される。
「くっ……」
刹LP:4000→3700
「そして銀河眼の時空竜の効果を発動! タキオン・トランスミグレイション!!」
効果が発動されたことによりタキオンドラゴンは召喚された直後の姿へと戻りまわりは虹色に光り輝く。
「銀河眼の時空竜でマンジュ・ゴッドを攻撃! タキオン・スパイラル!!」
マンジュ・ゴッドを破壊して起こる爆発で私は後ろに吹き飛ばされ、スフィア・フィールドの壁にぶつかる。
すると電流が流れて体中に激痛が走った。
「くっ、あああぁ!!」
「刹!」
刹LP:3700→2100
これは、ちょっと予想外の痛さだ。
遊馬君はこれを受けてたのか……。
「おい、刹! 大丈夫か!?」
「平気……」
痛みに顔をしかめながらも体を起こして前を見る。
「フン、少しは根性があるようだな。ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー。ヴァルハラの効果を使い、光神テテュスを特殊召喚」
白く長いワンピースに上半身には赤い宝石や銀色の装飾が着けられている服を着た銀髪の女性型モンスターが現われる。
「手札から打ち出の小槌を発動。手札の神聖なる球体をデッキに戻して1枚ドローする。テテュスの効果を発動。ドローしたカードが天使族モンスターだった場合、相手に見せてもう1枚ドローする。オネストを見せてドロー、テテュスを見せてドロー、創造のヴィーナスを見せてドロー、オネストを見せてドロー、ハネクリボーを見せてドロー」
一気に増えた手札を見た後、効果をもう使用しないと伝えミザエルに視線を向ける。
ミザエルはやはり私の手札にオネストがあることを知っているので眉間に皺を寄せていた。
「手札から手札断殺を発動。お互い手札から2枚カードを墓地へ送りデッキからカードを2枚ドローする。高等儀式術を発動。手札の儀式モンスター1体を選び、そのカードと同じレベルになるようにデッキから通常モンスターを墓地へ送る。レベル4のデュミナス・ヴァルキリアとレベル2のハッピー・ラヴァーを墓地へ送り、手札から竜姫神サフィラを特殊召喚」
光に包まれて現われるのは青色の鱗を持った雌のドラゴンで翼は鳥の羽のような形をしており羽の先が透明である。
レベル6 竜姫神サフィラ 攻撃力:2500
「サフィラでタキオンドラゴンを攻撃。ダメージステップ時、オネストの効果を発動。このカードを墓地へ送りエンドフェイズ時まで相手モンスターの攻撃力分、戦闘を行っている自分の光属性モンスターの攻撃力をアップする」
レベル6 竜姫神サフィラ 攻撃力:2500→5500
サフィラはタキオンドラゴンを攻撃するがNo.はNo.でしか破壊できないため、タキオンドラゴンは破壊されずにフィールドに残った。
「ぐわああぁ!!」
ミザエルLP:4000→1500
「銀河眼の時空竜の効果を発動! タキオン・トランスミグレイション!」
レベル6 竜姫神サフィラ 攻撃力:5500→2500
そういえばあのモンスター効果は相手ターンでも発動できたんだっけ……。
失敗した。これだとサフィラとテテュスの効果が使えない。
「カードを1枚伏せてターンエンド」
「ぐっ……。私のターン、ドロー! 手札から七星の宝刀を発動! 手札のレベル7モンスター1体を除外しデッキからカードを2枚ドローする! そして除外された巌征竜-レドックスの効果を発動! デッキからドラゴン族・地属性モンスターを手札に加える。私は幻木龍を手札に加える。そしてリビングデッドの呼び声を発動! 墓地にいる幻水龍を特殊召喚!」
レベル8 幻水龍 攻撃力:1000
「さらに相手フィールド上に攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、限界竜シュヴァルツシルトを特殊召喚できる!」
茶色の鱗と四つの赤い目に鋭い爪を持つ細長いドラゴンが現われる。
レベル8 限界竜シュヴァルツシルト 攻撃力:2000
「レベル8の幻水龍と限界竜シュヴァルツシルトをオーバーレイ!」
2体のモンスターは青色と紫色の球体となって頭上に現われた渦の中に入っていく。
「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現われろ、聖刻神龍-エネアード!!」
渦から大きな光の柱がミザエルのフィールドに落ちるとその光の中から空気を揺らすような大きな音と共に赤く輝いている体に金色の装飾がいたるところに付けられたドラゴンが現われる。
ランク8 聖刻神龍-エネアード 攻撃力:3000
「手札から速攻魔法、超再生能力を発動! このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、自分が手札から捨てたドラゴン族モンスター及び手札、フィールド上からリリースしたドラゴン族モンスターの枚数分だけデッキからカードをドローする。そしてエネアードのモンスター効果を発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い。自分の手札、フィールド上のモンスターを任意の数だけリリースし、リリースしたモンスターの数だけフィールド上のカードを破壊する! 私は手札の2枚のモンスターをリリースし貴様のモンスター2体を破壊する!」
エネアードが咆哮をあげると辺りにビームのような光が降り注ぎ、その光がテテュスとサフィラに当たると爆発を起こして破壊される。
「刹!!」
私のフィールドにモンスターがいなくなったのを心配してか、ブラック・ミストは声をあげていた。
暫くして煙が晴れミザエルはまた私をじっと見た後、舌打ちをして不機嫌そうに顔を歪めた。
「貴様はアイツと同じだな。見ていて不愉快だ」
「……え」
恐らくアイツとはアーカイドのことだと思う。
私と同じようなプレイングをするようなやつはそれ以外にいないだろし……。
「貴様らのデュエルは何も感じない。何故貴様らのようなやつがデュエリストを名乗っている」
「お前……!」
心底不愉快だと表情で語っており、その言葉にブラック・ミストが反論しようとしたのか口を出したそのとき、ガラスが割れるような音がスフィア・フィールドから鳴った。
「ミィザちゃーん」
その声とともに私達の前になぜかハートランド学園2年の制服を着たアーカイドが現われた。
「ちょっとミザちゃーん、これはないんじゃなーい? バリアンズ・スフィアキューブが欲しいって珍しくミザちゃんが頼んできたから、僕が一晩で頑張ったのにさー」
いつもの笑顔をアーカイドは浮かべてはいるが、どこか苛立った様子で話を続けた。
「ベクちゃんと僕の会話聞いてた? 手だすなって言ったよねー?」
「貴様とベクターの会話など聞く価値もない」
「……そーですかー」
ミザエルはアーカイドと目を合わせることなく会話を続け、アーカイドは手から赤紫色の光の弾を打ち出してスフィア・フィールドに当てる。
壁に当たった光の弾が爆発しスフィア・フィールドの壁が崩壊していった。
「貴様、何をする!! デュエルの邪魔をする気か!!」
「その通りだけどー? ミザちゃんが悪いんだよ? 僕の獲物に手を出そうとしたんだから。ほらミザちゃん、帰りましょー」
アーカイドが手の平をミザエルにかざすといつの間にかミザエルは銀色に輝く紐に縛られていた。
ミザエルは何か文句を言っていたが、アーカイドは知らぬ顔でワープに使う宇宙を彷彿させるような穴を出現させるとそこにミザエルを放り込んだ。
「本来ならもう少し先で再会する予定だったんだけどなー。まぁ、あんまり変わらないだろうから良いけど!それじゃあね、刹っちゃん。次は僕とデュエルしようねー」
笑みを浮かべて手を振るとアーカイドは光の粒子となってその穴の中に消えていった。
いきなりの出現などで呆然としていた私達は我に返るころには浮遊していた体は元に戻り、重力に従って下に落ちようとしていたがブラック・ミストに支えられて遊馬君たちのように落ちることはなかった。
「……本当にアイツの考えてることは単純そうだが、わからねぇな」
「……そうだね」
ブラック・ミストはアーカイドの話題を出してくる。
しかし私はミザエルが言った言葉が頭の中で何度も浮かび上がっていた。
昔、パーミッションデッキを使ってたときとか罵倒されることは何回かあった。
そのときは別に気にしなかったし、すぐにその言葉なんて忘れた。
でも、何でだろう。
今回は胸が少し痛くなった。