遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

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第二十四話 誤解されるとろくな事がおきない

 現在、私の目の前には険しい表情をしてデュエルディスクを構えている璃緒ちゃんがいる。

 そして私の腕にもデュエルディスクが装着され既に起動していた。

 先ほどまで普通のデュエルをするのだとのんきに考えていた数分前の自分が恨めしい。

 ギャラリーである結、小鳥ちゃん、キャットちゃんは目を輝かせてデュエルを眺め。雲雀と凌牙は呆れた表情を浮かべている。

 残りの遊馬君、アストラル、鉄男君、孝君、徳之助君、真月君はいたって普通にデュエルを観戦していた。

 

「行きますわよ、刹さん!!」

 

「あ、ハイ」

 

『くっ……がんばれよ、刹』

 

 笑いをこらえているブラック・ミストの声を聞きながらどうしてこうなったのか思い出していた。

 ことの始まりは、昼休みだった。

 

 

 

 食事を終えてクラスに戻ってきたとき、私はあることを思い出して凌牙に話しかけた。

 

「ねぇ、凌牙。店長が新しいカードパックを仕入れたんだって。買いに行く?」

 

 空のお弁当をカバンに入れながら問いかけると凌牙はカードパックか……と呟いていた。

 ちなみに店長というのはいつも私達が利用しているカードショップの店長のことなので店長といえば誰のことなのかすぐに分かるのだ。

 

「どんなカードが入ってる?」

 

「詳しくは知らないけど、今回は水属性モンスターもそれなりに入ってるって」

 

 私の言葉に凌牙はすこし悩んだあと頷いた。

 

「なら、行ってみるか。放課後にでも行くか?」

 

「うん、今日は用事ないしね」

 

 結たちにはもう話してあるし、凌牙も行くって事も伝えとかないと。

 

「刹さん。すこしよろしくて?」

 

 結と話していた璃緒ちゃんがつかつかと私達の前にやってくると仁王立ちした。

 私達は椅子に座っているので璃緒ちゃんは見下ろす形となり、どことなく威圧感が感じられる。

 

「璃緒ちゃん、どうしたの?」

 

 不思議に思って首をかしげると璃緒ちゃんは両手を机の上に乗せ、真剣な眼差しで私を見た。

 

「私とデュエルをしてください」

 

 突然の申し出に驚いたが、璃緒ちゃんの真剣な表情に何かあるのだろうと思い私は頷いたのだった。

 

「では、放課後。中庭にてお待ちしておりますわ」

 

 そういって璃緒ちゃんは自分の席へと戻っていった。

 

「璃緒ちゃん、どうしたんだろう?」

 

「さぁな。どうせくだらないことでも考えてるんだろ」

 

 凌牙はどうでもよさそうに言うが、あんなに真剣な顔つきだったのにくだらないことじゃないと思うんだけどな……。

 

 

 

 放課後、HRが終わって中庭に行くと璃緒ちゃんが腕を組んで立っていた。

 そして隅のほうには遊馬君たちと結たちがデュエルの観戦をするために立っている。

 

「刹さん、話は聞きました。がんばってください!」

 

「良くわかんねぇけど。がんばれよー刹!」

 

 小鳥ちゃんと遊馬くんの声援に手を振ってこたえるが、内心首をかしげる。

 話は聞いたってどういうことなのだろうか……?

 私が向かい側に立つと璃緒ちゃんは口を開いた。

 

「よく来てくださいました。ありがとうございます、刹さん」

 

 やわらかい笑みを浮かべてそういうとでは、はじめましょうとデュエルディスクとDゲイザーを装着していた。

 私もデュエルディスクとDゲイザーをつけていると、雲雀から通信が入った。

 

「刹。私は違うのではないかといったのだが……まぁ、がんばるがよい」

 

「え、ちょっと……どういうこと?」

 

 あれ、なんか段々嫌な予感がしてきた……。

 そういえば心なしか観戦のほうにいる女性陣の目が輝いているような気が。

 頭の中で色々と考えていると璃緒ちゃんが静かな声で私の名を呼び、私は視線を璃緒ちゃんに向ける。

 

「あなたが凌牙の恋人として相応しいかどうか、試させていただきます!!」

 

「「は?」」

 

 何を言っているのか、私には理解できなかった。

 そして雲雀の隣で見守っていた凌牙も私と同じで驚きの声をあげている。

 

『ぶはっ!! おま、いつの間に凌牙とつきあっ……ぶふっ!』

 

 分かりきっているはずのブラック・ミストは隠す気もせずに笑いながらいじってくる。

 

「(1週間ご飯抜き)」

 

『はぁ!?』

 

 イラッときたのでそう告げるとブラック・ミストはとたんに謝罪をし始めたが、それはまるっと無視した。

 

「おい、璃緒」

 

「り、璃緒ちゃん。ちょっと」

 

「何も語らずとも分かっていますわ。ですが、やはり妹として兄が心配ですの」

 

 私達の言葉を遮って璃緒ちゃんは目を伏せてそう呟いていた。

 全然、分かってないじゃないですかー。

 私は凌牙に視線を向けると、彼は首を振っていた。

 いま誤解をとくのは不可能ということだろう……。

 あぁ、これほどまでに負けたいと思ったデュエルはあっただろうか。

 でも今まで勝ってきたのにこれで負けるというのも。

 

「行きますわよ、刹さん!!」

 

「あ、ハイ」

 

 私達が話している間にARビジョンのリンクが完了しており、デッキからカードを5枚引く。

 

「「デュエル!」」

 

「先攻はもらいます。ドロー! モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンドです!」

 

 最初の出方は普通か……。

 前に璃緒ちゃんのデュエルを見ているから水属性デッキというのは分かってる。

 あとは鳥獣族モンスターも入れてることから警戒すべきカードも幾つかあるって所だよね。

 

「私のターン、ドロー。水精鱗-アビスパイクを召喚」

 

 地面から水があふれると下半身が魚の体で出来ている金髪の男性が現われる。

 

レベル4 水精鱗-アビスパイク 攻撃力:1600

 

「召喚成功時、アビスパイクの効果を発動。手札の水属性モンスターを1体墓地へ捨てて、デッキからレベル3の水属性モンスター1体を手札に加える。水精鱗-アビスディーネを捨て、デッキから水精鱗-アビスリンデを手札に加える。バトル、アビスパイクで伏せモンスターを攻撃」

 

 アビスパイクが空中を泳いでいき伏せモンスターに向かって殴りかかった。

 伏せられていたカードがひっくり返り、現われたのは藍色の毛並みを持ったくまだった。

 

「グリズリーマザーの効果を発動します! このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られたとき、デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚します! 現われなさい、ブリザード・ファルコン!」

 

 翼が水色の青い鳥のモンスターが空中に舞い上がった。

 

レベル4 ブリザード・ファルコン 攻撃力:1500

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

「私のターン、ドロー! 素早いマンボウを召喚! そして自分フィールド上に魚族及び鳥獣族モンスターが存在する場合、霊水鳥シレーヌ・オルカを特殊召喚します!」

 

 璃緒ちゃんの場にただ動きが早いマンボウと緑色の4つの翼を持ち下半身が魚の尾で出来ているモンスターが現われる。

 

レベル2 素早いマンボウ 攻撃力:1000

レベル5 霊水鳥シレーヌ・オルカ 攻撃力:2200

 

「シレーヌ・オルカのモンスター効果発動! このカードが自身の効果で特殊召喚に成功した時、自分フィールド上のモンスターすべてのレベルを3から5までの任意のレベルになります! 私は3体のモンスターをレベル4に変更します」

 

レベル2→4 素早いマンボウ 攻撃力:1000

レベル5→4 霊水鳥シレーヌ・オルカ 攻撃力:2200

 

「レベル4となったシレーヌ・オルカとブリザード・ファルコンをオーバーレイ!」

 

 2体のモンスターは青色の球体となって地面に現われた渦の中に入っていく。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 舞い降りろ、零鳥獣シルフィーネ!」

 

 頭と腰と背中に青色のプロテクターのようなものを着けた女性型モンスターが現われる。

 

ランク4 零鳥獣シルフィーネ 攻撃力:2000

 

「行きなさい、シルフィーネ! アビスパイクを攻撃!アイス・レイ!!」

 

 シルフィーネから放たれたいくつもの氷のつぶてがアビスパイクを襲い、爆発を起こして破壊される。

 

「っ……」

 

刹LP:4000→3600

 

「さらに素早いマンボウでダイレクトアタック!」

 

 素早いマンボウは一瞬のうちで私の目の前に来るとそのまま体当たりをかましてきた。

「く……」

 

刹LP:3600→2600

 

「私はこれでターンエンドです」

 

「私のターン、ドロー。モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「あら、もうおしまいですの? 噂の実力とは随分と違うようですわね」

 

 笑みをこぼしながら言い放った璃緒ちゃんの言葉にむっとした。

 次のターンで終わらせる……。

 

『あ、やべぇ』

 

「私のターン、ドロー! ブリザード・ファルコンを召喚します! そして手札からブリザード・ジェットを発動しエンドフェイズ時までブリザード・ファルコンの攻撃力を1500ポイントアップさせます!」

 

 ブリザード・ファルコンに青いオーラがまとうと表示されている攻撃力が上がった。

 

レベル4 ブリザード・ファルコン 攻撃力:1500→3000

 

「ブリザード・ファルコンの効果を発動! このカードは攻撃力が元々の攻撃力より増えたとき、相手プレイヤーにその数値分のダメージを与えることが出来ます」

 

 ブリザード・ファルコンが鳴くとこちらに向かって飛んでくる。

 私の頭上を通り過ぎていくと同時に勢い良く突風が吹き荒れた。

 

刹LP:2600→1100

 

「さぁ、行きますわよ! ブリザード・ファルコンで伏せモンスターを攻撃!」

 

 ブリザード・ファルコンが滑空してきて伏せられていたモンスターが出てくると体当たりをして攻撃をする。

 

「破壊されたのは水精鱗-アビスリンデ。このカードが破壊されて墓地へ送られた場合、デッキから水精鱗と名のついたモンスターを特殊召喚できる。私は水精鱗-メガロアビスを特殊召喚」

 

 金色の鎧を身にまとった二本足で立っている赤いサメのようなモンスターが現われる。

 

レベル7 水精鱗-メガロアビス 攻撃力:2400

 

「くっ……ターンエンドですわ。ブリザード・ファルコンの攻撃力は元に戻ります」

 

レベル4 ブリザード・ファルコン 攻撃力:3000→1500

 

「私のターン、ドロー。リバースカードオープン、リビングデッドの呼び声を発動し墓地にいるアビスパイクを特殊召喚。特殊召喚成功時、効果を発動。手札の海皇の狙撃兵を墓地に捨て、デッキからアビスグンデを手札に加える。狙撃兵の効果を発動。このカードが水属性モンスターの効果で墓地へ送られたとき、相手フィールド上にセットされたカードを1枚破壊する。伏せカードを破壊」

 

「させませんわ! 永続罠アイス・チェーンを発動! このカードの効果で手札からレベル4以下の水属性モンスターを手札から特殊召喚します!私はオーロラ・ウィングを特殊召喚!」

 

 狙撃兵はセットされたカードを破壊するから、チェーンを組まれて破壊する予定のカードを発動されると破壊できなくなるんだよね……。

 オーロラを彷彿させる翼と尾を持った白い鳥のモンスターが璃緒ちゃんの場に現われる。

 

レベル4 オーロラ・ウィング 守備力:1600

 

「モンスターを2体リリースし超古深海王シーラカンスをアドバンス召喚」

 

 地面から水しぶきを飛ばして空中に対鰭は扇形をなしており灰色の体を持っている大きな魚が現われる。

 

レベル7 超古深海王シーラカンス 攻撃力:2800

 

「シーラカンスの効果を発動。手札を1枚捨て、デッキからレベル4以下の魚族モンスターを可能な限り特殊召喚する。デッキからアビスパイク1体とアビスタージ2体を特殊召喚。しかしこの効果で特殊召喚されたモンスターは効果が無効化され攻撃も出来ない」

 

レベル4 水精鱗-アビスパイク 攻撃力:1600

レベル4 水精鱗-アビスタージ 攻撃力:1700 (2体)

 

「そして罠カード、激流葬を発動。召喚・反転召喚・特殊召喚されたとき、フィールド上のモンスターをすべて破壊する」

 

「自分でモンスターを!?」

 

 璃緒ちゃんのフィールドにいるモンスターを巻き込んですべてのモンスターが地面からあふれ出た波に巻き込まれて破壊される。

 

「激流蘇生を発動。このカードは水属性モンスターが戦闘またはカードの効果で破壊され墓地へ送られたとき、破壊されたモンスターをすべて特殊召喚し、特殊召喚したモンスターの数×500ポイントのダメージを与える」

 

 破壊されたのはアビスタージ2体とアビスパイク1体、シーラカンスの4体でダメージは2000となる。

 これでダメージが決まればあとは攻撃をするだけ。

 幸い、璃緒ちゃんの手札は先ほどのオーロラ・ウィングを召喚して手札が0だからなにも心配は要らない。

 カードの効果が発動されると璃緒ちゃんの足元に爆発が起きて、璃緒ちゃんは吹っ飛ばされた。

 

「ああぁ!」

 

璃緒LP:4000→2000

 

「シーラカンスでダイレクトアタック」

 

 シーラカンスはその巨体に似合わず素早い動きで空中を泳いで璃緒ちゃんに向かって襲い掛かった。

 

「きゃああぁ!!」

 

璃緒LP:2000→0

 

 デュエルの終わりを告げる合図が鳴り響き、モンスターが消えて周りはいつもの風景へと戻った。

 

「刹さんが勝ったわ!」

 

「愛の力ね!」

 

 私が勝ったことにより主に女性陣が歓声の声をあげており、私は急いで璃緒ちゃんの元に駆け寄った。

 

「璃緒ちゃん」

 

 倒れている璃緒ちゃんに手を差し伸べて立ち上がらせると璃緒ちゃんは完敗ですわと呟いて微笑んだ。

 

「刹さんなら凌牙を任せられますわね。どうか、凌牙をよろしく頼みます。義姉さ……いたっ!」

 

 遠い目をしている間に凌牙もいつの間にか隣に来ており、璃緒ちゃんの言葉を遮るように頭に軽く手刀をかました。

 

「何するのよ、凌牙!」

 

「お前が馬鹿なことをするからだろ。刹は俺の恋人じゃねぇ」

 

 頭を押さえながら文句を言っていたが凌牙の言葉に固まって、璃緒ちゃんはゆっくりとこちらを見る。

 

「私は凌牙の恋人ではありません」

 

 はっきりとそう告げると女性陣から驚きの声が上がった。

 

「で、では名前呼びの件は!?」

 

「仲間だからだろ」

 

「仲間になったからだね」

 

 璃緒ちゃんが声を張り上げて言い放ち、私達は淡々と答えていく。

 

「バイクに乗って一緒に帰っているっていうのは!?」

 

「……1回しかねぇよな?」

 

「璃緒ちゃんのお見舞いに行ったときの1回だね」

 

 あとは遊馬くんとカイトのデュエルを見るために病院からハートランド広場までバイクに乗っていったけど、璃緒ちゃんが言ってるのは学校から帰るときのことだと思うし。

 

「昼休みのデートの話は!?」

 

「「デート?」」

 

 私からも凌牙からもデートに誘う話なんてしてないし……。

 あ、もしかして。

 

「カードショップに行くって話かな?」

 

 昼休みに新しいカードパックが出たから一緒に行こうと誘った話を持ち出すと凌牙は思い出したのかあれかと呟いていた。

 

「あれは雲雀たちも一緒だからデートじゃねぇだろ」

 

「うーん……だよね」

 

 じゃあ、違うか……。

 他にどこかに行こうって話はしてないし。

 考え込んでいるといつの間にか璃緒ちゃんは地面に座り込んで両手を地面につけて落ち込んでいた。

 

「まさか、私の勘違い……。凌牙に春が来たと思ったのに……」

 

 そんなことを呟いていた璃緒ちゃんは勢い良く顔を上げる。

 

「恋人になる可能性は!?」

 

「「ない」」

 

 2人そろってそういうと璃緒ちゃんはまた落ち込んでいたがすっと立ち上がって私に顔を向けると頭を下げた。

 

「刹さん、申し訳ありません。私の勘違いでご迷惑を……」

 

「あー、気にしないで。それよりも誤解が解けたようでよかったよ」

 

 笑みを浮かべて私が手を振って言うと璃緒ちゃんはありがとうございますと礼を告げてから凌牙に視線を向ける。

 

「それもこれも凌牙に恋人がいないからいけないのよ」

 

「むちゃくちゃな事言ってんじゃねぇよ」

 

 頬膨らませて怒っているのを見て凌牙はため息をついていた。

 私はいままで観戦していた女性陣に目を向け、笑みを深める。

 

「結、小鳥ちゃん、キャットちゃん、ちょーとお話しようか?」

 

 名前を呼ばれた3人は体を震わせてその場で固まり、私はゆっくりと3人に近寄った。

 

 

 

 

 

 

 そのころ、バリアン世界でドルベは水晶に映し出されている映像を眺めていた。

 それはいままでギラグが行ってきたバリアンズ・フォースで人間を洗脳した刺客たちのデュエルの記録であった。

 

「九十九遊馬とアストラルを倒すため、人間の世界にギラグを送ったもののやはり荷が重かったか……」

 

「だろうねー」

 

 ドルベは強く拳を握り締めてそう呟くと近くに浮遊している水晶に赤い粒子が集まって、そこにアーカイドが現われた。

 

「ていうか人間を洗脳して倒そうっていうこと自体が敗因の元だと思うけどー?」

 

「だが、人間の世界に行くと我々は……」

 

「全力が出せないって言うんでしょー? じゃあさ、全力が出せないドルちゃんたちって刺客として送り出している人間以下ってことなのー?」

 

 嘲笑いながらアーカイドが言うとドルベの表情が歪み、アーカイドを睨みつけた。

 睨まれている本人はこわーいとおどけるだけで笑みは崩さなかった。

 

「そんじゃあ、僕も人間界に行ってきまーす!」

 

「なっ、待て! アーカイド!!」

 

 水晶から降りると宇宙を彷彿させる穴がアーカイドの前に現われて、慌ててドルベが止めようとするがアーカイドは穴に吸い込まれて消えてしまった。

 

「あぁ、余計なことをしなければ良いが……」

 

 バリアンの使命を果たそうとドルベたちは行動を起こしているが、アーカイドはそんなこと関係ないといわんばかりに好き勝手に動き回っているので何をしでかすか分かったものではなかった。

 

「……アリトも送り出すしかあるまい。期待はしないがアーカイドの行動をすこしでも止めてくれれば…」

 

 ドルベは藁にでもすがるような気持ちでアリトを呼んだのであった。

 

 

 

 人間の世界にやって来たアーカイドはハートランド学園の2年の制服を着て街中を歩いていた。

 周りを見渡しながら歩いていたアーカイドは途中で1人の少年を見つける。

 丁度良く向かい側から歩いてきた少年はオレンジ色の髪の毛に上に髪を立てている独特な髪型をしていた。

 その少年とアーカイドは目が合ってしまった。

 アーカイドは笑みを深め、その笑みを見た少年は体が固まりゲッと口元を引きつらせている。

 

「おーい、真月!」

 

 真月と呼ばれた少年は呼ばれた声に反応してすぐに表情を変え、いつもの笑みを浮かべて何でしょうか? と問いかけつつアーカイドの姿を視界の隅で捕らえていた。

 

「ベぇクちゃ、むぐっ!?」

 

 アーカイドが大声で本来の名前を呼ぼうとしたところ右後方に丁度あったビルの隙間に口を押さえられて引きずりこまれた。

 

「てめぇ、何しにきやがった!」

 

 そこには先ほど見た真月とそっくりな姿かたちをしている人物、ベクターがアーカイドの口を塞ぎながら小声で怒鳴る。

 

「えぇー、ただバリアンの使命のために人間界に来ただけなのにー」

 

「ふざけんな! それにてめぇ、作戦を台無しにしようとしやがって……!」

 

 ベクターはアーカイドの頭を脇に抱えて締め上げ、ヘッドロックを決めさせていた。

 

「ちょ、ベクちゃん痛い! 痛いってば!」

 

 ベクターの腕を叩きロープロープと呟いているアーカイドを無視してさらに締め上げ、数分後にアーカイドは開放された。

 

「あ、頭が痛い……ひどいよベクちゃん。僕は刹っちゃんに警戒されているであろうベクちゃんを手助けしようとしてるのに……」

 

 両手を顔に当てて泣いているフリをしているアーカイドを冷めた目でベクターは見ていたが、アーカイドの言葉に眉間に皺を寄せる。

 

「俺が黒峰刹に警戒されてるだと?」

 

「そうだよー。ベクちゃん、刹っちゃんと握手しようとした時、静電気おきたでしょ? あれ、カード達が刹っちゃんを守ろうとしたからだよ」

 

「なっ」

 

 普通なら起こるはずのない出来事にベクターは驚きの声をあげた。

 まさかたかが人間をカードたちが守ろうとすることはないに等しい。

 本当にカードに愛されていなければそのような現象は起こらないのだ。

 

「そ、こ、でちょーと僕の手伝いをして欲しいんだよねー。いまのベクちゃんの立ち位置ってすごーく良い感じなんだよー。手伝ってくれれば刹っちゃんもうかつにベクちゃんに手を出すことも出来なくなるし」

 

 どう? と首をかしげているアーカイドにベクターは顎に手を当てて悩みながらアーカイドを観察する。

 今までのアーカイドが起こして来たことによる経験から、おそらく今回は嘘はついていないように見えた。

 

「……本当に手が出せなくなるんだろうな?」

 

「100%とはいかないけど、手は出せないと思うよー」

 

 その言葉にベクターは口元を吊り上げて笑みを作り頷いた。

 

「詳しく話を聞かせろ。それから考えてやるよ」

 

 ベクターの返答に満足したのかアーカイドはニヤリと笑った。

 


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