というわけで、全盛期を再現するために現在禁止カードとなっているカードを使用します。
なのでご了承願います。
遊馬君とのタッグデュエルをした後、私は遊馬君たちとは別行動をしていたのだが夕方ごろなぜか私は小鳥ちゃんに誘われて3人でショッピングをすることになった。
といっても買うのはお菓子類とかでお金は遊馬君もちだった。
なんでもあれだけ応援して心配かけたんだから侘びとして奢るべきと小鳥ちゃんが言っていた。
私の場合は前にアストラルを救出したときと今日のタッグデュエルのお礼だと言っていた。
商店街の道を歩きながら私はバニラのソフトクリームを舐める。
小鳥ちゃんの腕の中には遊馬君に奢ってもらったお菓子と先ほど買ったソフトクリームがある。私はソフトクリームのみ奢ってもらってしまった。
さすがに年下に奢ってもらうのは心苦しいし、今度遊馬君に御礼をしなければ。
「なんかごめんね。私まで奢ってもらっちゃって……」
「別に」
「良いんですよ! 刹さんにも迷惑をかけましたし」
申し訳なさそうに謝ると遊馬君が何かを言う前に小鳥ちゃんが遮ってそう言い放った。
遊馬君はその様子を見てケッと何処か拗ねていた。
「でも、本当は遊馬君と二人っきりのほうがよかったんじゃないの?」
小鳥ちゃんの隣に立ち、後ろに歩いている遊馬君に気づかれないように話すと小鳥ちゃんの顔が赤く染まった。
「な、何言ってるんですか!? 刹さん!」
「いやぁ、青春してるねー」
笑みを浮かべながら茶化していると前の方向からいくつもの車のクラックションが鳴り響いた。
事故か何かかとそちらに目を向けると藍色の短パンとノースリーブを着た、水色のショートカットの小学生ぐらいであろう少年が、信号が赤だというのにそんなことはお構いなしに横断歩道を渡っていた。
「あれ……? あの子」
「アイツは、カイトの弟?」
何処かで見たことがあると思っていると遊馬君の呟きで完全に思い出すことが出来た。
あぁ、そういえばアストラルとあのペンダントを天城から取り返すときに見たあの画像に写っていた子か……。
あの写真とだいぶ雰囲気が違うようだけど。
『……あいつは』
驚いたようなブラック・ミストの呟きに気を取られているといつの間にか遊馬君が少年に駆け寄り、話しかけていた。
「遊馬君! そこだと危ないから早くこっちに!」
もう回りは暗いのでもしかしたら遊馬君たちに気づかずに突っ込んでくる車がいるかもしれないので呼びかけると遊馬君がこちらを見て頷き、その少年の手を掴んだときだった。
遊馬君と少年の目の前にトラックが突っ込んできた。
トラックの運転手がクラックションを鳴らしブレーキを踏んでいるのか地面とタイヤがこすれる音が鳴り響いている。
運転手がハンドルを切った際に勢いが付きすぎてトラックが横転し荷台の部分が遊馬君たちに迫っていた。
目の前で起ころうとしている惨劇に思わず目を瞑る。
音が鳴り止み、トラックは横転したまま止まっており辺りに煙が立ち込めている。
「遊馬!」
「遊馬君!」
小鳥ちゃんと一緒に遊馬君の名を呼ぶとちょうど煙が晴れて遊馬君たちがいた場所が見え始めた。
「え?」
「……どういうこと?」
結論から言うと遊馬君たちは無事だった。
普通ならば死んでいてもおかしくない事故だった筈なのに2人はここから見た限りでは傷一つ付いていない。
「なにあれ?」
トラックの荷台の部分に大きな円形の穴が開いていた。
そこはちょうど遊馬君たちが当たる箇所だったのだが、まるで何かの力が働きその荷台の部分が消し飛んでしまったようだった。
私と小鳥ちゃんは2人に駆け寄った。
「遊馬! 大丈夫!?」
「君も怪我はない?」
私は今も表情を変えずにいる少年に話しかけてみるが、少年は何も言わずにただこちらを見ていた。
「……カードがたくさん」
「え?」
少年が突然呟いた言葉に驚いているとパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「お、おい。これ、やべぇんじゃねぇの?」
「面倒なことになるのは確かだよ」
私はそういって車にぽっかりと開いている穴を見てため息を吐いた。
おそらく事実を言っても誰も信じてくれそうにないし……。
「あーもう! しょうがねぇな!!」
「遊馬!」
「……もうどうにでもなれ」
遊馬君がそう叫びだすと少年の腕を掴んで走りだし、私と小鳥ちゃんもその後を追っていった。
本当なら駄目なんだろうけど……。
私たちは走ってその場から逃げ出した後、落ち着いたところで歩き出した。
「それで、この子どうするの?遊馬」
息を整えたところで小鳥ちゃんがそういうと遊馬君はうーんと考え始め、私はその間に少年に近づいた。
「ねぇ、君の名前を聞いてもいいかな?」
出来るだけ姿勢を低くして視線を合わせるように少年に話しかけると、ゆっくりとした動作で私を見て口を開いた。
「ハルト」
「そっか、ハルト君っていうんだ? 私は黒峰刹、よろしくね」
笑みを浮かべて自己紹介をするとハルト君は一間隔をおいてから頷いた。
ほんの少し、ハルト君と談笑を試みてみたのだがハルト君のしゃべりは断片的ですこし脈絡のないように感じた。
「家につれて帰る!?」
「だってよぉ、アストラルが聞きたいことがあるっていうし。それしか方法がないだろ?」
小鳥ちゃんと遊馬君の話を耳にしながら私はハルト君と談笑し続けた。
「ハルト君はどうしてこんな夜に歩いていたのかな?」
「兄さんが、疲れてるんだ」
うーん、言葉で推測すると兄さん……いや天城が疲れているからどうにかしたいということだよね。
天城が疲れているって点が少し気になるけど、そこまで気にする必要はないか。
問題はこの子の目的。
何かをするにしても家の中で何かしら出来る筈、というとなにかを買いに来たとか?
「疲れてるから元気付けたいと思って、探しにきたのかな?」
そういうとハルト君はこくりと頷いた。
あとの問題は何を探しに来たかだよね……。
「ハルト君は偉いね。きっとお兄さんはハルト君のおかげで元気になるよ」
ハルト君の頭をなでるとこの時、初めてハルト君はほんの少しだけ笑みを浮かべた。
感情の変化が乏しいな……このくらいの年でこうなのは可笑しいし、もしかして精神的に病んでいるのかも。
まだこんなに小さいのに周りの大人は何をしているんだが……。
「それでハルト君は……」
「刹! そいつを俺の家に連れて行こうと思うんだけど、刹も一緒に来るか?」
ハルト君に何を探しに来たのか尋ねようとした時に遊馬君が問いかけてきた。
私は携帯の時間表示を見てみると時間的にはそろそろ夕飯の時間帯になっていた。
『断る理由はねぇだろ? のれよ』
「(ブラック・ミストの夕飯はなしになるけど?)」
『……断れ』
そんなにご飯が好きなのか……。
でも、ブラック・ミストがこう言うということはハルト君に何かあるってことだよね。
あまり近くにいないほうがいいかもなぁ。
「ごめん、悪いけど……」
断ろうとした瞬間、自分の手が何かが握られた感触がして視線を下に向けるとハルト君が私の手を握ってこちらを見つめていた。
あー……無理だわ。
私はハルト君を見て、そう直感した。
現在、私は遊馬君の家にお邪魔している。
遊馬君の家は一軒家で家族には姉の明里さんとおばあさんの春さん、そして何故かピンク色のリボンをつけたオボット、オボミがいた。
一応先輩にあたる私と見知らぬ少年、ハルト君の訪問に驚いてはいたが快く出迎えてくれた。
そして現在は春さんと明里さんの夕飯の支度を小鳥ちゃんと一緒に手伝っている。
「ほぅ、刹ちゃんは料理をするの慣れているのかい? うまいもんだねぇ」
今日の夕飯のおかずであるからあげの鶏肉に片栗粉をつけて油が入っているなべに入れていると春さんからそういわれ笑みを浮かべる。
「家で料理をしていますので」
それに前世でも料理していたからこの年ではずいぶんと手馴れているように見えるだろうなぁ。
「へぇ、家でお手伝いでもしてるの? あのお馬鹿にも見習ってほしいわ」
春さんとの会話を聞いていた明里さんの言葉に苦笑いを浮かべる。
本当はもう家族はいないのだけど、それをいったらこの空気が壊れるし黙ってよう。
夕飯の支度を終えてみんなが一つのテーブルに囲って椅子に座る。
私はハルト君の隣に腰をかけると遊馬君が喜色の声をあげた。
「うおぉ! デュエルからあげにデュエル焼き、デュエル汁にデュエル肉じゃがも!」
なんでもデュエルと名をつければいいってもんじゃないと思うけど。
本来の料理はアジの塩焼き、から揚げ、肉じゃが、ポテトサラダ、豆腐とワカメの味噌汁という和食メインの夕飯だった。
『ぐうぅ……』
目の前に出されている料理を見てブラック・ミストが悔しそうに呻いているのが聞こえるが無視。
後でコンビニによって何か買っていってあげよう。
「うっまそー!」
「こら!!」
遊馬君が箸を手に持ちさっそくから揚げに手を伸ばそうとしていたが隣から明里さんが肘で遊馬君を勢い良く押すと遊馬君はいすから転げ落ちた。
「いただきますを言ってから!」
「そうじゃ、お客さんの前で行儀が悪い」
春さんは諌めるようにそういってから笑みを浮かべてハルト君と私を見た。
「いっぱい食べておくれよ」
「ありがとうございます。なんかすみません、私まで一緒に頂いてしまって」
「気にする必要はありゃせんよ。ご飯はみんなで食べるのが一番いいんだからね」
私はもう一度ありがとうございますとお礼を告げると皆の準備が出来たようでいただきますの挨拶をしてご飯を食べ始める。
から揚げを小皿に取りご飯と一緒に食べていると隣にいるハルト君が食べていないことに気づいた。
「あれ? お前食べないのか?」
遊馬君もハルト君が食べていないことに気づいたようで先に声をかけていた。
「遠慮なんかしないでたんと食べていいんだからね」
春さんがそういった後、明里さんが遊馬君にあんたはもっと遠慮しなさいよというと2人の痴話げんかが始まってしまった。
そうしているとハルト君が宙に視線をやりしばらくすると箸を握ってご飯を食べ始める。
から揚げや肉じゃがを小皿にとってハルト君の前に置き食べてみてと言うとハルト君は二つともすぐに食べてしまった。
「ハルト君、おいしい?」
私がそういうとハルト君は笑みを浮かべて頷いた。
「じゃあ遊馬君、小鳥ちゃん。明日は私も一緒に天城のところに行くからハルト君をお願いね」
「分かったぜ!」
「任せてください」
夕飯を片付けるのを手伝った後、私は家に帰るために遊馬君と小鳥ちゃんに一言告げてから帰宅した。
『おい、俺の飯はどうするんだよ』
歩いている途中でブラック・ミストが話しかけてきたので私は満腹になっているおなかを摩る。
「(コンビニ弁当で我慢して。今はおなかいっぱいだから作る気も起きないし)」
ブラック・ミストは不機嫌そうな雰囲気を漂わせながらわかったよと返事するとそのまま何も言わなくなった。
遊馬君の家から私の家まで距離があり、途中にあったコンビニに寄ってブラック・ミストに何を食べたいか聞きながら弁当を籠の中にいれる。
ついでにアメとキャラメルを買っておき私たちは家へと帰宅した。
家の中に入りブラック・ミストが温めたコンビニ弁当を食べ、私がブラック・ミストのデザートを用意しお茶を飲んでいるとDゲイザーに通信が入ったので通話モードにして電話に出ると画面には小鳥ちゃんの姿が映し出された。
「あれ、小鳥ちゃん?」
「あ、刹さん! 大変なんです、ハルト君が!!」
私は椅子から立ち上がり、ブラック・ミストに早く弁当を食べるように一言声をかけ、出かける支度をしながら小鳥ちゃんの話を聞いてみるとハルト君が急に何処かへ行ってしまったのだという。
「わかった。じゃあ、私は一応街のはずれのほうを探してみるから小鳥ちゃんたちは街のほうを探していて」
「分かりました!」
Dゲイザーの通信を切り、私は支度を終えてブラック・ミストに目を向ける。
「ブラック・ミスト、食べ終わった? ハルト君を探しに行くよ」
「まだデザートを食ってねぇ」
ブラック・ミストはお菓子で有名なマドルチェ・シャトー店のマドルチェシリーズ、マドルチェプリンの蓋を開けようとしているのを見て、頭に手をやった。
結局ブラック・ミストがデザートを食べ終わるまで待っていたせいでだいぶ時間を食ってしまい、なんとか街のはずれのほうまで来たがここにくる途中もハルト君を見かけることはなかった。
本当にどこにいったんだろう……。
遊馬君の方はどうなんだろう、ハルト君は見つかったかな。
探し始めて1時間はたったと思うけど、一応連絡を入れてみようかな。
Dゲイザーを取り出して遊馬君に通信を入れてみると1コールで遊馬君のDゲイザーに繋がった。
「カイトか!?」
「残念だけど、天城じゃないよ」
ていうか、なんで天城が出てくるのだろうか?
まぁ、探している間に天城に会ったんだろうけど。
「あ……」
私の顔を見て遊馬君はまるですっかり忘れていたというように声を漏らし視線を泳がせていた。
「……遊馬くーん? そのあってなにかな?」
「ええと、それはその……」
笑みを深めていると遊馬君は慌てたように腕を動かして何かを言おうとしていたが最終的にはごめんなさい、忘れてましたと謝ってくる。
「こっちも連絡をしなかったのも悪いと思うんだけどね。それで、今はどういう状況?」
「あぁ、それが……」
遊馬君の話を簡単にまとめると、ハルト君はハートランドの使者と偽る人物に誘拐され今ハルト君は街外れにある昔美術館だった場所にいるということだった。
「街外れ……」
遊馬君にその場所を教えてもらい通信を切った後、私はDパットを起動させてその場所までの地図を調べてみた。
「まさかの逆方向……!」
『早く行かないと全部終わっているかもな』
ここから走って1時間以上かかる場所にその美術館があるのが分かり、ブラック・ミストは笑いながら指摘をし私は頭を抱えた。
『おい、着いたんだから早く入れよ』
「ちょっと、まって……げほっ」
肩で息をし呼吸を整えているとブラック・ミストが催促してきたので途切れ途切れに返事をして落ち着くまでその場から動かなかった。
私たちの目の前には湖の中心に白いお城のような建物が建っており、遊馬君が言っていた場所はここなのだろうと分かる。
話を聞いた後に私は全速力で走ってきたが、人間の体力は無限にあるわけではなく何回か体力を回復させるために歩いていたので時間を食ってしまった。
タクシーに乗ろうとしてもあちこちで交通事故が多発したらしくほとんどの道路が渋滞しており逆に走ったほうが速いと言われて仕方なく走ったわけだ。
「ふぅ……じゃあ、行こう」
呼吸が整えて私は走ったせいで若干震える足を前に出してお城の扉を開けた。
勢い良く扉を開けたので大きな音が立ち、中にいた人たちが一斉にこちらを見る。
「あれ? もしかしてデュエル中?」
私は中の現状を見て思わず声に出した。
手前に遊馬君と天城が並んでデュエルディスクを構えており、その奥にはⅣとⅢ君があの左目の模様とデュエルディスクを展開させて立っていた。
現在Dゲイザーをつけていないのでデュエルの状況はまったく分からない。
「刹!」
「刹さん!」
「黒峰刹、何故お前がここに?」
私だと気づいた遊馬君と小鳥ちゃんは顔を明るくさせるが、天城は私を睨みつけて問いかけてきた。
「私も別でハルト君を探していてね。それで遊馬君に教えられてここに来たわけ」
デュエルの邪魔にならないように大回りをして小鳥ちゃんの隣に近づきながら説明をするとⅣが口を挟んできた。
「あん時の女か……今はデュエル中だ。お前はまた後で相手になってやるぜ」
口元を吊り上げて笑みを浮かべているⅣに私は睨む。
本当なら私があいつの相手をしたかったんだけど、今はデュエル中だしまたの機会か……。
「小鳥ちゃん。ハルト君は?」
「すみません。それが分からなくて……」
私は小鳥ちゃんに小声で話しかけると、合わせて小さな声で答えてくれた。
視線をずらしてⅣとⅢ君の後ろにある階段の上を見る。
「(ブラック・ミスト、あそこまで私を連れて行ける?)」
『まぁ、できねぇことはないな』
「(じゃあ、お願い)」
ブラック・ミストはエクストラデッキから出てくると同時に上の階にある柵に左手を突きつけて触手を伸ばし、右手で私の腰を掴んだ。
「No.使いが荒いやつだよな、お前はよぉ!」
「せ、刹さん!?」
突然の出来事に驚いている小鳥ちゃんにあとはお願いと声をかけて、ブラック・ミストは私を抱えて2階へと飛ぶ。
無事に2階へとたどり着き、ブラック・ミストは離れて触手を回収した。
「なっ!! てめぇ勝手に!」
「待っている道理なんてこっちにはないんだから、先に行かせてもらうよ」
また紋章の力で何かされる前に私は走り出してハルト君がいるであろう部屋の前にたどり着く。
「うぅ、ああああぁあ!!」
「ハルト君!!」
突然聞こえてきたハルト君の苦しむ叫び声に慌てて扉を開くと、部屋の中心にハルト君と顔を分厚い鉄仮面をつけた少年が地面に紫色に光る紋章の上に横たわっていた。
2人は宙に浮かんでおり、ハルト君にだけ紫色の鎖のようなものが巻きついている。
急いで助け出さないと!
私が走り出そうとした時、薄い水色の足まで長い髪をした細身の男性が目の前に立ちはだかった。
「どいて!」
「トロンの邪魔はさせない!」
男がそういうと同時に額から青色の紋章が光るとそれはすごいスピードで後ろへと飛んでいった。
「っ! ブラック・ミスト!!」
飛んでいった方向にブラック・ミストがいることに気づき声をかけるが、ブラック・ミストは紋章に当たると壁へと叩きつけられて腕と足が青い輪で拘束される。
「くっ……なん、だ? こいつは!」
ブラック・ミストは拘束を解こうと暴れているが、暴れるたびに拘束が強まっているようで苦しげに表情をゆがめた。
「そこのNo.の力は封じ込ませてもらった」
本当、あの紋章って何でも出来るんだね……。
男の説明に場違いにも呆れていると男の右手首から赤く光る紐のようなものが飛び出し私の右手首に巻きついた。
「これって!?」
確かデュエルアンカーってやつだったような……。
「トロンの儀式が終わるまで、付き合ってもらおうか」
「……速攻で終わらせる!」
男は左目の周りに緑色の模様が描かれ左腕に籠手がつきデュエルディスクは無限のあの記号が描かれまるで盾のようなものが立ち上がる。
私はデッキを付け替えた後、Dゲイザーとデュエルディスクをセットし起動させた。
「「デュエル!」」
「先攻は私がもらう、ドロー! モンスターを裏守備でセット、カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
男の後ろからハルト君の苦しむ声が聞こえてくる。
怒りがこみ上げてくるが私は目を瞑り深呼吸をした後、目を開いてデッキに指を置いた。
その際、男が驚いた表情をしていたが、気にする必要はない。
「私のターン、ドロー。私は手札から速攻魔法、魔導書の神判を発動。このカードは発動後、エンドフェイズ時に自分または相手が発動した魔法カードの枚数分まで自分のデッキから魔導書の神判以外の魔導と名のつく魔法カードを手札に加え、その後この効果で手札に加えたカードの数以下のレベルを持つ魔法使い族1体をデッキから特殊召喚できる」
発動したカードから水色の水晶が中心にあり左右には赤と緑の翼のようなものがついておりその上には紫と茶色、下には黄色と透明な角みたいなのが交差しているものが現われる。
「グリモの魔導書を発動。デッキから魔導と名のつくカードを1枚手札に加える。私は魔導書廊エトワールを手札に加え、そのまま発動する。このカードは魔導書と名のつく魔法カードが発動するたびに、このカードに魔力カウンターを1つ乗せる。そして自分フィールド上の魔法使い族モンスターの攻撃力はカウンターの数×100ポイントアップする」
永続魔法が発動されると私の後ろに廊下のようなものが現われてその上には青白い光が浮かび上がる。
「さらに手札からフィールド魔法、魔導書院ラメイソンを発動」
紫色に輝いていた部屋は一気に屋外へと変わり、青い空と白い雲が広がり右前方には灰色の大きなタワーのような建物が現われ、その建物の周りには青色の魔法に使われるような文字が囲むようにいくつも浮遊している。
「魔導と名のつく魔法カードが発動されたことによりエトワールに魔力カウンターが一つのる」
青白く輝いているものの周りに1つの小さな光が灯る。
「魔導召喚士テンペルを召喚」
地面から光が漏れ出しそこからオレンジ色の顔が見えないほどのフードをかぶった女性型のモンスターが現われる。
レベル3 魔導召喚士テンペル 攻撃力:1000→1100
「テンペルの効果を発動。魔導書と名のついた魔法カードを発動したメインフェイス時、このカードをリリースしデッキから光又は闇属性・魔法使い族・レベル5以上のモンスターを1体特殊召喚する。私は魔導皇士アンプールを特殊召喚」
赤紫色の服を基に金色と銀色の装飾がついたローブを着た男性型のモンスターが現われる。
レベル5 魔導皇士アンプール 攻撃力:2300→2400
「アンプールで伏せモンスターに攻撃」
アンプールは呪文を唱え手に闇を集めてそれを伏せモンスターへと解き放つ。
伏せられたカードは裏返りジェット旅客機のようなモンスターが現われる。
「幻獣機ハムストラットのリバース効果を発動。このカードがリバースした時幻獣機トークンを2体特殊召喚する」
ハムストラットはアンプールの攻撃により破壊されるが、ハムストラットがいた両隣に半透明の飛行機が現われる。
レベル3 幻獣機トークン 守備力:0 (2体)
相手は幻獣機デッキか……あのモンスター達は破壊耐性があるから面倒なんだよね。
場が整うまでに一気に攻められれば押し切ることが出来るんだけど・・・。
「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド。そしてエンドフェイズ時、魔導書の神判の効果が発動される。私がこのターンに発動した魔法カードは3枚、デッキからグリモの魔導書、ゲーテの魔導書、ネクロの魔導書を手札に加えさらにデッキから3以下のレベルを持つ魔法使い族を特殊召喚する。私は魔導教士システィを特殊召喚し効果を発動」
レベル3 魔導教士システィ 攻撃力:1600
深緑色のローブを着た、ベージュ色の髪を持つ女性が現われると同時にシスティは呪文を唱え始めるとシスティは宙に現れた黒い穴の中に吸い込まれていく。
「システィは魔導書と名のついた魔法カードを発動した自分のターンのエンドフェイズ時にフィールドにいるこのカードを除外しデッキから光又は闇属性・魔法使い族・レベル5以上のモンスター1体を手札に加え、魔導書と名のついた魔法カード1枚を手札に加える。加えるのは魔導書の神判と魔導法士ジュノン。エンドフェイズは終わり、あなたのターンだよ」
「……私のターン、ドロー! どうやら少し本気でやらねばならないようだ。私は幻獣機メガラプターを召喚」
男の場に藍色のステルス戦闘機みたいなモンスターが現れる。
レベル4→10 幻獣機メガラプター 攻撃力:1900
「幻獣機特有の効果は知ってる。だからやるなら早く進めて」
いつの間にかハルト君の悲鳴は聞こえなくなっており私は続きを促した。
私がそういうと男はそうかと特に反応せずにデュエルを進めた。
幻獣機というモンスターには二つの共通点がある。
1つはトークンがフィールドに存在する限り、カードの効果および戦闘では破壊されずもう1つは幻獣機トークンのレベルの合計分、レベルが上がるというものだ。
「メガラプターの効果を使用する。トークン1体リリースしデッキから幻獣機と名のつくモンスターを手札に加える。加えるのは幻獣機ハムストラットだ」
メガラプターの隣にいたトークンが粒子となって消えるとメガラプターの表示されているレベルが変動する。
レベル10→7 幻獣機メガラプター 攻撃力:1900
「手札から二重召喚を発動。そしてハムストラットを召喚する」
レベル3→6 幻獣機ハムストラット 攻撃力:1100
「さらにハムストラットの効果を使用しフィールド上のトークンを1体リリースし墓地にいる幻獣機と名のついたモンスターを特殊召喚する」
紫色の魔方陣が周りに描かれた穴が開くとそこからもう1体のハムストラットが現われる。
レベル7→4 幻獣機メガラプター 攻撃力:1900
レベル6→3 幻獣機ハムストラット 攻撃力:1100
「リバースカードオープン。永続罠、空中補給(エリアル・チャージ)を発動し効果を使用する。1ターンに1度自分フィールドに幻獣機トークンを1体特殊召喚する。そしてトークンが特殊召喚されたことによりメガラプターは1体の幻獣機トークンを生み出す」
レベル3 幻獣機トークン 守備力:0 (2体)
レベル4→10 幻獣機メガラプター 攻撃力:1900
レベル3→9 幻獣機ハムストラット 攻撃力:1100 (2体)
男のフィールドには攻守0のトークンを含むモンスターが5体並ぶ。
しかもそのうち2体はレベル9のモンスターとなっている。
「私はレベル9の幻獣機ハムストラット2体でオーバーレイ!」
ハムストラットは緑色の球体となり現在は青空となっている空中へと躍り出る。
「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!No.9天蓋星ダイソン・スフィア!」
光の玉はいつもの地面へと開いた穴ではなく空へと消えてなくなり突然、光が爆発を起こしたが男の場には何も現われなかった。
私はあたりを見回してみるが何もない。
どういうこと?なんでモンスターの姿が見えない?
もともと透明のモンスターなのは考えづらいし……。
私はふと光の爆発を起こした空へと視線を向ける。
「まさか……宇宙にいる、とか?」
私の呟きが聞こえたのか男は目を見開き、考え込むように目を瞑った。
「君は他のデュエリストとはだいぶ違うようだ。こんな短時間で見破られるとは……」
「サテライト・キャノンってモンスター知ってる? 私はあれを一度使ったことがあるから分かったの」
サテライト・キャノンは地上から3万6000kmに出現してそこから攻撃を行うモンスターである。
一度使ったときは攻撃宣言をした瞬間に上からレーザーが降ってきてびっくりしたな……。
「デュエルを続けよう。ダイソン・スフィアでアンプールを攻撃!」
「攻撃宣言時、リバースカードオープン。和睦の使者を発動。このターン受ける戦闘ダメージは0となりモンスターは戦闘によって破壊されない」
アンプールの前に青いローブを来た女性が透明のバリアを張ると空から光が1つ見えたと同時に光が降り注いだ。
しかし和睦の使者の効果によりアンプールは破壊されず守られていた。
「モンスターを守ったか……。私はこれでターンエンド。エンドフェイズ時、空中補給の効果により幻獣機トークン又は幻獣機と名のつくモンスターを1体リリースする。しなければこのカードは墓地に送られる。私は幻獣機トークンを1体リリースする」
「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時、フィールド魔法、魔導書院ラメイソンの効果を発動。自分フィールド又は墓地に魔法使い族モンスターが存在する場合、墓地にある魔導書と名のつく魔法カードをデッキの一番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローする」
私は墓地にあるグリモの魔導書をデッキの一番下に置き、カードをドローする。
「手札から魔導法士ジュノンの効果を発動。手札の魔導書と名のついた魔法カード3枚を見せて特殊召喚する。見せるのはグリモ、審判、ゲーテの魔導書」
3枚のカードを見せると地面から光があふれて白い露出が高い服を来たピンク色の髪の女性が現われる。
レベル7 魔導法士ジュノン 攻撃力:2500→2600
「さらに魔導書士バテルを召喚し効果を発動。このカードが召喚・リバースしたときデッキから魔導書と名のついた魔法カードを手札に加える。加えるのはトーラの魔導書」
水色の帽子を被り、裾が足まであるコートを着た男性型のモンスターが現われる。
レベル2 魔導書士バテル 攻撃力:500→600
「速攻魔法、魔導書の神判を発動。エトワールの効果で魔力カウンターが1つ乗る。そしてアンプールの効果を発動する。アンプールは自分フィールド上にいる魔法使い族モンスター1体をリリースし墓地にある魔導書と名のつく魔法カードを除外して、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択しエンドフェイズ時までコントロールを得る。フィールドにいるバテルをリリースし墓地の魔導書の神判を除外する」
「なに!?」
アンプールが呪文を唱え始めると体から紫色のオーラが包み込み、隣に立っていたバテルが消滅する。
しばらくすると目には見えないがモンスターがこちら側に移った感覚を感じ取った。
これでダイソン・スフィアの効果を確認できる。
「なぜだ? あのNo.の力は封じ込めた筈……」
男は信じられないといった様子で呟き、壁に拘束されているブラック・ミストに目を向けた。
「ハッ、そいつは俺の力でNo.を操っているわけじゃねぇよ」
「なんだと?」
ブラック・ミストがそう言ったとき、ハルト君と見知らぬ少年がいる場所から音を立てて赤い電流のようなものが発生する。
男もそれに気づいたようで、振り返って一歩下がった。
「なんだ? 何が起きている?」
「ハルト君?」
しばらくそれを見ていると電流もハルト君に巻きついていた鎖のようなものが消えて二人はゆっくりと地面へと落ちる。
「どうして? ハルトの力が消えた……」
「ねぇ、いったい何が起きたの? ハルト君になにをしたの!?」
私は男に問いかけるが男は答えようとはせず、こちらに視線だけを向けると右腕を振るい赤く光る紐が私の手首から離れてまた消滅をする。
それと同調するようにフィールドにいたモンスター達も消えてなくなった。
「時間だ。君は少し大人しくしていて欲しい」
「え?」
また男の額にある青色の紋章が光るとこちらに飛んできて反応が出来ずにいるとなぜか強い衝撃を受けて私は後方へと飛ばされると壁に激突する。
ブラック・ミストを拘束していたものと同じ青色の紐が私を縛りつけた
まるで意味が分からない。誰でもいいから説明をしてほしい。
「……逃げる気?」
「私はただトロンの儀式が終わるまで時間を稼げればよかっただけだ」
勝敗とかは最初から関係ないって言うこと?
男を睨みつけていると男はこちらを見もせずにそのまま語りだした。
「君は強い。おそらくトロンの障害となりえる存在だ。だが、君にはデュエリストとして大事なものが欠けている」
言われたその瞬間、私の頭に鈍器で殴られたような衝撃が走る。
口を開こうにも震えてしまっていたが、何とか言葉を発することが出来た。
「だいじな、もの……?」
「それを見つけない限り君は大きな壁が立ちはだかった時、乗り越えることは出来ないだろう」
男の言葉に呆然としていると男は語りすぎたかと首を振って呟く。
私は大きな壁と言われたとき、なぜか一度も勝つことが出来なかったお父さんとおじいちゃんが脳裏に浮かんだ。
「V。ⅢとⅣを迎えに行ってくるよ」
仮面で顔が覆われた少年が立ち上がり男に話しかけると、少年の後ろに紫色でまるで宇宙を彷彿させる穴が現われ少年の足から粒子となって消え穴に吸い込まれていくと、穴も消えてなくなった。
男、Vはハルト君を抱えて扉のほうへと向かう。
「その拘束はしばらくすると解ける。安心するといい」
一言そういってからVは部屋から出て行った。
Vが言ったとおり5分ぐらい経ってからブラック・ミストと私を拘束していたものが消える。
「おい、あいつらの所に行かないのかよ」
ブラック・ミストが腕を組んでぶっきらぼうに言っているが、そんな言葉は耳に入らなかった。
「デュエルで……だいじなもの?」
なんだろう、それって……。
主人公の本気デッキは『全盛期魔導』に決定しました!
皆さん色々と提案していただきありがとうございました!