遊戯王の世界に転生したがろくな事が起きない   作:アオっぽい

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第二話 空気を読んで流れに身を任せてたらろくな事がおきない

あの後、学校の授業をサボることになり結にメールを送ってから私の家へと移動した。

 学校のパソコンだと足がついたらまずいことになりそうだし、自分のパソコンのほうがやりやすいというのもある。

 二階建ての一軒家にたどり着き、玄関の鍵を開けて中へと入る。

 両親は私が幼いころ亡くなり、最近までは両親のおじいちゃんとおばあちゃんとで暮らしていたのだが亡くなってしまい今は私一人で暮らしている。

 まぁ、いまは関係のない話だが。

 

「じゃあ、あがって」

 

『おじゃましまーす』

 

1年組は元気よくそういうが神代は無言で中に入る。

 あぁ、あの後お互い自己紹介をしたんだけど前髪に特徴がある黒髪に赤色のメッシュが入っている男の子は九十九遊馬君、右側だけお団子に縛り髪が緑色の女の子は観月小鳥ちゃん、ちょっと太っている黒髪の男の子は武田鉄男君、水色のおかっぱの子は等々力孝君、髪の色が灰色で猫っぽい女の子がキャシーちゃんというらしい。

 なんというかすごく特徴がある子達だと思う。

 彼らをリビングに案内してジュースとコップを用意する。

 

「それじゃ、私は調べとくからゆっくりしてて」

 

「ちょっと待ってくれよ! ただここで待ってるなんて……」

 

 部屋から出て行こうとする私を九十九君は引き止め、何もしないで待っているのに納得がいかないのか俯いている。

 

「じゃあ、デッキ調整でもしてれば? 向こうにいったら天城と戦うかもしれないしね」

 

 そういうと九十九君はハッと我に返るように顔を上げ、力強くうなずくと観月ちゃんたちのところに行った。

 さて、頼られたからにはきちんと答えてあげないとね。

 自分の部屋に入りテーブルの上においてあるパソコンを起動させる。

 パソコンがたちあがるまで暇をしていると部屋の扉が開く音がして振り返った。

 

「あれ、神代どうしたの?」

 

 神代はしばらく私の部屋を眺めてから私のほうへと歩いてきた。

 

「あの天城カイトとのデュエルはどうだったんだ?」

 

「珍しいね。気になるんだ?」

 

 パソコンが立ち上がったので操作をしながら神代に問いかける。

 普段は誰とデュエルをしようと神代はとくにどうだったとか聞いてくることはなかった。

 最近雰囲気も変わったし、そのせいでもあるのかな?

 

「別に、ただ遊馬が強いって豪語していたやつだ。お前から見てどうだったか気になっただけだ」

 

 そうなんだと返事をした後、先ほどのデュエルを思い出す。

 といってもエンジェルパーミッションは阻止して叩き潰すデッキだからなー。

 

「たぶん強いと思うよ……」

 

 私が伏せていたカードの種類を把握し対策を立てていた。

 最後に出したあのドラゴンは攻撃力3000だし最初のターンでエクシーズモンスターを出したしね。

 エンジェルパーミッションじゃなかったら苦戦してたかな。

 

「なんで曖昧な言い方なんだよ」

 

「あー……今回いつものデッキじゃなくてパーミッションだったからね」

 

 私がそういうと神代はあれかと呟いていた。

 神代とはエンジェルパーミッションで一度デュエルをしたことがある。

 神代が一時期荒れ始めアンティルールでデュエルをするようになり、結にデュエルを仕掛けカードを奪おうとしたところで私が少し頭冷やそうかとエンジェルパーミッションデッキを使ったのだ。

 なので、神代の中では私の本気=パーミッションデッキというふうになっている。

 

「お前が本気を出すほどの相手だったということか……」

 

 神代が小さく呟いた言葉は私にも聞こえていたが、訂正するのも面倒だったのでそのままウィルスのほうに集中した。

 

「俺は遊馬の所に戻る、ちゃんとやれよ」

 

「わかってるって」

 

 後ろを見ていないので詳しくはわからないがきっと睨み付けているに違いない。

 扉が閉まる音が聞こえ私は首を左右に曲げポキポキと鳴らし画面に向き合った。

 

「さてと、さっさと終わらせますか」

 

 

 

 

 あれから少し時間が経ち私はキーボードにタンと打ち込んで深く息を吐き椅子の背に寄りかかった。

 

「あー……疲れた」

 

 パソコンの画面を見ていたせいで目が疲れているのを感じ目頭をすこし揉む。

 画面にはデフォルメされた豊穣のアルテミスの姿が何百とあり、それは意思があるかのように動き次々と画面から消え、次に地図が映し出される。

 あとは反応があるところを見つけるだけ。

 

「あ、反応あった。えっとここは……第四埠頭、ハートランドが管理してるところ?」

 

 海の近くに設置されている埠頭の画面が映し出され、私は首をかしげる。

 何でこんなところで?

 とりあえず、場所もわかったことだし九十九君に教えてこよう。

 リビングのほうに向かうとなにやら盛り上がっているようでみんなの話し声が聞こえてくる。

 

「だからそのカードよりこのカードを入れたほうが」

 

「いやそれだと重くなるから」

 

「やっぱりこっちのカードが」

 

「調整中で悪いけど場所がわかったよ」

 

 みんなが話しているところで話しかけると彼らは勢いよく顔を上げて私のほうを見た。

 なんかシンクロしててちょっと怖いんだけど。

 

「どこなんだ!? アストラルはどこに!?」

 

「落ち着いて。場所はハートランドが管理している第四埠頭の倉庫だよ」

 

 コピーしておいた地図を九十九君に渡すと彼はさっそくそのまま走り出して家から飛び出していった。

 

「ちょっと遊馬!!」

 

「ちっ、まちやがれ遊馬!」

 

 九十九君がいなくなるとみんなも慌てて彼の後を追っていった。

 すこし置いてけぼりをくらいつつも誰もいなくなった空間でテーブルにあるものを見つけて固まった。

 

「九十九君、デッキ忘れてる……」

 

 ちらばっているカードを見て深くため息を吐いた。

 それだけ急いでたってことだと思うけど、デュエリストとしてどうかと思う。

 カードを集めているとべつにこれといって興味がなかった筈なのに一つだけなぜか気になるカードがあった。

 黒い枠にランク2のエクシーズモンスター。

 

「No.96ブラック・ミスト……」

 

 普通ならエクストラデッキに入っている筈なのになぜデッキのカードと一緒においてあったのだろうか?

 

「ま、いっか」

 

 私はそのカードを一番上におき外に出る支度を始める。

 さすがに制服のまま外に出るのは恥ずかしいしね。

 支度を終えて外に出るまで私は気がつかなかった。

 私のデッキに1枚のカードが意志を持って紛れ込んでいたことに。

 

 

 

 出来るだけ早めに歩いて倉庫へとたどり着くとそこにはやはり彼らが入り口付近で立ち往生していた。

 

「あ、いたいた。九十九君!」

 

「え、刹? どうしたんだよいったい?」

 

 なぜか頬が赤く腫れていることに触れないで私は彼のデッキを渡した。

 

「はい。これ、忘れてたよ」

 

「俺のデッキ!?」

 

 デッキの内容を確認してもらって九十九君は自分のデッキフォルダを慌てて中身を見てみるがそこにはカードが一枚も入っていないことに気づき、デッキを受け取った。

 

「サンキュ、刹! 助かったぜ!」

 

「どういたしまして。それでどうしたの?」

 

「扉が開かないんです……」

 

 私が問いかける観月ちゃんがそう答え、倉庫の大きな扉を見上げる。

まぁ、そりゃ閉まってるよね……普通はさ。

 

「しょうがない。ちょっと待ってて」

 

 私は持ってきたDパットを起動させて作っておいたウィルスを起動させた。

 

「おい、それは?」

 

 画面の中で動いている豊穣のアルテミスを神代が肩越しから見つめている。

 

「ウィルスだよ。いまこの倉庫のセキュリティに送り込むから、もう少しすれば……」

 

 タブレット式のDパットのキーボードをたたきセキュリティの一部を乗っ取って扉を開けさせると、目の前の扉は音を立てて人が一人入れるぐらいの幅まで開いた。

 

「おぉ! ナイスだぜ刹!!」

 

 扉が開いたことにより彼らは顔を見合わせてうなずくとすぐに倉庫の中へと入っていった。

 私のやることも終わったことだし、早く帰ろうかな。

 

「黒峰、早く行くぞ」

 

「あ、ハイ」

 

 と思ったが、神代に声をかけられたので帰れるに帰れなくなってしまった。

 いや、無理に帰ろうとすれば帰れるんだろうけど、明日神代になんていわれるか……結構根に持つタイプだから面倒なんだよね。

 そんなわけで私は彼らの後を追って中へと入っていった。

 しばらく走っていると九十九君の目の前に水色のゴリラに似たロボットが上から落ちてきた。

 私たちが困惑していると後ろにくもに似たロボットが落ちてくる。

 

「何だコイツら!?」

 

「たぶんここのセキュリティロボットだと思う」

 

「黒峰先輩、こいつら何とかできませんか!?」

 

「個別で動いてるやつはちょっと……」

 

 なんてのんきで話していると目の前のゴリラのロボットは九十九君に向かってこぶしを振り下ろした。

 九十九君は攻撃をよけ、仕返しにジャンプしてとび蹴りをゴリラのロボットに食らわせた。

 なんでこの世界のデュエリストは身体能力もすごいんだろうか……。

 遠い目で目の前の光景を見ていると神代が追撃でゴリラのロボットを蹴り飛ばしているのが見え、後ろでは着地した九十九君にくものロボットが体当たりを仕掛けてこようとしたところ武田君が突進して攻撃を阻止していた。

 ここに私がいる意味はあるのだろうか……。

 廊下の片隅でロボットたちと応戦している彼らを見て思う。

 

「遊馬! 黒峰! お前らは先にいけ!!」

 

「えっ、でも……」

 

「アストラルを助けるんでしょ! 行って!」

 

「ここは俺たちに任せろ!」

 

 え、なんで私も先にいけって言われてるの?

 話の流れ的に私もロボットたちを錯乱させるために動き回る役割じゃ……。

 

「もし開かない扉があったら黒峰に開けてもらえ!!」

 

 あ、そういうことですか……。

 私は納得し九十九君がゴリラのロボットの股下をスライディングで潜り抜けロボットが九十九君に気を取られているところでロボットの横を走って向こう側に行く。

 

「九十九君、早く行こう」

 

 九十九君は元気よくおう! と返事をして走り出し、私はその後を追った。

 しばらく走っていると電子ロックされている扉があり私たちは立ち止まる。

 

「くっそ! 開かねぇ……。開けろよ、開けろー!!」

 

 力強く扉をたたき叫んでいる九十九君は放っておいて、扉の横に設置されているコンピューターに駆け寄り操作をする。

 なにこれ?

 パスワードを入力するだけの機械かと思ったらこの倉庫の地図とか画像とかがデータとして入ってる。

 

「どうしてこんなものが……」

 

 もしかしてメインコンピューターにつながってたりするのかな。

 少し好奇心に負けて一つの画像を開いてみた。

 

「あれ、この人って天城?」

 

「どうしたんだよ、刹? ……て、これって」

 

 私が開いた画像には水色のショートカットの男の子はブランコに乗っており、隣にはYシャツにサスペンダーをつけた男が写っている、二人は笑いあい仲のよい姿が映し出されている。

 サスペンダーをつけた男の表情は違えど、クリーム色の髪を一つに固めて逆立てている特徴的な髪型は他にはいないあの天城カイトだった。

 隣の子は弟かな?

 

「……ゼアル?」

 

「え?」

 

 九十九君が呟いた言葉に驚きを隠せずに九十九君をみるが、肝心の彼は心ここにあらずといった状態で呆然としていた。

 ゼアルって遊戯王ZEXALと同じだけど、さすがに偶然じゃないよね。

 

「もう許さないでアリマス」

 

 そんな機械音を耳にすると同時に目の前で閉まっていた扉が開かれ、そこから学校で出会ったロボットが出てきた。

 

「観念するでアリマス!」

 

「お前は確か……」

 

 九十九君は自分より背の低いそのロボットに対して怪訝そうに見つめているとロボットの目が赤く光ったような気がした。

 

「オービタル7、でアリマス」

 

 そういいながらロボットもといオービタル7は変形していきその高さは2mを越えた。

 

「ひょ?」

 

「うわぁ……」

 

 明らかにまずい雰囲気に口元を引きつらせているとオービタル7は左腕を振りかざしこちらへと攻撃してきた。

 

「うわああぁ!!」

 

「わあぁ!」

 

 なんとか左右に散らばるように攻撃を避けるが、オービタル7が攻撃した地面は穴が開きひび割れが起きておりその攻撃力の高さが物語っていた。

 あんなのにあたったら死ぬって……。

 オービタル7の両腕には赤いドリルがいつの間にか装備されており、じりじりと九十九君に向かって移動している。

 

「九十九君逃げて!」

 

 片腕のドリルを振り下ろすと同時にそう叫ぶと九十九君は攻撃を避けるが勢いで壁側についてしまいオービタル7に追い詰められてしまう。

 

「私のターン、ダイレクトアタックであります!」

 

「この!!」

 

 攻撃を仕掛けたその瞬間を狙って私はオービタル7にむかって体当たりをかました。

 

「お、わ、ちょ……あらぁ!?」

 

 予想してなかった攻撃にオービタル7は見事に横転し地面へと倒れた。

 

「お、起き上がれられないであります!? そっちのターンでアリマスが起こしてほしいでアリマス!!」

 

 腕を使って立ち上がろうとするもなかなかうまくいかないのか、地面に倒れたまま変な風に動いている。

 

「た、助かったぜ。刹」

 

「どういたしまして。さ、いこう」

 

「おう!」

 

 オービタル7を転ばしたままにしておいて私たちは開いた扉の中に入った。

 部屋の中は広い空間が広がり中心部に大きな機械が備え付けられ、クリスタル状の物体の中に九十九君のペンダントが浮かんでいた。

 

「あれは、皇の鍵!」

 

 九十九君が中央の機械に駆け寄っていくと急にペンダントから光が漏れ出した。

 

「これはいったい……」

 

 困惑している私をよそに九十九君はアストラルという人物の名を呼び続けている。

 すると光はいっそう強くなり、ペンダントを覆っていたガラスは砕け散ってペンダントは九十九君の目の前に降りてきた。

 

「アストラル!」

 

 九十九君がもう一度アストラルの名を呼んだときだった、皇の鍵が輝き九十九君を包み込む。

 私はまぶしさで目をつぶり、光がなくなったことを感じてゆっくり目を開けるとそこには誰もいなかった。

 

「つ、九十九君?」

 

 え、これどういうことなの?

 頭が混乱してどうにかなりそうだったがふと脳裏にこれは遊戯王なのだという言葉が思い浮かんだ。

 

「そうだ……。遊戯王なんだ」

 

 人とモンスターが超融合したり真の姿を見せてやると言って人とバイクが合体したりそんなことが当たり前なのが遊戯王。

 いきなり目の前からいなくなることも遊戯王にとっては少なくはない。

 

「……ふぅ、落ち着いてきた」

 

 こんな落ち着かせ方はどうかと思うが、なぜかしっくりきたのでよしとしよう。

 今の私ならどんなことが起ころうとも動揺しないだろう……たぶん。

 

「さてと、あのペンダントでなにがわかったのかな」

 

 コンピューターをいじくり解析データを見てみるとあのペンダントはこの世界のもので出来ていないこと、ペンダントのなかに別空間が存在していること、バリアンの物質?と共鳴することでペンダントへの入り口が開いたことが書かれていた。

 

「ペンダントの中は見れないのかな……」

 

 その別空間を見てみたいが、現在ペンダントは九十九君と一緒に消えてなくなったので見ることは不可能だろう。

 

「あー!! 何やっているでアリマスカ!?」

 

「あ、やば」

 

 いつの間にか起き上がったのかオービタル7の声が聞こえ、振り返るとあの小さい形態のオービタル7がいた。

 

「む、あのトンマがいない……て、皇の鍵がなくなっているでアリマス!!」

 

「九十九君がペンダントを持ってどこかに消えちゃってね……」

 

 比喩とかではなく言葉通りに目の前から消えたんだけどね。

 私の言葉にオービタルは何ですと!? とロボットなのに口を開けて驚いていた。

 

「あの鍵の中にはカイト様が! カイト様ー!!」

 

 落ち着けと言いたいところだが、さすがに自分が使えている主がこの世界の物質で出来ていないペンダントの中にいて、しかもそのペンダントがなくなれば慌てたりするのはしょうがないよなぁ。

 どうしようかと悩んでいると頭上から唐突に光り輝く球体が現れた。

 

「何事デスカ!?」

 

「……今度はなに?」

 

 引き続く超常現象に呆れながらもその光を見ているとその光は二つに分かれ、地面へと降りてくる。

 光は人の形をかたどり始め、粒子がはじけるとそこには九十九君と天城が現れた。

 

「九十九君!」

 

「カイトさまー!!」

 

 私は九十九君にオービタルは天城に駆け寄ると二人はあたりを見回しここがどこか確認していた。

 

「刹!? お、俺戻ってきて……ゼアルも解けてる!?」

 

 九十九君は自分の体を触ったりとなぜか混乱していたが急にハッと我に返り天城のほうを見た。

 

「黒峰刹、なぜ貴様がここに?」

 

「あのペンダントを探すためにちょっとね」

 

 天城はというと私をにらみつけてそう問いかけ私の回答を聞くと目を細めにらみつけたと思ったら九十九君を見る。

 

「九十九、遊馬……」

 

 そう九十九君の名前を呟くしばらく見詰め合っていると天城は背を向けて早足で歩き始める。

 

「ここを引き払うぞ。オービタル!」

 

「カ、カシコマリ!自爆作動システム起動させます」

 

 いま、あのロボット何言いやがった?

 私たちが何かを言う前にオービタルは赤いボタンがついたリモコンを取り出しポチッとなと言いながらボタンを押すと周りが赤く点滅しだす。

 

「ちょっ、洒落にならない!」

 

「な、なんだいったい?」

 

 ただならぬ雰囲気ではあるが九十九君はことの重大さがよくわかっていないらしく回りを見ているだけ、私はあせって九十九君の腕を掴み走り出した。

 急に引っ張られたことによりバランスを崩していたが持ち前の身体能力でこけることはなかった。

 

「いったいなんなんだよ!?」

 

「この建物が爆発するの! はやく逃げるよ!!」

 

「ば、爆発!?」

 

 まったく爆発落ちってサイテー!

 漫画とかだといいと思うけど現実でこんなのやられると肝が冷える。

 天城たちはどこか別ルートで脱出しているのか姿が見えない、しかたないので来た道を戻っているだけだ。

 その途中で爆発までのカウントダウンを刻む機械音が放送で聞こえてきた。

 

「あ、そうだ! 小鳥たちは!?」

 

「観月ちゃんたちは大丈夫。この雰囲気なら逃げてるよ。いまは自分の心配をすること」

 

 現在カウントダウンは5分きっている。

 まずい間に合わないかもしれない……。

 どうするかと悩んでいると大きめの窓が見えたので私は急停止して窓を開けて外を見てみる。

 

「どうしたんだよ刹!? いそがねぇと」

 

「九十九君」

 

 私は九十九君の手を強く握り締め、今は困惑でゆれているその目を見つけた。

 

「飛び降りるよ」

 

「へ?」

 

「行くよ!」

 

 手を離して窓の枠に手をかけ私はなりふり構わずここから飛び降りた。

 落下によりくる風に目を細めていると頭上からカットビングだー! との声が聞こえ、私はホッと息を吐きこれからくる衝撃に身構え息を止めた。

 

 

 

 

 

「それにしても驚いたぜー。いきなり飛び降りるとか言い出すんだもんな」

 

「爆発まで時間がなかったからね……」

 

 あの倉庫が爆発し私たちは生き残った。

 私たちが飛び降りた先には海があり、海にもぐることで爆発の衝撃も回避して怪我もなくここにいる。

 ただ岸に上がるまでがちょっと大変だったけど。

 現在は神代たちがいるであろう倉庫跡地に向かっている。

 

「遊馬! 遊馬あぁぁ!!」

 

「あれ? 小鳥の声か?」

 

 歩いていると倉庫があった場所から小鳥ちゃんの九十九君を呼ぶ声が聞こえてきた。

 おそらく九十九君が爆発に巻き込まれてしまったと思っているのだろう、とうの呼ばれた本人はのんきに首をかしげている。

 

「はやく行ってあげたら?」

 

「ん、おう!」

 

 私がそういうと九十九君は笑みを浮かべてうなずき走っていった。

 私は私でゆっくり歩いて倉庫前にたどり着くとちょうど九十九君が観月ちゃんに殴られそうになっていた。

 

「あ、刹さん!」

 

「黒峰、お前も無事だったか」

 

「まぁ、何とかね。爆発するってきいて肝が冷えたよ」

 

 たどり着いた私に神代達も気づいて駆け寄ってきてくれた。

 本当、こんなことはもう二度とごめんだ。

 

「それにしても二人ともすごくびしょびしょ。大丈夫ですか?」

 

「あはは……。出来ればはやく着替えたいかも」

 

 キャットちゃんの心配そうな声に乾いた笑いを浮かべ水を吸って重くなったスカートをつまむ。

 視界の隅では観月ちゃんがハンカチで九十九君の顔を拭ってあげている、そしてそれに気づいたキャットちゃんが慌てて九十九君に駆け寄りタオルを取り出していた。

 リア充は爆発するといいよ。

 深くため息を吐き、星が見え始めている夜空を見上げてみると空には変形したオービタルを背中につけ空を飛んでいる天城の姿があった。

 

「カイト……」

 

 それに気づいた九十九君は目を吊り上げて天城を見ている。

 はやく帰りたいな…。

 みんなで天城が見えなくなるまで見つめている間、私だけがそう思っていた。




Q.なぜ倉庫を爆発させた?
A.作者のノリ。話の内容的には拠点としている場所がバレたのでNo.とかのデータを残さないために爆発。

Q.あの倉庫に窓ってあったっけ?
A.あった…ということにしておいてください。

次の話はタグにあるご都合主義満載の話になりそうです。
そんな物にすがらないと小説を書けない私を許してください!

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