遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

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第二十二話 人質をとるデュエルはろくな事がおきない

 バリアンの刺客が現われてから一週間はたった。

 あの後、結と雲雀にバリアンのことやNo.など今まであった超常現象のことを洗いざらい吐かされ話が終わった後、これからは私達も頼れとそういわれた。

 本当なら巻き込みたくはなかったけど、2人が一緒に戦ってくれるのは頼もしいというのも本音だ。

 その後はプロデュエリストの人が学校に来たり、一時的に特命風紀コマンダーとかいうものが設立したりした。

 驚くべきことにそのプロデュエリストの人と特命風紀コマンダーを設立した生徒会の人たちがバリアンに洗脳されていて遊馬君たちに襲い掛かったらしい。

 私達はとくに被害といわれるようなものに合ってないし、カイトにも聞いてみたけどあれからバリアンの刺客に襲われてないと言っていた。

 やはりバリアンは遊馬君とアストラルを狙っているのかもしれない。

 もう少し情報が欲しいなぁ……。

 

『おい、刹!』

 

「刹!」

 

 持っているシャーペンをいじりながら考え込んでいるとブラック・ミストが慌てた様子で私の名を呼び、凌牙は呆れたように私の肩をゆすった。

 

「え?」

 

 我に返り凌牙に視線を向け、今は何をしている時間なのか思い出して周りを見てみる。

 授業を受けているはずのほとんどの生徒がこちらを向いており、黒板の前にいる先生は心配そうに眉をハの字にして私を見ていた。

 

「黒峰さん、大丈夫ですか? もしかして具合でも……」

 

「い、いえ! 大丈夫です!」

 

 私は慌てて立ち上がり大丈夫なのだとアピールすると、先生はもし何かあったらいってねと告げると授業を再開した。

 乾いた笑みを浮かべて席につく。

 隣で凌牙がひそかに笑っていることに気づいて睨みつけた。

 

 

 

「あー……恥ずかしかった」

 

 放課後、教室から出て授業中に起きた出来事を思い出しながら呟くと隣で歩いている凌牙が口を開いた。

 

「ぼーとしてたからだろ」

 

「そうなんだけどさ……」

 

 凌牙からの指摘にため息を吐く。

 バリアンのことを考えていたからだとはいえ、油断してたなぁ……。

 それから他愛ない話をしながら昇降口を出て歩いているときだった。

 

「神代凌牙君! 黒峰刹さん!」

 

 突然声をかけられ、その人物は私達の前に立ちはだかった。

 ベレー帽を被り、肩より下まである髪を1つに縛り、縛っているヘアゴムにGペンと鉛筆2本刺している男で制服の色を見るからに先輩のようだ。

 

「君達にも是非モデルになってもらいたいんですよ!」

 

 いきなり何の話なんだろうか……。

 モデルって絵とかそういうのしか思いつかないけど。

 その人は私達の返事を聞かずにスケッチブックを開いて私達に見せてきた。

 

「ほら、これが君達がモデルのキャラ」

 

 それはアメコミ風に描かれているイラストで凌牙の髪型をしたキャラは目だけを覆うような仮面をつけ悪魔の羽を背中に生やし、両手のつめは鋭く見た目で悪役だと分かるキャラだった。

 私だと思われるイラストのほうは赤色の宝石が埋め込まれた杖を持ち、暗い紫色が主体の魔女を彷彿させる服に所々に金色の鎖が装飾としてついている。

 私も方もどちらかというと見た目悪役に近いキャラだった。

 

「うわぁ……すごい」

 

 画力の高さに思わず声が零れた。

 しかし凌牙は一度イラストを見るだけですぐに歩き出す。

 

「センスねぇな」

 

「え、ちょっと凌牙……」

 

 さすがに初対面でしかも先輩に対して失礼でしょうに。

 私が止める前にその先輩は凌牙の肩をつかんで止めるが、凌牙は冷たく離せというだけだった。

 

「お願いしますよ」

 

「離せよ!」

 

 尚も頼み込む先輩を乱暴に振り払うとその先輩は勢い余って尻餅をつき、それと同時に地面に何かが落ちる音が聞こえた。

 

「凌牙、何か落ちたよ」

 

 拾い上げてみると特に装飾とかがないシンプルな銀色の指輪だった。

 私は近づいてきた凌牙にその指輪を渡す。

 

「悪いな」

 

 そういうと凌牙は吹き飛ばした先輩に一瞥もしないで歩き出す。

 凌牙ってその他の人には厳しいというか冷たいよね。

 先輩に視線を向けてみると丁度遊馬君がスケッチブックを拾って渡していた。

 

「すみません、先輩。大丈夫でしたか?」

 

 タイミングを見計らって先輩に話しかけると振り返って呆気にとられた表情をしていたがすぐに頷いた。

 

「え? あ、あぁ。大丈夫だよ」

 

「そうですか。よかったです」

 

 笑みを浮かべて失礼しますといってからすこし先で待っている凌牙を追いかける。

 凌牙の隣に立ったとき、後ろから遊馬君が私達を呼び止めて小鳥ちゃんなどいつものメンバーが私達に近づく。

 

「相変わらず口が悪いよな……」

 

「事実を言って何が悪い」

 

 遊馬君の指摘に凌牙はあっさりと告げる。

 もう少しオブラートに包んだほうが良いと思うんだけどな……。

 

「あ、そういえばさっき何を落としたんだ?」

 

 手を叩いて遊馬君が質問すると手につけている指輪を見せていた。

 

「これは妹からもらったものなんだ」

 

 凌牙は悲しげに指輪を見つめていたが、手を下ろすといつもの表情に戻っていた。

 

「璃緒ちゃん、まだ目が覚めないんだ?」

 

「あぁ……」

 

 璃緒ちゃんは凌牙の話を聞く限り1年以上も意識が戻ってないみたいなんだけど大丈夫なのかな。

 意識が戻らなくなった理由って言うのもⅣらしいし……。

 もしかしたらあの紋章の力とかで目が覚めてないっていう可能性もある。

 それならブラック・ミストが見ればただの昏睡状態じゃないのか分かるかも……。

 

「ねぇ、明日璃緒ちゃんのお見舞いに行っても良いかな?」

 

 突然の提案に驚きつつも凌牙は頷いた。

 それから遊馬君たちも明日璃緒ちゃんのお見舞いに一緒に行くという話になり、私と遊馬君たちは凌牙と別れて帰り道を歩く。

 鉄男君と孝君とも別れてから遊馬君、小鳥ちゃんにもう1人見慣れない子がいることに気づいた。

 なんで気づかなかったんだろ……?

 

「ねぇ、遊馬君。その子は?」

 

 オレンジ色の髪を逆立てて特徴的な髪型をしているその男の子に目を向ける。

 すると遊馬君が自己紹介を始めようと口を出したところでその子が私の前に出た。

 

「はじめまして! この間転校して来た真月零です! 僕、刹さんもファンなんですよ!! トーナメント戦であの黒い人を助けたときのあの姿、格好良かったです!!」

 

 真月君は目を輝かせながら早口でまくし立てて握手してくださいと90度腰を曲げて手を差し出してきた。

 

「うん、いいよ」

 

 苦笑いをしながらそういうと真月君は顔を上げ、表情を明るくさせる。

 

「ありがとうございます!」

 

 なんというか、元気な子だな……。

 差し出された手と私の手が触れ合った瞬間、まるで静電気が起きたようにバチッと音が鳴り思わず手を引っ込めた。

 真月君も驚きの声をあげて、自分の指先を触っている。

 

「え、どうしたんですか?」

 

「何があったんだよ?」

 

 遊馬君と小鳥ちゃんは私達の様子に首をかしげている。

 

「あー、大丈夫。静電気がおきてびっくりして……」

 

 私の言葉に2人が納得して頷き、あれはびっくりするよなーと話していた。

 

「改めて、これからよろしくね。真月君」

 

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 

 次に手が触れ合ったときには何もおきず、私達は握手をする。

 その後、3人とは別れて家へと帰ってきた。

 部屋に戻って着替えた後にブラック・ミストを呼ぶとすぐにエクストラデッキから出てくる。

 

「真月君、どう思う?」

 

 私が問いかけるとブラック・ミストは真剣な顔つきで答える。

 

「そいつと握手をしようとした時に起きた現象は俺のときと良く似てるぜ」

 

 カードたちが拒絶反応を起こした。

 つまりは、そういうことなのだろうか……。

 でもバリアンの刺客だとしても遊馬君から聞いた刺客たちの態度と比べたらまったく違うし……だとしたら、バリアン?

 でも、まだきちんと判断できないな……。

 遊馬君達に今度真月君のこと聞いてみたほうがよさそうだ。

 

 

 

 次の日、花屋にまず寄ってから病院にいこうと教室を出ようとしたが凌牙に呼び止められた。

 

「見舞い、来るんだろ?」

 

「その前に花を買おうと思って……」

 

 そういうと凌牙はため息を吐いて律儀なやつと呟いていた。

 あ、そういえばあの病院は花を持っていっても大丈夫なのだろうか……。

 

「それぐらい途中で寄ってやる。行くぞ」

 

 私の返事を聞かずに凌牙は先に行ってしまい、迷ったがお言葉に甘えて一緒に病院にいくことにした。

 一応凌牙に病院に花を持っていっても大丈夫か聞いてみたところ問題ないと返されたので花屋に寄って、フラワーアレンジメントを買った。

 病院にたどり着いて、璃緒ちゃんがいる病室に入るとベッドに前髪が水色で後ろの髪が青色の女の子が目に包帯を巻いたまま横たわっていた。

 

「はじめまして璃緒ちゃん。私は黒峰刹、よろしくね」

 

 フラワーアレンジメントを置いた後、眠っている璃緒ちゃんに話しかけ、右手の小指についている銀色の指輪に気がついた。

 これって昨日凌牙が落とした指輪と似てる。

 そういえば、璃緒ちゃんからもらったって言ってたっけ……。

 

「刹、なにか飲み物を買ってくる。何が良い?」

 

 病室から出ようとしている凌牙に別にいいよと断るが押し切られてミルクティーを買ってきてもらうことになった。

 

「私はちょっとお手洗いに行ってくるから」

 

「あぁ、分かった」

 

 病室前から別れて私はトイレに行った後、ブラック・ミストに話しかけた。

 

「(ブラック・ミスト、どうだった?)」

 

『神代凌牙の妹は何らかの力で眠っちまっているようだ』

 

 何かってやっぱり紋章の力とかで……?

 そういえばアーカイドも紋章の力を使っていたけどあれって本当なんだろうか。

 

「(ブラック・ミストの力で何とかできない?)」

 

『そういうことはやったことがねぇからな……わからねぇ』

 

 すこし残念に思いながら歩き璃緒ちゃんの病室の近くに差し掛かると、突然病室の扉が開いて凌牙が慌てた様子で走っていくのが見えた。

 

「え、凌牙?」

 

 あんなに慌ててどうしたんだろ?

 気になって璃緒ちゃんの病室を見てみると、もぬけの殻となっているベッドがあるだけだった。

 もしかして璃緒ちゃんが何処かに消えたから凌牙はあんなに……。

 私は凌牙が走っていった方向に早歩きで向かった。

 病院の入り口にたどり着くと、そこには凌牙の他に遊馬くん、小鳥ちゃん、真月君がそこにいた。

 

「シャークに刹……どうしたんだよ?」

 

 凌牙の隣に立つと遊馬君が不思議そうな表情を浮かべて問いかけてくる。

 

「璃緒が、璃緒が病室からいなくなった!」

 

 やっぱり璃緒ちゃんがとつぜんいなくなったんだ……一体どこに?

 遊馬君たちが凌牙から告げられた言葉に驚いていると誰かから声をかけられた。

 

「おやおや、皆さんお揃いで!」

 

 そちらに顔を向けてみると昨日見かけたあの先輩がそこにいた。

 

「お前、漫研部の!?」

 

 漫研? 確か部員が1人しかいないのに廃部になっていないとある意味有名な部活だったような。

 その人がこの先輩なのか……。

 

「もしかして、妹さんをお探しですか?」

 

『おい、刹』

 

 先輩の言葉に驚いているとブラック・ミストから話しかけられ、そちらに耳を傾けた。

 

『あいつ、あのバリアンの刺客と同じ気配がする』

 

「(じゃあ、いまは敵ってこと……)」

 

 操られているとしても敵には変わりない。

 私が先輩を睨みつけていると先輩は璃緒ちゃんの居場所が知りたかったらデュエルをしてくださいと凌牙にデュエルを申し込んだ。

 

「凌牙、気をつけて。あいつバリアンに洗脳された人かも……」

 

「なんだと?」

 

 囁くように告げると凌牙は相手にばれないように驚いた後、先輩を睨みつけてデュエルの申し出を受けた。

 デュエルは病院の屋上でやることになり私達は観戦をするために端に移動した。

 

「デュエルディスク、セット! Dゲイザー、セット!」

 

 2人がデュエルディスクとDゲイザーを装着すると周りは1から9の数値で埋め尽くされてARビジョンリンク完了という音声が聞こえてくる。

 私も自分が持っているDゲイザーを装着する。

 

「「デュエル!」」

 

「貴様は絶対にゆるさねぇ! 俺のターン、ドロー! 俺はシャクトパスを召喚!」

 

 凌牙の目の前に水しぶきが現われて、そこから顔と胴体はサメの形をしており尾ひれの部分がタコの足になっているモンスターが現われる。

 

レベル4 シャクトパス 攻撃力:1600

 

「さらに! 自分フィールド上に存在する水属性モンスターをリリースしてシャークラーケンを特殊召喚!」

 

 現われるのは紫色のからだをした大きなサメに、ヒレの部分にイカの足がついたモンスターが現れる。

 

レベル6 シャークラーケン 攻撃力:2400

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー! 私はフィールド魔法、コミック・フィールドを発動!」

 

 フィールド魔法が発動すると周りの景色に変化が訪れる。

 貯水槽があるところが大きな城の一部となり、空と地面も漫画のように描かれていた。

 

「このフィールドは私の漫画の世界! すべては私の作ったストーリーで決まるのです! すなわち俺が生み出したヒーローこそが愛と誠と勇気のヒーロー! ヒール・ザ・シャーク。勝負は貴様の敗北というエンディングに向かって突き進む!」

 

 どういうことなのだろうか……。

 これはただのフィールド魔法だと思うけど、もしかしたらバリアンの力で自分が作った物語の通りにことが運ぶっていう能力を手に入れたとか?

 

「俺は湖の騎士ランスロットを召喚!」

 

 しゃがんだ状態で現われるのは黒い鎧を着た騎士だった。

 ランスロットはそのままジャンプをして空中に飛び出す。

 

レベル4 湖の騎士ランスロット 攻撃力:1500

 

「さらに俺は手札から剣の誓いを発動! 自分フィールド上に戦士族モンスター1体いる場合、手札からレベル4の戦士族モンスター1体を特殊召喚できる! 俺は悲恋の騎士トリスタンを召喚!」

 

 長い金髪に白い鎧、背中には3つに枝分かれしたようなものが左右に生え、そこに白くひらひらした布がつけられている男性型のモンスターが現われる。

 

レベル4 悲恋の騎士トリスタン 攻撃力:1400

 

 ランスロットとトリスタンは持っている剣で互いの剣を交差させていた。

 

「レベル4のランスロットとトリスタンをオーバーレイ!」

 

 空中で浮かび上がったまま剣を交差させていた2体はオレンジ色の球体となって地面に現われた渦に入っていく。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現われろ、CH(コミックヒーロー)キング・アーサー!」

 

 現われるのは金色の装飾をつけた白い鎧を着ており、手には大きな剣を持った男性型モンスターが現れる。

 

ランク4 CH(コミックヒーロー)キング・アーサー 攻撃力:2400 ORU:2

 

「ランスロットの効果を発動! このカードがオーバーレイ・ユニットとなったとき、相手モンスター1体の攻撃力を800ポイントダウンさせる!」

 

レベル6 シャークラーケン 攻撃力:2400→1600

 

「いけ、キング・アーサー! シャークラーケンを攻撃!」

 

「甘いぜ! 俺が伏せているカードはゼウス・ブレス! 相手モンスターの攻撃を無効にしてさらにお前にダメージを与える罠だ!」

 

 いや、説明をする前に発動しようよ……。

 心の中で突っ込みをいれていると凌牙は罠カードを発動しようとしていたが、先輩が口元を吊り上げた。

 

「俺に攻撃しても良いのかな?」

 

「なに!?」

 

「凌牙、教えてやろう! 貴様の妹が今、どうしているか!」

 

 先輩がそういって腕を掲げると凌牙の前に線画で描かれている璃緒ちゃんの絵が現われる。

 その絵は徐々に色が塗られていき、檻の中で倒れている璃緒ちゃんが写し出された。

 

「お前の妹は俺が作り出した空想世界。つまり、漫画の世界にいるのさ! もし、俺を倒せば俺が作り出した空想世界も、壊れる。そのとき貴様の妹はどうなるかな?」

 

 そういって先輩は可笑しそうに笑い出し、私は無言で睨みつけて手を強く握った。

 

『落ち着けよ、刹。大丈夫だ』

 

 ブラック・ミストの声に深く息を吐いて自分を落ち着かせた。

 

「(すこし、アーカイドのことを思い出しただけだから……)」

 

 あのときのことは思い出すとむかついてくる……だけど、いまは冷静さを失っては駄目だ。

 苛立ちを何とか押さえてデュエルの観戦に戻った。

 

「神代凌牙。貴様は勝てない! さぁ、No.を回収させてもらう! いけ、キング・アーサー!! フラッシュソード!」

 

 キング・アーサーの剣から黄色い光が飛び出していき、シャークラーケンを攻撃する。

 シャークラーケンは破壊され、攻撃を受けた凌牙は吹き飛ばされた。

 

「ぐっ、うわああぁ!」

 

凌牙LP:4000→3200

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 このままデュエルを続けていたら凌牙は璃緒ちゃんを盾にされてどんどん不利になっていく。

 どうにかしないと……。

 

「このままじゃ、シャークは…」

 

 悩んでいると遊馬君が心配そうな声をあげる。

 

「何とかして璃緒さんを助け出さないと……」

 

『だが、このフィールドは彼が生み出した世界。いわば、彼の創作物だ』

 

 アストラルの言葉に小鳥ちゃんは何か心当たりがあるらしく、暫く考え込むと遊馬君に向き直った。

 

「遊馬、あの人のスケッチブック!」

 

「え?」

 

 小鳥ちゃんが言った言葉にぴんと来ないのか遊馬君は首をかしげていた。

 スケッチブックって……昨日見せてもらったあのやつか。

 

「あの人が作り出した世界はすべてあの中に描いてあるはずよ。だったら……」

 

「そうか! あのスケッチブックにヒントが!」

 

 遊馬君はそういうとDゲイザーを外し、走っていってしまった。

 その後を真月君が待ってください!と声を張り上げながら追いかけていった。

 大丈夫かな……でも此処には残ったほうが良いと思うし、何かしらあっても遊馬君にはアストラルがいる。

 大丈夫だと思いたい。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はハンマー・シャークを召喚!」

 

 頭がハンマーの形をしているサメのモンスターが現われる。

 

レベル4 ハンマー・シャーク 攻撃力:1700

 

「駄目だ! そんなモンスターじゃ! No.を出せよ!!」

 

 凌牙が出したモンスターを見て先輩はいらだったように駄目だしをするが、凌牙の現在の手札ではNo.を出すことが出来ないのか悔しげに呻いている。

 すると先輩は横に垂れ流している長い前髪をなびかせた。

 

「仕方ない、手伝ってやるよ。罠発動、ヒーローの受難! 自分フィールド上にCHがいて相手がモンスターを召喚した時、召喚したモンスターと同じレベルのモンスター2体をデッキから選び特殊召喚する! さぁ召喚しろ、凌牙!」

 

 アイツは一体どこまで人をコケにすれば気が済むんだろうか……。

 明らかに舐めプでしょ、これって。

 

「チッ……。俺はスピア・シャークとツーヘッド・シャークを特殊召喚!」

 

 水しぶきの中から赤いからだに頭に槍の先端が着いているサメと青いからだに口には金色のビッドギャグみたいなものがついているサメのモンスターが現われる。

 

レベル4 スピア・シャーク 攻撃力:1600

レベル4 ツーヘッド・シャーク 攻撃力:1200

 

「さぁ、呼ぶが良い! No.を!!」

 

「俺はハンマー・シャーク、スピア・シャーク、ツーヘッド・シャークの3体でオーバーレイ!」

 

 3体のモンスターは水色の球体となって地面に現われる渦の中に入っていく。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現われろ、No.32海咬龍シャーク・ドレイク!!」

 

 渦から光が爆発すると凌牙のエースモンスターであるシャーク・ドレイクがフィールドに現われた。

 

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:2800 ORU:3

 

「さぁ、次はどうする? どうせ俺は攻撃できないんだろ?」

 

「とんでもない! 存分に攻撃してくれ。貴様の攻撃もすべて俺のストーリーに組み入れてある!」

 

 わざわざ相手にNo.を召喚させて何がしたいんだろう?

 アーカイドとは違っていたぶる為にやっているわけではないようだ。

 

「最強の敵の出現にピンチに立つ、真のヒーロー!」

 

 そういって先輩はポーズをとっていた。

 あぁ、なんとなくアイツが何をしたいのか分かってきたような気がする。

 

「クソッ! 行け、シャーク・ドレイク! キング・アーサーに攻撃!デプス・バイト!!」

 

 シャーク・ドレイクはサメの形をした光線を放ち、キング・アーサーに攻撃をする。

 キング・アーサーはそのサメの光線に噛み砕かれて破壊された。

 

「うわああぁ!!」

 

LP:4000→3600

 

 先輩は攻撃によって吹き飛ばされて地面にうつ伏せで倒れこむ。

 

「そんな……キング・アーサーがやられるなんて!」

 

 芝居がかった話し方をしながら先輩は起き上がりキング・アーサーの名を大声で叫んだ。

 

「世界の平和と希望がかかってる! 立ち上がれ、キング・アーサー!」

 

 必死な口調だが、口には笑みを浮かべていた。

 あの人は本当に漫画みたいなデュエルの展開を望んでいるんだろう。

 一方的に叩きのめすのではなく、苦戦を強いられながらも最終的には悪に打ち勝つっていうよくあるストーリーを再現しようとしているんだと思う。

 

「俺はフィールド魔法、コミック・フィールドの効果を発動! フィールドのCHがバトルで破壊されたとき、その破壊を無効にし攻撃力を500ポイントアップさせる! 蘇れ、キング・アーサー!!」

 

 地面のいたるところから光が漏れ出すと先輩のフィールドに光の粒子が集まりだし、キング・アーサーが蘇った。

 

ランク4 CHキング・アーサー 攻撃力:2400→2900 ORU:2

 

「さらにキング・アーサーの攻撃力が変化した時、キング・アーサーの効果を発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、アップした攻撃力分のダメージを与える!」

 

 キング・アーサーは自分の周りに漂っているオーバーレイ・ユニットの1つを上から下にまっすぐ斬り、剣から竜巻が発生してそれは凌牙を襲った。

 

「うわああぁ!!」

 

凌牙LP:3200→2700

 

 凌牙は竜巻に吹き飛ばされて地面へと叩きつけられる。

 

「どうだ、思い知ったか! 悪の手先め!」

 

 どちらかというと先輩のほうが悪役っぽい行動をしているけどね。

 心の中で突っ込みを入れていると凌牙は膝をついた状態でカードを1枚伏せてエンド宣言をする。

 

「さぁ、行くぞ! 俺のターン、ドロー! 俺は手札から装備魔法、奇跡の大剣をキング・アーサーに装備! これにより攻撃力が500ポイントアップ!」

 

「攻撃力が変化した……」

 

 キング・アーサーの持っていた白い剣は金色の装飾がついた赤い刃の大剣へと変わる。

 小鳥ちゃんは深刻そうに言うけど、正直もっと大幅に攻撃力を上げて効果を使ったほうが良いと思う。

 

ランク4 CHキング・アーサー 攻撃力:3400 ORU:1

 

「俺はオーバーレイ・ユニットを1つ使い、変化した攻撃力分のダメージをお前に与える!」

 

 またキング・アーサーはオーバーレイ・ユニットを斬ると剣に風がまとった状態で振り下ろすと風は竜巻となって凌牙に向かって放たれた。

 

「ぐわああぁ!!」

 

凌牙LP:2700→2200

 

「まだだ! キング・アーサー、シャーク・ドレイクを攻撃! フラッシュ・ソード!!」

 

 キング・アーサーの剣から光が放たれてシャーク・ドレイクを攻撃するが、No.はNo.でしか破壊されないという効果がシャーク・ドレイクにあるため戦闘破壊されずにフィールドに残っている。

 

「ぐうわあぁ、ああぁ!!」

 

凌牙LP:2200→1600

 

 凌牙は吹き飛ばされて地面へと倒れこむ。

 ライフが半分をきった……このままだと良いようにされたままやられることになってしまう。

 空想世界とかじゃなければすぐに助けに行けたと思うんだけど……。

 

「残念だな……No.はNo.じゃなきゃ倒せない。でもね、それもストーリーに織り込み済みなんだよねぇ。俺は奇跡の大剣の効果を発動! これを装備したモンスターがバトルで相手モンスターを破壊できなかったとき、この奇跡の大剣を墓地に送り手札から魔法カードを発動できる!!」

 

 地面に現われた周りに紫色の魔方陣が描かれた穴が現われ、そこにキング・アーサーは剣を突き刺した。

 すると先輩の額にバリアンの刺客がつけていた赤色の装飾に青色十字架に似た形のものが現われる。

 

「バリアン世界のために! 俺はRUM-バリアンズ・フォースを発動!!」

 

「あれは!?」

 

「刹の言うとおり、やはりバリアンだったか!」

 

 バリアンの刺客が必ず持っているカードに2人は驚きの声をあげる。

 先輩が発動したカードが赤紫色に輝くとキング・アーサーがオレンジ色の球体となる。

 

「俺はCHキング・アーサーでオーバーレイ・ネットワークを再構築!!」

 

 頭上の空が赤黒く変色し、雲の渦が発生してその中心にオレンジ色の球体は入っていく。

 

「カオスエクシーズ・チェンジ! 今こそ現われろ! 偉大なるバリアンの力の象徴!CX-CHレジェンド・アーサー!!」

 

 黒と深緑色の光が爆発を起こすと黒と深緑の大きな球体の中にいるキング・アーサーが変化していき、先ほどとは打って変わり黒い鎧に赤色に輝く装飾がついたモンスターが現れる。

 

ランク5 CX-CHレジェンド・アーサー 攻撃力:3000 ORU:1

 

「こいつがバリアンの新しい力!」

 

「カオスエクシーズはランクアップマジックで特殊召喚した時、相手フィールドにいるモンスターエクシーズ1体のオーバーレイ・ユニットをすべて自分のものに出来る!! カオス・ドレイン!」

 

 レジェンド・アーサーの足元にあった赤色の十字架に似た形をしたカオスオーバーレイ・ユニットから赤い光線がシャーク・ドレイクに放たれる。

 シャーク・ドレイクの周りに漂っていたオーバーレイ・ユニットは吸収されてカオスオーバーレイ・ユニットに変化する。

 

「そして奪われたオーバーレイ・ユニット1つにつきお前のモンスターの攻撃力を300下げる!」

 

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:2800→1900 ORU:3→0

 

「まだバトルは終わってなかったな……。バリアンズ・フォースで召喚したモンスターはNo.さえも破壊できる!!」

 

 え、そんな効果があったんだ……。

 あのとき、カオスエクシーズが出たときにはまだNo.は出してなかったし……次のターンに回ってくる前に倒したから知らなかったな。

 

「いけ、レジェンド・アーサー! シャーク・ドレイクを攻撃! カオス・ブラスト!!」

 

 レジェンド・アーサーの持つ剣から黒色の竜巻が発生してシャーク・ドレイクを攻撃し破壊した。

 

「ぐわああぁ!」

 

凌牙LP:1600→500

 

 吹き飛ばされた凌牙は地面に何度かバウンドしてから勢いが止まって仰向けに倒れる。

 

「シャーク。おい、シャーク!」

 

「ゆ、遊馬……!」

 

 突然ここにいるはずがない遊馬君の声が聞こえて驚いていると凌牙の目の前に遊馬君の顔が映し出される。

 

「シャーク、あったぞ! やっぱりやつの部屋にスケッチブックがあった! その中にあの漫画の原稿も一緒に」

 

 そういって遊馬君は一枚の原稿を見せる。

 

「確かにお前の妹はヒロインとして、牢屋の中にとらわれちまっている!」

 

 現行の一番下のコマに書かれている絵は先ほど先輩が見せてきた牢屋の中にとらわれている璃緒ちゃんとそっくりだった。

 

「ふん、見つけたようだな。だが無駄なことさ。結末はもう動かない!」

 

 先輩は悲しいラストさとこの後の物語の展開を語り始めた。

 

「囚われの姫を助けようと悪魔の使者シャークとヒーローの俺が戦い、ついに悪を滅ぼす。だが時既に遅く、姫は永遠の眠りについてしまったのさ……。つまり! お前はデュエルに負け、お前の妹は助からない!」

 

「勝っても負けても璃緒ちゃんは助からないってこと……」

 

「そんな……!」

 

 小鳥ちゃんは悲痛な声をあげ、私は舌打ちをしたい気分だったが我慢して先輩を睨みつけた後、凌牙に視線を向ける。

 凌牙は衝撃の事実を知って打ちひしがれたのか両手と膝をつけていた。

 

「こんなもんで俺達の未来を決められてたまっかよ! シャーク立てよ! たって戦えよ! 今はお前しか、妹を守れねぇんだ!! 前を塞ぐもんは全部ぶちのめす! それがシャークだろ!?」

 

 遊馬君の言葉に凌牙の顔つきが元に戻り始める。

 本当、遊馬君ってこういうところがすごいよね。

 デュエルカウンセラーとかに向いてるんじゃないかな……。

 

「どんな未来が待ってるかしらねぇが、璃緒は必ず俺が守る! だから璃緒、目を覚ませ! 璃緒ぉー!!」

 

 凌牙が璃緒ちゃんの名前を叫んだときだった、右手につけている指輪が光り暫くたつと凌牙は貯水槽があった場所に目を向けていた。

 私達もつられて視線を向けるとそこには前髪が水色で後ろ髪が青の病室で見た璃緒ちゃんの姿があった。

 え、何がどうしてこうなったの?

 目が点となっていると璃緒ちゃんの目に巻かれていた包帯が取れ、ゆっくりと瞳を開いた。

 璃緒ちゃんの瞳は赤色で、その目が凌牙に向けられた。

 

「凌牙! ……ひょっとしてデュエルで負けてる? ありえないから、私の前で負けるなんて」

 

「いったい誰のせいだと!」

 

 うわぁ、きっつい……。

 目が覚めて最初の言葉がこれとは……なんというか女王様タイプ?

 

『あぁ、あいつ神代凌牙の妹だな』

 

「(なにを基準にしてそう思った……)」

 

 ブラック・ミストの言葉に突っ込んでいると先輩は認めない! と声を張り上げた。

 

「俺の空想世界を破るなんて認めない!! 俺はレジェンド・アーサーの効果を発動! 相手モンスターを破壊した時、カオスオーバーレイ・ユニットを1つ使いバトルで破壊したモンスター1体を除外してその攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える!!」

 

 レジェンド・アーサーの効果を使おうとした時、先輩の足元から爆発が起きて吹き飛ばされた。

 

「なに!?」

 

「残念だったな。俺は罠カード、激流蘇生を発動していたのさ! このカードは自分フィールド上の水属性モンスターが破壊されたときに発動できる。このとき破壊されたモンスターはすべて特殊召喚でき、そのモンスター1体につき500ポイントのダメージを相手プレイヤーに与えるのさ!」

 

 破壊されたシャーク・ドレイクが凌牙のフィールドに戻ってきていた。

 

ランク4 No.32海咬龍シャーク・ドレイク 攻撃力:2800 ORU:0

LP:3600→3100

 

「馬鹿な……くっ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 凌牙のターンにいつの間にか移り、私はこの状況だというのに遠い目をしていた。

 相手エンド宣言、してないのにな……。

 

「俺はシャーク・ドレイクをエクシーズ素材としてカオスエクシーズ・チェンジ! 現われろ、CNo.32海咬龍シャーク・ドレイク・バイス!!」

 

 シャーク・ドレイクは戦闘体勢に入る前の形状になり地面に現われた渦に入っていき、光の爆発が起きると白い体に所々変化しているシャーク・ドレイクの進化した姿、シャーク・ドレイク・バイスが現われる。

 

ランク4 CNo.32海咬龍シャーク・ドレイク・バイス 攻撃力:2800 ORU:1

 

「シャーク・ドレイク・バイスの効果を発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地のシャークと名のつくモンスターを除外する!」

 

 シャーク・ドレイク・バイスが青白い光線を地面に向かって撃つと、そこに墓地に繋がる紫色の魔方陣が現われた。

 

「除外するのはシャーク・ドレイク!」

 

 墓地から半透明のシャーク・ドレイクが現われるとレジェンド・アーサーに向かっていった。

 

「シャーク・ドレイクの攻撃力2800をレジェンド・アーサーから奪う!」

 

ランク5 CX-CHレジェンド・アーサー 攻撃力:3000→200

 

「さらに速攻魔法、怒涛の侵食を発動! このカードはフィールド魔法1枚を破壊する!」

 

 発動したカードが光ると周りの景色は変化して元の病院の屋上に変わった。

 

「これで貴様のくだらねぇフィールドは消し飛んだ!」

 

「俺のコミック・フィールドが!!」

 

「さらにこのカードはフィールドにいる水属性モンスターの攻撃力を500ポイントアップする!」

 

ランク4 CNo.海咬龍シャーク・ドレイク・バイス 攻撃力:2800→3300 ORU:0

 

 これで先輩の残りライフと同じ数値のダメージを与えられる。

 そのことが分かっている先輩は怯えたように後退りをしていた。

 

「いけ、シャーク・ドレイク・バイス! レジェンド・アーサーを攻撃! デプス・カオス・バイト!!」

 

 シャーク・ドレイク・バイスから放たれた紫色の光線からさらに何十もの光線が放たれてレジェンド・アーサーに襲い掛かった。

 

「うわあああぁ!!」

 

LP:3100→0

 

 デュエルの終了を知らせる合図が鳴り響き、周りは0から9の数値に埋め尽くされてもとの風景に戻る。

 その間に遊馬君は喜びの声をあげていてよっ、大統領! と褒めちぎっていた。

 凌牙は貯水槽にいた璃緒ちゃんを下ろしてくるとお姫様抱っこで病院内へと戻っていった。

 さて、私は別のことをやらないと……。

 私は首をかしげながら周りを見渡している先輩に近づいた。

 

「先輩」

 

 声をかけると先輩は私に気づいて顔を上げる。

 

「すこし、話を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 笑みを浮かべてそういうと先輩は体を固まらせて、恐る恐る頷いた。

 バリアンのことを詳しく話を聞かないと……すこしでも情報が欲しいしね。

 




ん?とおもった所があったと思うので補足。
主人公はⅣが実は良い人でありトロンの命令で色々とやっていたということは知りません。
一応WDCであったシャークVSⅣのデュエルは映像で見ていましたが、あれで知るのはすこし無理がありますし、そのシャークから教えられてませんので。

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