では、本編へどうぞ!
「ふざけるなよ、お前。俺が今日、何のために学校をサボったと思ってるんだ?」
そう言いながら近づいていき、クナイを掴んで無理矢理引き離す。
掌に空気を纏わせて、傷だけはつかないように工夫しながら、雪姫の目を覗き込む。
「それは・・・自分を暗殺しようとしたものについて喋らせるために・・・」
「そんなこと、わざわざ聞きだそうとしなくても分かる」
はっきりとそう言うと、雪姫は目を見開いた。
「俺には、そのあたりを簡単に調べられるだけのパイプは有るんだよ。だから、そんな理由じゃない」
「なら、どうして・・・」
「お前に、考えを変えさせるためだ」
はっきりとそう言ってからクナイを抜き取り、その場に座る。
「座れよ。話はそれからにしようぜ?」
「・・・・・・・・・」
雪姫は何も言わなかったが、そのまま俺と背中合わせに座った。
顔を見せる気は、ないのだろうか。それでも、話さえ聞いてくれればそれでいい。
「・・・お前は、私に何を考え直させたいんだ?」
「自殺すること・・・そんな主のために、死ぬことだよ」
「いつ、それを?」
「クナイを返して欲しい、って言ったとき。あのクナイが何のための物かくらい、見れば分かったからな」
そして、殺女が雪姫のことを問題なしと判定したから、俺は止めることにしたんだ。
「・・・死なれたら、困るのか?」
「ああ、困るね。後味悪いし」
「はじめて会った相手・・・それも、自分を殺そうとしてきた相手に、何で」
「俺からしてみれば、そんなことは大した問題じゃないんだよ。事実、俺はまだ死んでないんだし」
それにこの世界、こんな立場になった時点で暗殺なんかがあることはもう諦めてる。
だから、その上でどう行動するのか。そこに観点を当てていかないと。
「で、だ。話を戻すが・・・お前は本当に、死んでもいいと思ってるのか?」
「・・・ああ、それでいいと思って・・・思って・・・」
「る訳はないよな?」
そう、そんなはずはない。
あの場で一つだけ取り戻そうとしたこのクナイ、これには家紋が・・・自分の家を示す唯一残された物が記されている。
逃げることを考えずにそれだけを考えたってことは、まだ家のことを考えている。
「お前が死んだら、その瞬間にお前の家は存在しなくなる。今ならまだ再び存在できるようになるかもしれないのに、その可能性がなくなるんだからな」
「・・・そう、だな。確かに、それだけは避けたい。避けたいよ・・・でも、」
そして、ようやく少しは心を開いてくれたのか・・・俺のほうに体重をかけてきて、話を続ける。
「だが、それ以上に嫌なことがあるんだ。それは・・・この身に宿る一族の力を、悪用されること」
「そんなこと・・・」
「出来るんだよ、あの人は」
その言葉に、俺は驚きを隠すことが出来なかった。
それって、まさか・・・
「あの人・・・家を失った私を保護している人は、陰陽師の体を解剖してその力を取り出すことが出来る」
「まさか、そんなこと・・・」
「私だって信じられないさ。だが、仕事に失敗した同僚の力を、他の人間が使っているのを見てからは信じるしかなくなった」
それはまた・・・反吐が出るな、うん。
「・・・だったらなおさらだ。そんなヤツのために、お前が命を捨てる必要はない」
「だったら、どうしろと・・・このままここで暮らせとでも言うつもりか?」
「ああ」
「無理だ」
はっきりと言い返された。
「そんなことをしたら、私を消すためにさらに強い追っ手が出されるだけだ。向こうには、ランク持ちすら何人もいる」
「そんなの、大した問題じゃない。俺だってランクは持ってるし、殺女なんて第九席だ」
一応、嘘は言っていない。
ランクは持ってるし。
「ってか、それ以前に送り込むなんてことは出来ないしな」
「・・・何を、言って・・・」
「今から、そこに乗り込むぞ」
その瞬間、背中合わせになっていた雪姫が振り返る気配を感じた。
そこには、俺が携帯でメールを打っている姿が丸見えだったであろう。
「そのメールの内容・・・!」
「ああ。お前に対して暗殺を命令したヤツの情報、ようやく集まったみたいだな」
そう言いながら立ち上がり、空間に穴を開けてそこからペットボトルを取り出す。
「で、どうする?俺の家で帰ってくるのを待つか、このままついてくるか?」
差し出した手には、雪姫の手が重ねられた。
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「こ~ん~に~ち~わ~!!」
邪魔な扉をハンマーでぶっ壊して、中に入る。
ここまで来る間にも邪魔してくるやつが何人かいたけど、とりあえず一人残らず気絶させて置いた。
「何してるんだ、お前は・・・」
「何って・・・扉が開かなかったから壊しただけだが?」
そう言いながら入っていくと、中では札を構えていつでも攻撃できるようにしている連中と、その奥で偉そうにしているやつがいる。
「君、ここがなんなのか分かっているのか?」
「ああ。陰陽師課東京支部副所長の研究室。本庁の中とは別に持ってるから何やってるのかと思えば、こんなことやってたんだな」
札を構えてる連中を無視して中に入り、ぐるっと見回すと、様々な生体ポットに入った人間、妖怪の死体が。
なるほど、こうやって死体を保存して力を取り出してるのか。
「それで?たかが卵ごときが何の用かな?」
「あれ?何で俺が卵だって知ってるの?まだ名前すら言ってないのに」
「フン、白々しい。そこの欠陥品を仕向けたのが誰なのかくらい、分かったから来たんじゃないのか?」
「あっさりと認めてくれたな。これで色々と楽になるよ」
刀を抜いた瞬間、札を構えていた連中が全員札を投げてきたので・・・効果を現す前に全て斬り裂く。
「・・・君は、」
「さて、と。まだやるのかい?」
なんか言ってくるのを無視して周りの連中に問いかけると、全員が一歩引いた。
「最終警告だ。そこの首謀者以外にはチャンスをくれてやる。今すぐここを出て、自首して来い」
その言葉が何か琴線にでも触れたのか、言霊を唱えて奥義を発動しようとする。
まったく・・・せっかくの親切心を、無駄にするなんてな。
「聞くきはない、と。・・・口を閉じろ」
その瞬間、言霊を唱えていた全員が口を閉じた。
この程度の古い言霊でどうにかなるなら、かなり楽が出来るな。
「・・・君、本当に卵なのかね?」
「ああ、紛れもなく卵だよ。それくらいは分かってるんじゃないか?・・・いや、分かってたから暗殺なんて仕向けたんだろう?」
「・・・そうだな。そうであったか。・・・日本の面汚しが」
おーおー、睨んできてますなー。
何人かはその霊圧だけで倒れそうになってるが、俺には何の被害もない。
「全く・・・光也のヤツの人選だけは信用していたのだがな。それをまさか、このようなヤツに・・・」
「副所長、それはどういう・・・」
「オイオイ・・・側近にすら言ってないのかよ」
「言う必要はなかろう。消え行くものの事など」
俺のことは殺す前提かよ・・・ったく、面倒な。
雪姫も何かと見てるし・・・いっそ名乗っちまうか。
「はぁ・・・そういや、アンタは俺の元の名前について知ってるのか?」
「知らないね。なぜか、私の権限でも知ることが出来なかった」
なるほど、やっぱりそっちの方が機密レベルは高いのか。
そう考えながら結界を張る。
「何のつもりかな?」
「誰も逃がさないためだ。・・・さて、皆様方。冥土の土産に俺の名乗りを聞かせてやる」
ここにいるのは雪姫とこれから殺すやつらだけ。
だったら、名乗っても大した問題はないよな?
「日本国第三席、『型破り』寺西一輝」
この時点で、副所長以外の全員が驚いていたが、次の一言でさらに上書きされる。
「失いし名は鬼道。外道と呼ばれし、道を外した一族也」
『っ・・・・・・!!』
お、全員が息を呑んだな。
さて、と。
「まずはザコを一掃」
そう言いながら腕を一閃し、副所長以外の敵全員が真っ二つになる。
本当に弱いな。防御の術くらい反射で張れるようにしとけよ。
「今、何を・・・」
「これから死ぬやつに、これ以上の土産はいらないだろ?」
そう言いながら刀を構え、鞘に入れずに刃の腹に手を添える。
「く・・・急急如律令!」
「苦し紛れか・・・払え」
急ぎ実行せよ、とすら言わずに攻撃を全て払う。
これが副所長の実力なのかよ・・・はぁ、日本で席組みに権限が与えられてる理由、よく分かるな。
「あ・・・ま、待て!謝る!謝罪が欲しいならなんでもする!これからはもう君に手は出さない!」
「命乞い、早すぎないか?それに、暗殺者を仕向けられたことで来たんじゃねえんだよ」
「な、なら・・・雪姫についてももう開放する!それでいいだろう!?」
「言い訳ねえだろ、アホ。まだ俺が何で来たのか、分かってないのか?」
俺がここに来た理由は、別にこいつが許せなかったからじゃない。
そんなたいそうな正義感、俺は持ち合わせちゃいない。
「な、ならどうして・・・」
「テメエが気に入らなかった。だから殺しに来た。それだけだ」
そして、鞘なしの居合いで目の前のクズを切り裂き、返り血すら浴びずに殺す。
こんな感じになりました。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。