あの後、私はいつの間にか家に帰っていた。
遊馬君たちと何かしらしゃべったような気がするが記憶にまったくない。
ベッドに入って寝て、次の日のWDC予選3日目をまるまる使ってⅤに言われたデュエルで私がかけているものを考えてみたが何も分からなかった。
ブラック・ミストは私の様子を察してか、それとも何かを企んでいるのかNo.集めのことを口にすることはなかった。
ご飯の催促だけはきっちりとしていたが。
そして決勝大会前日の夜、私はパーティに着ていくような衣装を着てハートランドに来ていた。
主催者Mr.ハートランドから前夜祭の招待状が届き、なんでも決勝大会出場者は必ず参加しなければならないと書かれていたので仕方なくパーティ会場に来ている。
招待状を係りの人に見せて記者などが両サイドにスタンバっている長いレッドカーペットを歩き会場の中に入る。
中に入ると広いロビーにすでにたくさんの人で賑わっており、オボットの演奏が聞こえてくる。
移動式のテーブルには料理が並べられて思い思いに料理を取り談笑しながら食べている。
今回のパーティは立食パーティのようで端っこにも椅子が見当たらなかった。
私は料理などを取った後、誰かに話しかけられる前に壁のほうに移動して周りを観察しながら料理を食べる。
「あれ?」
しばらくして見覚えのある顔2人が見えたので空になった皿を徘徊しているオボットに渡して、その2人に話しかけた。
「都賀原、神代こんばんは。なんか珍しい組み合わせだね」
手を上げて挨拶をして思ったことを言うと都賀原は笑みを浮かべ、神代は興味なさげに顔をそらす。
「少し世間話をしていたのだよ。ところで黒峰刹、ハートピースはいつごろ完成した? 私はな……」
「1日目の夕方にはそろったけど」
長くなりそうだったので都賀原の言葉を遮ってそういうと、都賀原は笑顔を浮かべたまま固まった。
「早いな。俺は2日目の昼ごろだ」
「デュエリストを選ばずに片っ端から倒していったからね。選んでいたら時間がかかるし」
神代はなるほどと頷いていると都賀原がところで! と話題を変えるために声を張り上げる。
「森沢結の姿が見えないがどうしたのだ? 予選落ちしたとしても貴様にくっついてパーティに来ると思ったのだが?」
「結は……ちょっとね」
私は笑みを浮かべてあいまいに答える。
本当のところ、結はこのパーティに来ようとしていたのだが私がやめさせた。
Ⅳがこのパーティに来ている可能性があり、結はまだあのデュエルの心の傷がいえてない。
そんなときにアイツにあってしまったらパーティ所ではなくなる。
まぁ、少し1人で考えたかったって言うのもあるけどね。
小さくため息を吐くと都賀原がじーと目を半開きにしてこちらを見ているのに気づいた。
「……なに?」
「なにかあったな?」
「まぁ、ね。結のことは」
詳しくは言わないという前に都賀原は違うと言い放つ。
私は首をかしげ、神代も何を言いたいのか分からないのか怪訝な表情を浮かべている。
「貴様に何かあったなと聞いたんだ。いつもより表情が暗いぞ」
「「え?」」
都賀原が言った言葉に私と神代は同時に驚きの声をあげた。
おそらく言葉の意味は同じだと思う。
まさかいつもうるさいだけがとりえの様な都賀原が些細な表情の違いを察知することが出来るなんて……。
私たちの反応が気に入らなかったのか都賀原は体を震わせてこちらに指を向けた。
「貴様ら! その反応は何だ!」
「え、だって……ねぇ?」
私は神代に同意を求めるとかすかにだが神代は頷く。
「ぐぬぬ……まぁ、いい! 貴様の悩みを洗いざらい吐いて貰おうではないか。暗いまま決勝大会に出てもらっては困るのでな!」
何が何でも言ってもらうと腕を組んですでに聞く体勢に入っているのを見てどうするかと考える。
Ⅴに言われたことは自分で考えようと思ったんだけど、昨日まる1日使っても分からなかったわけだし聞いてみるのも手なのかな……。
本来なら自分で気づかないといけないんだろうけど。
「名前を伏せさせてもらうけど、ある人に……私のデュエルは大事なものが欠けているって言われてね」
都賀原は顎に右手を当てしばし考えた後ため息を吐き、神代は少しの間考え込んでいたが罰が悪そうに顔をそらした。
「わかったんだね……」
2人の反応を見て私は少し落ち込んだ。
1日使ってもまったく分からなかったというのに……数分もしないうちに気づくなんて。
「……貴様とのデュエルはたまに機械を相手にしているのではないかと思うときがある」
一瞬、なにを言われたのか理解が出来なかった。
「おい、都賀原!」
神代が都賀原の右肩を乱暴に掴むと睨みつけて言いすぎだと低い声で言うが都賀原は神代の手を払いのけて私を見る。
「私は嘘をつけない。遠まわしに言う気遣いも出来ん。だからはっきり言った。貴様もそのほうがいいだろう?」
「そう、だね……」
視線を落として拳を握る。
気分が少しずつ落ちていくのが分かった。
「理由とか聞かせて」
ここで落ち込んだまま聞かないで置いたらおそらく私は一生大事なものが分からないと思う。
都賀原は頷いたあとそのまま言葉を続けた。
「結論から言おう。貴様のデュエルは魂がこめられてない」
「魂?」
眉間に皺を寄せて怪訝な表情を浮かべると都賀原は肩をすくめて首を横に振る。
「どうやら貴様は根本から違うようだな」
まぁ、確かに私の前世では遊戯王はただの遊びだったしな・・・。
遊んでいる人はそれなりにいるけど、それでも人口から考えるとごく一部。
こちらのように逆にやってない人のほうが少ないなんてこともなかったし。
「1つずついくとしよう。黒峰刹、デュエルは楽しいか?」
「……楽しいよ。楽しくなかったらデュエルしてないし」
「そうではない。デュエル中にたとえば自分が劣勢となった、次の自分のターンで決めなければ負けるだろう。貴様はそのときどう思う?」
今までしてきたデュエルを思い出し、私が劣勢のときどうしていたか考える。
私の場合はやばいなぁってちょっと思いながら普通にデュエルを続けていた・・・はず。
「神代、お前はどうだ?」
「は? なんで俺が……」
神代は文句を言おうとしたが都賀原と私の視線に耐えかねて観念したようにため息を吐くと呟くように話し始めた。
「その状況をどう切り抜けるか考えて……楽しんでる」
「私の場合はいかにして相手の上を行くかだな……同じようなものだが。そして劣勢ではなくてもデュエル中は楽しいと気持ちが弾んでいる。ほとんどのデュエリストはそうだ。黒峰刹、貴様はその経験はあるか?」
考えるまでもなかった、私にはその経験が一度もない。
ただ、気持ちが弾むこともなく淡々とデュエルを進めていただけだった。
楽しいか……デュエルは楽しいと思っていたんだけど違ったのか。
「その表情を見るにないだろうな。貴様がいう楽しいはデュエルをする、それだけが楽しいという意味だろう」
都賀原の言葉に何もいえなくなった。
実感はあまり沸かないが、おそらくそうなのだろうと頭では理解した。
「貴様のデュエルはただしているだけのものだ。誇りや魂をぶつけ合うような気持ちもなければデュエルに対する信念もなし相手に勝とうとする意思も薄い。本来ならそれをデュエリストと」
「都賀原、それ以上言ったらさすがに見過ごせねぇよ」
神代の言葉にさすがに言い過ぎたと感じたのか都賀原は咳払いをして私のほうをちらりと見やった。
「それと貴様のデッキを一度見せてもらったことがあるが、貴様のデッキは内容だけ見ると効率よく作られている!」
「……それの何がいけないの?」
効率がいいと手札事故も少なくなるし、いいこと尽くしだと思うんだけど。
「デッキを、カードを信頼していないと言っているようなものではないか! 本来ならあのようなデッキは並みのデュエリストが扱ったら手札事故を起こす。なぜか貴様は普通に扱えるみたいだがな」
「え、そうなの?」
そんなの初めて聞いたんだけど……。
目を見開いて思わず問いかけると2人は同時に頷いた。
「一度お前のデッキをそっくり真似てデュエルをしたやつがいた」
「そのとき、貴様はいなかったから知らないと思うが……悲惨なものだったぞ」
2人してそのときの光景を思い出すように遠い目をしており、その目には哀れみが含まれていた。
それもしらないな……一体いつの話なんだろうか。
というか、どのデッキを真似たかは知らないけど手札事故を起こすって……なんで?
話がいったん逸れてしまったので、話題を戻すために都賀原は話を続けた。
「先ほどいったとおり貴様はいろいろと足りていない。だが、貴様が変わるというのならば私は大歓迎だ。そちらのほうがデュエルは楽しいからな!」
「……かわれると、いいな」
右手で左手を握り締めて視線を下へと落とし私は呟いた。
そうしているとなぜか都賀原は慌て始め、神代は責めるように都賀原を見ている。
そして2人が肩を寄せ合っていつもなら落ち込まないはずだやら今回といつもは違うだろうという囁き声が聞こえてきた。
「す、少し待っていろ! 甘いものを取ってきてやろう!」
元に戻った騒がしさが走って遠くにいっている間に私は深くため息を吐いた。
「ねぇ、神代も機械を相手にしてるって思った?」
ちらりと視線を投げると神代は視線を泳がせた後、後頭部を掻いて口を開く。
「恐ろしくは思ったことがある」
首を傾げてどういう意味だと問いかける前に神代はそのまま続けた。
「お前は優勢に立ったときでも勝ったとしても表情を変えることがあまりない。本当に淡々とデュエルをしていて、俺はあのときお前が恐ろしく感じた」
今は違うけどなというと顔をそらしてズボンのポケットに手を突っ込んだ。
あのときとはおそらく私が初めて神代にパーミッションデッキを使ったときのデュエルだと思う。
あまりデュエル中の自分の表情とかそういうのは気にしないからわからないなぁ。
私たちが無言でいるとしばらくして都賀原が早足で来るとその手には色とりどりのケーキが盛り付けられた皿があった。
「これを食べて少しは元気を出せ。いいか、泣くなよ?泣くんじゃないぞ?」
ムッとしたがせっかくなので皿は受け取ってフォークを持ち、ケーキを少しずつ食べ始める。
「ねぇ、デュエルで魂を込めるってどうやるの?」
「そんなもの言葉で表すことが出来る筈なかろう!」
私の問いかけに都賀原は胸を張って言い放ち、神代は難しい表情を浮かべている。
都賀原はなんでそんなに偉そうにいえるのだろうか……。
「まずはデッキのほうから変えてみたらどうだ?」
神代の提案に私はすこし思案してから頷いた。
それって前世では事故が確実に起こるようなデッキを作れってことだよね。
明日は決勝大会だけど、一応やってみようかな。
「……俺はそろそろ帰るぜ」
「え、パーティはまだやるみたいだけど?」
携帯の時計を見た後、手を振って帰ろうとしている神代に声をかけるが神代は別に最後までいなくてもいいだろうといって歩き出した足を止めずにそのまま去っていってしまった。
「ふっ、明日から楽しみだな。ではな、黒峰刹。明日、また会おう」
都賀原も手を振ってこの場から去っていってしまった。
1人になってしまったことでまた壁のほうに移動して都賀原や神代に言われたことを頭の中で考えていた。
なんというか、本当に根本というか魂レベルで違うというか……。
ここの人たちと私の認識の違いを改めて突きつけられたような気がした。
途中で通りすがったオボットからジュースをもらい、ケーキを食べながら周りを見ていると急に演奏をしていたオボットたちがドラムを鳴らし始めた。
すると照明は暗くなり2階にある大きな扉が開かれて、そこから黄色の奇抜なスーツのようなものを着たメガネの男性が姿を現わし、大きなホログラムが写し出される。
「ハート・バーニング!!」
そう叫んだのはこの大会の主催者であるMr.ハートランドだった。
彼の登場で会場にいる人たちは拍手を送る。
「レディース&ジェントルマンアーンドデュエリストの皆さん! パーティをエンジョイしてますかー!?」
パーティというか食事を楽しんでいます。
ケーキを食べながらそんなことを思っているとMr.ハートランドの話は続いた。
「デュエルカーニバルも明日から決勝大会! ここで改めてファイナリスト25名の勇士を紹介しよう!まずは」
一人目の紹介が入ろうとしたときMr.ハートランドのホログラムにノイズが走りそのまま消えてしまった。
周りが動揺の声を出していると子供の大きな笑い声が会場に響き渡った。
会場に設置されているライトが入り口のほうを照らすとそこには鉄の仮面をかぶった少年が笑みを浮かべてそこに立っていた。
「あの子……」
たしかⅤと戦った部屋でハルト君と一緒にいた子……だったよね?
少年が歩き出すと周りの人たちはその子から離れるように道を譲る。
「わあぁ! おっきいケーキ!」
無邪気な子供が大きなケーキを見て喜ぶ、普通ならそう見えるはずなのだがなぜか素直にそうは思えず逆に不気味さを感じた。
少年は階段を上っていくとMr.ハートランドが立っている扉の階段下まで来る。
「き、君は……」
「僕、トロン。トロンっていうんだよ」
トロン……確かⅤやⅢ君やトロンって人の名前を言っていたような気がする。
あの少年が黒幕的存在なの?
トロンといった少年は階段を上りMr.ハートランドの足元にまで来て何事か話すと急に声をあげて笑い出し、反対側にある柵に手をかけて身を乗り出した。
「僕ね、ケーキだぁいすき!! アッハハハハ!!」
なんなんだろうか、あの少年は……。
眉間に皺を寄せてみているとトロンは視線を移動させる。
「ねぇ、そこのお兄ちゃん。決勝で会おうね」
トロンはそういうと誰かから視線をはずし、こちらを見たようなきがした。
右側の目と口元のみが見えるその仮面でトロンは目を細めて笑みを浮かべている。
とたんに背筋に寒気が走り、それを振り払うかのように首を振る。
するとトロンはまた視線を正面に戻し何もないはずの宙に顔を向けてそのまま見続けていた。
「フフッ、アハハハハ!! アッハハ!!」
そしてトロンはまた大声で笑い出すと後ろに下がった。
照明がトロンから外されて光が消え、会場の照明が明るく照らされるとトロンがいた場所にはすでに誰もいなくなっていた。
「きえた?」
「どうなってるの?」
突然消えたトロンに会場にいる人たちが騒ぎ始める。
「あ、みつけた!! 俺の偽者!」
動揺が渦巻いている会場の中で入り口のほうに下着姿の男性がそんなことを叫びながらいきなり現われた。
後ろには係りの人がいるのでおそらく変質者ではないことが分かる。
それからはひどかった。
偽者が大きなケーキにぶつかった後、本物らしき下着姿の男性が捕まえようとしたところ大きなケーキにぶつかってしまいケーキは転倒。
クリームなどがそこら中に散乱することとなってしまった。
逃げている背丈が2m以上ある男の人は着ている服が逃げている途中ではがれて本当の姿を現わしていた。
「あれは確か……えっと徳之助君だっけ?」
あの特徴的なメガネに髪型はおそらく遊馬君の友達の徳之助君という子だったと思う。
その証拠にその後ろから遊馬君たちが走って逃げている。
「あー、もう。なにやっているんだか……」
パーティなのにこんだけ騒がせて……これはきつく言っておかないと。
私は痛くなる頭を抑えて外へと出た遊馬君たちを追って外へと出る。
しばらく走っていくと林のほうに遊馬君が立ち止まっているのが見えた。
「遊馬君!……天城」
遊馬君の隣に来て近くに天城がいることに気づきそちらに目を向ける。
「うえ!? なんだ、刹か……」
係りの人が来たのかと思ったのか遊馬君は私だと分かると安堵の息を漏らしていた。
「遊馬君たちには言わなきゃいけないことがあるけど後でね。ねぇ、天城……ハルト君は?」
「そうだ、ハルトは大丈夫か?」
「お前らに心配されるいわれはない。決着のことだけを考えていろ」
天城はいつもの調子で冷たく突き放し、遊馬君と話し始めるが私はおそらく暗い表情を浮かべていただろう。
思い出すのはⅤの後ろで横たわったハルト君の苦痛に歪んだ表情と叫び声。
「天城、本当にごめん……ハルト君が目の前にいたのに、助け出せなくて」
「……二度目は言わない」
天城は背を向けたままそういうと二歩足を進めて立ち止まる。
「お前がⅤとデュエルをしていたのは映像で見ていた」
それだけ言うと天城は顔だけをこちらに向け私をみたあと、正面に顔を戻して歩き出した。
あれは……どう判断していいんだろうか?
悩んでいると遊馬君が笑みを浮かべて天城を見送った後、この場から離れようとしていたので腕を掴む。
その先に小鳥ちゃんもいることに気づいて私は笑みを浮かべた。
「へ?」
「さて、遊馬君それに小鳥ちゃん。武田君たちの所にいこうか」
2人は私の笑みを見て口元が引きつっていた。
W DCという大規模な大会の前夜祭であるパーティをめちゃくちゃにして普通なら連行されても可笑しくないと思うけどね。
武田君たちと合流した私達はベンチが幾つかある場所に移動し遊馬君たちを集めて話が長くなりそうだから座るように言うとなぜか地面に正座をしていた。
話を聞く限りでは遊馬君が招待状を忘れて騒がせてしまった程度であの騒ぎはほとんど徳之助君がやったことなので徳之助君にだけきつくいっておいた。