スリザリンの継承者―魔眼の担い手―   作:寺町朱穂

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3話 魔法使いの街

 

 7月31日 ロンドン。

 

 

「おかしいな……確かこの辺りなんだけど」

 

 

 クイールは、キョロキョロっと辺りを見渡した。地図を片手に、何度も何度も首をかしげている。

 出発前「ロンドンは大学時代から通っている。僕の庭のようなものさ!」と鼻を高くしていたのが、まるで嘘のようだ。

 

「漏れ鍋なんてパブ、どこにもないな。地図だとこの辺りなんだけど……」

 

 クイールは地図とにらめっこを続けている。

 私は地図から目を離し、ぼんやりロンドンの通りに目を向けた。

 

「そもそもパブに魔法の杖や箒が売っているのでしょうか?」

 

 つい、疑問を口にする。

 

「私たち、騙されているのでは?」

「そんなことない!」

 

 ずっと抱いていた疑問を口にすると、クイールはムッと眉間にしわを寄せた。

 

「セブルスは悪人顔だけど良い奴なんだ!! そんな嘘をつくはずない、と信じたい」

 

 後半、クイールの目がわずかに泳いだ。

 やはり、信じ切れていないようだ。当然である。私自身、半信半疑だ。私は「入学案内」に目を落とし、小さく呟いた。

 

「このご時世に、魔法学校なんて」

 

 

 

 

 

 

 そもそも始まりからして、おかしな話だった。

 

 昨日の夕方、前触れもなく、不思議な訪問者が玄関先に現れた。

 『セブルス・スネイプ』と名乗った男は、真夏なのに黒いローブを羽織っていた。この時点でおかしく、警戒するはずなのに、クイールは全く警戒しなかった。どうやら、クイールは、彼の知り合いだったらしい。クイールは久々の知人の来訪に驚き、慌てて歓待の準備をし始めようとした矢先、セブルスはそれを止めた。

 

『今日はお前の義娘に用がある』

 

 セブルス・スネイプはそう言うと、封筒を差し出してきた。

 

 

 

 『ホグワーツ魔法魔術学校』の入学案内を。

 

 

 そう、おかしい。

 絶対にありえない。私が魔女で、魔法使いの学校に通うことになったという時点で、なにかがおかしい。いやダンブルドアなる教授からホグワーツとやらの存在は聞いていたが、それでも俄かに信じがたい。

 しかも、魔法の学用品を買うために、ロンドンの平凡なマーケットを訪れているなんて、やっぱりおかしい。しかも、学用品を買うために、まずは「漏れ鍋」なるパブを探すなんて、絶対におかしい。

 

「いや、ありえないことが、ありえないのかな?」

 

 つい、目を抑えながら呟く。

 眼鏡のおかげで視えないが、今も私の前には『死の線』が広がっているはずだ。それは科学的に「ありえない」。まさに「魔法」の所業といっても過言ではない、はずだ。

 

 だから、パブに魔法の学用品が売っていても、おかしくない、のかもしれない。

 

「それで『漏れ鍋』でしたっけ?」

 

 私はクイールの持っている地図に目を落とし、再び顔を上げ――

 

「あれですよね、義父さん」

 

 案外、あっさりと見つけることができた。

 文字通り、目と鼻の先にある。

 

「義父さん、アレでは? ほら、その本屋とレコード店の間」

 

 まぁ、見落としてしまうのも無理はないかもしれない。

 『漏れ鍋』というパブはちっぽけな薄汚れたパブだったし、足早に道行く人たちは、パブの隣にある本屋から反対隣りにあるレコード店へと目を動かし、真ん中の寂れたパブなんて全く目もくれていないのだから。

 

「ん―――あっ!! そうだ、あれだよ!! なんで気が付かなかったんだ?」

 

 クイールはおどけたように笑い、いそいそとパブの入り口に近づいた。古びた入り口だったが、取っ手はかなり磨かれている。見た目のわりに、それなりに、繁盛した店なのかもしれない。

 

「よし、行くよ。セレネ、パブは大人の店だから、僕から離れないようにね」

 

 クイールはそう言うと、ゆっくり扉を開けた。

 パブに足を踏み入れてみれば、薄暗い空間が広がっていた。ガヤガヤとしゃべっている人はいるが、そこまで気にならない程度のモノだ。ロンドンの喧騒とは全く違う。酒と煙の臭い。

 

 だけど、それだけだ。

 私は、内心がっかりした。

 

「魔法の欠片もない」

 

 賑やかな空間だ。

 着ている人の服装こそ、古風極まりないマントや山高帽が目立つが、それ以外は特に目立って奇妙なところは見当たらない。ただのコスプレ会場のように考えていると、1人の男の人が近づいてきた。

 最初は暗くて顔がよく視えなかったが、その顔がはっきり見えたとき、クイールの顔に浮かんでいた緊張の色が消え、代わりに、ぱぁっと花が咲いたように明るくなった。

 

「セブルス!来てくれたのか!!」

「耳元で叫ぶな」

 

 眉間にしわを寄せる男。

 彼の名前は「セブルス・スネイプ」。先日――私に入学案内の手紙を届けた人物であり、クイールの友人だ。ねっとりとした黒髪に鉤鼻、土気色の顔をした男で、先日と同じ漆黒のローブを纏っている。

 ……見た目からして、スネイプ教授は魔法使いだと主張している。一体、どのような経緯で、魔法使いと非魔法使いの彼らが友達になったのかは知らないし、興味もない。私は優等生らしく大人しく黙って、彼らの行動を見守った。

 

「お前達は魔法界のことを全く分からないから、来てやったまでのことだ。

 それに我輩も薬問屋と本屋に行かねばならんのでな」

「あはは。本当に素直じゃないな〜。まっ!そういうところがセブルスだけど」

 

 ――気のせいだろうか?

 今一瞬、スネイプ先生がため息をついたような気がした。

 

「まぁいい。とにかく行くぞ。

 特にセレネ、お前はこれからすることをしっかり覚えておけ」

 

 そう言うとスネイプ先生はパブを通り抜けて、壁に囲まれた小さな中庭に私たちを連れだした。ゴミ箱と雑草が2・3本生えているだけの庭だ。

 その壁のレンガを杖で、とんとんとん、と叩く。すると、叩いたレンガが震えて、次にクネクネと揺れたのだ。真ん中に小さな穴が出来た。そう思うと、それはどんどんと広がり、目の前には人が余裕で通れるくらいの大きなアーチ型の入り口が出来た。

 アーチの向こうには、小綺麗な石畳が続いている。

 

「ここが『ダイアゴン横丁』だ。

 魔法関係のモノなら大抵のものがそろう横丁だ。覚えておけ」

 

 アーチの向こうを覗き込み、私は思わず

 

「……すごい!」

 

 と、感嘆の声を漏らしてしまった。

 漏れ鍋に感じた魔法感のなさと期待外れ感は、一気に遠くへ飛んで行った。

 

 ロンドンのマーケットにも負けず劣らずの賑わいが広がっている。

 それぞれ違ったマントやらローブやらを着ている魔法使いが楽しそうに語り合い、見たこともない凛々しい花を抱えていた。店の外に積み上げられている大鍋が日の光を浴びてキラキラと反射している。その隣では、フクロウやカラスが愉快気に鳴くペットショップがあった。いや、フクロウだけでなく、動物図鑑に乗っていない二股の猫や曲芸をするネズミも店先に並んでいる。

 本屋なんて、表紙の絵が動いていた。

 トリックアートではない。写真の人物が生きているように不規則な動きをしているのだ。

 どこを見ても初めてみるモノばかりで、キョロキョロと辺りを見渡しながら進む。心なしか、歩調がスキップを刻み始めていた。

 

「すごい、すごいです!」

 

 初めて見るものに、とめどなく溢れ出てきた感動を現していた。

 もしかしたら、目が覚めてから初めて「楽しい」と感じた瞬間だったかもしれない。

 自分が「魔女」だと知らされたときも刺激があったが、この横丁の雰囲気の方が刺激的だ。まさかロンドンに……しかも、こんな空間が、あんな薄汚れたパブの裏に広がっていたなんて、想像したこともなかった。

 

「スネイプ先生、どの店に行くのですか!」

 

 自分の声が弾んでいることが分かる。

 心がうきうきした。純金の鍋が鎮座していた薬屋か、伝統のありそうな杖の店か、それとも煌びやかなローブがショーウィンドーに並んでいる服屋か。

 私が尋ねると、スネイプ先生は淡々と教えてくれた。

 

「まずは金を換金しないとな。マグル……非魔法族の金はこの世界では使用できん」

「へぇー。銀行もあるのか」

「あるに決まっておろう。ここが『グリンゴッツ魔法銀行』。魔法界唯一の銀行だ」

 

 そこに建っていたのは、小さな店が立ち並ぶ中、ひときわ高くそびえる真っ白な建物だった。磨き上げられたブロンズの観音開きの扉の両脇に、黄金と深紅の制服らしき服を着た謎の生物が立っていた。

 

 

 何処からどう見ても、明らかに人間ではない。

 なにしろ、11歳の私よりも小さいのだ。彼らは、せいぜい5歳児ほどの身長しかない。

その上、浅黒く賢そうな顔つきをし、先のとがった顎髭を持ち――どう見ても人間のモノより遥かに長い指。

 

「その、セブルス?あれは人間か?」

 

 クイールも同じことを考えたらしく、こっそりスネイプ先生に耳打ちをしていた。

 

「あれは小鬼、ゴブリンだ」

 

 声を低くしてそう教えるスネイプ先生。

 なるほど、道理で人間っぽくないわけだ。

 グリンゴッツの中では、沢山の小鬼が秤を使って金を量ったり、大きな帳簿をつけたりしている。

 

 どの小鬼も真剣にその仕事に取り掛かっていた。

 その小鬼の1人に、手持ちの金を魔法界の金に換金してもらう。

 

「これ……純金、ですか?」

 

 どっしりと重い金貨を、しげしげと見つめてしまう。

 

「無論だ、混ざりものなど価値もない。

 よく覚えておけ、セレネ」

 

 スネイプ先生が、私の掌の上に銅貨を並べた。

 

「この銅貨が、1クヌートだ。

 クヌートは29枚で、1シックル――この銀貨と同じ価値を持つ。そして、銀貨が17枚で、1ガリオンだ」

 

 スネイプ先生が、貨幣の説明をしてくれた。

 私は、今言われたことを口の中で反芻する。

 

「この金貨――ガリオンは、シックル銀貨17枚分。それで、このシックル銀貨は、クヌート銅貨29枚分、ということですね?」

「そうなるな」

 

 子どもながらに、本当に銅貨29枚と純銀1枚が釣り合っているのか……と、少し疑問に思うが、きっと魔法で解決できる問題なのだろう。

 私は慎重に手のひらサイズの金貨や銀貨を財布にしまい、ようやく本題の買い物が幕を開けたのだった。

 

 

「とりあえず、まずは制服だな。

そこの店で買ってこい。その間に我輩は薬問屋に行ってくる」

 

 グリンゴッツから出ると、スネイプ先生は1つの店を指差した。看板には『マダム・マルキンの洋裁店』と書いてある。

 

「確かに採寸の間は僕たち、暇だからね。

 じゃあ、僕もセブルスについて薬問屋に行ってくるけど、1人で大丈夫かい、セレネ?」

「父さんは心配性ですね。私はもう11歳ですよ」

 

 私がしっかり答えると、心配そうだった顔をしたクイールは、一瞬で笑顔になった。

 クイール・ホワイトは、本当に分かりやすい人だ。やはり……何故この人と、少し陰気な雰囲気が漂うスネイプ先生が友達になれたのだろう。

 しかし、考える時間は今ではない。まず制服を買うことが最優先課題である。私は古めかしい扉を、ゆっくりと開けた。

 

「ごめんください」

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。ホグワーツなの?それならここで全部そろいますよ?」

 

 

 私が扉を開けると、中から紫色の服を纏ったずんぐりとした体型の魔女が出てきた。

 

「はい、今年入学なので制服を一揃え欲しいのですが」

「分かったわ、じゃあ今から採寸をしますわよ」

 

 私はもう1人いた魔女に踏み台の上に立たされると、頭から長いローブを着させられて、ピンでとめ始めた。動いてはいけない、と指示されたので、目だけを動かし、周囲を観察した。

 だが、面白いところは見つからない。長いローブが置いてある以外は他の洋服店と変わりなかった。自動で伸びる巻き尺とかあるのかと思ったが、意外と手動で採寸している。だから、されるがままに、突っ立っていた。

 

 そうしているうちに、時間が過ぎ――誰かまた客が来たようだ。

 私と同じくらいの男の子だ。プラチナブロンドの髪が特徴的で、どことなく自信に満ち溢れた顔をしている。

 

「やあ、君も今年入学するのかい?」

 

 男の子が話しかけてきた。どうやら、彼も今年入学するらしい。

 

「まぁ――そうです」

「僕の父上は隣で教科書を買ってる、母上はどこかその先で杖を見ている」

 

 ずいぶん気取った話をする子だ。魔法使いの良家の子なのかもしれない。

 

「そうですか」

「それで、これから僕は、2人を引っ張って競技用の箒を見に行くんだ。

 1年生が自分の箒をもっちゃいけないなんて、理由が分からないね。父上を脅して一本買わせて、こっそり持ち込んでやる。君は自分用の箒を持っているのかい?」

 

 男の子が尋ねてきた。

 私は返答に困ってしまった。箒を持っているには持っている。庭掃除用の箒だが――。

たぶん、掃除用とは違う『この世界の箒』について聞いているのだろう。やはり、物語に登場する魔法使いのように、自由に空を飛ぶ箒が存在するのだ。そう考えると、ちょっとだけ、心が躍った。

 

「いいえ」

「クィディッチはやらないの?」

「いいえ。もしかして、クィディッチとは、箒を使った競技ですか?」

「そんなことも知らないのか? まさか、穢れた血か?」

 

 男の子の目に『嫌悪』の色がチラつき始めた。

 「穢れた血」なんて、あまり良い言葉には思えない。おそらく、魔法族でないことに対する侮辱の言葉だろう。

 生粋の魔法使いってのは非魔法族を嫌っている、というところだろうか?

 白人が黒人や黄色人種を差別するみたいに、この世界にもそういう観念ってあるのかもしれない。魔法使いも、実に人間らしい発想をするものだと、頭のどこかで感じた。

 

「穢れた血という意味が分かりませんが、非魔法族の社会で育ったことは事実です。

 ただ、魔法使いの親を幼い時に失くし、それからは非魔法族の社会で暮らしていました」

 

 だから、たぶん自分は魔法族生まれだと答える。

 

 正直なところ、両親の記憶となると、途切れ途切れの『セレネの記憶』に、さらに靄がかかってしまう。

 クイールの友人だから、母親はマグルだったということは分かる。しかし、父親はどうだろうか?

 あの夜――私を訪ねてきた自称『魔法使い』の老人が「君の父親を探していた」と言っていたことから考えると、恐らく父親が魔法使いだったのだろう。ゆえに、私はマグル生まれではない。

 

「それは大変だったね」

 

 すると、その眼から『嫌悪』の色が薄れた。入れ替わる様に、憐れむような色が滲み始める。

 

「そうでもないですけど」

 

 そう答えたとき、丁度採寸が終わったらしい。

 私は、すとんと踏み台から降りた。

 

「君の名前を教えてくれないかい?」

 

 私が勘定を終えた頃、男の子がそう尋ねてきた。

 

「『セレネ・ゴーント』です」

「僕は『ドラコ・マルフォイ』。じゃあホグワーツで会おう。たぶんね」

 

 やはり、少し気取った感じだ。私は少し微笑み、手を振った。

 

「それでは、マルフォイ。ホグワーツで会えたらいいですね」

 

 外に出ると、丁度クイールとスネイプ先生が戻ってきた。

 クイールが大きな鍋を抱えている。その中を覗き込んでみると本や薬の材料らしきものなどが入っていた。材料らしきものは―――あまり、口に出して気持ちのよいモノではないから、直視しなかった。

 

「他の学用品も買ってきてくれたの?」

「薬問屋に行くついでにね。凄かったよ、まさに黒魔術で使いそうなものばかりで――興味深かったけど、ちょっと気持ち悪かったな。

 来年は一緒に行こうか」

 

 クイールは、子どものように目を輝かせている。

 私は静かに頷いた。コレが最後の機会じゃないのだから、来年行けばいい。

 そして、改めて「必要なものリスト」に目を落とした。

 

「鍋もあるし、教科書もある――薬の材料もあるし、制服の予備もある――望遠鏡は自分の奴を持っていけばいいから――あとは、杖ですね。

 そういえば、このフクロウってどういう意味ですか?入学案内にも『フクロウ便』って書いてありましたけど?」

「魔法界ではフクロウが手紙を配達する。

 そういえば、お前はフクロウをまだ持っていなかったな」

「フクロウに手紙? 珍しいな」

 

 クイールはほうっと腕を組んだ。

 

「ハトに手紙を持たせるなら聞いたことがあるけど、フクロウに手紙を持たせるなんて。それじゃあ、非魔法族の方法で手紙を出すとそっちにはつかないのか?」

「いや、つくことにはつくが、時間がかかりすぎる。

 ……そうだな、入学祝いとして、我輩が買ってやろう」

 

 

 スネイプ先生が、なんかありえないことを言い始めた。

 スネイプ先生にとって、私はクイールの義理の娘に過ぎない。なのに、何故こんなによく接してくれるのだろうか?私の理解の範疇を超えていた。

 

「そんな……もったいないです」

 

 私が恐縮すると、スネイプ先生は片眉を上げた。

 

「そこまで驚くことがあるか?そもそも、お前の名付け親は我輩だぞ?」

「そんなこと……え? 父さん、その話は本当でしょうか?」

 

 クイールに視線を向けると、彼も驚いたように目を丸くした。

 

「あれ!? セレネには言ったことがなかったけ?」

「はい、少なくとも記憶にありません」

「そうだった、か。

 うん、実はね、セレネのお母さんは最初、僕に名付け親になってくれるように頼んだんだ。でも、あまり良い名前が思いつかなくてね……。だから、セレネのお母さんに許可を貰って、共通の知り合いだったセブルスに頼んだのさ」

 

 ……そんな秘話があったのか。

 私はまじまじとスネイプ先生を見つめる。

 まさかこの目の前にいる怪しげな魔法使いが名付け親だったなんて、かなり意外だ。

 

「まぁ、そういうことだ。分かったなら行くぞ」

 

 そのまま、スネイプ先生は近くの店に進んでいった。私とクイールは、慌てて後を追いかける。鳥の糞の臭いが鼻を刺した。ペットショップだ。店中はどことなく薄暗く、宝石のように輝く目があちらこちらでパチクリさせている。

 

「フクロウだらけ、ですね」

 

 人生で初めて、こんなにフクロウを見た気がする。少し不気味だったけど、セレネらしく――私は背筋を伸ばしてフクロウを視た。

 

「そうですね」

 

 私は、慎重にフクロウを見ていった。

 プライバシーのぎっしり詰まった手紙を運ぶフクロウなのだ。ちゃんとしたフクロウを買わなければ、のちのち問題になる。

 そうこうしているうちに、また客が入ってきたようだ。

 

「ん?スネイプ教授!!」

 

 客は入って来るなり、大きな声で叫んだ。

 フクロウたちがびっくりしてバサバサッと羽を動かす。でも、大声を出さなくても驚いたかもしれない。だって、入ってきた客は黒い髭モジャの大男だったのだから。

 

「ハグリッド。そうか……そういうことか」

 

 スネイプ先生は、ハグリッドの横をチラッと見てそう言う。私も彼の視線を辿ると

 

「もしかして、ハリー・ポッター、ですか?」

「えっ!?まさかセレネ!?セレネが何でここにいるの!?」

 

 やせっぽっちの眼鏡男子、ハリー・ポッターだった。

 どうやら、ハリーも魔法使いだったらしい。

 

「ポッター?ポッターか!」

 

 クイールは、満面の笑みを浮かべてハリーに近づいていく。

 そういえば、ハリーはクイールの教え子だったっけ。ハリーは、驚きのあまり今にも目が零れ落ちそうだ。

 

「ホワイト先生、久しぶりです。もしかして、先生も魔法使いだったんですか?」

「いや、僕は違うよ。セレネがその――ホグワーツ?へ入学することになってね。

 それにしても、しっかり食べてるかい? 一回り痩せているじゃないか」

 

 クイールとハリーが、話に花を咲かせている。

 久し振りの教え子との再会なのだ。ハリーもクイールには懐いていたらしく、どことなく懐かしそうな顔をしていた。今は、そっとしておこう。

 私は彼らからそっと離れて、スネイプ先生の近くに歩みを進めた。だが、近づいてみて先生の雰囲気が、先程までと少しだけ違うことに気がつく。

 

「スネイプ先生?」

 

 気のせいか。

 ハリーのことを、睨んでいるような気がする。彼は懐かしさと憎悪と寂しさと愛おしさという形容しがたい感情が入り混じった視線をハリーに向けていた。

 

「スネイプ先生?」

 

 私はもう一度、先生に呼びかけてみる。

 ここでようやく、先生の瞳から奇妙な色が消えた。

 

「なにかな、セレネ・ゴーント?」

「……いえ、なにも」

 

 疑問を口にしかけたが、やっぱりやめることにした。

 別段、興味はない。今はフクロウの品定めに専念しよう。

 

 

 私は気づかないふりをして、再びフクロウに目を向けた。

 

 

 

 

 

 




※3月3日:誤字訂正
※3月5日:一部改訂
※7月24日 大幅改定

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