遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

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またデュエル観戦をするので今回はデュエル中の会話が多めです。



第二十三話 妹がいるとろくな事がおきないらしい

 学校に登校してきて結と雲雀にこの間、先輩から聞いた情報やバリアンのことで放課後に話し合おうと提案していると、凌牙が疲れた顔をして教室に入ってくるのが見えた。

 3人で挨拶をするが、やはり何処か元気がない声で挨拶を返していた。

 

「朝からどうしたの?」

 

「なんか、元気ないよね……」

 

 疑問に思って質問してみると凌牙は席についてため息を吐いた。

 

「……璃緒のやつが学校にくることになった」

 

 結と雲雀も璃緒ちゃんのことは凌牙から聞いているので私達は驚きの声をあげた。

 

「この間まで入院していたのではないのか?」

 

 雲雀の問いかけに凌牙の話を聞くとなんでも2年以上寝ていたにもかかわらずどういうわけか筋力もそれほど衰えていないみたいで、体のほうにも別に異常がないから学校に行っても大丈夫だと医師のお墨付きらしい。

 

「じゃあ、これから璃緒ちゃんも学校に通うんだね!」

 

 よかったと嬉しそうに結が言うが凌牙の表情はさらに疲れが帯びているように見えた。

 

「良いことだと思うんだけど、なにが駄目なの?」

 

「あいつが……」

 

 理由を言おうとしたとき、担任の先生が教室に入ってきてHRをはじめようとしていたのでこの話はお開きとなってしまった。

 先生は教卓の前に立って挨拶をした後にHRをはじめた。

 

「皆さん、今日からこのクラスに新しいお友達が増えますよ!」

 

 笑顔を浮かべて先生はそう話を切り出すとじゃあ、入ってきてくださいと教室の扉に向かって言う。

 すると扉は開かれてその人物が入ってくる。

 水色の前髪は左右で長さが異なり、腰まである青色の髪は左右で大きく分かれ歩くたびにさらりと揺れる。

 この学園の制服を身に包み短いスカートから覗くすらりとした白い足に黒色のハイソックを履いていた。

 しっかりと前を見つめる赤色の瞳に彼女の立ち振る舞いは気品さが感じられる。

 教室にいるほとんどのものが視線を奪われ、男子はだらしなく頬を緩ませていた。

 彼女は教卓の前まで歩いてくると自己紹介を始めた。

 

「このクラスに編入する事になった神代璃緒と申します。兄、凌牙共々よろしくお願いいたします」

 

 そういってお辞儀をした後、璃緒ちゃんはやわらかい微笑を浮かべている。

 そのとき、隣にいる凌牙はひそかに頭を抱えていた。

 

 

 

 昼休み、いつも通り4人で食事を取ろうとしていると璃緒ちゃんが凌牙を引っ張って行き、ついでに私達も一緒にどうかと誘われた。

 話を聞いてみると遊馬君たちと一緒に屋上で食べる約束をしているらしい。

 

『おい、俺も食べれるんだろうな?』

 

「(あー……)」

 

 ブラック・ミストの言葉にどうするか考えた。

 いつも4人で食べているときは事情も知っているので他の生徒が来ないような場所に移動してからブラック・ミストも外に出てきて一緒にお弁当を食べていたりしている。

 だけど、今回は他の生徒がくる可能性が高い屋上。

 しかも璃緒ちゃんもいるしな……。

 

「(ばれないようにブラック・ミストは貯水槽の裏とかで食べるしかないかな……)」

 

『ちっ……しょうがねぇな』

 

 そんなこんなで私達は了承して屋上に行くと、すでに遊馬君たちがお弁当を広げて待っていた。

 私は遊馬君達に挨拶をした後、小鳥ちゃんに耳打ちをする。

 

「ブラック・ミストにお弁当食べさせないといけないから上に行くね」

 

「え? ブラック・ミストにですか?」

 

 詳しくは此処では説明できないので、謝りつつ私ははしごを上って貯水槽の近くに腰掛ける。

 すると凌牙、雲雀、結もこちらに来て遊馬君たちの食事風景を眺めるように座った。

 

「向こうで食べてて良かったのに」

 

 私はブラック・ミストにお弁当を渡さなければいけないので此処にいるわけで、結たちが此処にくる必要はないはず。

 

「此処のほうが眺め良いだろ」

 

「いつものメンバーでなければ落ち着かん」

 

「やっぱり刹と食べたいから……」

 

 3人は思い思いに口に出していて、私は苦笑いを浮かべた。

 璃緒ちゃんはというと小鳥ちゃんの隣に座っており、こっちを見ていないうちにブラック・ミストは出てきてお弁当を持って貯水槽の裏に隠れた。

 

「凌牙君、体育のときの璃緒ちゃんすごかったよ」

 

「確かに……あれはプロレベルだったね」

 

 暫く食事を取っていると結は目を輝かせて4時限目にあった体育の話をし始める。

内容はバレーボールだったのだが、入院をしていたのでいきなり運動をしても良いのかと心配をしていた。

 しかし予想を裏切って璃緒ちゃんに向かってトスをすればプロ顔負けのスパイクを放ち、サーブも1人で残りの点数を取るほどの腕前を持っていた。

 結と私は璃緒ちゃんと同じチームだったので、それを近くで見ており相手に同情した。

 

「ふむ、隣のコートで見ていたが見事なスパイクだったな」

 

「……アイツはバレーボールだけじゃなく他の競技でもそんな感じだぜ」

 

 凌牙の言葉に私達は驚く。

 他の授業でも先生がいたずらで出した大学レベルの問題を璃緒ちゃんは完璧に解いていた。

 運動能力抜群で容姿端麗、おまけに成績優秀まるで漫画キャラのようなハイスペックに驚きを隠せない。

 

「やさしくて物腰柔らかでお嬢様って感じだよね」

 

 結は頬に手を当てて呟いた。

 そういえば、病院で見たときとはだいぶ態度が違うけどあれは凌牙と他の人で対応が違うって事なのかな……。

 そう思っていると小鳥ちゃんと話していた璃緒ちゃんの声が聞こえてきた。

 

「凌牙って本当に私がついてないと駄目なんです。今朝だって寝坊してパジャマのまま出かけようとして……」

 

 思わず私と雲雀は噴出し、口元を押さえて笑いをこらえた。

 それを見た凌牙はてめぇらとドスのきいた声を出して体を震わせている。

 

「えぇ、それに……」

 

「うるさい!」

 

 話を続けようとした璃緒ちゃんの言葉を遮って凌牙は声を張り上げた。

 

「そうやってペラペラと余計なことを話すんじゃねぇ!! だから俺はお前が……」

 

「お前が……なぁに?」

 

 璃緒ちゃんが睨みつけると凌牙は口を噤んでなんでもないと首を逸らしていた。

 

「完全に尻に敷かれているな、凌牙」

 

 雲雀の言葉に凌牙はうるせぇと呟いていた。

 そのころ、璃緒ちゃんと遊馬君が漫才のようなやり取りしているといつの間にか現われた大勢の男子生徒がそこにいた。

 

「ランチ中、失礼するよ。いやぁ、探したよ。神代璃緒さん」

 

 先頭に立っていた男子生徒が片手を広げてニッと笑みを浮かべていると璃緒ちゃんがたちあがってその人に近づいた。

 

「私になにか?」

 

「僕はサッカー部部長の八咫烏。ぜひ君をサッカー部のマネージャーとして迎えたいんだよ」

 

 その人がそういうと後ろにいた人たちもこぞって俺の部活にもと璃緒ちゃんをマネージャーに誘っていた。

 

「それは光栄ですわ。それでは放課後、皆さんの部にお伺いします」

 

 璃緒ちゃんの微笑みに騒いでいた男子生徒たちは静かになり熱に浮かされたように返事をしている。

 それにしてもサッカー部部長の名前が八咫烏とか……嫌なものを思い出させる。

 

「璃緒さん。まるで太陽のような人だ……」

 

 鉄男君が頬を緩ませてそういうと凌牙は下りて遊馬君達に近づいた。

 

「冗談きついぜ。アイツは太陽どころか氷の女さ。いずれ分かる」

 

 あぁ、なんとなく分かるかも……。

 この間の璃緒ちゃんが目覚めてからの一言を思い出しながらそう思った。

 

 

 

 放課後、雲雀と結で誰もいない教室に集まってバリアンのことで話し合っていた。

 本当なら璃緒ちゃんが誘われた部活にいって何をするのか見たかったが、仕方ない。

 そして話をしている最中に教室の扉が開かれる音が聞こえ、慌てて振り返ってみると、璃緒ちゃんの様子を見に行っていたはずの凌牙がそこにいた。

 

「なんだ、凌牙か……」

 

 まさか他の生徒に話を聞かれたのかと心配になったが、よかった。

 

「何してるんだ、お前ら?」

 

 凌牙は怪訝な表情を浮かべながらこちらに来て、机の上においてあるハートランドシティの地図を見つけるとさらに首をかしげている。

 

「ちょっとバリアンの事でまとめてたんだ。凌牙にも後で伝えようと思ったんだけど」

 

「バリアンだと?」

 

 敵である人物の話題が出たことにより凌牙は顔を険しくさせた。

 本当なら最初から凌牙も誘って話し合いに参加してもらいたかったんだけど、璃緒ちゃんの様子を見てくるって言っていたから遠慮したんだよね。

 

「じゃあ、最初から説明するね。補足とかお願い」

 

 2人にお願いしてから私は凌牙にこれまで集めたバリアンの刺客たちの情報を話し始めた。

 

「まず、最初に私達を襲ったバリアンの刺客は暴走族、次に学校に来たプロデュエリスト、生徒会の人、漫研部の部長。最初以外は全員学校にいた人たちなんだよね」

 

「そのプロデュエリストってのは学校にいたのか……」

 

 あー、覚えてないか。

 凌牙はそういうのはあまり興味がないからしかたないか。

 

「プロデュエリストがだいぶ前に学校に来てたの。片桐プロっていう人なんだけど、最後に皆とデュエルをしてたときは普通だったって」

 

 結の補足に凌牙はそうかと頷いて話を催促する。

 

「そして最初の暴走族が拠点としていたのが此処」

 

 そういって私は地図にある海に近い場所を指差した。

 

「そこがどうした?」

 

「此処、バリアンが出現したと思われるポイントと同じ位置」

 

 なんだとと凌牙は驚きの声をあげた。

 カイトに連絡を取ってバリアンの出現ポイントを聞いた後、暴走族のことを調べてみてわかったこと。

 

「だからバリアンはこの世界に来た直後にそこにいた暴走族を洗脳してけしかけた。最初は偶々そこにいた人を洗脳したけど、そのあとは学校にいる人たちを洗脳していることから」

 

「バリアンはこの学校に潜伏している可能性が高いと私達は推測した」

 

 私達の話しを聞いてバリアンが学校にいるというのは予想外だったのか凌牙は言葉を失っている。

 

「で、此処からが大事なところ。バリアンは一体誰なのかってこと」

 

 アーカイドとフェイカーさんを操ったバリアンが刺客をけしかけて来ているのかと最初は思ったが、刺客を送り込むだけのこんな単純な作戦をやつらがやるわけないと結論にいたった。

 

「それで、そのバリアンはどんなやつなんだ?」

 

「正直、相手の容姿とかはまだ詳しくはわかってない。この間の漫研部の部長に話を聞いてみたんだけど、覚えてないって言われて……」

 

 洗脳される前に相手の姿を見ていると思って、聞いてみたところ誰かが来たのは覚えているけど容姿に関しては覚えてないと返された。

 洗脳されている間の記憶は自分がとった行動はうろ覚え、洗脳した相手はもちろん覚えていなかった。

 

「だけどね、一応すこしは情報が集まってるんだよ!」

 

「生徒達に聞き込みをしてみたところ、たまに2年の制服を着た見覚えのない生徒が学校内を徘徊しているときがあると聞いた」

 

「じゃあ、そいつがバリアンなのか?」

 

 たぶんそうなのだろうと頷くと凌牙は握りこぶしを作る。

 おそらくそいつを見つけ出して倒そうと思っているのだろう。

 

「あまり派手に動かないでね。雲隠れでもされたら見つけられなくなるし」

 

「あぁ、分かってる」

 

 凌牙が頷いたのを見て大丈夫かなと不安に思いつつも考え込む。

 真月君のこと、言ったほうがいいのだろうか……。

 雲雀は感情を隠すのはうまいほうだけど、凌牙と結はちょっと心配だな。

 凌牙の方はいったら真月君のこと警戒しそうだし、結は隠すのが苦手だし……。

 一応、このことはしゃべらないでおこう。

 

「私達が話し合っていたのは此処まで。それで、これから華道部に向かおうと思ってる」

 

「華道部だと?」

 

「あぁ、聞き込みをした結果。此処2、3日華道部の部員の様子がすこし可笑しいと聞いた」

 

 恐らくバリアンに洗脳された可能性があると凌牙に説明すると、まずいと呟いていた。

 

「いま、璃緒が華道部の部長に呼ばれて行った」

 

 それはまずいかも……。

 この間、バリアンの刺客は遊馬君ではなく璃緒ちゃんを人質にとって凌牙にデュエルを仕掛けてきた。

 そこから考えると今回も凌牙の弱点である璃緒ちゃんを狙っているのだろう。

 

「はやく華道部に行こう。璃緒ちゃんが狙われ……」

 

「璃緒!!」

 

 私が言い終える前に凌牙は教室から飛び出していってしまった。

 もう少し冷静になって欲しいなぁ……。

 そんなことを思いながら私達もその後を追って走り出す。

 

「皆、待って! あそこ!!」

 

 廊下を走っているときだった、急に結が皆を呼び止めて窓の外を見るように促した。

 そこには外で赤い着物を着た長い髪の毛を腰の下で1つに縛っている黒髪の女子生徒と璃緒ちゃんが向かい合ってデュエルディスクを構えていた。

 璃緒ちゃんの近くには遊馬君とアストラルが立っているのが分かった。

 恐らくあの着物の女子生徒は華道部の人なんだと思う。

 

「チッ、遅かったか!」

 

 凌牙は窓から身を乗り出して舌打ちをした。

 

「もう始まっているようだな……仕方あるまい。このまま見守ろう」

 

 雲雀の提案に凌牙は文句を言いたげだったが、結局は何も言わずにDゲイザーを取り出した。

 私達はもう少し見やすい位置に移動してDゲイザーを装着する。

 丁度はじめようとしていたところだったのか、2人はデッキからカードを5枚ドローしてデュエルの宣言をしていた。

 

「先攻を頂戴仕る! 私のターン、ドロー! 私は火銃花(ひがんばな)を攻撃表示で召喚!」

 

 彼岸花の形をした機械のようなモンスターが現われて宙に浮かんだ。

 

レベル3 火銃花(ひがんばな) 攻撃力:800

 

「さらに手札からフィールド魔法、枯山水を発動!」

 

 フィールド魔法が発動されたことにより、風景が書き換えられ和式の家に石や砂などで山水を表現している庭園が現われる。

 

「このフィールド上では水属性モンスターの攻撃は無効となりまする!」

 

「水属性メタか……」

 

 枯山水の効果を聞いて雲雀はそう呟いた。

 相手は璃緒ちゃんのデッキが水属性を使っているかどうかは知らないはずだし、だとすると……。

 

「おそらく、凌牙と戦うことを前提としたデッキなのかも」

 

 それともDNA改造手術で水属性にして攻撃を制限しつつバーンで攻めるとか?

 

「璃緒のデッキも俺と同じ水属性モンスターが多い」

 

「じゃあ、フィールド魔法を何とかしない限り璃緒ちゃんは攻撃できないよ……」

 

 苦々しい表情で凌牙が言うと結は心配そうに璃緒ちゃんに視線を向けていた。

 まずいよね……。

 ほとんどのデュエリストはサイクロンとか最低でも1枚しかつんでないし。

 それを引き当てるのは運が良くないと……。

 

「さらにフィールド上に植物族モンスターが1体いるとき、手札から植物族モンスター1体を特殊召喚! 出でませ、砲戦花(ほうせんか)!」

 

 上の部分が植物のような緑色で下の部分がUFOのような円盤で出来ておりそこには砲台が取り付けられているモンスターが現われる。

 

レベル3 砲戦花(ほうせんか) 攻撃力:1000

 

「そしてフィールド上に2体以上の植物族モンスターがいる場合、同じ植物族モンスターの宇宙花(コスモス)を手札から特殊召喚できまする!」

 

 地面から竜巻を起こして出てきたのはコスモスの形をした機械のようなモンスターが現われる。

 

レベル3 宇宙花(コスモス) 攻撃力:600

 

「私はレベル3の火銃花、砲戦花、宇宙花でオーバーレイ!」

 

 3体のモンスター、宇宙花は紫色の球体になり残りが赤色の球体となって地面に現われる渦の中に入っていく。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークで構築仕る、エクシーズ召喚! 咲き誇れ、烈花砲艦ナデシコ!」

 

 地面の砂が舞い上がり、下から出てくるのは撫子の花をモチーフにした宇宙船のようなモンスターが現われる。

 

ランク3 烈花砲艦ナデシコ 攻撃力:2100 ORU:3

 

「さらに枯山水の効果でフィールド上のモンスターエクシーズは1ランクにつき100ポイント攻撃力アップ仕る!」

 

ランク3 烈花砲艦ナデシコ 攻撃力:2100→2400 ORU:3

 

 枯山水は水属性の攻撃を制限する上に攻撃力アップの効果、植物族モンスターの1体の特殊召喚か……。

 うーん、いいな。

 でも植物族モンスターのデッキってあまり使わないんだよね。

 

「そしてナデシコのモンスター効果を発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、相手の手札1枚つき300ポイントのダメージをお見舞い申し上げます! あなたの手札は5枚、よって1500ポイントのダメージを食らいなさい! ビック・カノン!!」

 

 ナデシコの先端部分にある砲台から光があふれ出し、光の玉となって璃緒ちゃんに襲い掛かった。

 

「くっ!」

 

璃緒LP:4000→2500

 

 璃緒ちゃんは攻撃を受けて地面へと倒れこんでいた。

 

「璃緒……!」

 

 凌牙が焦った声を出している間、私達は相手のカードについて話していた。

 

「あのモンスター効果は1ターン目に使うと強力だね」

 

「初期手札は5枚だからね。その後のターンはカードを使用するから、どうしても手札が減るし」

 

 結の言葉に同意しあくまでも態度を崩さない私達を凌牙は睨みつけてきた。

 

「冷静に分析している場合かよ」

 

「焦ってもどうにもならないでしょ」

 

 私がそういうと凌牙は口を噤み、璃緒ちゃんのデュエルに目を向けた。

 凌牙はすぐに感情的になるのがたまに傷だよね……まぁ、私がうろたえなさすぎなのかもしれないけど。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「参ります。私のターン、ドロー! 私はブリザード・ファルコンを召喚します!」

 

 現われたカードから吹雪が出てくるとそこから水色の翼を持った青い鳥のモンスターが現われる。

 

レベル4 ブリザード・ファルコン 攻撃力:1500

 

「さらに手札から魔法カード、ブリザード・ジェットを発動! このターンの間、フィールド上にいる水属性及び鳥獣族モンスター1体の攻撃力を1500ポイントアップできます!」

 

レベル4 ブリザード・ファルコン 攻撃力:1500→3000

 

 ブリザード・ファルコンの効果を使うつもりなんだろうな……。

 あの効果は強力だからなー。

 

「ブ、ブリザード・ファルコン……」

 

「どうした?」

 

 昔のことを思い出したのか雲雀は苦々しい表情を浮かべ、そのことに気づいた凌牙は首をかしげている。

 

「ブリザード・ファルコンがいる状態でシーラカンスを召喚、シーラカンスの効果発動で自分の場を埋めてブリザード・ファルコンに団結の力装備。で、ブリザード・ファルコンの効果を使用した」

 

「……それをお前がやったのか?」

 

 いま私が言ったモンスターの効果を知っている凌牙はもはや呆れた表情を浮かべて問いかけてきた。

 私は笑みを浮かべることで答える。

 シーラカンス、正式名称超古深海王シーラカンス。手札1枚を墓地に捨ててレベル4以下の魚族モンスターを自分フィールド上に可能な限り特殊召喚できる。

 そのかわり特殊召喚したモンスターは攻撃も出来ないし効果も無効化される。

 団結の力は装備モンスターの攻撃力を自分フィールド上にいるモンスター1体につき800ポイント攻撃力が上がる。

 つまり自分フィールドに5体のモンスターがいて団結の力を装備すると攻撃力が4000アップする。

 これでブリザード・ファルコンの効果を使用して1キルをしたのだ。

 私達が話している間にも璃緒ちゃんはブリザード・ファルコンの効果を使用していた。

 

「ブリザード・ファルコンの効果を発動! このカードは攻撃力が元々の攻撃力より増えたとき、相手プレイヤーにその数値分のダメージを与えることが出来ます」

 

 ブリザード・ファルコンが青白いオーラをまとって着物の女性へと襲い掛かった。

 

「きゃあ!」

 

LP:4000→2500

 

「私はカードを3枚伏せて、ターンエンド!」

 

「3枚の伏せカード。よほどナデシコの効果を恐れているのですね」

 

 普通の行動だと思うけどな……伏せたカード全部が魔法カードとか言うのはないだろうしね。

 

「私に楯突いた愚かさを思い知らせてあげますわ」

 

 着物の女性の額にバリアンに洗脳された人につく赤い装飾がついている青い十字架のようなものが出現した。

 

「刹、あれは何だ?」

 

 額にあるものに気づいたのか雲雀が質問してきた。

 

「あれがバリアンに洗脳された人につくもの。おそらくこのターンで相手はバリアンズ・フォースを使ってくると思う」

 

「私のターン、ドロー! 私は手札よりRUM-バリアンズ・フォースを発動仕る! 私は烈花砲艦ナデシコでオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

 ナデシコは赤い球体となって上へ舞い上がると頭上の雲が渦巻いている中心部分に入っていき、黒と深緑の光の爆発が起きる。

 

「カオスエクシーズ・チェンジ! 今こそ現われなさい、偉大なるバリアンの力! 咲き乱れよ、CX激烈華戦艦タオヤメ!」

 

 黒色の縁に深緑色の透明なカードのようなものが球体となって集まり、その中でモンスターが形成されていた。

 現われるのは白い大きな円形が浮かび上がり、そこにはいくもの砲台が設置してある植物とは思えない機械じみたモンスターが現われる。

 

ランク4 CX激烈華戦艦タオヤメ 攻撃力:2400 ORU:3

 

「あれが、バリアンがつかうカードか」

 

「あぁ、ランクアップしたモンスターは効果も強化されてるぜ」

 

 私が相手にしたCXは効果は強力だったな……モンスター効果で破壊してすぐに終わらせちゃったけど。

 

「枯山水の効果でフィールド上のモンスターエクシーズはランク×100ポイント攻撃力をアップ仕る!」

 

ランク4  CX激烈華戦艦タオヤメ 攻撃力:2400→2800 ORU:3→2

 

「タオヤメのモンスター効果、発動! カオスオーバーレイ・ユニットを1つ使いフィールドにあるカード1枚につき400ポイントのダメージを与える! あなたのフィールドにはモンスターを含めて4枚。私のフィールドにはカードは3枚」

 

 合わせて2800のダメージか。

 璃緒ちゃんのライフは2500、これが決まると負けるけどどうするつもりなんだろう。

 タオヤメの円形になっている中心部分に光が集まるとそれがビームとなって璃緒ちゃんに向かって放たれた。

 

「璃緒!!」

 

 凌牙は身を乗り出して声を張り上げた。

 しかしいくら待ってもデュエル終了の合図が聞こえてこないことから、まだ璃緒ちゃんのライフが0になっていないということが分かる。

 

「おほほ、ナデシコの効果を恐れて手札を多く伏せたのが仇になりましたわね」

 

 タオヤメの攻撃で発生した土煙が晴れてくると璃緒ちゃんが肩で息をしながら立ち上がっているのが見えた。

 

璃緒LP:2500→500

 

「どういうことなの!?」

 

 まだライフが残っていると事実に着物の女性は困惑している。

 

「私はタオヤメの効果が発動する前に罠カード、ダイヤモンド・ダストを発動していたのよ。このカードはフィールド上に存在する水属性モンスターをすべて破壊する! よって私のフィールドのカードは2枚になり、合計2000のダメージになりましてよ!」

 

 隣で凌牙と結がほっと息を吐いている間、私と雲雀は相手のカードと璃緒ちゃんの場にあるカードを見て考え込んでいた。

 

「さらにこのカードは破壊したモンスター1体につき、500ポイントのダメージを相手に与えます!」

 

 墓地に送られた罠カードがフィールド上に出てきて青色の竜巻が相手を襲う。

 

「くっ……!」

 

LP:2500→2000

 

「ふざけた真似を! だったら今度こそ止めを刺してあげまする! タオヤメのダイレクトアタックを食らうがよろしい! はなしぐれ!!」

 

 タオヤメの円形部分に取り付けられているすべての砲台からビームが発射される。

 

「永続罠アイス・チェーン発動! このカードの効果で私は手札からレベル4以下の水属性モンスター1体を特殊召喚できます! 私はオーロラ・ウィングを守備表示で特殊召喚!」

 

 まるでオーロラのような翼と尾を持った白い鳥のモンスターが現われて璃緒ちゃんの前に舞い降りる。

 そしてタオヤメの攻撃を受けて破壊された。

 

「オーロラ・ウィングはバトルで破壊されたターンに1度だけ、墓地から守備表示で特殊召喚することが出来ます!」

 

レベル4 オーロラ・ウィング 守備力:1600

 

「往生際の悪いことを私はカードを1枚伏せてターンエンドといたしまする」

 

 相手のターンが終わって私は深く息を吐き、雲雀に目を向けると丁度向こうもこちらを見ており目が合った。

 

「わかった?」

 

「あぁ、といっても神代璃緒の残りの伏せカードにもよるがな」

 

「何がだよ」

 

 私達が話していると凌牙が話しかけてきた。

 言おうか迷うが、雲雀が頼んだぞと説明を私に丸投げしてきたので言わざる終えない状況となってしまった。

 

「実はね、璃緒ちゃんこのターンで負けてたと思う」

 

「え?」

 

「なに?」

 

 結も気づかなかったようで驚きの声をあげており、私はそのまま説明を続けた。

 

「相手がナデシコの効果を使用してからランクアップをしていれば詰んでた」

 

「で、でもアイス・チェーンを使えば手札が……あっ」

 

 言っている途中で気づいたのか結は口を閉ざした。

 凌牙も気づいたようで顔をしかめている。

 

「そう、アイス・チェーンでオーロラ・ウィングを出せば手札が0になってバーンダメージは不発になるけど、ランクアップされたタオヤメの効果が使われてダイヤモンド・ダストを発動すると璃緒ちゃんの場にはモンスターがいなくなる。その後、タオヤメのダイレクトアタックを受けて……」

 

 最後まで言わなかったが言いたいことが分かったのか2人の表情は暗くなった。

 あー、やっぱり言わないほうが良かったかな……。

 

「あいつも、まだまだだな」

 

 凌牙はいつもの表情に戻してそう言うと璃緒ちゃんへ目を向けている。

 璃緒ちゃんは自分のターンが回ってきてドローをしているところだった。

 

「魔法カード、死者蘇生を発動します! 私は墓地からブリザード・ファルコンを特殊召喚!」

 

レベル4 ブリザード・ファルコン 攻撃力:1500

 

 伏せられていたカードは死者蘇生だったか……これは完全にまずかったというわけか。

 

「永続罠、薔薇の墓標発動! このカードは相手フィールド上のカードが発動した時、300ポイントのダメージをお見舞い申し上げまする」

 

 発動されたカードから赤い薔薇の花びらにオレンジ色のブレスが放たれ璃緒ちゃんに襲い掛かった。

 

「くぅ……」

 

璃緒LP:500→200

 

 ダメージを受けて璃緒ちゃんは地面に膝をついてしまっていた。

 

「すこしは美しく散るかと思ったら所詮あの粗野で卑しい神代凌牙の妹、品性に欠けます。おほほほほ」

 

 着物の女性は口元に手をやり笑っていると何ですって? と璃緒ちゃんの口から低い声が発せられた。

 

「もう一度、言ってみなさいよ。凌牙のことを粗野とか卑しいって言ってたわけ?」

 

 あー、あれは完全に怒っている。

 立ち上がった璃緒ちゃんが着物の女性を睨みつけているのを見てそう思った。

 

「私はともかく、凌牙の悪口は許さない。あんた……凍らすよ?」

 

 なにもカードを発動していないはずなのに璃緒ちゃんの背後からブリザードが吹き荒れているような錯覚を引き起こる。

 

「ふむ、兄がシスコンなら妹もブラコンというわけか」

 

「誰がシスコンだ!!」

 

 冷静に呟いた雲雀に凌牙は声を荒げて突っ込んでいた。

 いやぁ、シスコンと思われても仕方がない行動を取ってるしな……。

 

「私はレベル4のブリザード・ファルコンとオーロラ・ウィングでオーバーレイ!」

 

 2体のモンスターは青色の球体となって頭上の雲が渦巻いている中心部に入っていく。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 舞い降りよ、零鳥獣シルフィーネ!」

 

 肩や腰に青いプロテクターのようなものをつけている女性型モンスターが上から降りてきた。

 

ランク4 零鳥獣シルフィーネ 攻撃力:2000 ORU:2

 

「ふふふ、中々お美しいモンスター。ですが、それでは私に勝てません」

 

「そうかしら? あんたの枯山水の効果でシルフィーネの攻撃力が1ランクにつき100ポイントアップする!」

 

ランク4 零鳥獣シルフィーネ 攻撃力:2000→2400 ORU:2

 

「さらにシルフィーネの効果を発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、次の自分のターンまでこのカード以外の表側カードの効果を無効にする。そして無効にしたカード1枚につき相手モンスター1体の攻撃力を300ポイント下げることが出来る! パーフェクト・フリーズ!!」

 

 シルフィーネから青色のビームが相手フィールドにあるカードに当たるとそのカードとタオヤメが凍りつく。

 相手のフィールドにある表側表示のカードは3枚だから900ポイントのダウンに加えて枯山水の効果が無効化されたから合わせて1300ポイントのダウンか。

 

ランク4 CX激烈華戦艦タオヤメ 攻撃力:2800→1500

ランク4 零鳥獣シルフィーネ 攻撃力:2400→2000

 

「これであんたの邪魔なカードは凍りついた」

 

「枯山水の効果が無効化したからこれで攻撃が出来るね!」

 

「だが、出来ればこのターンで決めたいところだな」

 

 次のターンで相手が何のカードをドローするかも分からないし、もしかしたらあの伏せカードを使う可能性だってある。

 ていうか、璃緒ちゃんキレてから本来の口調に変わっているっぽいんだけど。

 

「舞い上がれ、シルフィーネ! タオヤメを攻撃!!」

 

「甘いわ! 速攻魔法、花裁きを発動! あなたのモンスターの効果対象は表側表示のみ、伏せカードは使えますのよ? このカードは自分フィールド上の植物族モンスターエクシーズ1体のオーバーレイ・ユニットをすべて墓地へ送り、その数1つにつきモンスターの攻撃力を800ポイントアップする!」

 

 2つのオーバーレイ・ユニットが墓地に送られるとタオヤメについていた氷がはがれていき、動き始める。

 

ランク4  CX激烈華戦艦タオヤメ 攻撃力:1500→3100 ORU:2→0

 

「ほほほっ、所詮氷の世界も花の彩を引き立てる背景に過ぎません!」

 

「そうかしら? 本当の、氷の世界を見せてあげる! 手札から速攻魔法、絶対零度を発動! このカードはオーバーレイ・ユニットがないモンスターエクシーズ1体の攻撃力を0にする!」

 

 周りの風景が変化して木や和式の建物に氷がまとい、タオヤメも再び凍り付いてしまった。

 

「絶対零度は白銀の中の暗闇。凍った花びらも砕け散る」

 

ランク4  CX激烈華戦艦タオヤメ 攻撃力:3100→0 ORU:0

 

「そ、そんな……私のCXが……」

 

 凍りついたタオヤメを着物の女性が呆然と眺めていると璃緒ちゃんがシルフィーネに攻撃の指示を出していた。

 

「さぁ、シルフィーネ行きなさい! タオヤメに攻撃!アイス・レイ!!」

 

 シルフィーネは宙に浮かび上がると多数の氷のつぶてをタオヤメに放ち、攻撃をする。

 タオヤメにいくつもの氷のつぶてが突き刺さると爆発を起こして破壊された。

 

「きゃああぁ!!」

 

LP:2000→0

 

 相手のライフが0となりデュエルの終わりを告げる合図が鳴り響く。

 ARビジョンが解除されて周りの風景も元に戻った。

 

「やった! 璃緒ちゃんが勝った!」

 

「よかったね、凌牙」

 

 凌牙はふんと顔を逸らして返事をせずにDゲイザーを取ると璃緒ちゃんの所に歩いていった。

 

「バリアンズ・フォースか……あれは強力な効果だな」

 

 初めてバリアンの力でもるRUMをみて雲雀は呟き、結は肯定した。

 

「モンスターの効果が強化されるみたいだし……。あとオーバーレイ・ユニットも吸収されて攻撃力も下げるんだっけ?」

 

「うん。吸収した後、吸収したモンスターの攻撃力をオーバーレイ・ユニットの数×300ポイントダウンさせる」

 

 エクシーズモンスターを中心に使っている人たちにとってこの効果を使われると痛い。

 雲雀の場合、エクシーズモンスターはサイバー・ドラゴン・ノヴァしか使ってないからあまり関係ないかもしれないけど。

 

「もしかしたら、2人にもバリアンの刺客が送られてくるかもしれない……だから、気をつけて」

 

 私がそういうと2人は真剣な顔つきで頷いた。

 

「さて、じゃあ遊馬君たちのところに行こうか」

 

 丁度、遊馬くんと璃緒ちゃんも私達がここにいることに気づいたらしくこちらを見て遊馬君は手を振っていた。

 私達は歩き出してアストラルを含めた4人の下に近づいていく。

 そしてこの後、みんなと帰っているときに璃緒ちゃんは猫が駄目なのだということを知ることになる。

 




さて、次は主人公と彼女がデュエルをします。
いったい誰でしょうねー(棒)

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