道を外した陰陽師   作:biwanosin

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とてもごたごたしているが、彼もまだ十六歳の少年である。
義務教育は終了しているが、学生を続ける人が多い歳。
それゆえ、たまにはこんな日常も、あってしかるべきだろう。


第五章
第二十三話


 入学式・・・ってか始業式の日の朝、ものすごくドタバタしていた。

 それはもう、ドタバタしていた。

 

「もうあと二十分しかないよ!二人とも急いで!」

「口を動かしてないで手を動かせ!」

「ってか、こんな時間になったのは殺女が起きなかったのが原因だからな!?」

 

 しっかりと準備されていた朝食を食べ切ってから、二人は制服に着替えるために一度自分の部屋に戻る。

 俺も、リビングにおいてある制服をTシャツの上から着て、ズボンは元々はいていたのでそれで終わりだ。が・・・

 

「ああもう、ネクタイ面倒くさい!」

「貸してください、やりますから」

 

 どうにも、中学は学ランだったしネクタイなんてしたことがないので、ネクタイをとめられずにいた。

 すると、穂積が俺の手からネクタイを取って付けてくれた。俺が緩めるだろうと予想してちょうど良く緩めに。

 

「ああ、悪いな穂積」

「お気になさらず。生前もよく弟がネクタイを出来ずにいたので慣れておりますから。食器等もわたくしがやっておきますから、準備を急いでください」

「なんか、色々悪いな・・・」

「それが仕事ですので。ただ、欲を言ってもよいのであればいつかここの外に出てみたいですね」

「OK。方法を探しとくよ」

 

 今の発言が俺が気負わないように、というものだということは分かったのでそう返事をする。何か、方法があればいいけど・・・知り合いにも当ってみるか。

 

 そんなことを考えながら渡された三人分の弁当を空間に穴をあけてそっと置き、仕事用の資料をまとめたかばんを放り込む。

 最後に、財布とガラケーを一つ、スマフォを二つポケットに突っ込む。

 ガラケーは鬼道の頃の俺を知っている人との連絡専用。

 スマフォは、一つは仕事用。もう一つはプライベート専用だ。

 

 そこまでしまってから、最後に武装を確認する。

 

「ライター、よし。チャッカマン、よし。水、500ml、1.5L、五本ずつよし。酸素ボンベに水素ボンベもよし。呪札にお札、五行符に式神も、数えきれないほどあるな。まんま武器は・・・全部置いてくか」

 

 直接相手を殺すようなものは全て取り出してから小刀を一振りだけ戻して、穴を閉じる。

 出したものを全て武器庫にしまって・・・と、そのタイミングで二人が降りてきた。ここまでで五分。あと十五分だな。

 

「二人とも、急ぐぞ。荷物渡せ」

「さすがに、初日からギリギリは避けたいからね~」

「原因は殺女だろう・・・と、悪いな一輝」

「いいよ、俺が持つわけじゃないんだし」

 

 二人の荷物も先ほどのものと同じようにしまってから靴を履いて、三人で家を出る。

 

「「「行ってきます!」」」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 穂積に見送られてから三人でアイコンタクトをとり、本気で走り出す。

 席組みとして働いているうちに基礎的な身体能力も高くなっている俺と殺女、忍の一族である雪姫。自転車くらいなら軽く追い越せるスピードで(追い越す自転車はいないが)走るが・・・

 

「ねえカズ君。間に合うと思う?」

「間に合うだろうけど、もう少し余裕があった方がいいんじゃないか?この感じだと五分くらいしかなさそうだし・・・二人はクラスの女子と話す時間ぐらいある方がいいだろ?」

 

 男子の俺には分からないが、色々と大変らしい。

 俺は仕事の都合上体育館に直行するが、二人は違うので教室に早く着いた方がいいだろう。入学式でもあるわけだし。

 というか、基本的には中等部からのエスカレーターばかりなので余計に面倒な可能性が高いのだ。

 

「・・・やむを得ない、な。殺女。あの鳥の式神は何人まで乗れる?」

「最大で二人まで。無理をすれば三人もいけるけど、事故になると思う」

「なら、殺女の式神に二人は乗って行け。殺女なら、ここで式神を使っても何の問題にもならない」

 

 基本的に街中で市販されているレベル以上の式神を使うのは禁止されているのだが、席組みにその制約は存在しない。

 

「一輝はどうする?」

「俺はこいつで行く。初日から使うのは避けたかったんだけど」

 

 そう言いながら空間に穴をあけ、バイクを取り出す。

 走りながらヘルメットをして引いていたバイクに飛び乗り、走り出す。少しばかり改造もしてあるので、色々と使える代物だ。戦闘に使っても壊れない。

 

「・・・それは?」

「光也から、あんまり水に乗って空を飛ぶなって言われて買うことになったバイク。呪装もしてあるぞ」

「免許は?」

「昨日、一日で取ってきた。ほら、いなかっただろ?」

「一日で取れるものじゃないし、年齢もあるだろう・・・」

 

 まあ、確かにそうなんだけど・・・

 

「時間の方は光也に手を回させた。あいつがやめろって言ったんだから、そっちはどうにかしろってね。それに、本来免許は必要ない立場だし」

「あー・・・そっか。私たち、よほどのものでもない限りは運転、操縦してもいいからね」

 

 これもまた、席組み特権。とはいえ、これについてはランク持ちの上位ランカーにも許されてるんだけど。

 で、そう言ったもろもろの事情があって俺の免許はすぐに発行された。んで・・・

 

「歳の方は、俺誕生日昨日だし」

「「何でそれを早く言わなかった!?」」

 

 なぜか、式神の上の二人から異口同音で言われた。

 

「いや、わざわざ言うようなことでもないし、」

「ああもう、カズ君はこういう人だった・・・ユッキー、ホミミンにに電話!」

「分かった。この件、伝えておく」

「いや、何でわざわざ・・・」

「それとカズ君、今日九時まで帰ってくるの禁止ね」

「何で!?」

 

 俺の問いに、しかし二人は答えてくれなかった。今日、午前で終わりなのに九時までって・・・

 どこか釈然としないものを感じながら、呪具でもある懐中時計を取り出して時間を確認する。

 よし、まだ全然時間はたっていない。道交法無視で走ってる分、かなりの時間短縮になりそうだな。

 

 と、そんなことを考えていたら校門も見えてきて・・・竹刀を持ったジャージ姿のやつも一人いた。おそらく、零厘学園の教師だろうけど・・・と、そこでそいつが呪札を取り出した。

 

「結びて絶て、急急如律令!」

 

 そのまま結界を張り、俺達が入れないようにしてくる。

 

「そこ三人!零厘はバイク通学は禁止、式神の緊急時以外の使用は法律違反だぞ!新入生のようだが容赦はしない!こってり絞ってやるから止まれ!」

 

 大声でそう言いながら地面に竹刀を打ちつけるジャージ竹刀。

 そんな様子に、俺達三人はアイコンタクトを取って同時に頷き、

 

「結界にぶつかる前に止まろう、」

「「結界、壊して進もう」」

「違うだろう!?」

 

 雪姫が何か言っているが無視して、俺達二人は呪札を取り出し、前方に投げる。

 

「「解きて払え!」」

 

 さすがは席組み二人がかりだけあって、呪札に言霊を与えた瞬間に結界は消えた。

 そのまま学校の中に入って、教師の後ろで止まる。

 ちらほらと生徒がいるけど、何事かという目で見てきた。まあ、刺激的だよな。

 

「・・・結界が何の抵抗も出来ずに消えたな。なかなかの腕前のようだが、校則違反は校則違反、」

「今日からここで学校在留陰陽師をすることになってる寺西一輝だ。職員の通勤方法には何の制約もないはずだが?」

「・・・なるほど、ということはそっちの式神を操っていたのは・・・」

 

 話は聞いていたようで、教師は納得したような顔になった。

 

「最後の一人は、俺の仕事の手伝いもしてもらう予定だ」

「・・・雪姫。名字はなくしました」

「なるほど・・・分かった。これからは邪魔をしないようにする」

 

 まあ、こいつ程度じゃ俺や殺女の邪魔はできないと思うけど。

 




こんな感じになりました。
当分の間は、高校生活をやっていく予定です。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。

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